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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
28/65

縁故

なんか調子良く筆だけは進む……。


28話目です。宜しくお願い致します。

 昨夜とは打って変わって、雨は嘘のように上がり、ぬかるんだ大通りの水溜まりに太陽の光が反射している。

 今朝になってグレーデルからもう一晩ぐらいなら泊まっても問題ないと告げられ、ならばと先ずは船を探しに港側にまで足を延ばしてやって来た直人達は、ソルとは違う露店や商店の活気の高さに浮き足だっていた。


 「よおよお、そこのお姫様。この髪飾りはグリフォンの魔石から削り出した特注品だよ。世界に一つしかないこの逸品、銀髪の姫にしか似合いっこねぇって代物だよ」

 「え? 本当? やだ、姫様って? ねぇ聞いた直人? どう似合う? って、待ってよ~」


 うっとりとした眼差しで、後ろにいるはずの直人に髪飾りを着けて見せようとしたニースは、今日何度目かのおいてけぼりを食らっていた。


 「ったく、何度目だよ……チョロすぎるだろ、流石に……」

 「ふふふ、あの娘はソルの時もそうだけど、大きな街に出たことがなかったからしょうがないわ」

 「それにしてもさぁ……」


 追い付こうとしてるその足が、また違う店の前で止まる。確かに銀髪のニースは珍しく声を掛けやすいのだろうが、その都度足を止めては、いゃん、とか良いながら身体をクネクネするニースもどうかと思う直人だったが、ちゃっかり買わずに店先で褒めさせるだけ褒めさせるニースも凄いなとも思っていた。


 「そのうち変なやつに連れてかれんじゃねえの……」

 「ふふふ、警戒心は強い娘だから大丈夫よ」

 「あれで……?」


 女ってヤツは、とげんなりしながらも後ろ目に、身体をクネクネさせながらネックレスを首元に合わせているニースを見て、再度すげえなと感心する直人だった。


 「ふふふ、気になるのなら直人が何か買ってあげたら? きっと喜ぶわよニース」

 「マジかよ……でも、俺こっちの金なんて一円も持ってないぜ」


 そういやこの世界の通貨とか知らないなと直人は改めて思った時、ティナが手を差し伸べて直人の手に何かを握らせた。

 見ると500円玉を少し分厚くしたような銀色の硬貨だった。


 「銀貨よ。これ一枚で大抵のものは買えるわよ。ただし、あまりこういうところで大っぴらに出さない事、スられるか吹っ掛けられるわよ」

 

 ウインクをしながらティナはそう告げると、船は私が手配するから昼時の鐘が鳴るまでに、来るときに有った大通りのレストランで落ち合いましょう、とティナはサッサと人混みに入っていってしまった。


 (え? いきなりニースに何か買わなきゃいけないの? え?)


 「あれ? ティナは?」


 ニースがホクホク顔でようやく追い付いてきてティナがいないことに疑問を持ったが、直人は何故か焦ってしまい、吃りながらティナが一人で行った事を伝えた。


 「ふうん、じゃあ折角だし色々見て回ろうよ。私もう楽しくって。ねぇ、あれ見て! カッワいい~」


 自然に手を捕まれて白いフリフリのレースの服が飾られた店に向かう。

 (え~~、いきなり手繋ぎデートっ! え~~~)


 地球では祖父母に育てられ、尚且つ空手家として一応は硬派を気取っていた直人は、もちろん彼女など居たこともなく、突然の出来事に心がついていかない。 

 ニースはどんどん店を取っ替え引っ替えウィンドウショッピングさながらに様々な店に直人を連れ回した。


 廻るだけ廻って結局何も買わずに露店の通りを抜けた二人は、休憩がてらに高台の灯台に来ていた。

 こっちの世界にもあるんだなと直人が見上げていると、ニースが勢いよく手を引っ張って崖になっている縁まで連れ出された。


 「うわぁ、これが海? 広~~~い。それに」


 翡翠色の瞳は太陽光を反射する海のように輝いている。


 「キレイ……」


 陽の光を受けた銀髪が風に踊り、宝石のようにキラキラと眩しい。


 「こんなキレイな景色があるなんて、世界はやっぱり広いなぁ」


 無邪気な笑顔に鼓動が早くなる。

 

 「直人の世界にもこんなキレイな景色があるの?」


 髪をかき揚げると露になるうなじが艶かしく目に写る。


 「どうしたの?」

 

