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75. 魔獣たちの強襲

「あれは、魔獣!? っ、レジナルド、大丈夫?」

「ああ」


 またしてもレジナルドに庇われた。とはいえ、窓も少し遠かったので、レジナルドにも怪我はないようだった。

 雄叫びは校庭のほうから聞こえた。

 私が立ち上がって確認しようとすると、レジナルドに「俺が行く」と押しとどめられた。

 立ち上がったレジナルドが慎重に窓ぎわに歩み寄った。そして、下を覗き込む。


「──マリアンヌ、ここにいろ」

「えっ」

「お前は来るな」


 言うや否や、レジナルドの姿が消えた。

 固有スキルの雲散霧消で移動したのだとすぐにわかった。


「待って!」


 きっと、魔獣の声がした校庭のほうへ行ったんだ。

 私は慌てて、割れた窓に駆け寄った。

 この世界が基本的に土足でよかった。ガラスが散っていて、素足だったら確実に血まみれだ。とはいえ、それでも大きい破片には注意しないといけないけども。


「──っ」


 窓の外は、目を凝らすまでもなかった。

 様々な姿の魔獣達が、校庭に溢れかえっていた。

 百鬼夜行、という言葉を私は思い出した。

 もちろん、この世界では存在しない言葉だけど、まさしく妖怪達が群れをなしているような、そんな地獄のような光景だった。


 そこを、光が駆けていく。

 レジナルドだ。二振りの剣で、魔獣を次々と斬り伏せていく。

 だが、魔獣の数は減るどころか、増えているように見えた。


(レジナルド……っ!)


 レジナルドがどんどん、緑色の血に染まっていく。

 返り血だ。まだ、赤い血は見えない。

 だけど術で何匹も同時に倒しても、魔獣は減らない。


 魔獣達はレジナルドを目指しているように見えるけど、きっとこの寮に向かってきているんだ。それをレジナルドが抑えている。

 これだけの騒ぎなのに、誰も外へ行かない。


 レジナルドは強い。

 でも、たった一人であんな数を相手にするなんて──。


「──レジナルド!」


 私は思わず叫んだ。ついに彼の肩に、魔獣の巨大な爪が届いて鮮血が溢れたのが見えたからだ。しかし彼はすぐさま剣を振って、その魔獣を倒した。

 安心なんて、してられない。

 私は部屋を出ようと、振り返った。

 何も出来ないかもしれない。足手まといになるかもしれない。


(だけど、やっぱりレジナルドを一人にはできないよ!)


 氷の魔法を使って、あいつらの足を止めるぐらいならできる。

 危なくなったら、ちゃんと隠れる。

 もちろん、逃げはしないけど!


 いざ! と、駆け出そうとした時だった。


「マ、マリアンヌ様……!」

「へっ? ノア!?」


 ノアは手をつきながらも、ベッドで身体を起こしていた。

 私は慌てて駆け寄った。それをノアが首を振って止めた。


「すみません、きっと僕は倒れたんですね……情けない」

「そんなことないよ! 結界が組み替えられていたって……それでも、ノアはきっと対応してくれてたんだよね」


 ノアは、自分を凌駕する魔力を前にショックは受けたと思う。

 倒れたのはきっと、何とかそれでも結界を元通りにしようとしたからなんだろう。

 でも、きっとそれすら叶わなかった。


(ゲームの世界でボスとして登場したレジナルドなら、ノアを圧倒する。ということは……きっと、犯人はもう一人のレジナルド)


 どくん、と、また心臓が嫌な音を立てる。

 もう一人のレジナルドが、原作本編のレジナルドなら、私が一緒にいるレジナルドはきっと恋愛ルートに存在する彼なのだ。

 そして二人が今、分かたれている。


「行かれるのですね」

「……うん。私じゃ足手まといだと思う、でも、一人にしておけない」


 これならもっと魔法の練習をしておけばよかった。

 レジナルドが手ずから教えてくれたのに。


「僕も行きます」

「! ありがとう、でも、大丈夫なの?」

「ええ。でも、まずはこの寮全体に強固な結界を張ります。僕が作れる限りの。……あの『皇帝』相手にならひとたまりもないでしょうけど、魔獣程度なら問題ないはずです」


 ノアも、もう一人のレジナルドと、自分が共闘したレジナルドの二人がいることをわかっているみたい。


「あと、結界をあなたの身体にも張ります。仮に襲われても、魔獣の攻撃を弾いてくれるはずです。長く持つかはわかりませんが」


 魔法陣が目の前で展開して、私の身体にぴったりと合わさるように消えた。

 特に見た目に変わりはないけど、少しだけ身体が軽く感じる。


「はい、これでよし。あとちょっとおまけもしときました」

「おまけ?」

「魔力をコントロールしやすいようにしました。あんまりこういうのに頼らない方が良いんですけど、緊急事態ですし」

「ありがとう! ノアも無理しないで」

「はい。マリアンヌ様も。あと、アラスターさんは……」

「彼は重傷みたい。そっとしておくね」

「わかりました。では、どうぞ、あなたの大切な人のところへ」

「うん!」


 今度こそ、私は部屋を飛び出した。

 足がもつれて危うく階段で転げそうになるけど、倒れるどころか、よろけている暇さえない!


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