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ドラゴニック・マナ  作者: ボケ封じ
第一章
29/65

決別

 はあ、GWかぁ……。


 29話目です。宜しくお願い致します。

四人はお互いに顔を見合って立ち止まった。まさか同じ宿とは思ってもいなかったのだ。


 「いやはや、浅からぬ縁と認めざるを得ないな、これは」


 ランスロットは顔を綻ばせて、肩を竦めてみせる。

 ニースははしゃいでアンナの手を取り跳び跳ね、体格の小さいアンナはまるで振り回されているように、ニースの動きに体を持ってかれながら微妙な微笑みを浮かべていた。


 「ああそうだな。さてと、んじゃ俺達は一旦部屋に戻るよ。多分ティナはいかないと思うが、また後で話を聞かせてくれ」

 「わかった。我々も部屋に戻って待っていよう。では後程」


 直人達は宿に入り一旦別れ、直人はティナに経緯を話して後に、ランスロット達の部屋でレストランでの話の続きを聞くこととなった。



 一歩入って目に入ったリビングは20畳くらい、意匠の凝らされた貴族の邸宅には劣るが、置かれた家具はどれもが主張し過ぎずに其々の役目を全うし、且つ調度品としての美しさを兼ね備えて部屋に溶け込んでいる。

 床には短めに刈り込まれた毛皮が引き詰められているが染み一つ無い。

 窓は内側がガラス、外側が木製の二枚式、それが各部屋にあり今はリビングの窓はガラスのみにしてあり外の明かりごが程よく部屋に入ってきている。

 入り口から右側にバスルーム、左側に寝室と付いており、これにキッチンでもあれば立派な家だ。同じ宿の部屋とは思えない造りになっている。


 隣に立つニースの口がポカンと開きっぱなしだ。田舎育ちだし珍しいのだろう。俺もこの毛皮の上を靴のまま行くべきか悩むぐらいだしな。


 「待ってたわ。窮屈な所だけどどうぞ」

 「あ、ひゃいっ」


 おいおいニース、なんかロボットみたいな動きしてるぞ……。


 「そんなに畏まらなくて良いわよ。私もここじゃ只の町娘なんだから」


 只の町娘はこんなところにそんな強そうな人と一緒に泊まらないよ


 直人はちらと扉を開けてくれているランスロットに目をやりながら、ニースロボを追って並んで皮張りのソファーに腰掛けた。ソファーもふんわりとした後にある程度沈むとしっかりと身体を支えてくれる。


 ランスロットが紅茶を淹れてくれた。少しベリー系の香りがして飲むと緊張が解れる。 


 「なにから話しましょう? あぁ、先ずは自己紹介が先ね。私はアンネローゼ・ディル・テ・オルティアーノ、神聖オルソン王国王位継承権第三位の立派なお姫様よ。今年で14になる。でも今は町娘だからアンナで良いわ」

 「私は神聖オルソン王国王女であらせられるアンネローゼ王女殿下の筆頭近衛騎士ランスロット・シュターゼンだ。ランスロットかランスで構わない。姫様の教育係も任されている」


 一度ソファーから立ち上がり、短パン姿でない裾を持ち上げる仕草をして軽く膝を折って挨拶するアンナと、テーブルの横に立ったまま後ろ手に腕を組み宣言するように名乗ったランスを、やはりニースはキラキラとした瞳で見ていた。

 王女殿下……近衛騎士……とかブツブツ言ってる。なんか怖い……。


 「俺達はレストランで名乗った通りだからそのままだよ、宜しく」


 と簡単に済ませる。相手がお姫様でも畏まらない方が良いと考え、軽いお辞儀に留める。


 「さて、本来ならば姫……オホン……アンナの正体を知られれば遺憾ながら口封じと考えていたが、これも何かの縁、宜しく頼むよ」

 「ばらしたのはランスロットだけどね」


 つり目なアンナの目が細められながらランスを射抜く。だが、本気で怒っている感じでは無さそうだ……多分。


 「あはははは、そうだったかな? ところでやはり先程の美女、いや、美しい人? いやいや……ティナと言ったか? 一緒では無いのか? いや、他意は無いぞ」


 ランスが若干しどろもどろとティナについて聞いたが、直人は肩を竦めるだけだった。部屋に戻った時ティナは居なかったのだ。突然他人とは言え死んだ恋人が目の前に現れたようなものだ。日も経っていないとなれば思うところもあるだろう。