 気付けば目の前にあどけない顔をした少女の顔が視界一杯に……


 「って、うわぁ、近い近いっ」

 「な、何よ、ひ、人の話聞いてないからでしょっ」


 正気に戻って驚いた直人の反応に、顔を赤くして怒るような仕草を取るニース。


 「き、聞いてたよ。ちょっと考え事してただけだよ」

 「何よ? 人が話し掛けてるのに……も、元の世界に残してきた、こ、こ、恋人の、事……とか……」


 語尾が小さくなり聞き取れなかった直人が、え? と聞き返したが、ニースは直人から顔を背けて海を見詰めながら、何でもないと今度は本当に怒って返した。

 やれやれと肩を竦めながらニースの隣に立って直人も海を見る。

 こうして見るとキレイに見えた沖縄の海よりも透明度が高く、何にも汚染されていない事が良く解る。


 「俺が住んでた世界はさ」


 直人は遠くを見ながら話し出した。地球を離れてまだ何日も経ってないのが不思議な感覚を覚えながら。


 「この世界より文化や道具が発展していて、そりゃ争いもあるけど、俺の国は中でも平和な国で戦争なんて反対だぁって国が言うような所で、俺も唐手やってるけど、争いの為じゃなくて、自分を鍛えたくて……強い兄さんを目標にしたり、頑張ってる姿を見た母さんが喜んでくれたり、本当平和で幸せだった」


 ニースはそっと直人の手を握りながら、うん、と相槌を打ってくれた。


 「道具が発展して科学って技術が出来て、この世界に比べると色んな物に汚染されてるんだろうけど……この景色に負けないような光景が、俺のいた世界にも有るよ」


 直人は手から伝わるニースの温もりに心暖まるものを感じた。これが恋なのだろうかと考えるが、少し違うようにも思う。


 「直人は、この世界が」

 「いや、まだ良くわからないけど、俺がいた世界も、この世界も根本は何も変わらないよ。一緒さ」


 そう、とニースは少し嬉しそうに耳の先をピコピコさせて、輝く海に視線を移した。


 「それに、魔法や魔物なんてお目にかかる事も無いしな。そうそう、エルフなんて俺の世界じゃ伝説や物語にしかでてこないんだぜ」

 「なによそれ、私は珍獣扱いなのっ」


 はははと笑い声をあげながら、怒るニースが振るった拳を難なくかわす直人は、ふと足を止めて考えた。

 突然止まった直人の顎にニースのアッパーが見事に炸裂して、おぅと声をあげて尻餅を付く直人に、ニースはどうだと言わんばかりにどや顔で覗き込むが、真剣に考え事をしてる直人を見て、どうしたの? 頭でも打った? と冗談半分に心配の声を掛けた。


 「そうか、同じなんだよな。俺の世界にこっちから来るヤツがいるんだから、物語に出るエルフや魔獣、妖怪ってのは案外本当に居たのかもな」

 「そうねぇ、確かに言われてみれば、じゃあ、私が直人のいた世界に行くこともあるわけだ。なるほどなるほど」


 二人してうんうん頷きあいながら全く違うことを考えて、笑い合った。

 そうしてる内に、昼を告げる鐘が街中に鳴り響いた。

 それに気付いた二人は大慌てで、ティナが指定したレストランへと駆け出して行った。


 

 ティナと合流しレストランの円卓になった席に着いてから、ニースが機関銃のように言葉の弾を弾き出したのを直人はげんなりと、ティナは微笑みを浮かべて聞いていた。


 「うっるっさぁああっいっ!」


 しばらくして料理が運び込まれてきたタイミングで、突然隣のテーブルの金髪をポニーテールにした少しボーイッシュな服装の少女が、その場で立ち上がってニースを睨みながら雄叫びをあげた。

 突然の事に丁度正面から見据えられる形となったニースがポカンと口を開けて動き、と言うかおしゃべりを止めた。


 「ここは食事をする場所よ。少しなら私も黙って見過ごすけど、いつまでもいつまでもベラベラと、しかも大きな声で。少しは礼儀をわきまえたらどうなの」

 「ご、ご免なさい……」


 あまりの剣幕に咄嗟に謝るニースを見て、直人も我にかえった。


 「おい、そっちこそいきなりそんなに怒鳴る事はないだろ」


 がたっと負けじと直人も立ち上がり少女を見据える。まあまあとその場を納められるほどにはまだ大人でもないのだ。むしろ地球でもその澄ました態度から幾度もケンカを売られ、その悉くを叩き買いしていた直人が、仲間を詰られ黙ってはいない。


