12.ポニテロリとおさげロリ
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
本を読んでいるアキナに一言断りを入れて図書館を出る。
「こっちこそ、手伝ってもらっちゃって悪かったね」
「いいよ、いつでも呼んで」
ふふふ、と笑うアキナ。その笑顔は、先ほどまで見せていた表情とは違い、どこか大人びた女性のようだった。
「ショウさんこの後、予定ある?」
「ないけど」
「それなら、畑を手伝って欲しいのだけど」
「畑? 別にいいけど」
「ありがとう」
「どこにあるの?」
「図書館を出て道を真っ直ぐ歩けばあるよ。たぶん今二人がやってると思うから」
「了解」
アキナに別れを告げ、言われた通りに道を進む。
★ ★ ★
言われた通りの道を進み、畑を見つける。
土の匂いが風に乗り漂い、鳥の声が響く。道草の中から飛び出す虫の姿を見て、昔懐かしい雰囲気を感じる。
畑の隣には小川が流れていて、水の流れる音がなんとも心地よい。
畑にはアキナが言っていた通り、二つの影が見える。
一人は青く光る長い髪をポニーテールに結んでいる快活そうな少女。
もう一人は金色の髪をおさげに結び、三つ編みにしている大人しそうな少女。
二人共が、長袖長ズボンの赤いジャージを着ている。白いラインが袖から肩に、腰から裾に伸びている、小学校や中学校で指定されてそうなジャージだ。
手ぬぐいかタオルのような白い布をほっかむりのように被っているところを見ると、どこか田舎のおばあちゃんを想像するが、見た目は小学四年生位に見える。ハヅキやリンと同じくらいの年齢だろう。
「こんにちは」
人見知りを発動しながらも、挨拶をしてみる。
「こんちはー」
「あら、こんにちは」
優しく挨拶を返してくれた。
「アキナに手伝ってくれって言われて来たんだけど」
「ホント!? ありがとー」
「嬉しいですわ」
青髪ポニテの子はすごい明るい。
金髪おさげの子はとても上品だ。どこかのお嬢様なのだろうか。
「あ、ウチの名前は青山沙織。サオリでいいよ」
「わたくしは藤岡七海と申します。気軽にナナミと読んでもらえると嬉しいですわ」
「俺はショウ。よろしく」
自己紹介を済ませ、畑の手伝いを始めようとするが。
「流石に甚平と雪駄じゃ畑入れないよな」
「ちょっと待ってて、長靴と軍手持ってくる」
サオリが畑横にある倉庫へと向かった。
どうやら道具を取って来てくれるらしい。手伝いに来たのに仕事の邪魔したら元も子もないのでは、と思ったがナナミが「心配しないで」と小声で言ってきてくれた。
「ここの畑はどういう畑なの?」
「自給自足してるんですわ」
「へぇー。確かに、どうやって食材確保してるのか疑問だったよ」
「お肉とかお米とかお野菜とか色々な食材は高頻度で村の広場に知らない間に送られてくるんですの。笠子地蔵みたいに」
「それだけじゃ足りないからってこと?」
「その通りですわ」
どこから送られてくるのは、ナナミ達も知らないのだろう。なのでそこについては言及しないでおいた。
「二人で畑は管理してるの?」
「サオリンが畑当番なの。わたくしはお手伝いですわ」
「なるほど」
幼女達しかいない村の運営も大変だなと思いつつ、サオリの戻りを待つ。
「あったよー」
サオリが右手に長靴、左手に軍手を持って走ってきた。
「どうぞ、使って」
履いていた雪駄を畑の隅に脱ぎ、長靴に足を入れる。
サイズはピッタリ。裸足で履いてるのが少し気になるくらいで他に文句はない。
白い軍手――黄色のボツボツとした滑り止めが付いている軍手を装着すると、サオリがクワを手渡してきた。
「耕せばいいの?」
「うん。耕しながらウネを作ってね」
「トラクターとか耕運機はないんだ」
ばあちゃん家の畑で使ってた機械。どのくらいの科学レベルかはわからないので、一応聞いてみる。
「無いよー。人力でやるしかないね!」
「大変だ」
隣でサオリがクワを下ろす。真似して耕しつつウネを作る。ちなみにウネとは、畑に作る一列の小さな山のことだ。
このウネに種を蒔いていく。別にウネを作らなくても育つ種類の野菜もあるが、収穫するとき通路になるという利便性が高くなるので作るケースが多い。と、ばあちゃんから聞いたので覚えている。真偽のほどは定かではない。
土はあまり固くない。サクッとクワが入っていく。
俺とサオリの作ったウネにナナミが種を蒔いていく。スーパーのレジ袋くらいの大きさの麻袋に種が入っているようで、麻袋を直接持ちそこから直で蒔いている。
「肥料はいいの?」
「もう混ぜてあるよ」
やっと一列終わった、と一息つきサオリの方を見るともう三列も作っていた。流石すぎる。
「わぁーーーーーー」
もう一列作ろうかと場所を移動しようとした瞬間、ナナミが盛大にコケた。
麻袋から種がばら撒かれている。
「大丈夫?」
派手にコケたので、心配になって駆けつけた。サオリも同じことを思ったようだ。
「あーあ、土だらけ」
ナナミは顔とジャージが土だらけになっていた。
「顔洗ってきな?」
「ええ、行ってきますわ」
「俺たちだけでやっとくから」
「申し訳ありませんわ」
サオリはナナミを家に戻るよう促し、顔を洗い着替えたらまた来るよう言った。俺とサオリでばら撒かれた種を拾い、ウネの上に蒔いていく。
