2-8 西村攻略戦Ⅰ
戦争ごっこの始まり始まり!(アキラ・トコバ)
「どうしてこうなった?」
ガラはイラつきながらつぶやく。
半減した戦力を正面から潰すハズだった。
この戦いは勝てるハズだった。
勝利は目前のハズだった。
………ハズなのに!
イライラを紛らわすために自身の持つ剣を握りしめ前に歩き出す。
「俺が出る」
「で、ですがこの状況は危険で……」
「俺があんなものに当たると思っているのか!」
「ひっ!」
くだらない事を言って自分の足を止める兵士を一括し踏み出すガラ。
今なら巻き返せる、巻き返せるハズ、いや巻き返して見せる!
そう自分に言い聞かせ戦場に飛び出した。
◇
一方東村
「すごい………」
「すっげ………」
リンカーン兄弟が驚きの声を上げている。
全く俺も同感だ。わははは、まさかここまでうまくハマるとはな!
俺たちは現在戦場にいる。戦場には敵兵の多くが死屍累々といったようだ。
まさか何も考えずに突っ込んでくるとは思わなかったからこっちも割と拍子抜け。
彼らの多くは罠にかかり、何もできないまま地面に横たわっている。
一応死人は出てないと思う?
そんな惨状の中相手の最高戦力ガラが出て来たようだ。
「でたな~」
「ホントにするのか?」
「あったり前~。というかここまで来てビビんなよ」
軽く発破をかけつつ俺は戦争の始まる前のことを思い出す。
◆
「というわけで戦争します!」
会議の翌日、早朝から俺の前には村人の大半が集まっていた。
「おいどういうことだ!また戦争をするのか!」
「俺たちは戦争はもうこりごりなんだよ。戦争をなんかやめて向こうに降参させてくれ!」
「黙らっしゃいチキンども!叫べる体力があるなら十分戦争できるだろ!」
俺の発した言葉は反感を買ってしまったようで、“ふざけんな!”とか“死ね!”とか聞こえる。
あ、こらやめろ!今石投げたヤツは誰だ!
「落ち着いてください!今回の戦争は危険が少ないので!」
「お前ら落ち着いて話を聞いてくれー!」
クリス達がどうにか収めてくれたが今でも俺に飛んでくる目線が怖い。
とりあえず説明から始めようか。
「次回の戦争はここから200m先に陣取って戦います。そこは今ペドロたち有志が塹壕を絶賛制作中です。今回はその塹壕から飛び道具使って攻め込んできた奴らをボコボコにします。以上!質問は?」
「はい」
「おう、そこの負傷兵」
俺が質問を促すと手を上げる兵士がいた。右腕に包帯を巻いた負傷兵でまだ血が止まっていないのか包帯が赤くにじんでいて痛々しい。
「俺は今回動ける男衆は全員集合と聞いて駆け付けたものだ。だが、もし飛び道具を主軸に考えるなら俺は抜けさせてもらう。こんな腕じゃ弓は引けないからな」
あきらめたように言ったその負傷兵はそう言って手を下した。
俺はその負傷兵に向かって問いただす
「つまり戦う意思はあるんだな?」
「当たり前だ。俺はこの村が好きだ。だから西村の連中にこの村を奪わせたくない、でも俺はこのケガじゃ足手まといになる」
「じゃあ問題ない。今回使うのは弓じゃないからな」
「「「「は?」」」」
多くの兵士がつぶやいた、多分“こいつ何言ってんだ”的な意味だろう。
「そもそも弓は持って行った分しか使えないじゃないか、だから遠距離からの攻撃で押しとおすなら効率が悪い。よって今回はこれを使います!」
そう言って俺はソレを取り出した。
ソレとは二本の紐の先に革を付けた一本の道具。
「スリング!」
「大正解だ」
誰かがつぶやいた答えに俺は百点をやる。
今回使うスリングは弓と同じころに作られた狩猟用の道具だったらしい。
紐もしくは布に石を包み振り回すことで遠心力をつけ、放つ。単純な使い方のわりに威力は最悪、そりゃそうだろ上空から弓とは比較にならない質量物が降ってくるのだ、当たれば最悪死ぬし盾で防いでも手にはじんわりとした痛みが残る。俺はこの道具は火薬無しなら遠距離戦最強の道具だと思う。
そしてこの道具が弓ほど使われてないのは単純に人間のくだらないプライドのせいだ。石礫放つのが気に入らない奴が昔の騎士様には多いらしいよ?
