いい仕事
ヨナスを宿舎に返してから、ゲルダは俺を樽のところまで連れていった。
彼女は座らなかった。俺も座らなかった。
「一つ確認するわ」
「はい」
「あなた、あの子が食べなかった理由を、最初から想像がついてた?」
「ついてました」
「いつから」
「名簿を見たときからです」
「じゃあ聞くけど」
ゲルダは眼鏡を外した。彼女が眼鏡を外すのは、相手をちゃんと見るときだ。
「なぜ最初に『パンを食べなかったな』と聞かなかったの。最初に聞けば、あの子は最初に泣いた。同じでしょう」
「同じじゃないです」
「どう違うの」
「先に死んだ相棒の話をしないと、あいつは自分を守ります」
俺は言った。
「先にアルミン・ケラーの最期の一文を渡すと、あいつは自分の中に穴が開きます。穴が開いてから聞くと、防げなくなる」
ゲルダは長いこと黙っていた。
雨水の樽の表面に、羽虫が落ちて、もがいていた。
「あなた、それをどこで覚えたの」
「前世で、やられたので」
彼女は眉を動かしただけだった。前世という言葉に反応しなかったのは、この人が初めてだ。
「事故を調べる仕事をしてました」
俺は続けた。「三人死んだ工場で、現場の作業員に話を聞くとき。上の人間は、最初に死んだ人間の話をしろと言いました。名前を出せ、家族の話をしろ、と。そうすると喋る、と」
「効いた?」
「効きました」
「気分は」
「悪かったです」
「今は」
俺は答えなかった。
答えは、悪くなかった、だ。ヨナスが泣いているあいだ、俺は「これで六十八袋の出所が繋がる」と考えていた。それ以外のことは考えていなかった。
二年で四百四十人分の最期を頭に詰めると、そうなる。
ゲルダは眼鏡をかけ直した。
「アーレンス伍長」
「はい」
「私はあなたに協力するわ。おがくずのことは事実で、人が死んでるから」
「ありがとうございます」
「でも一つだけ言っておく」
彼女は俺の目を見た。
「あなたは今日、人ひとりを道具として使った。それが必要だったことは認める。認めるけど、認めることと、慣れることは違う」
「はい」
「あなた、たぶん、これから何度もやるわ」
「たぶん」
「そのたびに、気持ち悪くなりなさい」
彼女は言った。
「気持ち悪くなくなったら、あなたはケーニヒと同じものになる。あの男だって、最初の一袋のときは吐きそうだったはずよ」
俺は少し、考えた。
「覚えておきます」
「覚えるだけじゃ足りない」
「じゃあ、どうすれば」
「私が言ってあげる」
ゲルダは器具巻きを直しながら言った。
「あなたが気持ち悪くなくなったら、私が言う。それが私の役目にするわ」
俺はうなずいた。
それから、少し変な感じがした。
この二年、誰かが俺の役に立とうと言ってきたことはなかった。ハンナは面倒を見てくれたが、それは分隊長の仕事だ。ミアは懐いているが、あれは子供が懐いているだけだ。
この人は、俺の内側の面倒を見ると言った。
なぜかは分からない。
「一つ聞いていいですか」
「どうぞ」
「なんで、そこまでしてくれるんですか」
ゲルダは少し笑った。この人が笑ったのを、俺は初めて見た。
「私が無授だからよ」
彼女は言った。
「私は生まれたときに、神様に『お前には何もやらない』って言われた人間なの。だから、神様に『お前には死体の声だけやる』って言われた人間のことが、他人だと思えないのよ」




