我も友達がほしい4
翌日の朝の教室。
自分の席に着いた進の目の前に、三人の男子生徒が詰め寄ってきた。
「よっす! 進」
その声で顔を上げると、目の前には立っていたのは特に交友関係の深い友人達。
「なんだ、A太にB太にC太か」
「勝手に俺達をモブ扱いするな」
天パにメガネの男子に指摘されたので、改めて正しく名前を呼ぶ。
「ジョークだ。和馬、淳也、志太」
「あらためてよっす!」
「おはようさん」
「おはよう……って、僕はちゃんと名前で呼ばれてたね」
天パでメガネをかけたお調子者の和馬。
丸刈り頭のスポーツマン、淳也。
見た目に特徴はない温厚な黒髪男子の志太。
以上三名が進に絡む友人達である。
「それでなに?」
抑揚のない声で素っ気なく尋ねると、呆れた様子で和馬が答える。
「いやただ雑談しにきただけだけだよ。相変わらずテンションが低くないか?」
「え、そう? 占いで一位だったからスキップしながら学校来たほどだけど」
「その無表情でスキップする姿なんて想像したくないんだけど。って、お前がテンション高い高くないの話はどうだっていいんだ。せっかくの高校生活なんだ、もっと花のある話をしようぜ。例えば……」
和馬がおもむろに廊下に視線を向けると、同じタイミングで通りがかった甘栗色の長髪をなびかせる美少女が。
「天神さんのこととか」
見えなくなるまでずーっと鼻の下を伸ばしながら邪な目を向ける和馬はさておき、他二人も思わず目で追ってしまうのだから巫女乃の評価の高さがうかがえる。
「たしかにこの学校の顔の偏差値はレベル高いけど、天神さんは特別群を抜いてるよな」
淳也の意見に同意を示すように志太は忙しなく首を縦に振った。
しかし、進は興味を示さない。
「へー……そっか」
「なんだよ。そのつまらない反応は。あっ! そういえば聞いたぞ! お前天神さんと同じ中学出身なんだって? 彼女どんな子だったんだ?」
「どんなって……俺一緒のクラスになったことも接点もないし、僕と接することなんて未来永劫ないと思う」
「それは卑屈すぎるだろ」
「……ところで進。ずーっと気になってたんだけど、席に着いてから親の仇のように机を拭いてるよな。そんな潔癖症だっけ?」
机にしがみつくように必死に机を磨いている進は少し考える素振りをしてから答えた。
「……ちょっとマーキングを消してる」
意味不明な言葉に三人は首を傾げるも話を続ける。
「天神さんいいよなー。可愛いだけじゃなくて、成績優秀、運動神経も良い。なにより清純!」
(清純の皮をかぶった淫獣と判明したけどな)
心の中でそっとツッコミを入れる横で和馬は思い出したかのように別の人物の名前をあげた。
「そうそう! 天神さんもいいけど、気弱そうなあの子もいいよな! 美夜佳ちゃん! オドオドしてるけど、守ってあげたいってか、いぢめたくなるというか」
「和馬」
「顔は天神さんと渡り合あるぐらいに可愛いよな。あ、でも、胸が小さいのが少し残念だけど」
「和馬」
「あーあ! 美夜佳ちゃんと話してみたいなー! それでなんやかんやで付き合うことになって……フヘヘ」
「……和馬」
何度も名前を呼ぶ志太に気づかずに下劣な笑いを浮かべる。
机磨きをしている進は志太の顔が少しでも視界に入らないように目をそらし、淳也はこの会話に参加していないと誰かに表明するように和馬と志太に背を向けていた。
「あっ! たしか美夜佳ちゃんって進と同じ部活だったよな!? 今度紹介━━」
和馬が頼み事をしようとしたが、志太が机を思いっきり叩いたことで遮られた。
机の持ち主である進は冷や汗をかきながらも磨きを続行する。
「和馬」
「な、なんだよ」
ようやく志太の言葉に耳を傾けるが、普段温厚な志太の目が人殺しのような目をしていることに並々ならぬ恐怖を抱いた。
そして志太はゆっくりと話しかける。