まあ今回はそんなくだらない事を言う奴はいないだろう。何せ生きるか死ぬかの瀬戸際だからね~。
「でもスリングは放つのに時間がかかるだろう?」
「そのとおり!でもそれを補助する方法も考えてる」
俺は自信をもって断言しよう。
ここにいる人間が100%なんて望まない、せめて50%でも力を使えば戦争に勝利できると!
「さあ準備しろ、時間は有限だぞ。兵士たちには明日までにこのスリングで70mは前に飛ばせるようになってもらうからな!」
「おい待て!何で明日なんだ!白旗を上げて二日引き延ばせばいいじゃないか!」
「馬鹿かお前?毒矢降らされたいのか?向こうも攻撃手段は限られている今しか無いんだよ!いいからいくぞ!」
ブーイングがうるさいがこいつらは身体能力優れる異世界人が多い。きっと俺の予想くらいは超えてくれるだろう。
昨日見繕った練習場(ただの原っぱ)に行こうとすると声をかけられた、
「アキラさん私たちは?私たちで何か力になれることはありませんか?」
そう言って俺の足を止めたのはサクラたち女性陣だ。
そういえば言ってなかったなと思い、ベンジャミンに頼み先に兵士たちを練習場に向かわせる。
「サクラたちには石拾いともう一つ別の任務を頼みたい」
「?もう一つとは?」
「それはクリスに託した!そっちは頼むぜ」
「はい!」
いいお返事です。
サクラたちが言った後“さあ行こうか”と思った矢先にまた足止めを食らった。
今度は…
「おおぉぉい!おわったぞぉぉぉぉ!」
そう言って駆け寄ってきたのはペドロか。え、終わった?
「終わったって何が?」
「昨日頼まれた塹壕作りだぁぁ!」
「?俺は1㎞横に作ってと言ったけど?」
「だからぁ!終わったぞぉぉぉ!」
「へ、へー…」
すまん二つ名なめてたわ。
一晩中働いてたのは知ってたがまさかこんなに速攻で作り出すとは。
話を聞く限りどうやら注文通りに作られていたようで俺は詰まってしまう。
頭の中でスケジュールを上書きするイメージで予定を変更する。
「俺はぁ!次は何をしたらいいんだぁ!」
「えーっと……少しタイム。……塹壕の前に堀作っといて」
「任せろぉぉ!」
そう言ってまたペドロは飛び出していった。
「まあいいか。防御が万全になったと思えば」
一人取り残された俺はそうつぶやいて練習場に向かった。
◆
「オッシ終わり!昼飯休憩!」
「「「「うぇーー」」」」
やっぱり異世界人は筋がいいのか簡単に70mに届くようになった。
まさか昼前に終わると思わなかったので午後が丸々開いてしまった。
嬉しい誤算と言えばそうなのだが、あまりに早いので少し呆れてしまう。
このままだと昨日必死こいてスケジュール組んだのが全部無駄になっていく予感がする。
「僕この武器好きかもです」
そう嬉しそうに言っているのは『射線』の二つ名を持つダニエルだ。
こいつの能力は目視しているものに放ったものをほぼ確実に当てるという言葉だけならかなり強力なのだが、当てるだけなので矢や槍はどれだけ強く放っても“コツン”と音を立てる程度だったようだ。
だが、今回の武器は石。
質量物の落下は当たるだけでもかなり痛い。
実際に的を百発百中でぶち壊しており、午前中では唯一ノリで制作した400m先の的にも当てていた。
確かにスリングはそんだけ飛ぶって記録があったけどさ…。
これが次は敵の頭になると思えば笑えない。
こいつ自身は人殺しはしたくないと言っていたがこの能力を持ち腐れにするのは非常に惜しい、というわけでこいつの武器は泥にしてみた。
泥なら大丈夫だろ?とベンジャミンに言われたので変えてみると今度は的が泥だらけになったので結果オーライだろう。
こういう仲間思いな点でベンジャミンは村長を任せられているのだと昼飯中に聞いた。
なるほどそういうタイプか。
人を率いるのには色々あるが最終的には信頼で率いるのが一番強いとは思う。
今回の敵は逆に恐怖で縛っているタイプなので正反対。
このタイプは短期間で人をまとめるのにはもってこいなので、今回みたいに半年のスパンでは最も有効ではある。
逆に考えれば同じ期間で相手と同レベルまで求心しているベンジャミンはすごいのだが…。多分本人が気づいていないな。
それでもこの光景を見ればわかる
「おい村長、ソレよこせよ」
「ヤダよ。自分の食え」
「村長俺にもちょうだい」
「だからヤダって言ってんだろ!」
「俺にもくれ」「俺にも」「俺も」
「オイコラ離れろ!勝手に持っていくな!て、あー俺の焼き鳥が無い!」
まあアレは集られてるだけかもしれんが…、でも仲がいいのは事実だしな。
さて、
「おらー食ったか野郎ども!午後は応用編行くぞー!」
「「「「うぇーーい」」」」
どうやら俺も少しは信頼されてきたのか、兵士たちは素直に従ってくれた。
◆
「さて、明日は決戦だ。しっかり休むように。じゃあ解散!」
「「「「うぇーーい」」」」
もうちょい“はい”とか気合の入ったことは言えないのか?気が抜ける。
でも嫌いじゃないぜそういうテンション!
