つかの間の休息
この作品はフィクションです、実際の人物、団体、宗教などには一切かかわっていません
あのテロ事件から二日後―――
チリリリリリン!
アラームの音で目が覚めたナナシは、眠たげな目でスマホを探し、ピッとアラームを消した
「ふわぁ・・・」
いつもの白いシャツに黒いジャケットではなく、下は黒、上は白のシンプルなパジャマ姿、ミオはすでに起きているようで居ない
「ねむい・・・」
二段ベッドから降りて、ごそごそと着替えをする、白いシャツに黒いジャケット、下は生足、いつも通りの服装
「うん、今日の僕も可愛いね、特に足!」
鏡の前でちょっとしたポーズを決め、鼻歌を歌いながら部屋を出た、今日はルティア君とゲームして、先輩と一緒に訓練したり話したり、ミオちゃんと女子会して――その少女は上機嫌にスキップしていった
「パトロールするぞ」
自室からドアを開けた飛鳥の口から出た最初の言葉はパトロール、つまり街の警備だ
「なんでですか?」
ソファの上でルティアとゲームしていたナナシが、ポーズボタンを押して振り返る、その金髪がさらりと流れる
「ん・・・最近事件とか多いから、警備体制を強化してるんでしょ?」
ナナシの右側に座っているミオは眼鏡をかけてスマホを見ていた
「飛鳥さん、あとで書類のFAX送りますね」
「あぁ、わかった」
「ナナシさん、隙あり!!」
「え?あ!」
画面いっぱいには「2P win」と書かれていて、ガッツポーズをするルティアと呆然としているナナシ、すぐさまルティアを掴んで揺らし始めた
「この卑怯者~!」
「ふはははは!勝てばよかろうなのだぁ~」
「・・・」
飛鳥はその光景に一瞬口角が上がった気がしたが、おそらく気のせいだろう
「良いか、最近魔物や魔導犯罪の被害が増えている、今のうちに未然に防ぐぞ」
「了解です~!」
「ルティア、自衛のためスタンガンの所持を許可する」
「はい!」
「ミオも行こう」
「あ!じゃあ買い物していいですか?」
「あぁ、良いぞ、俺とナナシ、ルティアとミオの二人組でパトロールを行う」
飛鳥は刀を壁掛けに置いて、ナナシに手招きする
「早く行くぞ」
「あ、待ってくださ~い!」
・・・
飛鳥とナナシは二日前の戦闘があった商業区ではなく、ビル街を通っていた、カフェや化粧品など、商業区ほどではないが賑わっていて、ビルの側面にはホログラムで【エンジニア募集中】【最新作、エーテル20%配合ドリンク】など書いてある
「先輩、あとでラーメン食べに行きません?あそこのラーメン屋スッゴイ美味しいんですよ!」
「あぁ、良いぞ」
「やったぁ!」
ナナシがぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる、まるで小動物
「ナナシお姉ちゃん!」
「あ、エマちゃん!」
小学生と思われる少女が一人、こっちに走ってきた、ナナシと彼女は面識があるようで、ナナシは嬉しそうに受け止める体制を整えている、しかしその少女の顔には焦りが浮かんでいた
「あのね、猫が木から降りられなくなっちゃったの!」
「なるほど、まっかせなさいです!」
「おい」
ナナシがエマと一緒に走り出していき、飛鳥はすぐにそれを追いかけた
・・・
ビル街にある小さな公園、子供や老人、休憩中のサラリーマンが使用する、小さくも趣があり、皆に愛されている公園、その大きな木の上に子猫が居た、どうやら上ってみたは良い物の降りられない用で、不安そうにミ―ミ―ないている、木の周りに野次馬とよじ登ろうとする学生、そして小学生たちが息をのんで見守っていた
「みんなー!ナナシお姉ちゃん連れて来たよー!」
「はい!みんなの味方、ナナシお姉ちゃんただいま到着です!」
ふんす、と胸を張ってふんぞり返るナナシ、それを見て小学生が盛り上がり、学生もそれに便乗し、大人たちが温かい目で見ていた
「よーし!さっそく身体強・・・」
「待てナナシ」
近くに居た飛鳥が、さっそく魔法を使おうとするナナシを軽くチョップした、痛みはゼロ
「あぅ、何するんですか先輩・・・」
「魔導憲法第23条」
「あ・・・生命にかかわる事態を覗き、街中での魔法の使用を禁止」
「そういうことだ」
「でも身体強化ぐらい・・・」
「ダメだ」
「むぅ・・・」
不満そうな表情を浮かべるナナシ、それを真似するように小学生たちがジトーッと見て来た
「飛鳥お兄ちゃん、子猫助けるためなんだから別にいいでしょ~?」
「そうだそうだ!」
「悪いが法律なんだ」
「わかりましたよ、じゃあよじ登ります!」
腕捲りをしたナナシが早速木に飛びつき、よじ登り始めた、その様子を見ていた飛鳥の肩に、トントンと指が置かれる、振り返るとそこにはおばあちゃんが立っていた
「飛鳥さん、この前は駅まで送ってもらってありがとねえ、飛鳥さんのお陰でお茶会に遅れずに済みました」
「間に合ったようでなによりです」
「すぐいなくなるもんだからお礼言えなくてもやもやしてたのよ、これミカン、皆さんと一緒に食べると良いよ」
「これは・・・ご丁寧にどうも」
ふふっと微笑みながらミカンが入った箱を受け取る飛鳥、この寡黙そうに見えて自分から人を助けるその姿は女性、特に主婦から人気を持っていて、アイドル的な扱いを受けている
「よっと!」
