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『限界社畜の異世界ホワイト転職〜『概念錬金』で村役場を無双していたら、元最強冒険者の料理人に胃袋を完全制圧されました〜』  作者: 月神世一


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シェフの激重な独占欲。胃袋は誰にも渡さない〜氷魔剣士の過保護な囲い込み〜

シェフの激重な独占欲。胃袋は誰にも渡さない〜氷魔剣士の過保護な囲い込み〜

 悪徳商人バルドを【概念錬金】と社畜の交渉術で完膚なきまでに叩き潰してから、数日が経った。

 あの一件以来、バルド商会との取引は村にとって莫大な利益をもたらし、ニャングルさんは毎日ホクホク顔で算盤を弾いている。役場の業務もすっかり軌道に乗り、私の「毎日定時退社」という鋼のルーティンは完璧に守られていた。

 その日の夕方。

 定時の鐘と共に役場を出た私は、いつものように吸い寄せられるように『ポポロ亭』へと足を運んでいた。

「いらっしゃい。今日もきっちり定時だな、カレン」

「はい! お腹ペコペコです。今日のオススメは何ですか?」

「今日は少し肌寒いからな。『マサカ茸と太陽芋の濃厚チーズグラタン』だ。熱いから気をつけろよ」

 カウンターに座ると、すぐさま目の前にぐつぐつと煮え立つ熱々のグラタン皿が置かれた。

 表面にはこんがりと焦げ目のついたチーズがたっぷりと乗っており、スプーンを入れると、中からホクホクの太陽芋と、芳醇な香りを発するマサカ茸がとろりとしたホワイトソースに絡まって顔を出す。

「いただきます……っ、はふ、ほふっ!」

 口に入れた瞬間、濃厚なチーズの塩気と太陽芋の優しい甘みが絶妙なハーモニーを奏でた。さらにマサカ茸の深い旨味が後を追いかけてきて、一日の疲れが文字通り溶けていくようだ。

 マサカ茸を食べたせいか、「まさか……このグラタン、世界で一番美味しいのでは!?」という謎の推理力(確信)まで湧いてくる。

「ふふっ、美味しい……毎日こんなに美味しいご飯が食べられるなんて、本当に幸せです」

「……そうか。なら、しっかり食え」

 ジークさんはグラスを磨きながら、私の食べる姿を見てフッと満足げに口角を上げた。その眼差しは、猛獣が自分のテリトリーでくつろぐ小動物を見守るような、不思議な温かさと独占欲に満ちていた。

 平和な夕食の時間。

 しかし、その静寂は、またしても空気の読めない闖入者によって破られた。

「カレン様ですね。お噂はかねがね伺っておりますぞ」

 カラン、とドアベルが鳴り、一人の洗練された身なりの男が店に入ってきた。

 バルドのような下品な商人ではない。仕立ての良いスーツに身を包み、銀縁の眼鏡をかけた、いかにもルナミス帝国のエリートといった風貌の男だ。

「えっと……どちら様ですか?」

「申し遅れました。私は帝都の大手人材ギルド(ヘッドハンター)の者で、ゴーダンと申します」

 男はうやうやしく一礼すると、私の隣の席に座り、一枚の分厚い羊皮紙をカウンターに置いた。

「あの悪名高いバルド会頭を、法と交渉術だけでねじ伏せた『ポポロ村の悪魔の事務員』……貴女の有能さは、すでに帝都の特権階級の間でも噂になっております。本日は、貴女を我がギルドの最重要VIPとして、帝都の要職へスカウトに参りました」

「スカウト……ですか?」

「ええ。現在、帝国内務省の幹部ポストが一つ空いておりましてね。貴女の事務処理能力と法務知識があれば、即戦力として迎え入れられる。年俸は、破格の『金貨千枚(約一千万円)』をお約束しましょう。さらに、王都の一等地にある高級マンションもご用意いたします」

 金貨千枚。

 それは、この村の一般的な農家の年収の数倍に当たる、文字通りの大金だった。

 ゴーダンは自信満々な笑みを浮かべ、さらに言葉を続ける。

「こんな田舎村の、泥臭い役場でくすぶっているような器ではないでしょう? 食事も、このようなむさ苦しい大衆食堂の安っぽい料理ではなく、帝都の超一流シェフが作るフルコースを毎日味わえる身分になれるのですよ。さあ、今すぐこの契約書にサインを――」

「お断りします」

 私は、グラタンを食べる手を止めることすらなく、即答した。

「……なっ? 今、なんと?」

「ですから、お断りしますと言ったんです」

 私はスプーンを置き、ゴーダンへと向き直った。

 金貨千枚は確かに魅力的だ。帝都での華やかな暮らしも、前世の社畜時代なら飛びついていたかもしれない。

 だが、今の私には分かる。高い給料や地位の裏には、必ず「それに見合った激務と責任(残業)」が存在するということを。帝都の要職なんて、どう考えても深夜まで書類の山と貴族の派閥争いに忙殺されるブラック労働の温床だ。

 それに、何より。

「私は、この村での生活が気に入っているんです。定時に帰れて、大好きな仲間がいて……そして、このお店のグラタンよりも美味しい料理なんて、帝都のどこを探しても絶対にありませんから」

 私がきっぱりとそう宣言すると、ゴーダンは眉をひそめ、不快そうに鼻を鳴らした。

「正気ですか? たかが田舎の食堂の飯のために、金貨千枚と帝都での栄華を捨てるというのですか! ええい、いいから黙ってサインをしろ! これは帝都の有力貴族からの強い要望なのだ! 貴様のような平民が逆らえると――」

 ゴーダンが無理やり契約書を私に押し付けようと腕を伸ばした、その瞬間だった。

 ピキッ……!!