結局、作った四列分で種が無くなった。
「一区切りついたし、収穫でも行こっか」
「収穫?」
「うん、別の畑のね」
★ ★ ★
サオリに連れられ、徒歩で三分ほど歩くと別の畑があった。
同じような畑だったが、青々と野菜が生っていた。
「えーっと、白菜、大根、きゅうりにトマト??? 季節感なさすぎない?」
なぜ冬にできる白菜と夏にできるきゅうりが同時に生っているのか。
「この村に季節はないからね」
「そうなの?」
「でも、一定の周期で花が咲いたり野菜ができたりするから、それで季節は感じられるよ」
「夏も冬も同時に感じてる気がするけど」
「まーまー、気にしない。さあ、収穫しよっ」
長靴と軍手を取りに行ったついでに持ってきたという、包丁とはさみを取り出し収穫へ向かう。
「白菜は根元を包丁で切って収穫してね」
包丁を手渡され、言われたとおりに収穫する。瑞々しい、ずっしりとした重みのある白菜を根元を切り離し持ち上げる。
「はい次、きゅうりとトマトね」
包丁を返し、はさみを受け取る。ヘタ近くをはさみで切り収穫。
神々しく緑色に輝くきゅうり、パンパンに赤く熟れたトマトは、採れたて新鮮なことも相まってすごく美味しそうに見えた。
「はい、次大根だよ。腰にしっかり力入れてね」
はさみを横に置き、大根を相手にする。引き抜こうとする大根に跨り、葉っぱの部分を一纏めにして掴む。
「湯屋一同、心を揃えて~~~」
「いや、それ掛け声間違ってるよ」
サオリのことはスルーして、力を込めて引っ張る。
大きな株のように犬や猫に助けられるくらい重い、ということはなくズボッと抜ける。
「採れたぁ」
「結構大きいね」
白くて太い綺麗な大根。
なかなかスーパーでも見かけないようなサイズの大物が採れたことは少し嬉しかった。
「さぁーて休憩しますか」
収穫した野菜を持って、元の畑の方に戻る。
二つの畑の間にある小屋のような倉庫を指差すサオリにはてなマークを浮かべながらも着いて行く。
「ここウチの家だよー」
「え、倉庫?」
「違う違うその隣」
倉庫脇に家が一軒。
外見はハヅキやリンの家と同じだったが、縁側が付いている。
「こんなのもあるんだ」
レンガ造りのような家本体に増設したように縁側だけが付いていた。
「やっぱ畑仕事の休憩は縁側でしょ」
縁側の軒先には風鈴が掛けられており、風に揺れてチリンチリンと高い音を鳴らしている。
「夏っぽいでしょ? 好きなんだ、夏」
そう言って笑うサオリは、縁側にあった籠に野菜を入れる。
「あ、ナナミっちー。ちょうどいいところに!」
サオリは、着替えてきたナナミを呼び寄せてから、小川の方へ向かっていった。
当のナナミはまさかの体操服に着替えている。白い体操服に赤い短パンジャージ。ブルマじゃなくてよかったと心底思った。
「よぉーく冷えてるよぉ~~」
「だからそれ違うだろって!」
何かと聞き覚えのあるセリフを発するサオリにツッコミを入れる。
どうやら小川で野菜を冷やしていたようで、笊にきゅうりとトマトを持って小川からやってきた。
「食べてみてよ」
サオリからきゅうりを手渡された。言っていた通り、冷蔵庫に入れたように冷たくなっていた。
ヘタをかじり捨ててから食べる。
「美味い!」
マヨネーズ等の調味料を付けなくても美味しい。
「おいひいでふわ!」
トマトをかじったナナミが、口の周りに汁でベタベタにしながら笑う。
「あーあー、せっかく顔洗ってきたのにナナミっちったらー。タオル持ってくるよ」
サオリはタオルを取りに縁側から家に入る。
「なんか昔を思い出すなぁ」
小学生の夏休み、ばあちゃん家に行ってた頃を思い出す。実家も住宅街にあったので、長閑な田舎に住んだことはなかった。
だからどこか、こういう都会ではお目にかかれないものと出会うとばあちゃんを思い出す。
「ばあちゃん、元気かなぁ」
ずっと会ってないなぁ。
中学に上がってから会ってないことを思い出した。
「そっか俺、一度は死のうとか思ってたもんなぁ」
「お兄様は帰りたいとか思ったことあるんですの?」
口の周りをベタベタにしながらナナミが聞いてきた。
「どこに?」
「この村から、ご自分のいた世界に」
「今のところないかな。ホームシックとかなった事ないし」
「そうですの」
「でも今は、ばあちゃん家に行くのに戻ってもいいかなとかは思ったよ。あの時は仕事休めなかったから、そんなこと考えたこともなかったけど」
「うふふ、おばあさま思いなんですのね」
「そういうわけじゃないけどね」
笑い返すと、サオリがタオルを持ってきていた。
「もうナナミっちはドジなとこあるんだから」
「ありがとうございます」
「あ、お兄ちゃん。余った野菜はハヅキっちのとこ持ってってよ」
「わかった」
「ハヅキっちって料理上手じゃん? 羨ましいよ。ウチもハヅキっちの家に住みたい」
「その言い方は、料理したくないだけと見た」
「てへ、バレちった。じゃあ、これ。お願いね」
余った野菜とは言いつつも、先ほど収穫した野菜を籠ごとそのまま渡された。
「はいよー」
重たい野菜を抱えながら、二人に別れを告げる。
この村に来れて良かった。仕事が辛くて自殺も考えたが死ななくてよかった、と心の底から思った。