一方ナナシは子猫を無事に捕まえて地面に下ろす、その姿を見た周りの人間たちが感謝の言葉を言い始めた
「ありがとうお姉ちゃん!」
「ふふん、これぐらい朝飯前!」
ふんす、と胸を張るナナシを皆が拍手していた、遠くに居る大人たちがそんなナナシを見てふふっとほほ笑んでいた
「ナナシは子供たちに大人気だな」
「あぁ、見てるだけで元気になるよ」
「さて、元気も貰ったわけだし仕事頑張るぞ!」
おー!と腕を掲げ、それぞれの持ち場に戻っていく、一方学生たちは――
「はぁ~、ナナシさん可愛い・・・」
「わかる、顔も良いけどさ、足良くね・・・?」
「てかなんで生足なんだろな、上は結構温かそうな服なのに」
「ナナシさんはきっと自分の足が可愛いと思ってるんだよ、事実だけど」
「これで胸があったらなー」
その声がひそひそ声のお陰でナナシの耳には入らなかった
・・・
「ミオ、もうこれ以上は無理だよ・・・」
「何言ってるの、男なんだからシャキッとしなさいよ」
「流石に無理だよこの量は!背骨折れちゃうって!化粧品買い過ぎ!!」
一方ルティアとミオは商業区に赴いていた、次々と化粧品を買っていったミオは、ルティアに全部持たせて自分は洋服店の服類を見ていた
「カッコつけて「重いだろ、全部僕が持つよ」なんて言わなかったらよかったね」
「わざとでしょ・・・」
「まさか?イタズラしたくてやったわけじゃないし」
「・・・やられた・・・」
量はすさまじかった、紙袋を両腕合わせて14袋、両手に三袋ずつ、流石にキツイ、一つの袋で二キロほど、トレーニングに使われる重りの二倍は重い、足が震え汗が額を流れる、尻尾がだらんと下がり、耳も弱々しく倒れている、汗で視界がにじみ、少しずつルティアの視界がぐにゃぐにゃしてきた
「ぐぬぬぬぬぬ・・・」
「ちょっとやりすぎちゃったか」
「やっぱりわざとじゃん!」
「・・・ほら、半分持つよ」
やっと少し解放されたルティアは深くため息を吐く、楽になった安堵と、少し悔しさが全身を駆け巡る
「なんか悔しい」
「じゃ、もっかい持つ?」
「やっぱりいいです!」
悔しい感覚は仕方ない、かっこいいとこを見せたかったが残念・・・
「ルティアじゃねえか、おーい!」
「はいはい?」
ルティアとミオが向いた方向には、車とサングラスをかけたおじさんが立っていた
「この車、突然動かなくなっちまった、助けてくれ」
「わかりました!ミオ、これお願い」
「え?ちょっと!」
まるで荷物から逃げるようにその場に置いて行ってしまった
「・・・もう、男なのに頼りない」
しかしその口角は少し上がっていた
「でもちょっと可愛いかも、尻尾とか」
一方ルティアは工具を手にして車をじろじろ見ていた、尻尾がゆらゆらと揺れている、あくまで尻尾、本人ではない・・・多分
「あー、魔石の交換しないといけませんね、魔力切れを起こしてます」
「マジかぁ・・・確かに2年前のだしな」
「純度の高い魔石を売っているお店知ってますよ、今度行きましょう」
「おっ、良いな」
「あ!ルティア総長!」
「あれ、君たちは男子校の」
総長?一瞬でぽかんとするミオを置いて
「総長!この前は本当にすみませんでした!」
男子校の不良と思われる数人が、ルティアの前でお辞儀をしている、90°ぴったりの綺麗なお辞儀
「総長の足技!一生忘れません!」
「あのスタンガンで無双するの、痺れました!」
「これからは喧嘩するなよ少年たち、あと僕は総長じゃないからね」
「「「はい!!!総長!!!」」」
「ちょっと!」
不良が笑いながら走り去ってしまう、ルティアは一体何者なのだろう・・・
・・・
「んん~!美味しい~!」
「ナナシ、二杯目行くか」
「はい!美味しいですから!たいしょ~!醤油ラーメン!」
「あいよ!いやあ嬢ちゃん食べっぷりが良くて見てて気持ちが良いよ!」
ナナシはラーメン二杯目に突入していた、一瞬で食べ終わってしまい二杯目を食べ始めた、啜った後美味しそうに頬に手を当てて、満面の笑みで咀嚼している
「あ~!おいしい!あ、先輩の餃子いただいていいですか!」
「ん、良いぞ」
「やった!」
餃子を箸で掴んでバクっと食べる、豪快な食べっぷりをみた客は不思議そうに見ている、飛鳥はそんな様子を頬杖をついて見守っていた
「ナナシ」
「ふぇ?なんですか先輩」
もぐもぐと咀嚼し、ごくりと飲み込んだナナシが不思議そうに見ている、首をかしげて金色の髪がさらりと揺れる
「フィオレの件なんだが俺からも感謝する、ありがとう」
「・・・えへへ、急に何ですか」
「最近ナナシは成長した気がしてな、最近どんどん強くなっている」
「きゅ、急に褒めないでくださいよ、照れちゃいます・・・」
ナナシはすぐさま視線をラーメンに移した、こういう暗い話は苦手だ
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「じゃ、帰るか」
飛鳥とナナシが立ち、会計を済ませ出て行った
「・・・」
空を見たナナシが、ぐっと拳を握り込んだ、あの装甲を破壊したあの感覚が蘇る、その眼にはあの日を思い出して、覚悟が決まっていた目だった
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