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翡翠の神剣  作者: お餅つこう
第1章 転移してみるのもまた一興
16/26

幕間 妹の仕事

幕間なので半日開けての更新です。

次話はあと半日後に投稿します。

「お兄ちゃん......知らない男の人と一緒にいる......」


彼女───紗苗もとい創造神第二補佐官(名無し)は、自分が送り込んだ愛する兄の行く末を見守りながら、そうボヤいていた。


「今のお兄ちゃんは女だから...あの男とくっつくかもしれない」


理由は、恋愛の嫉妬以外の何者でもなかった。


当たり前である。


葉月──今はヒスイだが、そのヒスイが自身の異性と一緒に旅をしているのだから。

まあ元をたどれば同性だが、あまり考えると脳が破裂するので省略する。


兎に角、自分の好きな人が、たとえ異世界であっても他人と恋愛関係になってしまっては紗苗も我慢できるかは分からない。


突然に発狂して兄を強制送還(どちらかと言えば強引回収)させるかもしれない。


そうなった時点でチャラ神にやんわり怒られることは確定なのだが。

あのチャラ神ことアステリオスは温厚なので、些細なことでは怒りはしない。

──些細なことであれば。


「むぅ...

ここいらで手を打っておかないと」


紗苗は眼下に広がる美少女兄と行商の好青年が楽しそうに会話する光景を睥睨しつつ、じっくり黙考する。


「うむむ............」


何か、いい方法はないだろうか。


兄の意識が自分以外に移り(元々向いているかは知らない)、このヴァルという男と交際し......結婚、しない方法。


「要は邪魔が出来ればいいんだから.........」


自分が今できること──丁度暫くは仕事もなく(どちらかと言えば監視の方が仕事)、そして監視も出来る素晴らしい方法。


「何か、なにか.........」


と、何か案を思いつきそうだった時にどこかしこから声が届く。


「お!や、第二補佐官ちゃんー!元気してたかい?」


チャラ神ことアステリオスのお出ましである。

紗苗はずっと葉月の妹を演じていたので、実に十数年振りの再会である。


「...っ、アステリオス様!」


「あー、いいよいいよ畏まらなくて。気楽に話そう」


紗苗が下げた頭を上げさせて、アステリオスは紗苗の兄のことを淡々と問い始める。


「──彼が、器なんだね?」


「はい、試験は彼を選びました」


そうかいそうかい、とアステリオスはわかったふうに腕を組んで何度も頷く。


「ってことは、彼には資格がある...と?」


「そう考えていいと思います」


紗苗は即答する。

試験に選ばれる──これはすなわち、資格を持っていることを意味する。


紗苗の役割は、というかチャラ神の目論見は資格を持つ存在を他の世界に送り込み、神域からの直接の影響力を持つことであった。


「ですが、私の兄は些か間抜けなところがありまして...」


「間抜け......つまり、ドジをすると?」


「......恥ずかしながら」


「では、時が来れば僕の出番もある...と?」


紗苗は少しためらう。

創造神自らがで向かわなければならない事態...

それを想像したくもないからだ。


「.........あるかもしれません」


彼女は曖昧に答えた。

断言してしまえば、それはつまり世界の危機を肯定することになる。

幾ら兄がドジだとしても、流石にそこまでの状況は起きないだろうが...。

万が一、ということがある。

そもそも彼は相当のドジなので、大事なことすら忘れてしまう。

現にステータスを見ることを忘れている位なのだから。


それに、危機を迫られたとあってはいくら神でも簡単には救えないのだ。

神にも神の仕事というものがあるので、そちらが忙しければ当然、片付けてから行かねばならなくなる。

その遅れた時間で、国が1つ滅んでしまえば...。

もう手遅れになってしまうのだ。


神界にも時空操作担当部署というものがあるが、

それを動かすのにもかなりの労力と時間、そして会議を費やさねばならない。

時空を動かすのだ、それなりに議論をしなければならないのは当たり前だ。


つまり、危機を起こすこと自体があっては行けないということになる。


「そうかい。わかった。」


短く返事をし、彼はそこで自身の意図的な威圧を消し去り、最後に軽く話す。


「じゃ、頑張ってねー!

君のお兄さんのことも、そして君自身の恋愛のことも」


「...ッ!」


そう、バレていたのだ。

いや、むしろ神なのにバレないはずがない。

紗苗が兄である葉月──いや、ヒスイのことを好きだという事実を。


しかし彼は、それを肯定する。

たとえそれが自身の大切な部下であっても。

いや、むしろ大切な、家族のような部下だからこそ、肯定するのかもしれない。


部下の幸福は即ち自身の幸福でもある。

ならば、その幸福の芽を摘み取るのではなく水を与え育てるのが彼の仕事だ。


「まあ、僕も振られてしまえとか思ってるわけじゃないから〜」


と、冷や汗を濁流のように垂れ流す神官に微笑み返す。


そして、彼は顔に無意識に浮かんだその邪悪な笑みを深めつつ────


「──いずれ僕も、彼の所におじゃまするかもしれない」


と、紗苗の耳元で冷酷に......嗤いながら呟いた。




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