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あの日のあの言葉で――婚約破棄の煽りを受けた人たち  作者: 弍口 いく


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その5 エーギル・ホワイトの供述

 数多くの作品から目に留めていただき、ありがとうございます。

 ユトゥルナ王国歴1026年5月25日、13時00分、昼食後、私たちは取調室に戻った。


 近衛騎士団は優秀である。昨日のルフタの供述を得て、早速元クイリヌス伯爵子息の所在を突き止めた。隣国で商会を営んでいるが、奇しくも今、商談のために母国に帰っていた。


 現在は伯爵令息ではなく平民のエーギル・ホワイトと名乗っている。

 夜会の前日に会っていたという情報も入手したので召喚した。今は平民の商人だが、元伯爵令息と言うことで貴族用の取調室に通した。しかし突然の出頭要請に彼は憤っていた。



   ◇



「なぜ今更俺が呼び出されなきゃならないんです。もうあの女とは無関係です、二度と関わり合いたくありません。俺は忙しいんですよ、今日だって大事な商談があったのに、ほんと迷惑な話です。


 俺が彼女に感謝している?

 冗談じゃありませんよ、ルフタがなにを言ったか知りませんが、あなたたちだって本気でそう思っていないから俺を呼びつけたんでしょ? 俺が彼女に恨みを持っていると思っているから容疑者として調べようとしているんでしょ。


 ご推察通り、俺はクロエを憎んでいますよ。ルフタの奴、相変わらず頭お花畑ですね。感謝などしているわけありませんよ。


 確かに今は商人として成功していますし生活も安定しています。でも、ここまで来るのにどれだけ苦労したことか。伯爵令息だった俺が他人に頭を下げて働くことがどれほど屈辱だったか。でも生きていくために必死でしたよ。それこそ死に物狂いで働き詰めましたよ。


 卒業パーティーでの婚約破棄、今、思い出しても怒りが込み上げます。大勢の前で恥をかかされたんですよ。婚約を破棄するにしても他にやり方があったはずだ。それなのに最悪の方法を取ったんですよ、あの女は。俺の立場、気持ちなんか少しも考えていなかった。自分たちの都合しか考えない酷い奴らですよ。


 お陰で俺は家の恥だと伯爵家から除籍されました。

 えっ? 聞いた話と違う? 予定していた婿入りがなくなったから、自ら伯爵家を去ったと? 冗談じゃない、一文無しで追い出されたんですよ。どれだけ惨めだったか!


 確かに使用人の彼女と浮気していましたよ。でもお互い様でしょ、クロエだって同じだったんですからね。〝真実の愛〟? 笑わせないでください、ただの浮気ですよ。


 俺と使用人の彼女とは割り切った関係でした。平民の彼女と結婚しようなんて考えてもいませんでした。俺は公爵家に婿入りするんですから卒業を機にキッパリ別れるつもりでした。


 遊びだったのか? 酷い男だと?

 まあそうでしょうね。でも彼女だって俺と結婚したいなんて考えていなかった、その証拠に除籍されて家から放り出された俺についてきませんでしたから。


 結ばれたんじゃないのかって?

 違いますよ、金の切れ目が縁の切れ目とばかりにさっさと見切りをつけて、裕福な平民の愛人に納まりましたよ。結局金目当てだったのですよ。


 伯爵家から除籍されて平民になった俺は不眠不休で働きましたよ。いつか彼女を見返してやる、捨てたことを後悔させてやるという思いで馬車馬のように働いて金を溜め、独立して自分の店を持って、また働いて商売を広げて十年、やっと周囲に認められる商人になりました。


 所帯を持ったのはずっと後です。取引先の大店の娘と結婚しました。貴族風に言うと政略結婚ですが、なかなか出来た嫁で去年子宝にも恵まれました。やっと手に入れた幸せを自ら壊すようなことはしません。


 クロエと会ったのは彼女の方が訪ねてきたからです。

 信じられないかも知れませんがドナルドソン公爵家は困窮しているようです。あの大貴族様がですよ、お笑いでしょ。


 そうですか、ドナルドソン公爵家の経済状態は把握しているんですか。さすが近衛騎士団の調査能力は高いですね。まだ公にはなっていないはずですが、商人はそう言った情報が回るのは早いんですよ。


 俺の成功を聞きつけて金の無心に来たんです。どの面下げて来たんだと内心ムカつきましたけど、今の俺は平民、彼女は金に困っていると言っても女公爵様ですからね、本心をぶちまけることも出来ないので、今は次期が悪い、新規事業のために借り入れているくらいだから、融通できる金はないと丁重にお断りしました。もちろん方便です。


 金があってもあんな女に鐚一文融通するつもりはありません。プライドの高い女ですから、それ以上頭を下げることはしませんでしたが、当てが外れて落胆している様子は隠せませんでしたね。よほど困っているようでした。


 前公爵が健在のころは、あの方の信用で事業も成り立っていたようですが、体調を崩されて引退されてクロエが女公爵になった途端、なにもかもが回らなくなったようですよ。


 自業自得ですよ、婚約という家と家との契約を独断で破棄したんですから。それも〝真実の愛〟なんて宣って。良識ある貴族が距離を取ろうとするのは当然です。ドナルドソン公爵家と契約を結んでも、いつ一方的に破棄されるかわからないと公言したようなものですからね。もちろん表立って口にはしないでしょう、でも信用を無くしじわじわと人は離れていく、そう言うものですよ。


 今のところ領地運営は問題ないようですが、それも売りに出さなければならなくなるでしょうね。


 かつて俺はクロエとの婚約が決まってから三年間、公爵家に通って、領地運営を叩き込まれました。もちろん実権はクロエが握りますから俺はあくまでも補佐ですが、それでも広大な領地ですから執務は多岐に渡り山のようにあります。あのルフタに、顔だけが取り柄の脳みそツルツルのおバカにこなせるわけありません。


 それともう一つ情報がありますよ。

 ルフタは娼館通いをしているようです。クロエももう二十八、二人の子供を出産して緩んだ古女房より若い女の方が良かったんでしょうね。笑っちゃいますよ、たった十年で色褪せてしまうようなモノが〝真実の愛〟なんですかね? 


 いい気味です。

 夫に裏切られ、貴族社会からは信用を失い密かにそっぽを向かれて八方塞がり。

 殺されたことは逆に残念ですね。俺はあの女の破滅が見たかった」


 読んでいただきありがとうございました。12話完結の予定です、毎日投稿しますので続きも読んでいただければ幸いです。

 ☆で評価、ブクマなどしていただけると励みになります。よろしくお願い致します。

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