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『限界社畜の異世界ホワイト転職〜『概念錬金』で村役場を無双していたら、元最強冒険者の料理人に胃袋を完全制圧されました〜』  作者: 月神世一


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トラウマ野菜を『内定』に書き換える概念錬金〜おじさん農家たちの大復活〜

トラウマ野菜を『内定』に書き換える概念錬金〜おじさん農家たちの大復活〜

 目の前で不気味に葉を揺らす、巨大なボス格の『折れたス(最終面接お祈り種)』。

 そこから放たれる『祈り』という名の呪いは、周囲の空気をどんよりと重く沈ませ、屈強な農家の男性たちの精神を完膚なきまでにへし折っていた。

「さあ、私の仕事の時間ね」

 私は静かに息を吸い込み、空中に浮かび上がる半透明のウインドウ、『錬金術ラボ』のパネルに意識を集中させた。

『錬金術ラボ:素材をセットしてください』

「素材Aは、この『折れたス』が放つ【不採用・キャリア否定の概念】」

 ウインドウの左側に、どすぐろいモヤのようなアイコンがセットされる。

 問題は、これにぶつける素材Bだ。

 否定を打ち消すためには、ただの「肯定」では弱い。お祈りメールという強烈な絶望を上書きするには、喉から手が出るほど欲しかった『あの言葉』の概念が必要だ。

 私は、つい数日前のことを思い出した。

 異世界に放り出されて、絶望と空腹で泣きそうになっていた私。

 そんな私に、ジークさんが温かいご飯を作ってくれて、キャルル村長が「うちの役場で働いてみない? カレンちゃんが必要だよ」と言ってくれた時の、あの全身が救われるような圧倒的な喜び。

 社会の歯車として使い潰されるのではなく、私という人間を正当に評価し、必要としてくれる居場所。

「素材B……【採用証明・絶対的承認の概念】!」

 右側の枠に、黄金色に輝く温かい光のアイコンがセットされた。

「ブラック企業でのトラウマも、お祈りメールの絶望も、全て私が上書きしてあげる! ――錬金、開始!」

 両手から、太陽のようにまばゆい光が溢れ出し、畑の中心に鎮座するボス格の『折れたス』を包み込んだ。

 ギュオォォォッ! と、概念と概念が衝突する激しい音が鳴り響く。

 しかし、私の『絶対的承認の光』は、どすぐろい絶望のモヤを瞬く間に浄化し、優しく包み込んでいった。

 やがて光が収まると――。

 赤黒く禍々しい色をしていたボス格の葉は、まるで朝日に透かしたエメラルドのような、瑞々しく輝く黄金緑色へと変化していた。

 周囲に漂っていた重苦しい空気は完全に消え去り、代わりに、春の陽だまりのような温かくて前向きなオーラが畑全体を満たしている。

「カ、カレンちゃん……? いま、何をしたんじゃ?」

「源蔵さん。とりあえず、そのレタスに触ってみてください」

 源蔵さんは恐る恐る手を伸ばし、新しく生まれ変わったレタスの葉にポンと触れた。

 その瞬間――。

『……厳正なる選考の結果、貴殿の長年にわたる土への愛情と、素晴らしい人間性に深く感銘を受けました。つきましては、ぜひ我が社(社会)の根幹を支える最高責任者としてお迎えしたく存じます。貴殿の存在そのものが、我々の希望です! 採用おめでとうございます!』

「――っ!!??」

 源蔵さんの脳内に直接響き渡ったであろう、その温かく力強い『採用通知(内定)』のテレパシー。

 源蔵さんはカッと目を見開き、その目から滝のような涙を噴き出した。

「う、うおおおおっ……! わしは……わしの農業は、社会に必要とされとるんじゃ! わしの泥まみれの手は、誰かの希望なんじゃあああっ!」

「源蔵さん!?」

「カレンちゃん、すげぇ! このレタスに触ると、腹の底から湧き上がるような自信と自己肯定感が満ち溢れてきやがる! まるで、人生の最終面接に一発合格したみたいな最高の気分じゃ!」

