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『限界社畜の異世界ホワイト転職〜『概念錬金』で村役場を無双していたら、元最強冒険者の料理人に胃袋を完全制圧されました〜』  作者: 月神世一


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お疲れ様会と、無防備な寝顔〜氷魔剣士が誓う、世界で一番甘くて重い覚悟〜

お疲れ様会と、無防備な寝顔〜氷魔剣士が誓う、世界で一番甘くて重い覚悟〜

「――それじゃあ、村の平和と、カレンちゃんとジークさんの最強コンビに……乾杯!」

「「「乾杯ーっ!!」」」

 カチンッ、と木製のジョッキが重なり合う小気味よい音が、夜の『ポポロ亭』に響き渡った。

 巨大な鋼鉄の魔獣『死甲虫機ネクロビートル』の討伐から数時間後。

 無事に村への被害をゼロに抑え込んだ私たちは、夜のポポロ亭を貸し切りにして、ささやかなお疲れ様会を開いていた。

 テーブルの上には、昼間のピクニックで余った絶品サンドイッチの他に、ジークさんが新しく作ってくれた『太陽芋とシープピッグの濃厚シチュー』や、『ピラダイ(白身魚)のハーブフリット』が所狭しと並べられている。

「いやー、ホンマに肝が冷えたで! あんな神蟲魔大戦のバケモンが森から出てくるなんて。でも、カレンちゃんの錬金術とジークはんの一太刀、アレは歴史に残る名勝負やったわ!」

「うんうん! まさかあの絶対装甲をガラスに変えちゃうなんて、カレンちゃんの発想力は本当に天才だよ!」

「お姉様とジーク様、まるで絵本に出てくる英雄と女神様みたいでしたわ! 私、感動して新しい曲のインスピレーションが湧きそうですの!」

 ニャングルさん、キャルル村長、リーザちゃんの三人が、興奮冷めやらぬ様子でシチューを頬張りながら私たちを褒めちぎる。

 私は照れくさくて、えへへと笑いながら陽薬草茶の入ったジョッキに口をつけた。

「私はただ、ジークさんが斬りやすいようにサポートしただけですから。魔獣を倒したのは、ジークさんの力です」

「……お前なぁ。何度も言うが、あの装甲のままじゃ俺でも手を焼いた。お前の錬金術があったからこその一撃だ。胸を張れ」

 カウンターの中でフリットを揚げていたジークさんが、呆れたように言いながら、揚げたての大皿をテーブルに置いてくれた。

 サクッとした衣の中から、ふっくらとした白身魚の旨味が溢れ出す。美味しい。戦いの後の疲れた身体に、塩気とハーブの香りがたまらなく染み渡る。

「むにゃ……もう、お腹いっぱいですわ……」

「おや、リーザちゃん、完全に夢の中やな」

 ふと見ると、リーザちゃんがシチューの皿を空にしたまま、テーブルに突っ伏してスヤスヤと寝息を立て始めていた。

 普段はパンの耳で生活している彼女にとって、今日のピクニックからのご馳走コンボは、胃袋のキャパシティを限界突破させてしまったらしい。

「あはは、リーザちゃん限界みたいだね。私も、今日はいっぱい動いて眠くなってきちゃった。……カレンちゃん、今日は本当にありがとう。リーザちゃんは私が寮まで送っていくよ」

「ワテも明日は、あの魔獣の残骸をどうやって金に換えるか計算せなあかんからな。今日はこの辺でお開きにさせてもらうわ。ジークはん、今日も美味いメシをオオキニやで」

 キャルル村長がリーザちゃんをひょいと背負い、ニャングルさんが満足げに煙管をふかしながら立ち上がる。

「はい、お疲れ様でした。気をつけて帰ってくださいね」

「おう。おやすみな、カレン」

 バタン、と扉が閉まり、賑やかだった店内がふっと静かになった。

 残されたのは、私と、カウンターの中で片付けをしているジークさんだけだ。

 店内に満ちるシチューの温かい匂いと、微かに聞こえる食器を洗う水の音。この静かな空間が、私はとても好きだった。

「さてと。私もテーブルの片付け、手伝いますね」

 私が立ち上がって空いたお皿を重ねようとすると、ジークさんがスッと手を差し出してそれを制止した。

「いい。お前は座ってろ。……今日は大分、無茶な魔力の使い方をしたはずだ。気張ってた糸が切れて、そろそろ反動が来る頃だろ」

「えっ?」

 言われて、ハッとした。

 確かに、巨大な魔獣の『絶対装甲』という強大な概念を書き換えるのは、私の【概念錬金】にとってもかつてないほどの大仕事だった。

 アドレナリンが出ていたから気づかなかったけれど、ジークさんに指摘された途端、全身に鉛のような疲労感がどっと押し寄せてきた。

 瞼が、重い。気を抜けば、今すぐにでも意識が飛んでしまいそうだ。

「……ばれてましたか。ふふっ、さすがジークさんですね」

「強がるな。ほら、これでも飲んで一息つけ」

 ジークさんが私の前にコトッと置いたのは、可愛らしいマグカップに入った温かい飲み物だった。

 ほんのりと黄色みがかったミルクからは、かぼちゃの甘い香りが漂っている。

「これは?」

「『ハニーかぼちゃのホットミルク』だ。少しだけ、疲労回復の陽薬草をブレンドしてある。甘くて眠くなるから、飲んだら大人しく帰って寝ろ」

 私は両手でマグカップを包み込み、ゆっくりと口をつけた。

「――んんっ……」

 温かくて、ひどく優しい甘さだった。

 ハニーかぼちゃの濃厚な甘みがミルクと溶け合い、冷え切った心を芯から解きほぐしていく。陽薬草の微かな香りが、胸の奥のモヤモヤまで洗い流してくれるようだ。

 美味しい。すごく、ホッとする。

 前世では、死ぬ思いで大きなプロジェクトを終わらせても、誰も温かい飲み物なんて出してくれなかった。上司からは「次もこのペースで頼むぞ」と次の仕事を積まれるだけ。

 でも今は、私が少し無理をしただけで、それを察して温かいミルクを作って待っててくれる人がいる。

「ジークさん……」

「ん?」

「私、この村に来て、本当に良かったです。……毎日が楽しくて、ご飯が美味しくて。今日の戦いも、怖かったけど……ジークさんが隣にいてくれたから、全然、平気でした……」

