第13話 水族館で③
夕夜の姿が見えなくなって、はっと我に帰る。
「え? 明日?」
「ユーヤと図書館行くんだ?」
隣に座る鏡夜が、私の手から落ちかけたポテトを箱ごと受け取る。
「え、誰が?!」
「ハナでしょ?」
「なんで?!」
「本当は図書館に誘ってたから?」
「え、無理……」
「なんで? キスされそうだったから?」
なんでもないことみたいに言う。
「⋯⋯見てたの?」
「まぁ、ユーヤが来るのは分かってたし」
しれっと返される。
「さすがに俺もユーヤいなきゃハナを一人にはしないよ」
「なんかあるんだったら、二人にもしないでよ」
「だから、ちゃんと止めてあげたでしょ?」
「〜〜っ!」
言葉にならず、顔を両手で覆う。
たぶん、今すごい顔してる。
「……やっぱり、あれってそうだったのかな。私の勘違い?」
指の隙間から小さく聞く。
私の勘違いならまだいい。
「俺が止めなきゃ、まぁ、してただろうね」
「なんで……そんな急に……」
そんなの、私の知ってる夕夜じゃない。
「言ったじゃん、ユーヤには気を付けろって」
「それは……」
「弱ってる男に、あんなキョリで近づいたハナが悪いよね」
「⋯⋯」
どこから見てたの、この兄。
「夕夜はそういうの⋯⋯人畜無害だと思ってた」
「はは。そんな男いねーよ」
笑われる。
でも、全然笑えない。
「夕夜に限って、理性失うとかある?」
「それだけのことだったんでしょ」
「ここに何があるの?」
「さぁね。魚見過ぎて、トリガー外れたんじゃない?」
「⋯⋯何のよ?」
あんな夕夜、見たことない。
「夕夜、大丈夫かな」
「まだユーヤが心配なんだ?」
「だって⋯⋯弱ってるんでしょ?」
あんな顔、初めて見た。
「まぁ、自分でここに来てたくらいだし大丈夫でしょ」
「……」
「あいつなりに乗り越えようとしてんだよ。明日には戻ってるって」
少しだけ、優しい声。
「気になるなら、ちゃんと本人に聞きな」
珍しくまともなことを言う。
顔を上げると、にっと笑った。
「まぁ、未遂とはいえハナに手を出したらどうなるか――」
肩をぽんぽんと叩かれる。
「あとで俺が灸据えといてやるから」
ははは、と笑う鏡夜。
止めることも、頼むこともできず。
「……お手柔らかに」
それだけ言った。
そのあとは――
イルカショーも。
ペンギンも。
ウミガメも。
なにを見ても、上の空だった。
――明日。
どんな顔で会えばいいんだろう。
目、合わせられるかな。
夕夜は、どんな顔で来るんだろう。
そればかり考えてしまう。
――心臓、もつかな。
「鏡夜ぁ。明日、暇だったりしない?」
帰りの電車。
鏡夜の肩にもたれて、半分眠りながら聞く。
「えー、全然暇じゃなぁい」
スマホをいじりながら、適当な返事。
……絶対、暇なくせに。
「⋯⋯いじわる」
⋯⋯玲香に相談でもしようかな。
「やめときなよ、それはユーヤがカワイソウ」
「それ霊力?」
「いや。普通に分かるよ」
考えすぎて、頭が重い。
そのまま、くたっと体を預ける。
「起こしてあげるから、寝てていいよ」
「う〜ん⋯⋯」
「はは、役得」
肩を抱き寄せられる。
あったかい。
「まぁ……あれはさすがに」
小さな呟き。
「ユーヤにはキツいよなぁ」




