表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/106

第103話 今日は見学希望です


「ここにはいない!」


 第二中裏の竹林。

 無貌はいない。

 そして……鷹野先生もいない!


 夕夜と兄は藤原君に連れられて、香島宮(かしまのみや)へ行った。

 こっちに残ったのは、スマホで藤原君に操られている私のみ。

 鷹野先生はまだ来てくれていない。


『じゃあ次、ふさのアカデミーパーク』


 藤原君は無貌出現の候補地を、電話で私に指示を出している。

 

「え? 距離的に、先に帯瀬川じゃない?」


『ライブカメラ見てるけど、可能性低いな』


「ライブカメラ?」


『河川監視の。さっき人通ったけど騒いでない。後回し』


 カメラで分かるなら私いらなくない?

 こんな苦労して走らなくても⋯⋯。

 

『無貌は映らない。目になる人間は必要』


 う、心読まれた。


『アカデミーパーク』


「わかったけど⋯⋯けっこう遠くない?!」


『第二中前にタクシー呼んだから、それに乗って』


 何その手際の良さ!

 でも!


「藤原様、私そんなお金持ってないです!」


『時計で払っていい。早く行けよ』


 え、この腕時計、そんなことも出来るの?!

 なんか藤原君がそのまま腕にいるみたいで⋯⋯怖い。


 タクシーに乗り込む。

 行き先を告げると、運転手さんは怪訝な顔をして走り始めた。


「今乗りました」


『アカデミーパークは他の場所と違って、施設ごとの民間管理になる』


「ホテルとかお店があるんだよね?」


『メインは研究施設と工場だけどな』


「そうなの?」


『だから監視カメラのハックは現実的じゃない。公園や中学のカメラ覗くのとは訳が違う』


 急な犯行告白やめて欲しい……。


『映らないもんにそこまでリスク負う意味ない』


「やっぱり自力で探さなきゃダメなんだね……」


 ミラー越しに運転手さんと目が合う。

 思わずスマホから耳を離す。


 私、なんか怪しまれてる? 


 運転手さんが躊躇いながら口を開く。


「あのぅ、アカデミーパークはどこら辺に停めますか?」


『ダム公園、第三駐車場』


「あ、ダム公園の第三駐車場でお願いします! そ、その、猫? いや犬か! 犬探してるんです!」


「はぁ……」


 腕時計が震える。


【下手すぎ】


 私だってそう思ってる。

 見てこの運転手さんの目⋯⋯。

 居た堪れない……。


 タクシーはアカデミーパークに入る。

 研究施設やホテルを抜け、木々に囲まれた道を奥へと進んでいく。


 え、広すぎない?

 パークというより……研究都市みたいな雰囲気。


 そしてしばらく走ると周囲より一段低くなった、斜面に囲まれた広大な公園が見えて来た。

 奥にはダム湖が広がり、光を吸い込む暗闇が不安を掻き立てる。


「え、こんな広いのどこ探すの?」


『公園中央の円形広場。去年、一般人の目撃情報がある』


「わ、分かった」


『第三駐車場から見える。いても近寄らないでタクシーで待機。石上経由で鷹野呼ぶ』


「先輩……また……」


『絶対一人で動くなよ。通話はこのまま、運転手の目の届く範囲にいろ』


「分かった」


 タクシーは木々に囲まれた、ダム公園を見下ろせる第三駐車場へ入る。

 他には誰もいない。

 街灯には虫が集まって影を落とす。


「すみません、また少し待ってもらえますか。次も乗ります」


 運転手さんが不安そうに私を見る。


「大丈夫です、ちゃんと払えます!」


「はぁ、分かりました」


 タクシーを降りて、柵の方から公園を見下ろす。

 堤の下に広がる大きな公園。

 遊歩道を目で辿っていくと少し先に広場。


 そして、その中央に――黒い影。


 いた。

 モザイクがかかったように霞む無貌の影が見える。


「いたよ、藤原君」


『了解。タクシーで待ってて』


 タクシーに戻ろうとすると、無貌の輪郭がわずかに揺らぐ。

 視線を感じた気がした。

 身震いがして、慌ててタクシーに入る。


「もう移動しますか?」


「いえ、人と合流するのでこのまま待たせてください」


「待機でいいんですか?」


「はい」


 先生が、本当に来てくれるかは分からないけど……。


 長丁場を察した運転手さんがラジオのボリュームを上げてくれる。


 次の瞬間――。


 フロントガラスへ、虫の群れが一斉に叩きつけられる。


「わぁ、何だ?!」


 硬い衝突音を立てながら、次々と落ちていく。

 数秒の出来事。


「気持ち悪いなぁ」


 運転手さんは恐る恐るワイパーを動かす。


「少し向こうに移動しましょうか」


「そ、そうですね」


 車が街灯から離れる。

 暗くなった車内に陽気な音楽が響く。

 けど、妙な緊張感に包まれていた。


 しばらくして、車のヘッドライトが辺りを照らす。

 一台のミニバンが駐車場に入ってくるのが見えた。

 あの車は!


「あ、来てくれたよ!」


 通話のままになっていたスマホに向かって報告する。


『鷹野?』


「うん」


『了解』


 車から降りてきた鷹野先生が辺りを見回す。

 そして、私たちのタクシーへ向かって駆け寄ってきた。


 私は周りを見ながらそっとドアを開ける。


「先生!」


 先生は私を見ると、呆れたように表情を歪める。

 そのまま公園の方に視線を向ける。


「こんなとこ、本当に一人で来るやつあるかよ」


「すみません」


「無事なんだな?」


 怒っているのに、先に心配をしてくれる。


「はい、大丈夫です」


「なら、このまま帰れ」


「そういう訳には」


「なんでだよ、ほっとけば消えるって言ったはずだ」


「兄が⋯⋯」


 胸の前できゅっと手を握る。


「兄が彼らを救いたがってるんです」


 先生の動きが止まる。

 少し驚いているよう。


「⋯⋯あいつが?」


「だから手伝ってください!」


「いや、俺は⋯⋯」


 先生が言葉を詰まらせた、そのとき。


 駐車場が一気に明るくなる。

 ガラガラと砂利を鳴らしながら、もう一台の車が入ってきた。


 え、タクシー?


 扉が開き、誰かが降りてくる。

 タクシーが去ったあと、暗闇に現れたのは――


 黒髪マッシュ、黒縁眼鏡の藤原君。


「え?!」


「こんばんは」


「お前、なんで⋯⋯?」


「あれ? 俺、ここにいない予定だった?」


 藤原君の口角が上がり、獲物を見つけたように細まった目が鷹野先生を射抜く。

 先生は何も言わず、藤原君を見据える。


 一瞬だけ、空気が張り詰めた。


 藤原君がにっこりと笑う。


()()()()()、条野大の藤田です。今日は見学希望です」



 ――はっ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