「さっきからなんなの? 星川さんのことをそんな目で見てるの?」
「いや、男なんだからしょうがないだろ? 実際、美夜佳ちゃ━━」
再び渾身の力を込めて机を殴る。
「『星川さん』だろ! 和馬如きが下の名前で呼ぶな!」
「な、なんだよ、別になんで呼ぼうが俺の━━」
刀のような切れ味のある眼光に耐え切れず視線をそらした和馬はあることに気がついた。
それはクラスメイトの半数近くがこちらに注目していること。
注目しているだけであれば、騒々しい和馬につい目を向けてしまっただけと短絡的に考えらのだが、和馬に向けられている視線は全て志太と同じ鋭さを持っていたのだ。
「星川さんを下の名前で呼んで良いのは真に星川さんの心を開いた者だけだ。話したことも、視線すら合わせたこともない和馬が軽々と呼んでいいものじゃないんだ。そのくせして容姿に不満を言うなんて……あれは完成形なんだ。完璧なフォルムなんだ。『可愛い』と言う言葉は星川さんのためにあるようなもの。それを胸が小さいだって? それ引きちぎるよ?」
「物騒なこと言うんじゃねぇ!」
涙目で志太に指差された股間を両手で隠す。
美夜佳と同じ部の部員である進はこのやりとりをただボーッと眺める。
(皮肉なことだよな。友人ができないと泣いてる星川本人の知らないところで親衛隊が結成されてるなんて。しかも全校生徒の二、三割が所属してるとは夢に思ってないだろうに)
「なんだよ! 別に個人の意見を言うのは勝手だろ! 別に本人に危害を加えるつもりもないんだ! 親衛隊かなんだか知らないけど、神経質過ぎるだろ!」
興奮気味の和馬は身振り手振りで訴える。
その時、背後に女子生徒に気がつかなかった和馬の手が当たってしまった。
「きゃっ!」
さほど勢いがついたわでもなく、少し肩に当たった程度であったが、体を触られたことで思わず声を上げて驚いてしまう。
「ごめん!」
手が当たったことで背後の存在に気がついた和馬は急いで謝ったが、コウモリや十字架のキーホルダーをぶら下げたセミロングの女子生徒は怯えた様子で目線を合わせないようにしている。
しかし、用事のある女子生徒は頑張って言葉を絞り出す。
「あ、あの……われ━━わ、たし、そのっ……我がと━━さ、ささっ、坂本、君にお、おお話が、したくて」
美夜佳はふと顔を上げると、周囲の生徒全員に注目されていることに気がつくと、今にも泣きそうな顔を浮かべ、涙声で必死に伝える。
「き、ぎょうの、部活っ、が、ぞの……」
「ほら、星川。ここじゃなくて廊下で聞いてやるから」
色々と限界な美夜佳を見かねた進は仕方なく助け舟を出し、廊下に誘導した。
二人が退室したことで静まる教室。
重い沈黙の中、口を開いたのは和馬だった。
「い、いやー、まさか星川さんがここに来るなんて! やっぱり可愛かったな! うん!」
明るく振る舞っている和馬だが、内心は焦燥感にかられている。
親衛隊に所属していない淳也は静かに和馬から距離を取った。
そして志太は懐から黒い手帳を取り出す。
一見生徒手帳な見えるが、デザインがこの高校のものとは違っていた。
それを開いた志太は全員に聞こえるように読み上げた。
「星川親衛隊・第一条。正当な理由なき身体的接触、あるいは危害を加える行為は星川さんが心を許す者以外は万死に値する行為であり、それを許さず。さしてそれに見合う罰を執行すること」
一年二組の星川親衛隊は和馬を取り囲むと、一歩ずつ詰め寄っていく。
「な、なぁ……冗談だろ?」
和馬は尋ねる……しかし親衛隊の歩みは止まらない。
「淳也! 助けてくれ!」
淳也に助けを求めた……返事がない、まるで他人のようだ。
無慈悲な現実を突きつけられている間に親衛隊は完全包囲を完了させた。
「い……いやああぁぁぁぁ!」
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