我も友達がほしい5
「和馬……惜しい奴をなくし━━いやそうでもないな」
「すまない我が友。迷惑をかけた」
廊下を出たことで落ち着いた美夜佳は心から謝罪の言葉を口にする。
「別にいいよ。星川がコミュ症なのは知ってたし。それで用事ってなんだ?」
「部長が今日は家の用事があるから特にやりたいことがなければ部活は休みでいいって」
「そうなのか。でもわざわざそんなこと口頭で伝えなくても『ライム』のアプリで伝えてくれればいいのに」
「我が友のことだからどうせ未読スルーするだろうから伝えてって部長が」
「……そんなことない」
と言いつつこっそりとライムを開いて既読済みにする進だった。
「で、それだけか? それなら僕は教室に戻るけど」
「ま、待て! 我が友!」
戻ろうとする進の袖を掴む。
しかし進は振り向くことなく頑なに教室に戻ろうとする。
「待てと言ってるだろ我が友。なぜ歩みを止めない」
「どうせ一緒に帰ろうだとか言うんだろ」
「分かってるなら話が早い。だからまずは足を止めるんだ」
「やだよ。足を止めたら強制的に一緒に帰ることになるじゃん」
「いいではないか! 我と帰れるんだぞ!? 仲をさらに深める機会なのだぞ!?」
「星川。交渉するときにデメリットの話を先にしちゃダメだぞ」
「我と帰るのがそれほど嫌なのか!」
「当たり前だ。僕は基本的に速やかかつ迅速に帰宅したいんだ。それに何度も言うが僕は星川の友達じゃない。ただ半強制的に参加させられてる部活にやってくる顔見知りの同級生程度にしか思ってない」
進がそう言ったところで、後方からすすり泣く声が聞こえた。
進が振り向くと必死に涙を必死に堪えるも、溢れ出してしまった美夜佳が鼻水を垂らしている。
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃん。わ、我は我が友が初めて来た日、本当に嬉しかったのに。なのに、我が友は……」
泣かせるつもりはなかった進は少しばかり当惑の色を見せる。
ふと背中に鋭い何かの気配を感じた進は教室の方に顔を向ける。
そこには先ほどまで和馬に罰を与えていたはずの親衛隊が教室の窓から身を乗り出して二人の様子を伺っていた。
だがそれだけではない。
廊下を歩いていた生徒達の中には親衛隊が混じっていたようで、鋭い視線を進に向けていた。
「処す?」
「待て、坂本は星川さんと親しい人物だ」
「でも泣かせた」
「もうホームルームが始まる」
「処すなら帰りだ」
嫌でも耳に親衛隊の会話が入ってくると、進も冷静ではいられない。
「……星川」
「な、に?」
袖で何度も目元を擦る美夜佳に苦悶の表情を浮かべながら進は言った。
「今日、一緒に、帰、ろう、か」
「……本当?」
目を潤ませて聞き返す。
進は下唇から血が出るほど噛みながら、十秒以上かけて首を縦に振った。
美夜佳はしばし呆然とした後、笑顔の花を咲かせる。
「しょうがないな! まっ、我が友がどうしてもと言うのなら仕方がない! まったく我が友は素直ではないなー! そんなに我と帰りたいなんて。正門の前で待っているからな! 絶対来るんだぞ!」
と言って美夜佳はスキップしながら自分のクラスへと戻っていく。
まだ授業も始まってもいないのにどっと疲れが溜まった進は深いため息を吐き、後方の親衛隊達の様子を伺う。
「あれ、天使?」
「なんだ、天使か」
「誰か手を貸してくれ! 窓際にいた奴らが急に倒れ出したぞ!」
「尊すぎる」
自分への殺意は消えたことに一安心するが、この後に待ち受ける事態を進はまだ知らない。
心から帰りたいと思っている進だが、今朝のことでそれは不可能ということは確定していた。
もし仮にバックレれば、明日の朝を迎えることができない可能性がある。
それだけは避けたい進は仕方なく正門の前に向かう。
しかし、正門の前にはまだ美夜佳の姿がない。
(なんだ、まだ星川来てないのか。しょうがない待つか……でも十秒も待ったらさすがにもう来ないよな。イチ……)
「我が友! 待たせたな!」