 温かいミルクのせいか、それとも極度の疲労のせいか。

 ポツリポツリと、無防備な本音がこぼれ落ちる。

「……そうかよ」

「うん……ジークさんの、ご飯、毎日……食べたい、な……」

 コクン、と。

 私の頭が大きく揺れ、限界を迎えた瞼がゆっくりと閉じられた。

 マグカップから手を離し、私はそのままカウンターに伏せるようにして、深い深い眠りの底へと落ちていった。

 ――ジーク視点――

「……おい、カレン?」

 ジークが声をかけるが、カウンターに突っ伏したカレンからは、スゥ、スゥ、と規則正しい寝息が返ってくるだけだった。

 完全に熟睡している。

「たくっ……こんな無防備に寝こけやがって」

 ジークは呆れたように短く息を吐くと、洗い物を置いてカレンのそばへと歩み寄った。

 カウンターに顔を伏せ、安心しきった様子で眠る小さな背中。

 昼間、あんな恐ろしい魔獣の前に立ちはだかり、神をも恐れぬ概念錬金術を行使した女と同一人物だとは、到底思えないほどに脆く、無防備な寝顔だった。

(……本当に、危なっかしい女だ)

 ジークは、カレンの頬にかかった柔らかな髪を、壊れ物にでも触れるかのように、そっと大きな指先で払いのけた。

 氷魔剣士として、数え切れないほどの命を奪い、血の海を渡ってきた。

 俺の力は、何かを凍らせ、破壊するためのものだと思っていた。

 だからこそ、血の匂いを消すために料理人になった。

 だが、この女は違った。

 俺の作った飯を食べて、子供のように泣いて喜んだかと思えば、俺の背中を守るために、震える足で最強の魔獣の前に立ちはだかる。

 『ジークさんが隣にいてくれたから、平気でした』

 そんなことを、一点の曇りもない笑顔で言いやがるのだ。

(……俺の冷え切った芯を溶かしたのは、お前が初めてだぞ、カレン)

 ジークの胸の奥で、決して溶けることのなかった万年氷が、音を立てて崩れ去り、代わりにドロドロに熱く煮えたぎる『情』と『執着』が溢れ出していくのを感じた。

 ――ジークさんのご飯、毎日食べたいな。

 眠りに落ちる直前の、カレンの無自覚な呟き。

 それは、ジークという男の心臓を、もっとも確実な方法で貫く致命傷だった。

「……言ったな? カレン」

 ジークは、眠るカレンの耳元に身をかがめ、誰にも聞こえないほどの低い声で、けれど魂に刻み込むような重い声で囁いた。

「毎日でも、一生でも食わせてやる。お前の胃袋も、その無防備な寝顔も、明日からの平和な日常も……全部、俺が囲って、守り抜いてやる」

 たとえ、帝国の権力者が相手だろうと。

 神蟲魔大戦の遺物が群れを成して襲ってこようと。

 神様とやらが、この平穏を奪おうとちょっかいをかけてこようと。

 俺の『相棒おんな』の定時退社と、温かいメシの時間を邪魔する奴は、世界を敵に回してでも全員氷漬けにして砕いてやる。

「もう、前の世界にも、他の奴のところにも……絶対に帰してやらねぇからな」

 それは、元最強の冒険者である男が、一人の女性に対して抱いた、世界で一番甘くて、そして恐ろしいほどに重い『覚悟』の誓いだった。

「むにゃ……ジークさんの……おでん、美味しい……えへへ」

 そんなジークの激重な決意など知る由もなく。

 カレンは夢の中で美味しいものを食べているのか、だらしない笑顔を浮かべて幸せそうに寝言を漏らした。

「……ははっ。お前には敵わねぇな」

 ジークは毒気を抜かれたように小さく吹き出すと、奥から自分の大きな上着を持ってきて、カレンの華奢な肩にそっと掛けた。

 そして、彼女が目覚めるまで、その温かな寝息のそばで、静かにグラスを磨き続けるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第14話は、激闘の夜のお疲れ様会と、カレンの無防備な寝顔、そしてジーク視点での「激重な決意(プロポーズ級の覚悟)」のお話でした!

「俺の相棒おんなの定時退社を邪魔する奴は、世界を敵に回しても氷漬けにする」という、B型過保護ヒーローの真骨頂です。カレンは夢の中でご飯を食べていて全く気づいていませんが(笑)。

次回は第15話! いよいよ第一章の最終回です。

カレンが迎える爽やかな朝。さよならブラック企業、ここが私の最高の居場所(異世界)! という大団円をお届けします!

「ジークさん重い!最高!」「カレンちゃん寝顔可愛い!」「ホットミルク飲みたい!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆を★★★★★】にして応援していただけると、ジークの愛がさらに重くなります!

第一章完結まで、皆様の温かい応援、何卒よろしくお願いいたします!

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