77. 氷を溶かす炎
まるでモーゼが海真っ二つにしたように、魔獣達がごっそりと一直線分吹き飛んだ。
(ノ、ノア……私に何をしたの……)
私はぽかーんと口を開けて佇んだ。
魔獣達もレジナルドも唖然としていて、まるで時が止まったかのよう。
これはもうおまけレベルじゃないよ。
たとえポテンシャルがあるとしても、これは自分の力を勘違いしちゃうよ。
(そら、こういうの頼るのよくないね……)
ゲームの世界では、サポート魔術を気軽に使っていたけど、現実はこういうことなのね。
でもこれなら、私も戦える。
「レジナルド! 後ろから術使うから!」
「しかし……」
「大丈夫! ノアが結界を張ってくれたし、今もこの寮全体に張ってる!」
「……物陰から、出るなよ!」
できるだけ、剣を振るうレジナルドを援護するように、彼の間合いの外にいる魔獣を氷の矢で倒していく。
だけど、それでも減らない。
(もっと、魔力を出さないと!)
幸いなことに、ノアのおかげで力が使いやすい。
矢を三つに増やして、範囲を広げて──と、指先に集中させて、三つの矢を生み出した瞬間だった。
じゅわ……。とろ……。
(えっ!? なんで)
生み出されたばかりの三本の氷の矢が、いきなり溶け出した。
まさか、ノアの制御が無効になった?
でも、それでも一本の矢ぐらいは作れるはず。もう一回!
力を振り絞って生み出した矢も溶け始める。なんとかギリギリ放つことはできたけど、威力は格段に落ちた。
──だめよ。
(え?)
ふと、女の声が聞こえた。
聞き覚えがある。夢で語っていたあの女のものだ。
──あの方の邪魔は許せない。
(あの方? 誰のこと?)
その間も私は術を放とうとしても、やはりよっぽど力を入れないと矢を生み出せなくなった。
指先が、燃えるように熱い。
「や、やめてよっ、レジナルドを援護しないと」
やっと、私もあの人の役に立ちそうなのに!
いつもいつも、守られて助けられてばかりだから。
頭がくらくらする。ノアの『おまけ』がなかったら、もうとっくに倒れていたかも。
「……っ、マリアンヌ!」
私の術が鈍ってきたのに気づいて、レジナルドがこちらを向く。
「だめっ……! ちょっと疲れただけ! ごめん! 大丈夫だから!」
私はそう叫んで、寮の出入り口奥まで下がる。
ここならノアの結界があって、魔獣も入ってこない。
だから、今のうちに──。
「あなた、前も私の夢に出てきたよね」
──……。
「鏡にも映ってた! 一瞬だったけど」
──……。
「答えて。あなたは誰なの」
声は返ってこない。
でも、私は知っている。
彼女が私の考えている存在なら。
私は、彼女を何度も見ているはずなんだ。
──私は……炎の加護を受けし……
──マリアンヌ・ド・ラ・アズナヴール、と申します。




