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18.true end ハヅキと共に

「ハヅキ、君を選ぶよ」


 言われたハヅキは手で顔を覆う。

 リンは俯き、アキナはにやりと笑う。サオリは微動だにしてない。


「ハヅキでいいのですね?」


 ナナミが淡々と問う。


「ああ、ハヅキ"が"いい」


 少し強調して告げた。

 ハヅキは顔を覆っていた手を机に置き、力を入れて立ち上がる。


 陽が少し傾いたようで、ステンドグラスから入る陽の光がスポットライトのようにハヅキを照らす。


「元の世界と異世界、どちらを選びますか?」


 胸に手を当てる。息を深く吸って、肺の中の空気を全て吐く。目を強く(つむ)る。

 胸に当てた手で軽く胸を叩き、息を吸って目を開く。


「元の世界で」


 ハヅキはハッとした表情を浮かべる。


「では前へ」


 像の前へ、俺とハヅキは向かう。

 向かい合わせに立つ。


 ハヅキは俺を見上げ、俺はハヅキを見下ろす。ウエディングドレスでも着ていれば、まるで結婚式みたいだ。


「お兄さん、どうして?」


 どうして辛い目にあった元の世界に戻るのか、と言いたげなハヅキ。


「理由があるんだ」


「理由?」


「ああ、俺さ、ハヅキのために頑張りたいんだ。未練があるとかそういうわけじゃないんだけど、この世界に来たことで結果的に逃げてるってことに気づいたんだ。今までの俺から。だから、自分の過去は自分で精算しないとね」


 俺とハヅキの両方の手のひらを合わせて、指と指を交互に絡める。恋人繋ぎなんて言われると恥ずかしいが、格好はまさにそれだ。

 俺はハヅキの目を見つめる。応えるようにハヅキも俺の目を見つめる。


「それに、元の世界なら知ってることが多いから、いろんなところに連れて行ってあげれるしな」


 優しく笑いかける。

 ハヅキもそれに合わせて笑顔を返すが、目尻からは涙がつーっと溢れていた。


「では、ハヅキと元の世界へ」


 ナナミは大声で叫ぶと指をパチンと鳴らす。


 瞬間、白い光に包まれる。

 目の前が真っ白になる


 だが、手の感触はしっかりしていた。

 ハヅキとだったら、どんな未来でも生きていける、そう強く胸に刻みつけて。



   ★   ★   ★



 あれから十年ほど経っただろうか。


「あなた、また来てくれたんですか?」


「当たり前だろ」


 真っ白な天井、真っ白な壁、真っ白なシーツが引かれた真っ白なベッドの上。真っ白な髪の毛、真っ白な服を着たハヅキが横になっていた。

 頬を赤く染めたハヅキのお腹はぷっくりと膨らんでいる。


 あの世界で一週間以上過ごしたはずなのに、元のこっちの世界にハヅキと一緒に戻ったのは、俺が白い霧に包まれて倒れた時から一時間しか経ってなかった。


 その日のうちに辞表を出した。

 反対もされたし上司に殴られたりもした。だけど土下座だって何だってして押し切った。どこからあの勇気が湧いてきたのかはわからない。


 その後違う仕事に就いた。

 前の仕事と給料は変わらないが、週休二日ある分明らかによくなった。


 ハヅキもこっちの世界に来て、普通の人同様に年を取るようになった。

 戸籍の問題や学校の問題など大変なことも多かったが、一昨年無事に婚姻届を提出できた。


「もう少しでアタシたち、ママとパパになるんですね」


 お腹をさすりながらハヅキが呟く。


「そうだね」


「これからはあなたのことばかりお世話してあげられなくなりますね」


「ばーか。俺だって自分のことくらい自分でできるっての」


「えへへ」


 笑い方は相変わらず変わってない。


「子育てだって、ちゃんと分担するからな」


「はいはい」


 これから数年はどこへも出かけられなくなりそうだ。

 しかし、笑顔の数はどんどん増えていくだろう。


 結婚してからは国内海外問わずいろんなところを旅行に行った。

 どこに行ってもはしゃぐハヅキはずっと見てても飽きなかった。


 どんな未来がここから続いていくのか、俺も楽しみだ。

 もう俺は一人じゃない。


 ハヅキとだったらどこへでも行ける気がした。


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