 源蔵さんの歓喜の叫びに反応し、地面で膝を抱えていた農家のおじさんたちが、フラフラと立ち上がり始めた。

 私はすかさず、ボス格のレタスから発生した『内定の概念』を、錬金術ラボを使って畑全体の『折れたス』へとネットワークのように伝播・上書きしていく。

 次々と輝きを取り戻していく黄金緑色のレタスたち。

 おじさんたちがそれに触れた瞬間、あちこちから雄叫びが上がった。

「うおおっ! 俺は社会の歯車なんかじゃない! 俺自身が、俺の人生のCEOだったんだ!」

「うひょおお! 評価されてる! 俺の今までの苦労が、全肯定されてるぞ!」

「来世に期待なんかしない! 俺は、今この畑で一番輝いてるぜえええっ!」

 ついさっきまで「俺の人生ってなんだったんだろう……」と虚無になっていた屈強な男たちが、今は満面の笑みで涙を流し、互いに肩を組んで喜びのダンスを踊り始めている。

 どうやら、見事に『内定レタス(絶対承認種)』への品種改良が成功したらしい。

「す、すげぇ……カレンちゃん、あんたホンマに畑の女神様じゃ! これなら、収穫どころか、おっさんたちのメンタルケアまで完璧じゃないか!」

「ふふ、良かったです。これも村役場の事務員の、大切な仕事ですから」

 私はホッと胸を撫で下ろした。

 この『内定レタス』、食べればシャキシャキとした極上の歯ごたえと共に、一日中自己肯定感がマックスになるという素晴らしい副次効果までついているらしい。これなら、帝国や他国のお偉いさんたちにも、高級メンタルケア食材として高く売れるはずだ。財務のニャングルさんが泣いて喜ぶだろう。

「さあ、皆さん! 気力が充実している今のうちに、一気に収穫を終わらせちゃいましょう! 日が暮れる前に終わらせれば、みんなで定時退社です!」

「おおおおーっ!! カレン先生に続けーっ!!」

 完全にモチベーションが振り切れたおじさん農家たちは、かつてない猛スピードで収穫作業を開始した。

 精神攻撃を克服した彼らの農作業スキルは高く、あれだけ広大だった畑のレタスが、あっという間に木箱へと詰め込まれていく。

 私も書類のチェックと収穫数のカウントを高速で行い、無事に夕方の五時前にはすべての作業を完了させることができた。

     * * *

「いやー、信じられないわ! あの凶悪な『折れたス』が、こんなにキラキラ輝く『内定レタス』になっちゃうなんて!」

「ホンマやで! これ、ルナミス帝国の貴族や、王都で疲れてる商人たちに売り捌いたら、飛ぶように売れるで! カレンちゃん、あんたホンマに金の卵や!」

 村役場に戻って報告書を提出すると、キャルル村長とニャングルさんが大興奮で私を褒めちぎってくれた。

 役場のデスクの上には、源蔵さんからお礼として貰った、採れたての『内定レタス』が山積みになっている。触れるたびに「君は素晴らしい!」と褒めてくれるので、役場内の空気も非常にポジティブだ。

「これだけ立派な特産品が収穫できたんだし、今日はみんなでパーッと打ち上げしようよ!」

「ええな! もちろん場所は『ポポロ亭』や。ジークはんに、この内定レタスで最高の料理を作ってもらお!」

 キャルル村長の提案に、私は嬉しくなって大きく頷いた。

 トラブルを無事に解決して、定時に仕事を終え、仲間と一緒に美味しいご飯を食べに行く。

 前世では夢のまた夢だった、完璧な金曜日の過ごし方だ。

「はい! ジークさんのご飯、すごく楽しみです!」

 私たちは山盛りの『内定レタス』を抱え、夕暮れの鐘が鳴り響くポポロ村の通りを、笑顔で連れ立って歩き出した。

 あの強面のイケメンシェフが、この自己肯定感マックスのレタスをどう料理してくれるのか。

 胃袋の底が、期待でキュウッと鳴った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

カレンの【概念錬金】により、最悪のトラウマ野菜『折れたス』が、自己肯定感マックスの『内定レタス』へと見事に生まれ変わりました!

おじさん農家たちの大復活劇、いかがでしたでしょうか。

次回は第7話!

収穫した『内定レタス』を持って、ジークの待つポポロ亭へ! 極上のサラダと肉料理、そしてジークが内に秘める「元・最強冒険者」としての氷の片鱗が顔を覗かせます!

「内定レタス食べてみたい!」「おじさんたち元気になってよかった!」「ジークのご飯が待ち遠しい!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆を★★★★★】にして応援していただけると、カレンの自己肯定感(と作者の執筆速度)が限界突破します!

皆様の温かい応援、何卒よろしくお願いいたします!

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