その11 ラスティ・ディックスの報告
数多くの作品から目に留めていただき、ありがとうございます。
ユトゥルナ王国歴1026年8月25日、10時00分、ラスティ・ディックスが私の執務室を訪れた。
あの事件から三カ月が経っていた。
あの後、私には次から次へと仕事が舞い込み多忙を極めた。恐らくホルキュース公爵が故意に回したと推測される。私にクロエ・ドナルドソン事件を蒸し返されることを嫌ったのだろう。
ラスティと会う機会もなかったが、彼は私が仕事に忙殺されているのを余所に、レイチェルとの逢瀬を重ねていたようだ。これもホルキュース公爵の思惑通りに誘導されていたのだろう、狸親父め。
◇
「正式にレイチェル嬢との婚約が調いました。明後日の夜会で彼女をエスコートするのでお披露目になるでしょうから、その前にクヴァルシ副部長にはご報告しておこうと思いまして……その節は大変お世話になりましたから。
相手は公爵令嬢、俺が二の足を踏んでいたところ背中を押していただき、お陰で彼女と婚約することが出来ました。幸い、ホルキュース公爵にも反対されませんでしたし、きっとクヴァルシ副部長がお口添えしてくださったのだろうと……。
それに、俺があの事件の終了に納得できなくて、一人で暴走しようとしていたところを止めてくださった。『納得いかないのはわかるが、いつまでも引き摺るな。高位貴族が絡む事件は、どこからか横槍が入ったり、無理やり決着させられたり、闇に葬り去られることは多々あるからな。慣れることだ』と諭して下さった。その通りだと思います。
俺があの事件に拘ったのは、十年の前の卒業パーティーでの婚約破棄騒動が根底に流れていたからです。
実は俺もあの卒業パーティーでの婚約破棄騒動の煽りを受けた一人だったんです。だからレイチェルが許せないと言っていた気持ちが良くわかりました。
社交界の華のまま非業の死を遂げたのではなく、本当の彼女の姿を…人の弱みに付け込んで強請を働いた本性を白日の下に晒したい気持ちもあったのです。それに〝真実の愛〟の成れの果てが夫の娼館通いだったという事実もね。
どんな影響を受けたか?
しがない伯爵家の中で起きたことなど、誰も気に留めませんから知られていないでしょうけどね。
兄の婚約者が在校生であのパーティーに出ていたのです。クロエ・ドナルドソンの言葉はまるで呪いですね。影響を受けた兄の婚約者は自分も真実の愛を貫くのだと、なにを血迷ったか俺に迫ったのです。俺こそが運命の相手だと訳のわからないことを宣って。当時の俺は十四歳の少年ですよ、まだ背も低くて華奢だった俺はいきなり押し倒されてビックリしましたよ。
俺の美貌に血迷った? そうかも知れません、この容姿はもはや呪いでしかありませんよ。兄にも申し訳ないことになったと落ち込んだのですが、兄は元婚約者の本性がわかって良かったと言ってくれました。
結局、兄の方から破棄しました、そして少年だった俺を襲った痴女として告発しようとしていましたが、相手の家に泣きつかれて慰謝料増額で手を打ちました。そして元婚約者は修道院へ送られました。今もそこに居るそうです
その事件がトラウマとなり、俺は女性を避けるようになりました。どうせ俺は顔だけの男だと自暴自棄になったりもしました、だから騎士科に進んだのです。騎士科に女性は少ないし、剣の腕を上げて顔だけじゃなくて逞しい男になろうと頑張りました。まあ、あまり結果は伴っていませんが……。
あの事件でレイチェルと出会って、心に傷を負った者同士、慰め合う……じゃないですけど、いろいろな話をするようになって、やっと女性に目を向けることが出来ました。いや、レイチェルが相手だったからですけどね。
兄もその後、いい縁談に恵まれて幸せになりましたから、俺の婚約は喜んでくれています。
でもレイチェルの従姉のように、あの騒動の煽りを受けて不幸になった人、道を誤った者たちは俺たちの知らないところでも存在していたのですね。
真実の愛を貫いて結ばれたクロエとルフタも結局は幸せになったとは言えないですし、エーギルは立ち直って自分の手で未来を切り開きましたが、ライザ…レイアも奈落の底に沈みました。
今はゲフィオン侯爵夫人の計らいで、レイアに戻り、引き離されていたご子息と一緒に暮らしているそうですから良かったですが。
ルフタの方は逆に病と称して領地の片隅に幽閉状態だそうです。今は前公爵が復帰されているから、あの婿は不誠実な穀潰しだからご子息たちに悪影響だと判断されたのでしょうね。自業自得ですよね、王都に残してまた娼館通いで散財されたら困るでしょうから。
そして、フィノーラ・リベル子爵夫人、彼女もまた犠牲者の一人だったのですよね。クヴァルシ副部長のことですから調べは付いているのでしょ? 彼女が伯爵家の後継ぎの座を失ったのは、あの騒動で婚約破棄されたからでした。
事情聴取の時、あれだけ自分の身の上話をした割にはそのことに触れなかった。俺は彼女がこの事件の裏でなにか重要な鍵になっていたではないかと思っているのです。
例えば…………。
………そうですね、今更それを言ったところで捜査はとっくに終了しているのですから、もうどうしようもないですよね。ホルキュース公爵の意向にも反しますし、俺ももう一人じゃないですから、貴族社会でうまく立ち回れる術を身に付けなければならないと思っています。
もう忘れます。
これからはレイチェルとの未来だけを考えることにします」
読んでいただきありがとうございました。12話完結の予定です、毎日投稿しますので続きも読んでいただければ幸いです。
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誤字報告ありがとうございました。




