元社畜OLの契約書バトルと、嘘を暴く『概念錬金』〜悪徳商人への合法的なお仕事ざまぁ〜
元社畜OLの契約書バトルと、嘘を暴く『概念錬金』〜悪徳商人への合法的なお仕事ざまぁ〜
静まり返った役場の中で、私は空中に展開した『錬金術ラボ』のウインドウに指を滑らせた。
「素材Aにセットするのは、この契約書に書かれている『インク(取り決めの概念)』」
「素材Bは……キャルル村長、少しだけお手伝いをお願いできますか?」
「えっ? 私? うん、いいよ! 何をすればいいの?」
「キャルル村長は、相手の心音から『嘘』を見抜くことができますよね。その『嘘を許さない、真実を見抜く』という概念を、少しだけ貸してください」
キャルル村長は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐに意図を察したのか、ニヤリと力強い笑みを浮かべた。
「オッケー! 任せて。私の『絶対に嘘を逃がさない』っていう意志を、思いっきり注ぎ込むよ!」
私は素材Bの枠に、キャルル村長の【嘘発見・真実看破の概念】をセットした。
さらに、前世で幾度となく経験した『不正を絶対に許さないコンプライアンス精神』という熱い怒りをスパイスとして振りかける。
「――錬金、開始!」
私の手元にある契約書が、淡い赤色の光に包まれた。
光は羊皮紙の表面を走り、そこに書かれた黒いインクの文字を一度赤く染め上げると、すぐに元の黒色へと戻っていった。見た目には、先ほどまでと何も変わらない。
「はっ! 何のまやかしだか知らんが、書類の文字は一言一句変わっていないぞ! そんな手品で私をごまかせると思うなよ!」
「ええ。文字は書き換えていません。ただ、この契約書を『嘘をつくたびに、インクが真実の熱を帯びて燃え上がる』ように仕様変更させていただきました」
「……はぁ? 燃え上がるだと? 馬鹿馬鹿しい!」
バルドは私の手から契約書をひったくり、乱暴に鼻で笑った。
「いいか小娘、この契約書は帝国法務省が認めた完璧な――あっちぃぃぃっ!!?」
突如、バルドが悲鳴を上げて契約書を放り投げた。
見れば、彼の持っていた契約書の文字が、まるで溶岩のように真っ赤に発光している。バルドの手は火傷したように赤く腫れ上がっていた。
だが、地面に落ちた契約書自体は燃え尽きることなく、赤々と文字を光らせている。
「な、なんだこれは!? 熱い! 書類が熱を持ったぞ!?」
「ですから、言ったではありませんか。嘘をつくと燃え上がるんです」
私は静かに歩み寄り、光が収まりつつある契約書を拾い上げた。私は嘘をついていないので、触っても全く熱くない。
「さあ、バルド会頭。簡単な質疑応答を始めましょうか」
私は前世のクレーム対応や内部監査で培った、感情を一切交えない『社畜の絶対零度』の声色で、バルドを冷たく見下ろした。
「この契約書は、先代の村長と『適正な交渉』の末に結ばれたものですか? はい、か、いいえ、で答えてください」
「と、当然だ! 適正な交渉に決まっているだろうが!」
ボワッ!!
バルドが叫んだ瞬間、契約書のインクが再び激しく発光し、今度は小さな炎すら吹き上げた。
「あちちちっ! わ、分かった! 適正じゃねぇ! あのクソ村長に多額の賄賂を渡して、無理やりサインさせたんだよ!!」
炎の熱さに耐えかねたのか、バルドが情けなく喚き散らすと、契約書の炎はスッと収まった。
役場の中に、静寂が落ちる。
ニャングルさんとキャルル村長が、「やっぱりな」という呆れと怒りの混じった顔でバルドを睨みつけていた。
「なるほど、賄賂ですか。それは立派な帝国法違反ですね」
「う、うるさい! 村長が裏金を受け取った以上、この村の責任だ! それに帝国法務省の認可印は本物だぞ! これがある限り、帝国軍は私の味方だ!」
「ほう。では、次の質問です。その法務省の認可印は、『正当な審査』を経て押されたものですか?」
「あ、当たり前――」
バルドが言いかけた瞬間、契約書の文字がこれまで以上に赤熱し、激しい炎を噴き上げようとした。その熱波は、少し離れているバルドの顔を焦がすほどだ。
「ひぃぃぃっ!! 言う! 言うから燃やすな!! 法務省の役人にも袖の下を握らせた! 裏口から認可印をもらったんだよぉぉっ!!」
バルドが床に這いつくばりながら泣き叫ぶと、炎は再び静かに消え去った。
私は冷たい目で、床で震えるバルドを見下ろした。
「……先代村長への賄賂による不正契約。さらに、帝国法務省の役人への贈賄。これで、この契約書が根本から詐欺による無効なものであることが、明確に証明されましたね」
私が淡々と事実を並べると、バルドは顔面を蒼白にさせ、ガタガタと震え始めた。
後ろに控えていた傭兵たちも、一連の超常現象と、バルドの口から飛び出した真っ黒な自白を聞いて、すっかりドン引きしている。
「ま、待て……! 分かった、今日のところは帰ろう。この契約の件は、白紙に戻してやる! だから、その燃える書類はしまってくれ……!」