 そうかと少し肩を落とし気味のランスに替わって、アンナが空気を察してか話題を変えてきた。


 「お前達の事は先程の話で良く解った。大変な身の上でもあるのだろう。だが、我等の事を聞けば、お前達も巻き込まれるかも知れんぞ?」


 警告と言うよりは試されている風にも聞こえるが、何かあるのならここでこうして話している時点でもう決まりだろ。直人はいつも通りに答える。


 「巻き込まれるなら助けるさ。みんなに助けてもらってる俺が言うのも何だけど」


 ニースに顔を向けると激しく頭を上下している。それを見てくすりとしながらアンナに改めて顔を向ける。アンナも微笑んでいた。

 外で見た時は目の奥が常に警戒していたが、今の笑顔にはそれがなかった。信用されて安心したのか、自然な笑顔は可愛いんだなと素直に直人は思ったが、当然口には出さない。


 「どうせ、あれだろ? 王位継承権を持ってるのが邪魔で狙われている、とかだろ?」


 良くある話だ。ゲームや漫画の定番だしなと直人は考え軽い気持ちで口に出してみたが、アンナは俯き肩をわなわなと震わせ始めた。それを見てから直人は軽率だったと思い至った。

 直人にすれば、ゲームや漫画で良くある、歴史においても度々興っていた事でも、当事者にしてみればどれだけの負担があるかは外部の人間には計り知れない。


 素直に直人はごめんと謝罪の言葉を漏らした。


 「神聖オルソン王国は二月前に王が崩御されて以降、王位を巡って荒れております。直人が言った通りだが、仲睦まじかった実の兄弟がある日突然自分の命を狙う敵となれば……」

 「敵ではない! 今は国と民の為と焦っておられるのだ……決して……断じて……」


 ランスがスッとアンナの後ろにまわり、失言でしたと謝罪した。直人もある日突然自分の兄、和馬と命のやり取りをする想像をしてみたが、全く思い浮かばなかった。有り得ないからだ。だが目の前で俯き震える少女にはその有り得ないと信じていた事が起きたのだ。その心情はやはり計り知れないものだ。


 「でも、普通なら継承権一位が王様になるんじゃないのか?」


 直人は気になっていた事を聞いてみた。そもそもそういう争いを起こさせない為の継承権でもあるはずだ。


 「普通ならば、だ。継承権第一位であらせられるリグルド王太子殿下は、元々お身体が弱く現在病床に耽っておられまだ回復の目処は立っていない。そこで第二位であらせられるネルソン殿下が声を挙げたのだが、あろうことか、王国の宰相であるアルフレッドが継承権第四位ジークハルト殿下を擁立してきたのだ」


 王国宰相の立場にあることを利用し、まだ五歳と言うジークハルトを擁立、ネルソン陣営の陥れに掛かっているアルフレッド伯爵。

 当然ネルソン率いる陣営も自らの正統性を掲げて対立することになる。普通に考えれば対立になど成る筈もない処に、アルフレッド宰相が暴露した真実に王宮が揺れた。

 王位継承権を持つネルソンは、実は王の子ではなく王妃の抱える愛人の子であると言うのだ。


 DNA鑑定はおろか血液型鑑定すらないこの世界では、噂や証言が物を言う。根も葉も無ければ噂は立たじ。事実王妃は愛人を抱えているし、王妃がネルソンを身籠った時に当時の侍女達が何故か入れ替えられ、今は行方知れずという事実が風聞を拡げた。王妃がこの政権抗争に加わろうとしないのも一つの要因だ。

 

