76. 戦う理由は一つ
神になることこそ、いつしか人生最大の目的となった。
レジナルドは剣を振るい、魔獣を屠りながら己が半生を振り返った。
他の兄弟は全て退けた。
皇弟だった叔父たち、その息子もそうだ。
一人、二人……三人目にはもう完全に、罪悪感の欠片すらなかった。
血で血を争う、なんてものではない。
皆が血を流し、自分だけが一方的に血を浴びる。そんな争いだったのだ。
そうして得た皇位も、すぐに薄っぺらいものだと感じた。
幼い頃よりずっと抱き続けた空虚。
それを埋めるのは地位でも権力でもなかった。
皇国のために、民のために尽くすほうがやりがいがあった。
だが、それも全てを満たしはしない。
この世界の裏側に、『夜の世界』と呼ばれるものが存在する。
文献を紐解くだけでは、ただの伝承の域を出なかった。
だが、ついに次元の歪みを発見し、そこから『夜の世界』に干渉するに至った。
皇帝では足りない。神となる。
その代償として受けてしまった、流転輪廻の呪詛。
だからこそ、後には退けなかった。
いつしか芽生えた野心は、少なくとも、気まぐれで参加したマルモンテル王国の夜会の日までは存在していたのだ。
最愛の魂──マリアンヌと出逢うまでは、迷いなどなかった。
再会であるはずなのだが、どうしても、昔の彼女については運命めいたものは感じなかった。
あの夜に出逢ったマリアンヌこそが、俺の最愛の魂だ。
俺を神にすると言った女。
だけど、その瞳の奥に迷いが見え始めたとき、俺自身も己の迷いに気づいた。
人として生きることを、望み始めた自分がいた。
──だから、マリアンヌと、マリアンヌが大切に思う人々のために、今はこの剣を振るう。
「くっ……」
魔獣達はなかなか減らない。
範囲拡大の付与魔法を剣にかけると同時に、自分の身にも敏捷と攻撃を高める術をかける。
そうすることで素早く剣を振り、一撃で魔獣を複数倒せるようになる。
そろそろ範囲魔法に切り替えるべきだが、撃ち終えた後に若干のタイムラグがある。
よって剣でも魔法でも、倒せる数にそこまで違いはない。
その直後だった。
「レジナルドッ、よけてーっ!」
マリアンヌの叫びが聞こえた。
反射的に右手側へ避けると、背後から無数の氷柱が飛び、その軌道上の魔獣達を消滅させた。
「これは……」
この間まで、まともに魔法制御ができなかったマリアンヌが、こんな大技を使うようになるとは──。
おそらく、バーリフェルトの小僧が何かをしたのだろうが、ともあれ、俺の恋人の潜在能力が頼もしくも恐ろしい。
マリアンヌが作ってくれた好機。
無駄にはしない。