ワラワラと解散していく兵士を見送りながら俺は心の中でつぶやきながら一つ一つ頭の中で整理していく。
罠は張った、スリングの練度も上々だろう、さっき見たが塹壕はかなり出来が良かった。
決戦準備完了とまでは言わないがだいたい大丈夫だろう。あとはサクラたちのがんばり次第でもある。
サクラたちに頼んだのは無くても困らないがあったら楽になる勉利な物。
そうあれがあると楽になるのだ。色々と。
◆
戦争当日
天候は晴れ、風は少しこちらから向こうに吹いており草原の草が弱く揺れる。
「なんだアレは!」
「昨日までは無かったぞ!」
塹壕は昨日も有りましたよ?
どうやらいきなり現れた塹壕に相手はかなり困惑しているようだ。
白旗は相手の陣地に戦争開始までに使者を使って持っていくものらしく、来なかった使者に業を煮やして進撃してきたらしい。
そこで今までは無かった土壁があるのは驚くよな。
奴らはおよそ1㎞先で勇み足をしているようで、こちらとすれば来なければ来ないで問題ないのだが………。
「動いたな」
「まあ、そうだろうな」
俺の報告にベンジャミンは驚かない。
当たり前だがこっちは舐められてる。
数は約半分なのだからなめられて当然ともいえる。
しかしこちらの塹壕には警戒しているのか歩みは遅い、が、その遅さが致命傷になる。
「んじゃ始めますか」
「了解。ダニエルGO!」
「あいさつ代わりだ、受け取れ!」
俺からベンジャミン、ベンジャミンからダニエルに指令が回る。
事前の指令通りダニエルは次々と火矢を放った。
ヒュウ――
ヒュウ――
ヒュウ――
と音を立て火矢は草原に刺さった。
「風は微風だがこちらから向こう」
「まずは死んだ奴らの痛みを知れよ、毒の風だ!」
刺さった火矢はゴウゥと音を立て仕掛けられたモノを燃やした。
塹壕の向こう側はひどいことになるだろうな~。
何せこの世界でもトップクラスにやばい毒草を燃やしたんだから!
「うわ!なんだこれ!」
「臭い!臭い!」
「あれ何かいい気持ち………」
煙は大きく膨れ上がり西村の兵士を襲う。
この煙は3日前にクリスから教わった燃やすと中毒性の高い煙を大量に出す草を燃やしたもの。
昨日サクラに頼んだものだ。これを吸い込むと間違いなく楽にはなるだろう、楽にはね。
さて鈍足は不幸の元、これを機に引いてくれると嬉しいのだが………。
「馬鹿どもが!前だけ見て進め!数はこちらが有利なのだ!」
敵の村長の声かな?
ここまで届くとはすごい声だな。
でもそれは“数しか勝ってない”の間違いでは?
「どうやら突っ込んでくるな」
「来るのかガラ」
「おう、ところでベンジャミン覚悟は決まったな?」
「当たり前だ。俺は人殺しはごめんだが、仲間の仇のあいつらに地獄を見してやるくらいは躊躇なくするさ」
「OK!では地獄を見てもらおうか!第二陣用意!」
俺の合図で兵士は動き出す。
戦争ごっこはこれからだ。
アキラの戦術モドキは始まったばかりだ!
次回の投稿は土日のどっちかになります。
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