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死して八年、デスナイトとして蘇る。――この食い荒らされた世を切り裂き、狂った因果に復讐を  作者: Tiny Abomination in a Jar


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絶望の蓄音機

宿に戻り、シルヴィアと情報を共有した。俺は即座に動く決断を下す。




「……あら? クレア様への思いは冷めたの?」




彼女はベッドの縁に寄りかかり、首筋に刻まれた契約の刻印を無意識に弄びながら、そう尋ねた。




「案件は案件だ。数日、遅れようと問題ない。俺が目の当たりにした以上、手を引く理由はない。……少なくとも、奴に今すぐ危害が及ぶ危険はない、それは分かっている」




「この印のため?」




「ああ。普通は、これで土地の亡霊を呼び、一時的に俺の力を分け与える。だが、数十キロ圏内なら、俺が直接、気配を追って飛ぶこともできる」




「……便利ね、本当に」




彼女は軽く笑うと、ベッドから舞い降りた。指を一鳴らせば、絹の寝間着は霧のように消え、身体に密着する黒革の戦闘服へと変転した。




「行きましょう!」




天候の変わりように、もはや道理が通じない。ついさっきまでの青空が嘘のように、ロストバレーに近づくにつれ光は翳り、肌を刺す寒気が増す。入口には「生人勿近せいじんぶきん」と暗紅色で殴り書きした看板。そして、そこにはあの馴染みの深い、死の気配が、鉄錆を舐めたような濃厚な味わいで立ち込めていた。




「……気味が悪いわ」




シルヴィアの声が押し殺される。見れば、彼女の狼の尾は、敵意を感じた猫のように逆立ち、硬直して小刻みに震えている。俺がそっとその肩を叩くと、彼女は深く息を吸い、尾をようやく鎮めた。




俺はハムレットを握り、先端を低く構え、周囲の影一つ一つに目を光らせながら、谷へと足を踏み入れた。




たった一歩で、世界は塗り替えられた。




濃密な灰白色の霧が、瞬く間に俺たちを丸呑みにした。今しがた通ったはずの入口は、曇ったガラスの向こうのように霞み、遥か遠くに感じられる。静寂が重くのしかかり、自身の足音と呼吸だけが異様に大きく響く。




そうして進むこと、さほど遠くない場所に、囚車の残骸が道端に倒れていた。車体は無惨に歪み、親指より太い鉄格子が、外側から何ものかによって握り潰され、引き裂かれたようにめくれ上がっている。周囲に死体はない。あるのは、檻の内側から引きずり出されたような、黒く淀んだ血痕。それは、霧の奥深くへと、一本の汚れた道標のように続いていた。




俺はしゃがみ込み、歪んだ格子に触れた。こびりついた、カチカチに乾いた血の感触。




「マークの親父は、檻の中で既に傷を負っていた。……野郎どもの仕業か。それとも、後から檻をこじ開けた『何か』の所業か」




「行きましょう」シルヴィアの声に、わずかな強張りが走る。「血の跡を、辿るのよ」




進むにつれ、霧の濃度は不自然に増し、風には冷たい氷雨が混じり始めた。




「ミン」シルヴィアが突然、立ち止まり、俺の腕を掴んだ。




「どうした」




「……しっ」彼女は眉をひそめ、狼耳をピンと立て、微かに振るわせている。「あなた……何も、聞こえない?」




俺は神経を研ぎ澄ませた。風の音、氷雨が葉を打つ音。それ以外には、不自然なまでの死の静寂だけだ。首を振る。




「たくさんの……声がする。男も、女も、子供も……遠くにいて、それでいて……すぐ傍にいるみたい」




薄暗がりの中、彼女の顔が青ざめていくのがわかる。




「何て?」




問いかけたその瞬間、シルヴィアの瞳が、恐怖に鋭く収縮した。




「私たちが、さっき話した言葉を……繰り返してる。『行こう……血の跡を辿るのよ』、『どうした』……それから、『俺たちは……出られない』」




反響じゃない。これは、確信犯的な模倣だ。




「方位は?」




彼女は一瞬の躊躇もなく、血痕の消える霧の最深部を指さした。




俺は迷わなかった。両手で「ハムレット」を握り締め、内に渦巻く魔力の全てを槍身に注ぎ込む。生と死の相反する力が激突し、圧倒的な奔流となる。




「はああっ!!」




地を穿つ轟鳴と共に、長槍を地面に突き立てた!




———オンッ!!




槍尖を中心に、生の白き光と死の幽き闇が混濁した衝撃波が円状に炸裂、拡散する! 触れた濃霧は、熱湯に晒された霜のように「シューッ!」という唸りを上げて逃げ惑い、一瞬にして視界が開けた!




「シルヴィア、今だ! 方位は!?」




「真正面!」




霧が払われた、その刹那——




「兄貴……! どうして……っ!!」




朽ちた巨木が引き裂かれるような、それでいて、あまりにも生々しい人間の絶叫が、空間を切り裂いて襲いかかった!




そして、俺の投擲した「ハムレット」が蒼い流星となり、最後の霧のヴェールを貫く。その一閃の光で、俺たちはついに、眼前の“真実”を目撃した。




潜む“何か”など、最初から存在しなかった。




そこに“居た”のは、ねじれた肢体を蠢かせ、根を不気味に蠢動させて“歩く”古木の群れ。そして、その枝にぶら下がり、あるいは荒れ地に立ち尽くす、ボロ布をまとった案山子の群れ。ボタンや石で埋められたその顔が、不気味なリズムでガクン、ガクンと開閉を繰り返していた。




男の啜り泣き。女の狂おしい叫び。子供の遊ぶ歓声。




そして、先ほどの——「兄貴……! どうして……っ!!」という、魂を凍らせる絶望の断末魔。




声帯など持たぬはずのそれらから、木の葉のざわめき、藁の軋む音と渾然一体となり、無数の“最期の言葉”が、この呪われた谷に、永遠に、繰り返し、響き続けていた。




それらは呼びかけなどしていない。




ただ、記録され、再生され続けているだけなのだ。




この地で途絶えた、全ての命が、その終焉の瞬間に発した、物理的な、そして呪わしい“遺言”を。

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