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『限界社畜の異世界ホワイト転職〜『概念錬金』で村役場を無双していたら、元最強冒険者の料理人に胃袋を完全制圧されました〜』  作者: 月神世一


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貧乏神アイドルをプロデュース!?【概念錬金】で作る夢のステージ

貧乏神アイドルをプロデュース!?【概念錬金】で作る夢のステージ

 ポポロ村役場での仕事が休みの、穏やかな週末。

 私は遅めに起きて、ゆっくりと朝の支度を済ませると、村の散策に出かけた。

 前世では休日の昼間に外を歩くなんて考えられなかった。溜まりに溜まった疲労で、夕方までベッドと一体化しているのが常だったからだ。陽の光を浴びながら散歩できるなんて、それだけで涙が出そうなくらいの贅沢に感じる。

 のんびりと村の中央広場に差し掛かった時、どこからか甲高い歌声が聞こえてきた。

『絶対無敵のスパチャアイドル! 五円が積もれば山となる!』

 なんだか聞き覚えのある、やけに世知辛い歌詞だ。

 声のする方へ目を向けると、広場の隅っこで、拾ってきたらしいボロボロのみかん箱の上に立ち、一生懸命に歌って踊っている女の子の姿があった。

「リーザちゃん……?」

 水色の長い髪をツインテールにし、紫色の芋ジャージに健康サンダルという、絶妙にダサいけれど顔だけは信じられないほど可愛い美少女。先日、私が【概念錬金】で作った肉まんをあげた、人魚姫アイドルのリーザちゃんだ。

 彼女は額に汗を浮かべ、笑顔を振りまきながら歌っているのだが――悲しいことに、観客はゼロだった。

 村人たちは遠巻きにチラチラと見るものの、なぜか足早に通り過ぎてしまう。唯一彼女を見つめているのは、広場のベンチの横に座っている一匹の野良犬(こないだ廃棄弁当を巡って死闘を演じていた犬)だけだ。犬の目には、明らかな同情の光が浮かんでいた。

『ハイ! ハイ! スパチャよろしく! ……って、今日も誰も立ち止まってくれませんわね……ぐすっ』

 一曲歌い終えたリーザちゃんは、みかん箱から降りると、ポケットから大切そうに「パンの耳」を取り出し、ハムスターのようにかじり始めた。

 ……不憫すぎる。一国の王女様で親善大使のはずなのに、どうしてあんなサバイバル生活をしているんだろう。

「リーザちゃん、お疲れ様」

「あっ! カレンお姉様ぁぁっ!」

 私が声をかけると、リーザちゃんはパンの耳をくわえたまま、涙目で私に抱きついてきた。

「ぐすっ……お姉様ぁ、私、アイドルとして皆を笑顔にしたいのに、誰も歌を聞いてくれませんの……」

「よしよし。歌自体はすごく上手だったよ。どうして人が集まらないんだろうね?」

「それは……私のユニークスキルのせいですわ」

 リーザちゃんはしゅんと肩を落とし、自分のスキルのことを教えてくれた。

 彼女のユニークスキル【貧乏神】。

 それは、相手の運気や全財産、果ては隠し口座の暗証番号までをも概念的に吸い尽くして没収してしまうという、極悪非道なデバフスキルだった。しかも、吸い取ったお金は世界のバグ修復などに消えてしまうため、リーザちゃん自身の手元には1円も残らないという。

「私が人を集めようとすると、皆、本能的に『あ、これ以上近づいたら財布の中身が消える』と察知して逃げてしまうんですの……。おまけに私は悪運耐性だけはカンストしているので、どれだけ貧乏でパンの耳しか食べられなくても、絶対に死なないという無駄な頑丈さがありまして……」

 なるほど。つまり「観客に強制的な搾取の恐怖を与える」という、エンタメにおいて最悪のマイナス効果(UX・ユーザーエクスペリエンス)が働いているわけだ。

 どんなに良い商品(歌)でも、顧客に「損をする」と思わせる導線設計では、マーケティングは成り立たない。

「カレンお姉様のような有能な方が羨ましいですわ……。私なんて、歌うことしかできないポンコツ貧乏神ですから……」

「そんなことないよ」

 自嘲するリーザちゃんの頭を、私は優しく撫でた。

 前世で、数々の売れないプロジェクトのPRやテコ入れを行ってきた、元社畜の血が騒ぐ。

「商品価値が伝わっていないなら、魅せプロデュースを変えればいいの。リーザちゃんのそのスキル、私が【概念錬金】で最高のエンタメに書き換えてあげる」

「お姉様……!?」

 私は空中に『錬金術ラボ』のウインドウを展開した。

 リーザちゃんのスキルは「一方的な搾取」だから人が逃げるのだ。ならば、そこに「対価」と「納得感」を与えればいい。

「素材Aは、リーザちゃんの【貧乏神(一方的搾取)の概念】」

「そして素材Bは……【テーマパークの圧倒的な顧客満足度の概念】!」

 お金を払うことが苦痛ではなく、むしろ「喜んで払いたい」「払った以上の最高の幸福感を得られる」という究極のエンタメ体験の概念。前世で、ボーナスを全額注ぎ込んで推し活をしていた同僚の情熱を思い出しながら、私は二つの概念を衝突させた。