「――っ!?」

 突然、店内の空気が凍てついた。

 否、比喩ではない。ゴーダンが伸ばした腕のすぐ数ミリ先、カウンターの空間に、一瞬にして分厚い『氷の壁』が出現したのだ。

 あまりの冷気に、ゴーダンの銀縁眼鏡がパキッと音を立てて凍りつき、ヒビが入る。

「な、なんだこれは……ッ!?」

 腰を抜かして床に尻餅をついたゴーダンの頭上から、地獄の底から響くような、圧倒的な殺意と冷気を含んだ低い声が降ってきた。

「……随分と、威勢のいいスカウトだな。帝都のエリートさんよ」

 厨房からゆっくりと歩み出てきたジークさんだった。

 その瞳は、普段の面倒見のいい料理人のものではない。かつて数多の魔獣を葬り去ってきた『氷魔剣士』としての、絶対零度の吹雪を纏った捕食者の目だ。

「ひぃっ……! な、なんだ貴様は! 私は帝都の――」

「俺の店の常連客に、不味い飯を食わせようってのか? あぁ?」

 ジークさんが一歩踏み出すごとに、床にミシミシと霜が広がっていく。

 店内の温度計が急激に下がり、ゴーダンの吐く息が真っ白に染まった。

「てめぇの言う『帝都のフルコース』とやらがどれほどのモンかは知らねぇがな……カレンの胃袋は、もう俺の飯で完全に満たされてんだよ」

 ジークさんは、ゴーダンの襟首を片手で軽々と掴み上げると、その耳元で氷のように冷たく、けれど煮えたぎるような独占欲を孕んだ声で囁いた。

「こいつを帝都なんぞに連れて行って、またボロボロになるまで働かせる気か? ……ふざけるな。こいつは俺の目の届く場所で、俺の作った温かい飯だけを食って、笑っていればいいんだよ。それ以外は、俺が絶対に許さねぇ」

「ひぃぃぃぃッ!! 殺されるッ! 悪魔だ、氷の悪魔だぁぁっ!!」

 ジークさんから放たれる圧倒的な『強者の魔力プレッシャー』に当てられ、ゴーダンは完全に戦意を喪失した。

 ジークさんが手を離すと、ゴーダンは転がるようにして立ち上がり、契約書すら置き忘れたまま、悲鳴を上げてポポロ亭から逃げ出していった。

 バタンッ! と扉が閉まり、激しい足音が遠ざかっていく。

 静寂が戻った店内。

 ジークさんは深く息を吐くと、一瞬にして店内の冷気をかき消し、何事もなかったかのようにカウンターの中へと戻った。

 そして、床に落ちていたゴーダンのスカウト契約書を拾い上げると、無言で指先から冷気を放ち、書類を粉々の氷の結晶に変えて消し去ってしまった。

「あーあ。一応、帝都の公的な書類だったと思うんですけど」

「知るか。あんな不燃ゴミ、うちの店には不要だ」

 ジークさんは不機嫌そうに舌打ちをすると、厨房の奥から、とびきり大きなガラスの器を取り出してきた。

「ほら、食後のデザートだ。今日は特別にデカいぞ」

 私の目の前にドンッと置かれたのは、色鮮やかなフルーツとアイスが山盛りにされた『メロロンとハニーかぼちゃの特製メガパフェ』だった。

 甘い香りと、宝石のような見た目に、私の目は釘付けになる。

「うわぁっ……! すごい! これ、全部私が食べていいんですか!?」

「あぁ。残さず食え。……お前は、面倒なことなんて何一つ考えなくていい。帝都だの、出世だの、そんなくだらねぇストレスは全部俺が叩き潰してやる」

 ジークさんはカウンターに肘をつき、パフェに目を輝かせる私を、ひどく甘く、けれど逃げ場を一切与えないような、熱を帯びた瞳で見つめてきた。

「お前はずっと、この村で、うちの飯だけ食ってればいいんだよ。……俺がお前を、誰にも渡すわけねぇだろ」

 ドキン、と。

 私の心臓が、グラタンの熱さとは違う理由で、大きく跳ねた。

 ただの『常連客へのサービス』や『親切』という言葉では、到底説明のつかない重圧。

 私の平穏を守るためなら、帝都の権力者だろうが何だろうが容赦なく氷漬けにするという、元・最強冒険者の圧倒的な過保護さと、所有欲。

 私は、自分が想像以上に、この強くて不器用な料理人に『囲い込まれている』という事実に、今更ながら気がついてしまった。

「……はいっ。ジークさんのご飯以外、もう食べられませんから」

 でも、不思議と嫌な気はしなかった。

 むしろ、その絶対的な安心感と甘いパフェの味に、私は心の底からとろけてしまいそうだった。

 前世で誰も守ってくれなかった私を、胃袋ごと、人生ごと丸抱えにして守ろうとしてくれる。

 そんな彼の無骨な愛情表現を、私はパフェと一緒に、甘く、美味しく飲み込んだのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第11話は、カレンを引き抜こうとするエリートスカウトに対し、ジークの特大の独占欲と過保護っぷりが大爆発する回でした!

「俺の作った飯だけ食ってればいい」という、B型ヒーローの不器用だけれど絶対に逃さない囲い込み(胃袋完全制圧)、お楽しみいただけたでしょうか。

次回は第12話!

休日を利用して、ポポロ村の仲間たちとピクニックへ! しかし、平和なスローライフに、ついに凶悪な魔獣の影が忍び寄ります……!

「ジークさん過保護すぎる最高!」「胃袋がっちり掴まれてる!」「メガパフェ食べたい!」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部にある【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆を★★★★★】にして応援していただけると、ジークの愛情(料理の量)がさらにマシマシになります!

皆様の温かい応援、何卒よろしくお願いいたします!

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