六十八袋
翌朝、ハンナは俺の話を最後まで聞いてから、干し草巻きを地面で揉み消した。
「訴えるつもりか」
「訴えるとまでは」
「じゃあ何だ」
「調べる」
「同じだろ」
「違います」
俺は言った。「訴えるのは、調べ終わってからやることです」
ハンナは俺を見て、それから空を見た。雨は上がって、灰色の雲が低いところで動いていた。
「四人死んだのは事実だ」
彼女は言った。「けどな、アーレンス。この戦線で腹で死ぬのは日常だ。去年うちの旅団だけで二百人死んでる。全部調べるのか」
「全部は調べません」
「じゃあ何で今回だけ」
「死んだ本人が、パンの話をしたからです」
ハンナは黙った。
しばらく黙ってから、また新しい干し草巻きを出して、今度は火をつけた。吸って、吐いて、それから言った。
「袋は」
「ミアが持ってきました」
ミアが後ろから麻袋を掲げた。泥だらけで、袖が余った腕で抱えるには大きすぎて、半分引きずっていた。
「触ったか」
「触った」
ミアは言った。「触った。名前、出た」
「誰だ」
「ええと。ええと、たくさん出た」
全員が彼女を見た。
「たくさん?」
「袋って、いろんな人が触るから。運んだ人とか、積んだ人とか。でも、いちばん古いのが持ち主なの。いちばん下にある名前」
「それは」
「ネルヴァ穀物商会。あと、その下に、もっと古いのがあった」
ミアは麻袋の隅を指した。「ヴォルフ・ケーニヒ」
ハンナの手が止まった。
干し草巻きの灰が落ちた。
「兵站監だ」
彼女は言った。「この方面の補給を全部握ってる男だよ」
俺は麻袋を受け取った。
口のところに焼き印がある。ネルヴァ商業同盟の紋。南から来た穀物だ。ネルヴァは両軍に穀物を売っている。戦争が長引くほど儲かる連中だ。
袋の底を持ち上げた。
「ダグ」
名前を呼ぶと、大男は梁に頭をぶつけながら出てきた。
「これ、持ってくれ」
ダグは無言で麻袋を受け取った。両手で持って、少し揺すった。
それから、言った。
「軽い」
「どのくらい」
「二十六斤。……のはずが、二十四と半」
「間違いないか」
「間違えない」
ダグは麻袋を地面に置いた。「この手が、間違えたことはない」
彼のスキルは【計量】四等。持ち上げたものの重さが正確に分かる。それだけ。鍛冶師をやっていたときは便利だったらしい。軍隊では何の役にも立たないとされている。
二十六斤の表示で、中身は二十四斤半。
一袋あたり一斤半、足りない。
「一袋でそれなら」
俺は言った。「今月、この方面に何袋入りました?」
ハンナが答えた。「知るか。俺は分隊長だぞ。兵站の帳簿なんか見られるわけがねえ」
「見られる人は」
「……いる」
彼女は嫌そうな顔をした。「あんまり会いたくねえけどな」
その人が誰かは、その日の午後に分かった。
野戦病院の裏手、雨水を溜める樽の横で、女が一人、器具を煮沸していた。
眼鏡をかけている。指が荒れて、爪の周りが割れている。腰に革の器具巻きを巻いていて、それが油で黒光りしていた。
ゲルダ・フォス。従軍医師。三十一。
彼女は俺たちを見て、顔も上げずに言った。
「烏が四羽も来た。今日はそんなに死んでないはずだけど」
「フォス先生」
ハンナが言った。「兵站の受領簿、見られるか」
「見られるわよ」
「見せてくれ」
「理由は」
「言ったら断るだろ」
「言わなくても断るわ」
ゲルダは器具を鍋から引き上げて、布の上に並べ始めた。一本ずつ、順番を決めて置いている。
俺は前に出た。
「小麦に、おがくずが混ざってます」
彼女の手が止まった。
眼鏡の奥の目が、初めてこっちを向いた。
「証拠は」
「今のところ、三つです」
俺は指を折った。「一つ、パンの断面に木の繊維が入ってる。二つ、袋の目方が表示より一斤半軽い。三つ、袋の持ち主の名がヴォルフ・ケーニヒになってる」
「三つ目は」
「【記名】です」
「ああ」
ゲルダは、そこで初めて息を吐いた。
「五等の子ね」
「そうです」
「あなたは」
「【遺言】、五等です」
彼女はしばらく俺を見た。
それから、器具を布で包んで、立ち上がった。
「言っておくけど」
彼女は言った。「そのうちの二つは、法廷では何の意味もない。三つ目に至っては証拠として提出することさえできない。スキルによる証言は、位階三等以上でなければ受理されないの。知ってた?」
「知りませんでした」
「これで知ったわね」
ゲルダは眼鏡を押し上げた。
「で。それでも調べる?」
「調べます」
「なぜ」
彼女は本気で聞いていた。試しているんじゃなくて、答えが知りたい顔をしていた。
俺は少し考えて、言った。
「四人死んだ理由が分かるからです」
「理由が分かっても、四人は生き返らないわ」
「次の四人が減ります」
沈黙があった。
樽から雨水が溢れて、地面に細い筋を作っていた。
やがてゲルダは、器具巻きを腰に戻して、歩き出した。
「ついてきて」
彼女は振り向かずに言った。
「受領簿は倉庫の三番棚。三十分で覚えなさい。写したのがばれたら私も吊るされるから」