 定期的に入れ換えが決まっている侍女衆や、広い国内でゆっくりと過ごしている退役侍女の余生などは王都の民は知りもしない。


 かくして、ネルソン派とジークハルトを擁立するアルフレッド派との抗争が瞬く間に始まり、王位継承権の返還を宣言したアンナも両陣営から、勧誘と排除という相反する行動を受けた。


 王女という立場は民から愛されやすい。慈母性、友愛の象徴となるのだ。特にアンナはその砕けた性格から、より民衆に近い王女として慕われている。そんなを両陣営が懐柔、従わない場合アンナの台頭を危険視して排除となるのは当然だろう。


 継承権を返還し、どちらの陣営にも当然付かずにいたアンナは、いよいよ命を狙われるようになった。

 始めは事故死に見せ掛けようと、部屋のバルコニーが崩れたり、河の橋が落ちたりが、次第にあからさまになっていき、毒入りの食事(神聖魔法が使えるので直ぐに無効化)、夜間の暗殺(ランスが返り討ち)等目に見えるところに来て、対外的には国外で様々な文化を学ぶためとランスを連れて国を出た。

 キリウス帝国、武闘国家ファティマを経ても追撃は掛かり、遂には大陸を越えて来たと言う訳だ。


 「アンナは……アンネローゼ様こそが王国を憂いておられる……これ程に民に近く、民を愛し愛される殿下が……」

 「……今の王国は何が真実で、誰が正しいのかさえ解らない状態……だから……私は逃げたのよ……自分の責務を放棄して……ランスロットや一部貴族達が言うように私が立てばもしかすれば収まるのかも知れない。でも……恐らく抗争は長引くことになる……そうすれば負担は全て民が被ることになる……どちらかに付くことも選べなかった私は、逃げるしか思い付かなかった……」


 地球のしかも日本に暮らしていた直人には及びもつかない日常。死に関わる紛争だ。

 山に入って罠に掛かった獲物を仕留めるのとは違う。

 ケンカを売られて刃物を出された事もある。

 一歩を間違えてれば死が絡むかも知れないのと、相手が明確な殺意をもってやって来るのでは全く違う。しかも相手は血の繋がった兄弟だ。直人もニースもアンナ達に掛ける言葉は持っていなかった。


 暫くの静寂の後、アンナが口を開いた。


 「だからそんなことは忘れて私は町娘になるのよ。ランスロットが居れば取り敢えずは安心だし」


 その言葉に一同がランスを見上げる。

 涙を流しながらも、背筋を伸ばし身命に替えましてもと右手を胸に当てながら宣言するランスからは、並々ならぬ覚悟と決意が伝わってくる。


 「そうか……俺達は数日のうちにこの街は離れるんだ。その間だけでも仲良くはしたいな」


 直人はあまり得意ではない笑顔を作ってアンナを見た。だが、アンナからは予想とは違う答えが返ってくる。

 

 「何言ってるの? 私たちもついていくわよ」


 「「「え~~~」」」


 打って変わってニコニコと笑顔を向けるアンナに三人が目を向く。


 「あら? こんなにか弱い、薄弱な運命の私をあなた達は捨てて行くの?」

 「捨てて……って、いやいや俺達は命を狙われてるんだぞ?」


 直人が思わず身を乗り出してアンナに迫るが、アンナはどこ吹く風だ。


 「私も狙われてるわよ?」

 「いやいやいやいや、そうだけど……そうじゃなくて……」


 ニコニコと宣言するアンナに押され気味な直人が、言い淀んでニースを見るが、ニースの目はキラキラしていた。


 (あ、駄目だ、これ……)

