【概念錬金】×【氷魔剣】の最強コンビ〜私の平穏を邪魔する害虫は、砕いて凍らせて定時退社!〜
【概念錬金】×【氷魔剣】の最強コンビ〜私の平穏を邪魔する害虫は、砕いて凍らせて定時退社!〜
『ギジュゥゥゥゥッ……!!』
耳を劈くような不快な金属音を響かせ、鋼鉄の魔獣『死甲虫機』が突進してきた。
大地を削り取りながら迫る巨大な質量。
だが、その圧倒的な暴力が私たちに届くより早く、ジークさんが地を蹴った。
「――遅ぇよ」
ヒュンッ! と空気を切り裂く音と共に、ジークさんの姿がブレた。
元S級冒険者、氷魔剣士。その異名に違わぬ、瞬きすら置き去りにする神速の踏み込み。
彼の手にある青白い氷の長剣が、絶対零度の冷気を纏いながら、魔獣の黒光りする甲殻へと叩き込まれた。
ガキィィィィンッ!!
「……チッ」
火花が散り、激しい金属の衝突音が丘に鳴り響く。
ジークさんは小さく舌打ちをして、軽やかに後方へと跳躍し、魔獣の反撃の薙ぎ払いを躱した。
「嘘……! ジークさんの剣が、弾かれた!?」
私は目を見開いた。
これまで、どんな無法者も、どんなトラブルも一瞬で制圧してきた彼の攻撃が、完全に防がれたのだ。
魔獣の装甲には、薄っすらと白い霜が降りただけで、傷一つついていない。
「カレンちゃん、あれはただの硬い甲殻じゃない! 神蟲魔大戦時代の『対魔導合金』だ!」
キャルル村長が、リーザちゃんを背中で庇いながら叫んだ。
「魔法も物理攻撃も、装甲の表面で威力を極限まで減衰されちゃうんだ! まともに斬り伏せるには、山を一つ吹き飛ばすくらいの大火力の魔法をぶつけるしかない!」
「山を一つ吹き飛ばす……!?」
私はハッとして、ジークさんの背中を見た。
ジークさんの魔力と剣技なら、もしかしたらそれほどの大技を放つことは可能かもしれない。
だが、ここはポポロ村のすぐ近くの丘だ。背後には私たちや村があり、彼が本気で大火力の範囲魔法をぶっ放せば、私たちも、村の平和な日常も巻き添えになってしまう。
(……だから、ジークさんはピンポイントの斬撃で、急所を狙い続けてるんだ)
『ギギギギギギッ!』
魔獣が忌々しそうに鳴き声を上げ、巨大な顎から紫色の強酸の唾液を周囲に撒き散らした。
ジークさんが瞬時に氷の壁を生成してそれを防ぐが、分厚い氷がジュウジュウと音を立てて溶かされていく。
「下がってろ、カレン!」
ジークさんは私たちを背中で庇いながら、再び魔獣へと肉薄する。
彼は強い。絶対に負けない。でも、私たちを守りながら、あの硬い装甲をチマチマと削る戦いを強いられれば、いつか彼自身が傷ついてしまうかもしれない。
――そんなの、絶対に嫌だ。
私に美味しいご飯を作ってくれて、私の居場所を守ってくれる、優しくて不器用な人。
彼が私の平穏を守ってくれるのなら、私も、私の持てるすべての力で彼を助けたい。
守られるだけの、か弱いお姫様でいるつもりはない。前世で理不尽な上司やクレームの矢面に立ち続けた元社畜を、舐めないでいただきたい。
「……私の定時退社と、最高のご飯の時間を邪魔する害虫は、さっさと駆除するに限るわね」
私は震える足を叱咤し、ジークさんの背中へ向かって一歩踏み出した。
「カレンお姉様!? 駄目ですわ、危ない!」
「カレンちゃん!?」
リーザちゃんとキャルル村長の制止の声も聞かず、私は空中に右手をかざした。
網膜に浮かび上がる、見慣れた半透明のウインドウ。
『錬金術ラボ』の起動だ。
「素材A……対象は、目の前の死甲虫機の『絶対装甲の概念』!」
ウインドウの左側に、真っ黒で頑強な鉄のアイコンがセットされた。
次にぶつけるべき素材Bの概念。
あんなふざけた硬さの装甲なんて、紙っぺらみたいに脆くしてやればいい。一番脆くて、少しの衝撃で粉々に砕け散る概念。
(前世で、アスファルトの上に落としてしまった時の、スマホの液晶画面……はファンタジー世界にはないから)
「素材B……【薄張りのガラス細工の圧倒的脆さの概念】!!」
右側に、薄く透明なガラスのアイコンがセットされた。
対象と概念を強制的に結びつけ、事象そのものを書き換える、神をも恐れぬチートスキル。
「いっけええええっ! 錬金、開始!!」
私の両手から、一筋の強烈な光の矢が放たれ、魔獣の巨体へと直撃した。
『ギ……?』
光に包まれた死甲虫機が、戸惑ったように動きを止める。
次の瞬間、黒光りしていた対魔導合金の装甲が、まるで透明な飴細工か、極薄のガラスのように透き通った質感へと変異した。
その表面には、何もしなくてもピキピキと無数のヒビ(クラック)が走り始めている。
「ジークさん!! その害虫の装甲を『ガラス』に書き換えました!! 今なら、斬れます!!」
私が腹の底から叫ぶと。
ジークさんは振り返りもせず、ただ最高に獰猛で、信頼に満ちた笑みを口元に浮かべた。
「……上出来だ、相棒」
ゴウッ!! と。
ジークさんの体から溢れ出す魔力が、先ほどまでとは桁違いに膨れ上がった。
手に握られた氷の長剣が、眩いばかりの青白い輝きを放ち、周囲の空気そのものを凍てつかせる。
もう、力をセーブする必要はない。装甲を割るだけの、一閃の剣速さえあればいいのだから。
「――氷魔秘剣・絶零の太刀」
静かな、けれど絶対的な死を宣告する声。
ジークさんが地を蹴った。
瞬きよりも早い神速の踏み込み。青白い一筋の閃光が、透き通った魔獣の巨体を真っ二つに駆け抜けた。
パキィィィィィィィィィィィィンッ!!!!