待ち人が来たはずなのに嫌そうな顔をする進。
しかし美夜佳には通用しない。
「今日はどこに行くんだ!? 今日は部長達がいないからな! 遠慮せず我が友が行きたいところを言ってくれ」
「なら自宅。じゃあな」
「い、いきなり我が友の家で遊ぶなんて。少し緊張するな」
「なにさらっと上がろうとしてるんだお前」
「なに!? 遊びの誘いではないのか!?」
「家ってのは僕にとってはサンクチュアリなんだ。しかも星川が来たら僕の母親が、星川が友達だという不名誉な勘違いをする可能性があるだろうが」
「名誉だろ! 我の友なんだぞ!?」
頑なに美夜佳が家に侵入することを阻止しようとする進だが、美夜佳の様子だと、相手をせずに直帰すれば上がり込もうとするのは間違いない。
結局帰り道の途中で寄り道をすることが進の最善の手であった。
「とにかく家に上がるのはなしだ。そのかわり、ゲーセンに行こう。それなら文句ないだろ?」
「ゲーセン!? 行こう行こう!」
目を輝かせる美夜佳とため息を漏らす進。
そんな二人の背後に忍び寄る人影が。
「あれ? 坂本君?」
名前を呼ばれ振り向いた進は一瞬にして凍りついた。
そこいたのは清純で学年でも人気のある天神巫女乃が微笑んで立っていたのだ。
「どうしたの? 今日は部活じゃないの?」
「今日は休みなんだ(なんでこの人さも昔からの仲みたいに話しかけてこれるの? 下手したら面と向かって会話したのこれが初めてなんだけど? というかなんで僕が部活やってること知ってるの?)」
「そうなんだ……あ、その人、星川美夜佳さん?」
巫女乃が美夜佳に視線を向けると、進の後ろに隠れてしまった。
「天神巫女乃です。よろしくね」
「ど、どうも」
借りてきた猫のように言動が大人しくなる美夜佳に対して巫女乃は女神のような微笑みで話しかける。
「ふふ、星川さんって恥ずかしがり屋なんだね。ところで、二人でどこかに行くの? ゲーセンって聞こえたけど」
この人には何も言ってはいけない気がする進。
はぐらかそうとしたが、後方の美夜佳がしゃしゃり出てきてしまった。
「そうだ! じ、じゃくて、そう、です。これから我が━━坂本、君とゲーセンに遊びに行く、んです。へへっ」
よほど嬉しいようで、誰かに言いたくなるほど浮かれている美夜佳に対して、この世の終わりの如き心持ちの進はこの場をどうにか切り抜けれないかと模索を開始。
(どうする。正直話したこともないのに僕の情報持ってる天神さんを連れて行きたくはない。さっさと逃げるに限る)
が、まるで進の考えなど読んでいるかのように巫女乃は美夜佳に話しかける。
「ねぇ、良ければ私もついていっていい? ゲーセンって、あまり行ったことないから興味があって」
「え、で、でも……」
話したこともない人物に急に混ぜてほしいと言われて困る星川。
数少ない友人とせっかく遊ぶというのに、そこにその友人と仲の良さそうな人物が混ざればどうなるかなど、美夜佳でもわかっていた。
せっかく遊んでいるのに、話に混ざることができずに一人で遊んでいるのと変わりがない、コミュ症の末路が待っていると。
(星川。お前が考えてることが僕には分かるぞ。星川から見れば天神さんは僕と仲の良い人物に見えてるはずだ。実際はほぼ初対面のようなものだが。だけど、コミュ症の星川なら天神さんが混ざることは星川にとっても都合が悪いはずだ。さぁ、断れ。今回ばかりは僕も協力しよう)
「そ、その……われ、私は坂本、君と」
理由をつけて断ろうとしたその時だ。
巫女乃は優しく美夜佳の手をギュッと握り、視線を合わせた。
「私、星川さんと仲良くなりたいの! ダメ、かな?」
(……待て星川。なんだその無邪気な笑顔は。よせ! 考え直せ!)
「そ、そこまで言われたら、我も止めれないなー」
女友達という誘惑に負けた結果、美夜佳、進、巫女乃の三人でゲーセンに行くハメとなり、頭を抱える進であった。
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