「錬金、開始!」

 眩い光がリーザちゃんを包み込む。

 光が収まった瞬間、彼女の紫色の芋ジャージから、キラキラとした不可視のオーラ……『推したい!』と強烈に思わせる、魅惑のアイドルオーラが放たれ始めた。

 ついでに、足元のみかん箱にも【最高のステージ照明の概念】を錬金して付与しておく。ただのみかん箱が、まるでドームツアーのセンターステージのように、神々しい七色のスポットライトを放ち始めた。

「さあ、リーザちゃん! もう一度、みかんステージに立って! 今度はお客さん、絶対に逃げないから!」

「は、はいっ!」

 リーザちゃんが再びみかん箱に飛び乗った。

 その瞬間、広場を歩いていた村人たちの足が、ピタリと止まった。

「な、なんだ……!? あの芋ジャージの女の子から、とんでもなく神聖なオーラが……っ!」

「目が離せねぇ……! 気がついたら、財布の紐が緩んでる……いや、むしろ俺の全財産をあの子に捧げたいっ!」

 錬金術の効果は絶大だった。

 村人たちが、まるで吸い寄せられるようにリーザちゃんのステージの前に集まり始めたのだ。

「いきますわよーっ! 皆さん、愛とキャッシュをくださいまし! 『Love & Money』!!」

 リーザちゃんが本気の歌声を響かせる。

 人魚族特有の、脳髄を直接揺さぶるような圧倒的に美しい歌声。それが、広場に集まった人々の心を完全に掌握した。

「うおおおおっ! リーザちゃぁぁん!」

「俺の銀貨を受け取ってくれぇぇ!」

 村人たちが熱狂し、ステージに向かって硬貨を投げ入れる。

 投げられた硬貨はリーザちゃんの【貧乏神】スキルの効果で空中でフッと消滅してしまうのだが……代わりに、お金を失った村人たちの全身が、眩いばかりの光(極大のバフと回復魔法)に包まれた。

「うおおっ!? 金は消えたのに、すげぇ幸せな気分だ!」

「持病の腰痛が治ったぞ! なんだこれ、実質タダみたいなもんじゃないか! もっとだ! 俺のヘソクリも持っていってくれー!」

 奪われる恐怖は、圧倒的なリターン(幸福感と回復)によって『最高のスパチャ体験』へと昇華されたのだ。

 観客は熱狂し、リーザちゃんは最高の笑顔で歌い踊る。

 ライブは大成功。誰も不幸にならない、完璧なバリューサイクルが完成した瞬間だった。

     * * *

「はぁ、はぁ……っ! 最高のステージでしたわ!」

 ライブ終了後。

 燃え尽きたようにみかん箱に座り込むリーザちゃんの周りには、お金の代わりに村人たちから直接手渡された、大量の野菜や果物、パンなどの『現物支給の差し入れ』が山のように積まれていた。お金はスキルで消えてしまうが、直接の食べ物なら消えないと学習した村人たちのファインプレーだ。

「カレンお姉様、本当にありがとうございます! 私、こんなにファンの方から愛されたの、初めてですわ……!」

「ふふ、良かったね。リーザちゃん自身の歌声が素晴らしかったからだよ」

 私がハンカチで彼女の汗を拭いてあげていると、ふいに背後から、美味しそうな匂いと共に大きな影が落ちた。

「……休みの日まで、随分と面倒見がいいんだな、カレン」

「あ、ジークさん!」

 振り返ると、私服姿のジークさんが、大きなバスケットを手にして立っていた。

 休日の私服姿も、反則的に格好良い。

「騒がしいと思ったら、お前が裏で糸引いてたのか。相変わらず、その錬金術の使い方はデタラメだな」

「えへへ、ちょっとしたプロデュース業です」

「まあいい。せっかくの休みだ、少しは自分のために休め。……ほら、受け取れ」

 ジークさんが私の膝にポンと置いたのは、可愛らしいバスケットだった。

 中を開けると、色とりどりのサンドイッチや、新鮮なフルーツがぎっしりと詰まっていた。

「これ、私に……?」

「休みの日の昼飯くらい、外でゆっくり食いたいだろ。俺の特製だ。……お前が食う分は、ちゃんと一番美味く作ってある」

 ジークさんは少しだけ目を逸らしながら、ぶっきらぼうにそう言った。

 私は嬉しさのあまり、胸の奥がキュンと鳴るのを感じた。

「ありがとうございます、ジークさん! いただきます!」

 晴れ渡る休日の青空の下。

 大喜びで差し入れのパンをかじるリーザちゃんの隣で、私はジークさんの作ってくれた極上のサンドイッチを頬張った。

 異世界での休日。ブラック企業では絶対に味わえなかった、世界で一番美味しくて、幸せな時間だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第8話は、パンの耳で生活する不憫な人魚姫・リーザのプロデュース回でした!

カレンの【概念錬金】で「貧乏神の搾取」を「究極のスパチャ体験(バフ付き)」に書き換え、見事ライブは大成功。現物支給でしばらくリーザちゃんも飢えずに済みそうです(笑)。

そして最後は、きっちりカレンの胃袋を満たしにくるジークの特製サンドイッチでした!

次回は第9話!

平和な村に、ルナミス帝国から怪しい悪徳商人がやってきて、村の財政がピンチに!? 元社畜OLの事務スキルと概念錬金が、悪徳商人を合法的に(?)叩き潰します!

「リーザちゃんライブ成功おめでとう!」「スパチャ体験ちょっと受けてみたい!」「ジークさんのサンドイッチ美味しそう!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆を★★★★★】にして応援していただけると、リーザのライブの観客がさらに増えます!

皆様の温かい応援、何卒よろしくお願いいたします!

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