こちら側
こちら側から撃たれた。
その一言をどう扱うかで、俺はその日の午後を全部使った。
葦の生えた河岸に戻って、六人を引き上げた場所に立ってみた。水は濁っていて、底の石が見えない。対岸の土手までは、たしかに射程の内側だが、命中を望める距離ではない。キルシュの狙撃兵は腕がいいと聞くが、月の細い晩に、水から上がってくる人影を六つ続けて仕留めるというのは、腕の問題ではなく運の問題になる。
振り返って、こちら側の斜面を見上げた。
葦の上に土手があり、土手の上に低い灌木の帯があり、その奥に、崩れかけた石積みの見張り所があった。使われていない。屋根が落ちて、床に草が生えている。だが、そこから河岸までは、目を細めれば人の輪郭が見えるくらいの距離だった。夜でも、月がなくても、水面はわずかに明るい。水から上がる人間は、その明るさの上に黒く出る。
俺は見張り所まで登った。
石積みの内側は湿っていて、苔と、鳥の糞と、腐った藁の匂いがした。誰かが最近ここにいた形跡は、ぱっと見では何もない。床の草も踏み倒されていない。
しゃがんで、崩れた石の隙間を覗いたときに、指先が何か硬いものに触れた。
薬莢だった。
この国の銃は火縄と燧石が混ざっていて、薬莢を使うのは新式の一部だけだ。前線の歩兵が持っているものではない。俺は薬莢を掌に乗せて、しばらく重さを確かめてから、上着の内側に入れた。
ダグに持たせたら、彼は指二本でつまんで、少し揺すって、王都製だと言った。鍛冶をやっていた男の言うことだ。鉛と真鍮の比率が違うらしい。この前線で使われている弾は南から来るものが多くて、あれはもっと不純物が多くて重いのだと、彼は珍しく長く喋った。
ミアが触った。
彼女は薬莢を両手で包んで、しばらく目を閉じていて、それから、目を開けずに言った。
「読めない」
「読めない?」
「名前が、ない。持ってた人の名前がないの。こんなの初めて。初めてだよ」
俺は彼女の手から薬莢を受け取って、光にかざした。
真鍮の縁に、細い傷が一本入っていた。刻印を削り取った跡だ。丁寧に、砥石を使って削ってある。
名前を持たない兵が河を渡り、名前を持たない弾が彼らを撃った。
その夜、ハンナが俺を外に呼び出した。
彼女は樽に腰かけて、干し草巻きを吸っていた。火をつけては消し、また新しいのを出しては火をつけていた。三本続けてそれをやってから、ようやく口を開いた。
「アーレンス。俺はな、この分隊を十一年やってる」
「はい」
「その十一年で、うちが拾った身元不明は、たぶん二百は下らねえ。全部、たまたまだと思ってた。剥がれたんだ、流れたんだ、燃えたんだって」
彼女は煙を吐いて、それが夜気の中でほどけるのを見ていた。
「お前が来てからだよ、それが全部『誰かがやった』ことになったのは」
「すみません」
「謝ってんじゃねえ。褒めてもねえ」
ハンナは干し草巻きを地面で潰した。
「俺が言いたいのはな。二百人ぶん、俺は十一年間、何もしなかったってことだ。それをお前は二週間でひっくり返した。俺はそれを、ありがてえとも思うし、ぶん殴りてえとも思う」
俺は何も言わなかった。言えることが特になかった。
彼女は俺を殴らなかった代わりに、新しい干し草巻きに火をつけて、それを俺に差し出した。俺は吸わないと知っているはずなのに差し出したから、受け取って、一度だけ吸って、盛大にむせた。ハンナは笑わなかった。笑いたそうな顔だけしていた。
「それでな、アーレンス。悪い話がある」
「はい」
「今日の夕方、司令部から人が来た。お前が河岸に登ってるあいだにな」
「何の用でした」
「キリアンだ」
彼女は言った。
「あの男の名前を、正確に言い当てて帰っていった」




