表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日のあの言葉で――婚約破棄の煽りを受けた人たち  作者: 弍口 いく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/12

その7 ライザ・ミーデルの自供

 数多くの作品から目に留めていただき、ありがとうございます。

 ユトゥルナ王国歴1026年5月26日、10時00分、事件は急展開した。アウローナの協力で作成した似顔絵の女が見つかったのだ。それはルフタが通っていた娼館の女主人だった。


 連行された彼女は平民用の取調室に入れられた。そこはむき出しの石壁、半地下なので上の方に小さな窓があるだけの薄暗い殺風景な部屋だった。


 ライザ・ミーデル、貴族相手の高級娼館の女主人。

 平民ということだが出自はハッキリしないし年齢も不詳。真っ白な髪が年をわかりにくくしているが老女ではない、せいぜい二十代後半か三十代前半だろう。目の病を患っているということで濃い色付きの眼鏡をかけているから瞳の色もわからない。しかし白い肌にスッと通った鼻筋、形の良い真っ赤な唇、豊満な胸の谷間に男たちの目が無意識に惹き付けられる肉感的な熟女だった。



   ◇



「なんであたしがこんなところに連れて来られなきゃならないんですか? あたしがなにをしたと言うんですか?


 あたしが何者かですって?

 見ての通り娼婦ですよ。元、ですけどね。年増だからもう需要はありませんけどね。


 えっ? 所作が貴族みたいだとおっしゃるんですか? まあ、嬉しいですわ、そりゃ常に意識していますからね。うちは高級娼館です、貴族の客が多いんですよ。よかったらいい子を紹介しますよ。


 その必要はない? 奥様を裏切る行為は出来ないとおっしゃるの、奥様は幸せ者ですわね。そちらのお若い美男子はまだ独身なのね、どうです? うちは若くて綺麗な子がたくさんいますよ。


 商売の話を聞くために呼んだんじゃないって、でしょうね、それで?


 クロエ・ドナルドソン? そんな女性は知りませんよ。うちは殿方相手の商売です、男娼は雇っていませんからね。


 もちろん事件は知っていますよ。新聞くらい読みますから。社交界の華だった女公様でしょ、でも面識はありませんよ。


 えっ? 目撃者がいる?

 これが似顔絵ですか、確かにあたしに似ていますけど、平民のあたしがどうやって王宮の庭園に入れるんでしょうかね。


 なぜ庭園で遺体が発見されたことを知っているか? それは新聞に書いてあったから。…………わざと王宮内としか載せてない?


 秘密の暴露になるですって?

 ……口は災いの元ってことですか。あたしとしたことが間抜けなミスを犯してしまったようですね。

 あーあ、言い逃れ出来ないってことですか。


 そうです、彼女と会いましたよ。うちの顧客には高位貴族もいますからね、簡単に王宮へ入れますよ。警備体制を見直すことをお勧めしますわ。


 クロエ・ドナルドソン、あの女狐と話を付けたかったんです。公爵家のタウンハウスへ行っても追い返されるだけですから、逃げられない場所で会おうと考えたんです。彼女、あたしの姿を見て慌てましたよ。すぐに会場から出てきました。


 なぜ彼女に会いに行ったか?


 借金の催促です。あたしを呼んだ時点で調べは付いているんでしょ。

 あの女の旦那はうちの上客です。こちとら殿方の欲求を満たすのが商売、うちの子だってそのつもりで割り切った付き合いをしていたんですけど、旦那の方が勝手に本気になって入れあげて、ツケが溜まってたんですよ。公爵様だっていうから踏み倒されるなんて思わないでしょ。


 払えないと言うから、財布を握る奥方に請求するのは当然、なのに認めないんですよ。それどころか、あたしが旦那を騙したなんて言いがかりをつけられましたよ。逆に慰謝料をよこせなんて訳のわからないことまで言い出して。


 それで口論になって……。


 最初に手を出したのはあの女の方ですよ、正当防衛だったんです。……って、貴族相手に通用しませんよね。


 ほんとついてなかったわ、あんなことくらいで死ぬなんて。


 ええ、あたしがクロエ・ドナルドソンを突き倒しました。そしたら運悪く花壇の縁石に頭をぶつけて……。殺すつもりなんてなかったんですよ。だって殺してしまったらお金は取れないでしょ。


 ああ、でも結局借金は返済してもらえなかったですよね。あの後すぐ調べたんですよ、だって変でしょ、お貴族様なら醜聞を恐れて金を出すはず、あんなに抵抗するのは不自然です。そしたらわかりましたよ。ドナルドソン公爵家は火の車、うちだけじゃなくて借金に追われていたというから驚きですよ。


 あんなに綺麗なドレスに身を包み、華やかな夜会に出ているご夫人が、実は困窮しているなんて思わないでしょ。知っていれば他の方法を考えたのに。


 ほんと、ツイてないですよ。

 考えてみればあたしの人生ってツイてないことばかりだったわ。やっとまともな暮らしが出来るようになったのに……。


 まともじゃない? 娼館の女主人はまともな職業じゃないとおっしゃるのね。若い娘に体を売らせて食い物にしていると?

 彼女たちは割り切って仕事をしているんですよ、そうでなきゃ飢えて死ぬしかなかったんですからね。好きで体を売ってるんじゃない、そうしなければ生きていけなかったから……。あたしも若い頃は客を取ってましたからね。


 事故で旦那を失くした時、あたしはまだ二十歳になったばかりでした。元々義両親に気に入られていませんでしたから、あたしと結婚したから旦那は事故に遭った、疫病神だと言いがかりをつけられて、子供と引き離されて一文無しで追い出されたんですよ。事故は事故、あたしのせいでもなんでもないのに酷い話ですよ。


 野垂れ死にしかけていたところを当時の娼館の主人に拾われて、命拾いしたのはいいけれど、生きていく術はなかった。

 何人もの男と寝て、媚を売って、太客を捕まえてのし上がったんですよ。やっと飢えずに済む生活、温かいベッドでぐっすり眠れる生活を手に入れたというのに。


 裁判で正当防衛を主張すればいい?

 ご冗談でしょ。裁判なんて形だけ、最初から極刑は決まってる、平民が貴族を殺したんだもの、斬首刑確定じゃありませんか。


 晒し者にされるくらいなら、さっさとここで首を刎ねてもらいたいくらいだわ」


 読んでいただきありがとうございました。12話完結の予定です、毎日投稿しますので続きも読んでいただければ幸いです。

 ☆で評価、ブクマなどしていただけると励みになります。よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