逃げ帰ろうと這いずるバルドに対し、私は無慈悲に一枚の真新しい羊皮紙を突きつけた。
「お待ちください。白紙に戻して帰る? ……ずいぶんと虫のいいお話ですね」
「な、なんだと……?」
「あなたはこの村を不当な契約で脅し、大切な特産品を騙し取ろうとしました。さらに、村長や役人への贈賄という重罪まで犯している。もしこの事実を、帝国法務省の『監察局』に通報すれば、あなたの商会は営業停止どころか、あなた自身が投獄されることになりますよ」
前世で法律とコンプライアンスの勉強を叩き込まれていた私にとって、不正を働いた相手の首を絞める方法などいくらでも思いつく。
バルドの顔色が、青から土色へと変わった。
「ひっ……! ゆ、許してくれ! 何でもする、金なら払うから……!」
「ええ。ですから、この『新しい契約書』にサインをお願いします」
私はニッコリと笑って、ニャングルさんに用意させた真新しい契約書を提示した。
「今後、ポポロ村で生産される『内定レタス』等の特産品を、バルド商会に卸してあげても構いません。ただし、取引価格は現在の市場価格の『二倍』。さらに、これまでの精神的苦痛に対する損害賠償と、迷惑料として、一時金として金貨千枚を直ちに村へ支払うこと。……もちろん、断っても構いませんよ? その代わり、この燃える契約書(証拠)を持って、私が直接帝都へ告発に向かいますが」
完全に逃げ道を塞がれた絶対的有利な条件(逆搾取)。
バルドはワナワナと震えながら契約書を読み、やがて力なく肩を落とし、泣きながらサインをした。
「……これで、文句はないだろう……」
「はい、ありがとうございます。ポポロ村の発展のため、今後とも末永いお付き合いをよろしくお願いいたしますね、バルド会頭」
私がにこやかに一礼すると、バルドは傭兵たちに抱えられるようにして、役場から逃げ出していった。
遠ざかる荷馬車の音を聞きながら、私はふぅと息を吐き、緊張でこわばっていた肩の力を抜いた。
「……終わりましたよ。これで村の特産品も、皆さんの生活も安全です」
私が振り返ると、キャルル村長とニャングルさんが、口をポカーンと開けて固まっていた。
やがて、ニャングルさんが震える手で煙管を握りしめ、ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「カレンちゃん……あんた、ホンマに金の神様や……!! いや、神様よりも恐ろしい、悪魔の交渉人やぁぁっ!!」
「カレンちゃん、すごすぎる! あの悪徳商人を、暴力も使わずに完全に叩き潰して、しかも超絶有利な契約まで結ばせちゃうなんて!」
ニャングルさんが私の足元にすがりついて号泣し、キャルル村長が私を思い切り抱きしめて跳ね回る。
私は苦笑いしながら、二人をなだめた。
「そんな大げさなものじゃないですよ。ただ、相手が法を盾にするなら、こっちも法と『少しの概念』で対抗しただけです」
「いやいや! あの冷え切った目と、容赦のない追い詰め方……ワテ、一生カレンちゃんには逆らわんとこって心に誓ったわ!」
ニャングルさんがブルブルと震えながら算盤を胸に抱いている。
「これでまた村の税収が増えるね! ボーナス弾んじゃうよ、カレンちゃん!」
「ボーナスも嬉しいですけど、私が一番嬉しいのは……」
私は壁の時計を見上げた。時刻は午後五時を少し過ぎたところだ。
トラブルはあったけれど、ほぼ定時だ。
「これ以上、無駄な残業をしなくて済むことです。さあ、今日はもう上がりましょう! ジークさんのご飯が待ってますから!」
私の言葉に、二人も「せやな!」「打ち上げだー!」と歓声を上げた。
理不尽な悪意は、もう私の居場所には立ち入れさせない。
平和でホワイトな日常を守るためなら、私は何度だって、この【概念錬金】と社畜の知恵を使って戦う覚悟がある。
私は清々しい気持ちで役場を後にし、夕焼け空に包まれたポポロ村の通りを、足取り軽く歩き出した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第10話は、悪徳商人バルドへの合法的な「お仕事ざまぁ」回でした!
【概念錬金】で嘘発見器と化した契約書を使い、相手の不正を暴き、逆搾取レベルの高待遇契約を結ばせるという、前世の社畜スキルが光る痛快な逆転劇でした。ニャングルさんが完全にカレンを崇拝し始めました(笑)。
次回は第11話!
カレンの有能さが外部に知れ渡り、彼女を引き抜こうとする商人が現れます。それを聞いたジークが、ついに「氷魔剣士」としての凄みと、特大の「独占欲」を剥き出しにします!
「お仕事ざまぁスッキリした!」「バルドざまぁ!」「カレンちゃんかっこいい!」と思っていただけましたら、
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皆様の温かい応援、何卒よろしくお願いいたします!




