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死体の声しか聞こえないハズレスキル【遺言】で、俺は戦場の掃除係に落とされた 〜死んだ兵士は嘘をつかない。  作者: 音


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記章のない連中

改編の中身は、翌週わかった。

 やることは変わらなかった。死体を拾って、名前を確認して、木札を書いて、埋める。違うのは、行く場所が指定されるようになったことだ。

 これまでは、うちの分隊は近い場所から片付けていた。今は、朝に地図が渡される。

 その日の朝、ハンナは地図を見て、干し草巻きを口から落とした。

「河岸だ」

「はい」

「河岸はうちの持ち場じゃねえ。あそこは工兵が片付ける」

「今日は違うそうです」

「なんでだ」

「書いてありません」

 ハンナは俺を見た。それから、地面の干し草巻きを拾って、土を払って、また口にくわえた。

 俺たちは河岸に降りた。

 リーゼ河は広い。対岸のキルシュ側の土手が、朝靄でぼやけて見える。この河を渡ろうとした人間は十一年間ずっと死に続けていて、今日もその続きだ。

 葦の間に、六つあった。

 うつぶせ。仰向け。ひとつは半分水の中で、腰から下が流れに揺れていた。

「近い」

 ダグが言った。

「近いって、何が」

「対岸に、近い」

 彼の言うとおりだった。この位置まで来るには、河をだいぶ渡っている。渡って、戻ってきて、ここで力尽きたか、撃たれたか。

 ミアが最初の一体の襟をめくった。

「ない」

「何が」

「記章。ないよ。ないの」

 俺は膝をついた。

 肩も、襟も、袖も。記章を留めていた場所に、糸の跡だけが残っていた。切り取られている。ちぎれたんじゃない。刃物で丁寧に切られている。

 二体目も。三体目も。

 六体全部、記章がなかった。

「キルシュのやつじゃねえのか」

 ハンナが言った。

「装備を見てください」

 俺は言った。「靴です」

 キルシュ帝国の兵は、底に鋲を打った短靴を履く。うちは長靴だ。皮の質が悪いから、みんな踵の内側が同じように潰れる。

 六人とも、踵の内側が潰れていた。

 うちの兵だ。

「じゃあ、なんで記章がねえんだよ」

 ハンナの声が変わっていた。

 俺は手袋を外した。

 一体目。若い。まだ髭も薄い。首に触れる。

 ——舟が、ない。

 二体目。年配。手に古い火傷の跡。

 ——ヨーゼフを置いてきた。

 三体目。腹をやられている。

 ——聞いてない。こんなの聞いてない。

 俺は手を止めた。

 頭の後ろが冷えている。三体で、もう指先の感覚が鈍くなり始めていた。

「ユール、顔白いよ。白い」

「あと一つだけ」

「駄目だ」

 ハンナが俺の肩を掴んだ。

「三までだ。前に決めたろ」

「これは決めたやつと違います」

「同じだ。お前が倒れたら誰が書き取るんだ」

 俺は彼女の手を見た。それから、手袋を嵌めた。

 六人が並んでいる。記章のない六人。

 ハンナがこの分隊に作った規則を、俺は全部覚えている。死体を蹴らない。埋めるときは必ず二人でやる。そして——

 名前を、必ず記録する。

「軍曹」

「なんだ」

「木札には、何を書けばいいですか」

 ハンナは答えなかった。

 彼女は葦を見ていた。朝靄が薄くなって、対岸の土手の輪郭が出てきていた。

「……不明、だな」

 彼女は言った。

「不明で埋めます」

「他にどうしろってんだ」

「不明で埋めると、遺族に恩給が出ません」

 俺は言った。「死んだ証明ができないので。行方不明のままだと、七年待たないと死亡扱いになりません」

「知ってるよ」

 ハンナは言った。

 声が低かった。

「知ってて、俺は十一年やってんだ」

 俺たちは六人を担架に乗せた。ひとりずつ、二人がかりで、水から引き上げるのに手間取った。水を吸った体は、乾いた体の倍以上ある。

 最後の一人を乗せたとき、ダグが手を止めた。

「軽い」

「え?」

「これだけ、軽い」

 俺は近づいた。

 六人目は、他の五人より一回り小柄だった。それだけかと思ったが、ダグは首を振った。

「そうじゃない。中が」

 彼は言った。「中身が抜けてる」

 服の前を開けた。

 腹が裂かれていた。刃物で。まっすぐに。傷の縁が白くなっていて、これは死んでから切られた傷だ。

 中に何もなかった。

 ゲルダを呼ぶまで、誰も何も言わなかった。


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