表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/105

第101話 スマートウォッチと夏季補習


「あれ、名竹さんなんでいるの?」


 夏期補習。

 教室に入ってすぐ、梶君が話しかけてきた。


「補習組じゃないよな?」


「うん……自主学習」


「え、なんで?」


 そんなの、こっちが聞きたい。


「名竹さんそんなガリ勉キャラだっけ?」


 けらけらと明るく笑う梶君が、今日はなんだか眩しい。

 どっかの皇帝のせいで荒んでいた心が浄化されていくよう。


「梶君が夏休みも変わらずで安心したよ」


「何急に。名竹さんとこも変わらず?」


「うん、だよ?」


 ダラダラしすぎて少し太ったけど⋯⋯。


「え、なに。夏休みも進展なし?」


「進展? って、あ! そっち、ですか?!」


「おっ?」


 梶君の目がぱっと輝く。


「なになに、まさか? 夕夜だよな? そんな感じ?!」


 え、梶君対策なんてしてきてないよ?!

 言っていいのかも分からない⋯⋯。


「あ、えと⋯⋯今はノーコメントで!」


「なんだよ、夕夜! なんで教えてくれんの?! ちょっと今から問い詰めてこよう!」


「今から授業だよ」


 スマホを片手に教室を出て行こうとする梶君を、険しい目つきの鷹野先生が捕まえる。

 そのまま眼鏡の奥の鋭い視線が何か言いたげに私に向けられる。


 き⋯⋯気まずい⋯⋯。

 思わず逃げるように視線を逸らす。


「名竹妹はこの夏、ずいぶん勉強熱心なようだな」


「お、おかげさまで⋯⋯」


「⋯⋯()()()()()()は済んだのか?」


「え?」


「条野大の藤田……だっけか?」


 う⋯⋯当たり前だけどバレてる⋯⋯。

 心臓に悪すぎる。


「ぼ、ぼちぼちです⋯⋯」


「自由研究? え、そんな宿題出てたっけ?」


 梶君が一人、焦ってる。

 私は苦笑いをしながら、一番後ろの席に逃げた。


 席に着いても鷹野先生の視線は時たま私に向けられる。


 夏休み前でこんなに目が合ってたなら喜んでもいたが、今はそれどころじゃない。

 鷹に睨まれた兎の気分⋯⋯。


 藤原君のスマートウォッチがぶるっと震える。


【心拍ヤバくね?ww】


 っ!!


 画面にクソ王子からのメッセージ!

 “ww”じゃない!

 完全に愉しんでる!!


 怒りに任せて腕時計を外すと、手の中でもう一度震える。


【外すなよ?】


 くっ!

 こっちからなんのアクションも取れない腕時計を放り投げたくなる。


 投げることも付けることもできずに、一人もがく。


「なんだ名竹、答えるのか?」


「へ?」


 先生が挙動不審な私を、口元に笑みを浮かべて見ていた。


「この『思ふ』の主語は誰だ」


「えと……」


 教科書に目を落とす。


「“人はかかることを思ふ間にも” のところだ」


 あ、これか。

 夕夜とやったとこだ。


 覚えてる!


 人だけど……確かこれは……。


 腕時計が震える。


【人間一般】


「だからこれは知ってるんだって!」


 思わず声に出す。


【www】


 この王子、一体どこから見てるの?!

 先生は呆れたようにため息を吐く。


「名竹、知ってるなら答えろ」


「〜〜っ、に、人間一般のこと、です」


「なんで嫌々答えてるんだ」


 先生が眼鏡をあげる。


「まあ正解だが。授業受けるなら大人しく受けろ」


「す、すみません」


【ちゃんと授業受けなww】


 思わず拳を机に落とす。


「おい名竹……」


「す、すみません」


 だ、だめだ。

 藤原君のペースに飲まれる。

 もう後のことは考えずに、呪いの腕時計を鞄深くに押し込んだ。


 補習が終わり、帰り支度を整えながら、どうしたものかと考える。

 先生は残った生徒と談笑している。


 さすがに人がいるところで話すのは無理だろう。


 机の上に置いたスマホに着信が入る。

 非通知着信。

 無視する。


 切れたと思ったら、またすぐにかかってくる。

 しつこい。


 無視をして、教科書をしまうときに鞄の奥で腕時計が光っているのに気づいた。


 画面に【俺】の表示。


 なり続けてるスマホを見る。

 この人どんだけ私に番号教えたくないの……。

 効率悪いでしょ。


 スマホと腕時計を持って廊下に出る。


「さっさと出ろよ」


 開口一番にこれ。


「藤原君、普通に連絡取らない?」


「俺今、相談室」


「へ?」


「今の感じだと俺が校内にいること鷹野は気づいてないように見える」


「え?」


「鷹野が俺たちを感知できるのか試したい」


「たち?」


「石上が図書室にいる」


 石上先輩……。

 また連れ出されてるの……。


「名竹さんは鷹野に『石上と連絡を取りたい』って探り入れて」


「う、うん」


「名竹さんと鷹野が話出して三分後、俺が能力を発動する。反応見るから廊下がいい」


 あ、カメラか……。

 天井で目を光らせる監視カメラを見上げる。

 藤原君の視線を感じる。


「あと時計、持ち歩けよ」


「ねえ、これってどこまで――」


 切れた。

 な、なんか一方通行すぎて、わなわなする。


「名竹妹」


 低い声。

 振り向くと鷹野先生。


「せ、先生っ」


 カメラに映るように、少し後退りする。

 手に持った腕時計に “通話中” の表示。


 え、通話音漏れない?

 緊張する。


「お前、何しに来たんだ」


「え、古典の――」


「なわけないよな。何、探ってやがる」


「探ってるんじゃなくて……その、お誘いです!」


「は?」


 先生の表情が崩れる。

 でもかっこいい。


「あ、あの30日の満月の日、私一人なんです!」


「……は?」


「みんなは香島宮(かしまのみや)に行くことになって、無貌と戦ってくれる人募集中です!」


「まだ榊家にちょっかいかけてるのか」


 先生が呆れてる。

 一生懸命思いつく言葉で説得を試みる。


「それで! 石上先輩にも来て欲しいんですが、連絡先とか知りませんか?」


「個人情報教えるわけいかないだろ」


「先生は夏休み中も会ってないんですか?」


「どんな仲だよ。生徒個人と会うわけないだろ」


「そう、ですか……」


「そもそもアレなんて、ほっとけば消える――っ」


 先生の視線が、ほんの一瞬だけ校舎の奥へ向いた。


 あ、三分――。


「……」


 すぐに私へ視線を戻す。


 え?


「ていうか、消えるって?! 無貌がですか?」


「え、あ、あぁ。満月の力で出てくるだけだから、朝になれば消えるだろ」


「え、ええ?!」


「知らないで突っついてたのか」


 だって、鏡夜そんなこと一言も……。


「自ら蜂の巣に近づいてるようなもんだ」


 な、なに、その根底を覆す衝撃事実……。

 ふ、藤原君も聞いてるよね。

 ちょ、ちょっと落ち着かなきゃ。


「と、とにかく! 30日、待ってますから!」


「行かねぇぞ」


「私が死んでもいいんですね?!」


「……別にかまわんが」


「っ! 待ってますので!」


 私は知ってる。

 そんなことを言っていても、ラブチャの“先生”は生徒のピンチには必ず来てくれるんだから!!


 腕時計が震えた。


【マジあほ】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