↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『限界社畜の異世界ホワイト転職〜『概念錬金』で村役場を無双していたら、元最強冒険者の料理人に胃袋を完全制圧されました〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/23

元社畜OLの事務無双と、『概念錬金』が生み出すほかほか肉まん

元社畜OLの事務無双と、『概念錬金』が生み出すほかほか肉まん

 ポポロ村役場での勤務初日。

 私は案内された自分のデスクを前に、静かに腕をまくった。

「カレンちゃん、初日からごめんね。ここ最近、村の特産品の出荷量が増えすぎて、書類が山積みになっちゃってて……」

「ワテも計算は得意なんやけど、各方面からの請求書と納品書がごちゃ混ぜで、ホンマに猫の手も借りたい状況なんや。よろしく頼むで、カレンちゃん」

 申し訳なさそうに眉を下げるキャルル村長と、隣のデスクから声をかけてきた猫耳の獣人、ニャングルさん。彼はこの村の財務を担当しているゴルド商会からの出向社員らしい。コテコテの関西弁と、口にくわえた煙管が特徴的だ。

 二人のデスクの上には、羊皮紙や紙の束が、ジェンガのように危ういバランスでうず高く積み上げられていた。

 月見大根の出荷数、太陽芋の在庫管理、タローマン(ホームセンター)からの農具の仕入れ伝票、他国との取引記録……。確かにカオスな状況だが、私の目から見れば、これは「ただの未整理データ」に過ぎない。

「状況は把握しました。お任せください」

 私は前世のブラック商社で培った『社畜の呼吸』を整え、書類の山へと向かい合った。

 まずは伝票を日付順と項目別に高速で仕分けする。同時に、頭の中に巨大なエクセルシートを展開し、売上と経費の数字を叩き込んでいく。

 ペラペラペラッ! と目にも留まらぬ速さで書類をめくり、間違いがないかクロスチェック。計算が必要なものは、横に置かれた算盤(ニャングルさんの予備)を弾いて一瞬で弾き出す。パチパチパチパチッ! と、静かな役場内に私の弾く算盤の音だけが小気味よく響き渡った。

「えっ……ちょ、ちょっと待ってカレンちゃん!? 目が追いつかないんだけど!」

「なんやあのスピード!? 書類が吸い込まれるように整理されていくで……! 嘘やろ、先月分の帳簿のズレ、もう見つけよったんか!?」

 背後で二人が驚愕の声を上げているが、ゾーンに入った私に隙はない。

 かつて、上司から「明日の朝までにこの三年分のデータまとめておけ」と無茶ぶりされ、徹夜でエクセルと格闘した日々に比べれば、この程度の量、手計算でもお茶の子さいさいだ。

 パチッ、と最後の伝票に処理済みのハンコを押し終え、私はふぅと息を吐いた。

「終わりました。キャルル村長、ニャングルさん。仕分け済みの書類と、今月分の収支決算書です」

「お、終わった……? この山が、たった半日で……?」

「カレンちゃん、あんたバケモンや! ワテらなら一週間はかかる量を……! 凄すぎるで、カレンちゃんは財務の神様や!」

 ニャングルさんが感極まったように私の手を握りしめ、キャルル村長が「ありがとうカレンちゃん!」と背後から抱きついてきた。

 誰かに自分の仕事を、こんなに手放しで褒められ、感謝されたのはいつ以来だろうか。胸の奥がじんわりと温かくなる。

 そして、ふと壁の時計を見ると、針はちょうど夕方の五時を指していた。

 カーン、コーン、と村中に終業を知らせるのどかな鐘の音が響き渡る。

「はい、五時! カレンちゃん、今日は初日だしもう上がっていいよ! 本当に助かったー!」

「え……? あ、あの、明日の分の準備とか、残業しなくていいんですか……?」

「何言ってんの。仕事は終わったんだから帰る! それがポポロ村のルールだよ。しっかり休んで、美味しいもの食べてね!」

 外を見ると、まだ空は明るいオレンジ色に染まっている。

 太陽が出ているうちに、仕事が終わって、家に帰れる。

 あまりの感動に、私は役場を出た後、夕日に向かってひっそりと拝んでしまった。ありがとう、ルチアナ様。私はこの異世界で、定時退社という名の最高の幸せを手に入れました。

 足取りも軽く、私はジークさんのいる『ポポロ亭』へと向かって歩き出した。

 家賃を引かれても、手元には十分な前渡しのお給料がある。今日こそはちゃんとお金を払って、ジークさんの美味しいご飯を食べるんだ。

 ルンルン気分で大通りを歩いていると、見慣れた青と白のストライプの看板が目に入った。『タローソン』……どう見ても前世のコンビニエンスストアだ。初代皇帝の佐藤太郎という人が広めたらしい。

「うぅ……っ、うーっ!」

「ヴゥゥゥッ……!」

 そのタローソンの裏路地から、唸り声と悲鳴のような声が聞こえてきた。

 驚いて覗き込むと、そこには異様な光景が広がっていた。

「返しなさいよっ! それは、私が先に見つけた廃棄弁当ですわーっ!」

 美しい水色の長い髪を持った、とびきり可愛い女の子。……なのだが、服装は絶妙にダサい芋ジャージで、足元は健康サンダル。その子が、体長一メートルはありそうな野良犬と、一つのビニール袋(廃棄弁当のシールが貼ってある)を巡って、本気の引っ張り合いの死闘を演じていたのだ。