 「ふん、拙い言葉遣いでこの私にケンカを売ろうっていうのかしら?」

 「ケンカ売ってんのはそっちだろう」


 両手を組み仁王立ちに少し吊り目がちな目で直人を睨む少女の眉根がピクピクと上下する。

 直人が少し冷静になり、なんだこの少女はと思った矢先に、少女の連れ合いだろう、大柄な男が自然に立ち上がり、直人がその男に視線を移した瞬間に飛び掛かろうとした少女の首根っこを捕まえた。


 けふっと少女が宙に猫のように摘まみ上げられ、四肢をジタバタと暴れさせる。


 「落ち着いて下さい、ひ……アンナ。ここは彼女達のように会話をしながら食事をする場所なのです」

 「な、なにをっ、そんな下品な……」


 言いながらも、自分達の喧騒などいつもの事だと言わんばかりに、店内ではそこかしこで談笑しながら食事をしている客がいた。

 どうやら、ただ隣だったから周りよりもニースの声が気になったようだ。


 「ふ、ふん、解ってるわよそれぐらい。だだ私は、女の子にしては声が大きいわよって言いたかっただけよ」


 まだバタバタと四肢を暴れさせながら男に反論するアンナ。

 しかし談笑する他の客の中から、一際甲高く笑いながら話すお姉さんの声が一向の間を駆け抜ける。

 

 「ぐ、もういいわよ……悪かったわね……早く降ろしなさいよランスロット」

 「いけません、ひ……アンナ。人に謝る態度ではありませんよ」

 「なら、さっさと降ろしなさい。こんな宙吊りで、礼も態度も有ったもんじゃないわよ」


 おっとこれは失礼、とランスロットは吊し上げていたアンナを床に降ろした。

 

 「先程は私の勘違いでご不満を被り、誠に失礼致しました。お詫びにと言ってはなんですが、ここの代金は私達に払わせて下さいませ」


 ポニーテールの少女アンナは履いてもいないスカートの裾を持ち上げる仕草をして、頭を下げて膝をちょこんと折った。


 「どぉ? これでいいでしょ?」

 「決めるのは私ではなく、彼女達で……」

 

 ランスロットがアンナからニースに視線を移すと、ニースの視線はランスロットに向いている。

 ん? とランスロットが他の二人を見ると、直人もランスロットに釘付けで、ティナは何時もの微笑みも消えて、目を見開いてランスロットを凝視していた。


 んん? とアンナとランスロットが首を傾げていると、ティナがようやく口を開いた。


 「失礼ですが、貴方の御名前を御伺いしても宜しいかしら?」

 

 真剣な眼差しを向ける美女がランスロットに問う。

 ランスロットは少し考えてから名乗り上げた。


 「ランスロットです。訳あって姓は明かせません」

 「そぉ、では、ビレンツェン家はご存知ですか?」


 ティナは明かせないと言った姓に興味を引かれたのか、下がることなく更に質問を重ねた。

 ランスロットも不思議そうな眼差しをティナに向けるが、即答して返した。


 「いや、我々はアデル大陸から渡ってきたばかりで、此方の家名は余り存じ上げない。が、ビレンツェンとはもしや、かの竜殺し(ドラゴンキラー)の家名では有りませんか? すると貴女方はその関係者か何かでしたか? これは知らぬとは言えとんだ失礼を。此度は……」

 「いえ、知らないならば良いのです。私達は確かにビレンツェン家と縁はありますが、他方の方が気にすることではありません。此方こそ不躾な質疑失礼致しました」


 ティナはそれだけを早口に言うと先に行くわと、ニースが止めるのも聞かずに足早に店を出てしまった。


 残された四人は訳もわからず、いや、正確には二人はわからずにポカンと棒立ちになっていた。


 「ま、まあまあ、これも何かの縁ですし、さっきのは水に流して御一緒にどうですか?」


 いち早くニースが気を取り直し、主にランスロットに視線を向けながら提案すると、アンナとランスロットも苦笑いしながらも同じテーブルへと着いた。


 しばらく無言で進む食事に、やはりニースが口火を切った。


 「あのぉ、ランスロットさんには生き別れた兄弟とかいます?」

 「いや、聞いた事は無いが、先程も申し上げたが此方は余り詮索されたくはないのだが、それでも私の出自を気にしておられるのはどういった訳かな?」


 ランスロットは口に運ぼうとしていたパンを置いて、鋭い目付きでニースと直人を見た。

 ニースと直人は互いに目配せしてから、再びランスロットを見て答えた。


 「ランスロットさんの顔が私達の知ってる人に瓜二つなんです。本当に、双子のように。声は流石に違うんでわかるんですけど、黙ってると見分けがつかないくらいに」


 そお、ランスロットは三人から見れば、どこから見てもフォルディスに見えるのだ。少し陽に焼けた髪色と肌色、短髪に今生えている無精髭や筋肉の付きかたまで全てがフォルディスに瓜二つであったのだ。


