豚頭
「最低な趣味だ……! 生命を弄ぶ下種め!」
俺の怒声と共に、足元の地面が白く凍りつく。無数の食屍鬼が、黒い土を割って這い出してきた。
――本来なら、そうなるはずだった。
しかし、この瞬間、俺は初めて「呪われた土地」の真の意味を理解した。
這い出した食屍鬼たちは、瞬く間に俺の制御を振り切り、狂ったように共喰いを始めた。骨の砕ける音、肉の引き裂ける音が、不気味な静寂の中に粘っこく響く。そして次に、それら腐敗した面どもが、整然と、一斉に、創造主である俺へと視線を向けた。濁り切った、死の眼差しを。
間一髪、シルヴィアの吹雪がその全てを氷結させた。
同時に、谷に淀む濃密な霧が、極限の低温に圧し潰される。水蒸気圧が断崖的に低下し、霧の微粒子は瞬時に重い氷晶へと変貌した。重力が支配する。かつての虚無は、無数の鋭利なガラスの礫と化し、暴風の咆哮に乗って地面へとバラバラと叩きつけられ、大地を冷たい白霜で覆った。
人喰いの古木どもは、このような物理的暴威を予期していなかったらしい。奴らは、わずかに後ずさった。
「恐怖の化身も、恐れるというのか?」
「安心しろ。お前が最後まで正気を保てるなら、真の恐怖をたっぷりと教えてやる」
『……恐怖の……化身……』
『……教え……恐怖……』
死を理解せぬ木々が、なおも俺の言葉を反芻する。だが、もはやどうでもいい。
本来、無堅不摧の破壊力を宿した「ハムレット」が、高速回転によって空間を切り裂く。それはもはや斬撃ではない。巨大な円鋸が空間ごと切断するような、純粋な物理的破壊だ。
俺が空中で再び「ハムレット」を掴み取ろうとした、その刹那——。
『お兄ちゃん……ごめんなさい……っ!』
視界が、真っ赤に染まった。
吹き荒れる吹雪の向こう側に、猛烈な火海が広がる。俺は、腕の中に抱いた子供を見下ろしていた。周囲はすべてを焼き尽くす赤。そして、すべてを塗り潰す完全な闇。
人の感情を弄ぶ畜生どもが……!
俺は激しく頭を振り、割り込む幻影を振り払った。憤怒が魔力を沸騰させ、周囲の生命力を根こそぎ奪い去る。この内面を土足で踏み荒らすゴミどもを、粉塵の一粒にまで削り落としてやる。
枯れ木を薙ぎ倒し、極寒が植物の緑を細胞レベルで破壊していく。
『……殺さ……ないで……』
「ああ、ならハムレットにでも訴えてみろ」
以毒制毒。
血肉で養われた人喰いの古木と案山子どもは、こうして大地の養分へと還元された。
「……養分か」
「ん? 何か言った?」
「いや……焼却した方が、跡形もなくて清々しただろう、と思ってな」
安堵の息をついた、その刹那――
霧の晴れた視界の彼方に、「それ」は立っていた。
手には、肉塊を吊るす巨大な鉄鉤。
その姿は、王城下水道で遭遇した忌まわしいあの怪物と、瓜二つだった。




