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死体の声しか聞こえないハズレスキル【遺言】で、俺は戦場の掃除係に落とされた 〜死んだ兵士は嘘をつかない。  作者: 音


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六十八の名前

 証拠を作る作業は、地味だ。

 それから四日、俺たちは倉庫と製材所と橋の上を往復した。

 やったのは三つ。

 一つ目。

 ミアに、倉庫に残っていた麻袋を全部触らせた。

 三十一袋残っていて、彼女は一つずつ触って、名前を読み上げた。俺が書いた。ハンナが袋を並べ替えた。

「これは、ネルヴァ穀物商会。そのあと、ケーニヒ。そのあと、輜重二中隊」

「これも同じ」

「これは……違う。ネルヴァのあと、ケーニヒがなくて、いきなり輜重」

「待て」

 俺は手を上げた。「それ、どけておいてくれ」

 三十一袋のうち、六袋がそうだった。

 ケーニヒの名が入っていない六袋。つまり、彼の手を経由していない袋だ。

 ダグに全部持たせた。

「これは二十六」

「これも二十六」

「これは……二十四と半」

 ケーニヒの名が入っている二十五袋は、全部二十四斤半だった。

 入っていない六袋は、全部きっちり二十六斤あった。

 これで、目方の差が「ネルヴァの商会が最初から軽く積んだ」せいではなくなった。差が生まれたのは、ケーニヒの手を通ったあとだ。

「言っとくけどな」

 ハンナが袋の山に腰かけて言った。「これも証拠にならねえぞ。ミアもダグも三等未満だ」

「なりません」

「じゃあ何のためにやってんだ」

「どこを調べればいいかを知るためです」

 俺は言った。「証拠は、これから作ります」

 二つ目。

 製材所に行った。

 河から三リーグ上流の、水車でまわす製材所だ。前線の柵と橋の板を作っている。おがくずは山になって捨てられている。

 主人は最初、何も知らないと言った。

 俺は何も聞かずに、おがくずの山を見て回った。

 そして、山の裏側で、ふるいを見つけた。

 目の細かい、粉ふるいだ。木を挽く仕事に、粉ふるいはいらない。

 主人はそれを見て、黙った。

 俺はそれ以上何も言わずに、帳面を出してもらった。買い掛けの帳面だ。誰が何を買ったかが書いてある。

 おがくずを買っている人間がいた。

 月に一度、一定量。買主の名は書いていない。ただ「代理」とだけ。

「この代理ってのは」

「そりゃ、名前を言わない客だ」

「金は」

「現金だ」

「じゃあ、いつも同じ袋で持ってくるだろう」

 主人は顔を上げた。

「……ああ」

「その袋、まだあるか」

 あった。

 ミアが触った。

 ミアは名前を読んで、それから俺を見上げた。

「ヴォルフ・ケーニヒ」

「もう一つ、下にないか」

「あるよ。ある。……ヨナス・キール」

 繋がった。

 製材所のおがくず。ヨナスが運ぶ袋。ケーニヒの名。

 三つ目。ここが本番だ。

 俺はゲルダに頼んで、ネルヴァ穀物商会の支払い記録を見せてもらった。医療物資の名目で商会に出入りできる人間は、この方面ではゲルダしかいない。

 商会の記録は、軍の帳簿と違って、正確だった。

 当たり前だ。商人が自分の金を間違えるわけがない。

 そこにこう書いてあった。

『第四方面軍分 小麦六十八袋 納入 代金受領済 ヴォルフ・ケーニヒ男爵』

 そして、その二行下に。

『同月 買戻 小麦百二斤 支払 ヴォルフ・ケーニヒ男爵宛 金貨七』

 俺は指を止めた。

 買戻。

 この男は、軍に納入された小麦から抜いた百二斤を、同じ商会に売り戻していた。同じ日に。同じ帳面の中で。

 証拠は、軍の中にはなかった。

 商人の帳面の中にあった。

 商人は、誰が悪人かなんて気にしない。誰から金を受け取って誰に払ったかだけを、正確に書く。

「これ、写していいですか」

「駄目に決まってるでしょう」

 ゲルダは言った。それから、部屋の外に出て、扉を閉めた。

 俺は写した。

 外に出ると、彼女が壁にもたれていた。

「取れた?」

「取れました」

「で、これで大尉が動く?」

「動きません」

「じゃあ何なの」

「大尉には出しません」

 俺は手帳を閉じた。

「レンドルフ伯爵に出します」

 ゲルダの眉が動いた。

「補給局次長でしょう。ケーニヒの後ろ盾じゃないの?」

「そうです」

「なぜ後ろ盾に持っていくの」

「後ろ盾だからです」

 俺は言った。

「ケーニヒは、抜いた金の四割をレンドルフに渡してます。手元に残るのは三枚半。つまりレンドルフから見ると、ケーニヒは月に金貨二枚半しか生まない資産です」

「それで?」

「その資産が、もし監査に引っかかったら、レンドルフは失脚します」

 俺は言った。

「金貨二枚半のために、伯爵位を賭けるやつはいません」

 ゲルダは、しばらく俺の顔を見ていた。

 それから、目を逸らした。

「あなた、十七だっけ」

「十七です」

「……そう」

 彼女はそれ以上、何も言わなかった。


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