 ニースは話し出した。旅の目的や魔神や吸血鬼(ヴァンパイア)、三人にとっての、取り分けティナとフォルディスの関係についてを。直人の正体だけは伏せておいた、此方も無用な詮索は好ましくない。


 アンナとランスロットは黙って聞いていたが、ニースが話し終えると、ずっと黙って食事をしていたアンナは涙を浮かべながら、感無量な表情で大変だったのねとニースの手を取りながら共感しだした。

 ランスロットも難しい顔をしながらもうんうんと頷いて話を聞いていた。


 「辛い旅ですな……」

 「私が力を貸すわ! こう見えても神聖魔法が使える神官位でもあるのよ。きっと役にた……」

 「為りませんっ」


 ニースの手を両手で覆うように握りしめたアンナの言葉を、ランスロットが横から強く否定した。少し怒った感じもそっくりだ、と直人は見当違いの事を考えていた。


 「姫、我等がなぜ国外に出ることになったかをお忘れか? 姫には姫の成すべき事があるのですぞ」


 そんな怒った様子のランスロットを見当違いに見ていた直人は思わずアンナを二度見した。


 「ひ、姫?」

 「「あ……」」


 アンナがキッとランスロットを睨み、ランスロットは天を仰ぎ見た。出た言葉は帰らない。


 「マジかっ、ひ……むごがご」

 「余り大きな声は御免被る……私が言うのもなんだが……」


 咄嗟にランスロットが直人の口を塞ぎ、辺りをキョロキョロと見回した。不審な者は居なさそうだとゆっくりと直人の口を塞いだ手を離す。


 「げほっげほっ、でもどうして姫様がこんな所にこんな格好で? ってどこの国の姫様?」

 「あ、余り連発しないでもらいたい。アンナと呼んでいる」


 小声ではあったがそれでも姫と言う単語に警戒心を上げたランスロットが直人に注意をいれる。


 当の姫様は隣のニースから目映いばかりの視線を受けて、無い胸を張って得意気にふんぞり返っていた。


 「ふぅ、ここではこれ以上話せん。正にこれも何かの縁なのだろう……我等が泊まっている宿ならこういった話もしやすい。そちらへ移りませんか?」


 直人とニースは、先に出たティナが気掛かりだからと、一度自分達も宿に戻る事にした。

 ティナの了承を得てよければそのあとにと約束しお互いに泊まっている宿を告げようとしたが、そこで直人もニースも自分達の泊まっている宿の名を知らないことに気付き、アンナ達が泊まっている宿を教えてもらった。

 

 街に着いたばかりで地理には疎いが、道のりを聞くとどうやら互いに近いのではないかとなり、途中まで一緒に帰ることにした。


 「そうそう、大通りを逸れた所にあるんだ」

 「なるほど、私達も趣味の悪い感じの宿だけど、わざわざ大通りを逸れて建てている所はお前達の所も趣味が悪そうだな」

 

 さっきは声の大きさでニースを注意していたアンナも、気が知れたのか店を出てからは大声で喋り続けている。しかも口が悪い。直人が本当に身を隠している姫様なのかと疑いを持つほどに。

 そんな姫様に理不尽に注意されていたニースは、本物の姫様を目にして、キラキラと瞳を輝かせながらアンナを見ていた。

 今は只の口の悪いボーイッシュな少女なのにだ。姫様への憧れは映る姿も変えてしまうらしい。


 しかしこの娘も複雑な事情があるのだろうと、そんな考えは出さずにアンナの会話に付き合う直人。 


 「そうそう、趣味が悪いって言うと、その宿屋だけ壁が黒塗りなんだよなぁ、隠れ家的雰囲気を作っているのかも知れないけど、周囲から浮きまくってんだよね」

 「そうだろうそうだろう、趣味の悪い宿屋は壁が黒塗りになる文化なのだろうな」


 「「「「ん?」」」」


 四人が一斉に顔を合わせる。

 丁度、大通りから逸れた路地の先に黒塗りの宿屋が見えた時だった。


 「「「「え~~~~」」」」


 四人は無事宿屋に辿り着いた。


  


少しづつ物語は進んでいく。


さてさてティナとランスロット。直人とニース。アンナは……。


無事街を出られるのか? 


次話から戦闘パート? になればいいなぁ……展開は頭より指が決めてる気がする今日この頃……。


こんな話ですが、楽しんで頂ければ最上です。

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