「グルァッ!」

「ああっ!? 私の、私の唐揚げ弁当がぁぁぁっ!」

 野良犬が思い切り首を振った瞬間、ビニール袋が破け、中から冷え切った唐揚げ弁当が地面に転がり落ちてしまった。

 中身が散乱したのを見た野良犬は、興味を失ったのか、そのままスタコラと逃げていってしまった。

「あぁ……ああぁぁ……。今日の、私の、唯一のご馳走が……」

 ジャージの女の子は、地面に散らばった冷たいご飯と唐揚げを見て、膝から崩れ落ち、ボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。

 あまりにも不憫すぎる光景に、私は思わず駆け寄っていた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「えっ……? あ、見ないでくださいまし! アイドルたるもの、こんな無様な姿……っ、ぐぅぅぅ~」

 強がろうとした彼女のお腹が、悲しすぎる音を奏でた。

 彼女は顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってしまった。

 私は地面に落ちたお弁当を見た。土まみれで、冷え切っていて、もう食べられる状態ではない。

 ふと、私の頭にルチアナ様の言葉が蘇った。

『ボーナスとしてユニークスキルを一つあげる。その名も【錬金術ラボ】。物質だけじゃなくて「概念」も混ぜ合わせられる、ちょっとしたチート能力よ』

 ……やってみる価値は、あるかもしれない。

 私は目を閉じ、自分の中に与えられたそのスキルの使い方を直感で探り当てた。

 目を開けると、私の目の前にだけ、半透明の不思議なウインドウが浮かび上がっていた。

『錬金術ラボ:素材をセットしてください』

 私は地面に散らばった【土まみれの廃棄弁当】を、素材Aの枠に指定した。

 続いて、素材B。概念を混ぜ合わせられるのなら……。

 私は空中に手をかざし、見えない何かを掴むような動作をした。

 イメージするのは、ほかほかの湯気。かじりついた時のふかふかの食感。寒い日にコンビニのレジ横で輝いている、あの温かい食べ物の『概念』。

「素材B、【ほかほかの温もりと、ふかふかの概念】をセット。……錬金、開始!」

 ピカーッ! と、私の両手から眩い光が放たれた。

 光が収まると、地面にあったはずの泥まみれの弁当は跡形もなく消え去り……代わりに私の両手には、湯気をモウモウと立てる、真っ白でふかふかの特大『肉まん』が乗せられていた。

「……えっ?」

 ジャージの女の子が、涙で濡れた目を丸くしている。

 大成功だ。私はそのほかほかの肉まんを半分に割り、熱々の肉汁が溢れる半分を、彼女に向かって差し出した。

「はい、これ。熱いから気をつけて食べてね」

「い、いいんですの!? 私は施しは受けない主義の、孤高のアイドルで……っ!」

「いいからいいから。お腹空いてるんでしょ?」

 湯気と肉の暴力的な匂いに抗えなかったのか、彼女は震える手で肉まんを受け取ると、大きな口を開けてガブリとかじりついた。

「――っ!!??」

 ハフッ、ホフッ、と咀嚼した瞬間、彼女の瞳孔がカッと見開き、再びボロボロと涙が溢れ出した。

「お、おいひい……っ! なんですのこれ、温かくて、お肉の味が口いっぱいに広がって……私、ずっとパンの耳と雑草しか食べてこなかったのに……っ、こんな美味しいもの……!」

「よかった。私はカレン。あなたは?」

「リ、リーザですわ! リーザ・シーラン・リヴァイアサン……! 海中国家の親善大使で、アイドルをやってますの!」

 人魚姫で、親善大使で、アイドル? なのにパンの耳生活で野良犬と弁当を争っていた……?

 色々とツッコミどころが多すぎる設定に眩暈がしそうになったが、リーザちゃんは肉まんを最後の一口まで大事そうに飲み込むと、私の手をごしっと両手で握りしめた。

「カレンお姉様ぁぁっ!!」

「お、お姉様!?」

「この御恩は一生忘れませんわ! 私、今日からカレンお姉様に一生ついていきますぅぅぅ!!」

 すがりついて大泣きする美少女アイドル(ジャージ姿)を撫でながら、私は苦笑した。

 とんでもないチートスキルを手に入れてしまったかもしれない。

 でも、この能力で誰かのお腹を満たしてあげられるなら、悪くない。

「さて、リーザちゃんも一緒にご飯食べに行く? 今度は私のおごりで」

 太陽が沈みかけたポポロ村の空の下、私はリーザちゃんの手を引いて、ジークさんの待つ『ポポロ亭』へと向かって歩き出した。

 異世界生活一日目。最高に疲れたけれど、前世の何百倍も充実した、幸せな疲れだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

カレンの「事務無双」による定時退社、そしてチートスキル【概念錬金ラボ】の初使用でした!

廃棄弁当と概念を混ぜて「ほかほかの絶品肉まん」を作り出し、無事に腹ペコ人魚姫・リーザの胃袋(と忠誠)をゲットしました。

次回からは、いよいよポポロ亭でのジークとの甘い(?)お食事タイムや、役場に持ち込まれるトンデモトラブルの解決が始まります!

「事務無双スカッとした!」「ほかほか肉まん美味しそう!」「リーザちゃん可愛い!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆を★★★★★】にして応援していただけると、カレンの定時退社率がさらにアップします!

皆様の温かい応援が本当に励みになります。何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。