それは、恐ろしい魔獣の死の音ではなく、まるで最高級のクリスタルガラスが砕け散るような、ひどく美しく、澄んだ音だった。
私の概念錬金によって『薄張りのガラス』と同等の脆さに書き換えられた鋼鉄の装甲は、ジークさんの氷魔剣の衝撃に耐えきれず、完全に粉砕されたのだ。
『ギ、ギュゥゥ……』
断末魔の声を上げる間もなく。
真っ二つに斬り裂かれた死甲虫機の巨体は、断面から発生した絶対零度の冷気によって内部の強酸ごと瞬時に凍結され、巨大な氷の彫像となって丘の上に崩れ落ちた。
「……ふぅ」
ジークさんが短く息を吐き、手にしていた氷の剣を空中に霧散させる。
「お、終わった……?」
「ホンマに、一刀両断やったで……」
リーザちゃんとニャングルさんが、へたり込んで安堵の声を漏らした。
私も、張り詰めていた緊張の糸が切れ、膝の力が抜けてペタンと草の上に座り込んでしまった。
「お疲れ、カレン」
顔を上げると、ジークさんが私の前に立ち、大きな手を差し出していた。
その表情は、普段の少しぶっきらぼうな料理人のものに戻っている。
「ジ、ジークさん……怪我は、ありませんか?」
「俺がこの程度の虫けらに遅れを取るかよ。……だが、お前がいなけりゃ、村や丘に被害を出さずに倒すのは難しかった」
ジークさんは私の手を取り、グイッと優しく引き上げてくれた。
そして、私の頭にポンと大きな手を置き、少しだけ照れくさそうに目を逸らした。
「……最高のサポートだったぜ、カレン。俺とお前のコンビなら、どんな害虫だろうと敵じゃねぇな」
「……っ!」
相棒、という言葉。
ただ守られるだけの存在ではなく、彼の隣に立ち、共に戦い、背中を任せられる存在になれたこと。
それが何よりも嬉しくて、私の胸の奥がキュゥッと熱く締め付けられた。
「はいっ! 私の錬金術とジークさんの剣があれば、ポポロ村の平和は無敵です!」
私が満面の笑みで答えると、ジークさんは少しだけ目を見張り……やがて観念したように短く笑って、私の頭を乱暴に撫で回した。
「ちょっ、ジークさん! 髪がボサボサになっちゃいます!」
「いいんだよ、お前はそれくらいで。……ほら、レジャーシートに戻るぞ。カツサンドがまだ残ってんだろ」
「あ、そうでした! 私、まだ一口しか食べてなかったんです!」
先ほどまでの死闘が嘘だったかのように、私たちは笑い合いながら、皆が待つピクニックシートへと戻っていった。
巨大な氷の彫像と化した魔獣は、後でキャルル村長と自警団の人たちに片付けてもらうとして。
最高の休日の、最高のご飯の時間は、まだ終わらない。
私の大切な日常は、私の力と、愛する人の力で、無事に守り抜かれたのだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第13話は、カレンの【概念錬金】とジークの【氷魔剣】が融合する、最高のコンビネーションバトル回でした!
ただ守られるだけではなく、機転と前世の記憶(スマホの画面の脆さなど)を駆使して「相棒」としてジークをサポートするカレン。ジークからの「相棒」認定と頭ポンポン、お楽しみいただけたでしょうか。
次回は第14話!
ピクニックを終えた夜、ポポロ亭でのささやかなお疲れ様会。疲れ果ててうたた寝してしまったカレンに対し、ジークが内に秘めた「激重な覚悟」を静かに独白します。第一章の甘さの最高潮です!
「概念錬金チートすぎ!」「最強の夫婦誕生!」「ガラスの鎧は脆いよね!」と思っていただけましたら、
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皆様の温かい応援、何卒よろしくお願いいたします!