 「良いじゃない。旅は道連れって言うし、多いに越したことは無いわよ」


 かなりテンションが上がってるが、姫を守る賢者クフフフ、とか聞こえる……。


 「そ、それにティナが……」


 ティナの名前を出した所でニースも、あっ、と気が付いたのか二人してランスを見る。ランスも苦笑と言うか残念そうなよくわからない表情だ。


 「では、そのティナの同意が得られれば良いのね? わかったわ、で、そのティナは何処にいるの?」


 今度はアンナが身を乗り出してやる気を見せてきた。

 直人もニースもたじたじと勢いに呑まれかけている。


 「ふふふ、やんちゃな姫様ね」

 「「ティナ」」


 普通に扉を開けてティナが部屋に入ってきた。


 「危機感が足りないのでは無くて? 私のような女でもすんなりと入ってこれるな警戒で今まで良く生きてこられたものね?」


 神殿の神官衣ではなく、イブニングドレスのような黒いロングスカートに同じ絹製の服を纏って、上からマントを羽織ったティナが、半ば馬鹿にするように指摘しながら直人達の後ろに立った。


 じろりとランスを一瞥するが、興味も無いような表情をしたあとは、怖いお姉さんな笑顔をアンナに向ける。


 「私達の旅は生半可な覚悟では成り立たないわ。この子達から何を聞いたかは解らないけど、少なくともどこぞのお姫様が現実逃避の道楽で付き添うものでは無いわ」


 一国の王女に対して言う言葉ではないが、冷たい眼差しのティナの言葉にアンナもぷるぷるしている。


 「現実逃避? 道楽? 付き添う? 言わせておけばぁ……ランスロット!」


 烈迫の姫の号令に反射的にランスが、はっ、と身を正して答える。

 

 「斬り捨てなさいっ」

 「はっ、え? いや、姫、それは……」

 「いいから、この女を、今、すぐ、直ちに、斬り捨てなさいっ!」


 あ、いや、しかし、とティナとアンナを交互に見ながらランスが動揺を見せる。が、束の間帯剣していた剣の束を握り、驚愕の表情でティナを見る。その理由に直人達も驚いて後ろに立つティナを見上げた。


 「ふふふ、偉いわ、私の魔力を感じるのね? でも遅いわ」

 「ティナ?」


 魔力精錬を行いながら、スッと伸びた右手がニースの頭に乗せられると、ニースは途端に身悶え始め、頬を染めてティナの腕にしがみつくように立ち上がる。

 何が起きているのか解らない直人はニースを見るが、はぁはぁと息遣いを荒くしながらティナにしなだれるニースは、半ば泣きながら、見ないで、見ないでと直人に溢しながら、膝を揺らしその場で果ててソファーに倒れ込んでしまった。

 直人が抱き抱えると女特有の匂いが鼻をつくが、経験の無い直人には解らない。腕の中でビクビクと身悶えるニースをただ心配する直人。 


 「うふふふふ、生娘には刺激が強すぎたかしら?」

 「貴様、何者だ?」


 遂にランスが剣を抜き、左手でアンナを軽々とソファーから自分の後ろへと引っ張り込んで、ティナに剣を向けて構えた。


 流石に直人も異常を察してニースを抱えて部屋の入り口付近へと一跳びで移動する。粗い息遣いのままのニースを床の毛皮に寝かせ、両腕を上下に別けて、前羽の構えをとる。


 「遅い、遅い、遅いわね~。もう遅いわ。そこの坊や? 私に構ってる場合ではなくてよ?」

 「ぐっ」


 ティナに視線を向けられて身構えるが、いつの間に後ろを取られたのか? がっしりと羽交い締めにされる直人。しかし、外せない力ではなく、強引に腕を抜くと、肘を後ろに叩き込む。アンナがダメ、と言う声は一瞬遅く、直人の速さが仇となった。


 肘を腹部に受けた相手はその場で崩れ落ち嘔吐している。が左手でがっしりと直人の腰紐を掴んでいる。

 しぶとい、と思うのとアンナのダメの声が重なり、直人は追撃を止めて吐きながらも自分にしがみついてくる相手を見て目を向いた。


 少し血の混ざった吐瀉物を吐きながらもしがみつくように、自分を捕まえているのはニースだった。

 頬を紅潮させて直人の一撃を受けて尚恍惚の表情を浮かべるニースは、年に合わない妖艶な顔をしながら、翡翠の瞳からは涙を流していた。

 その目を見て、ニースの肩を押さえながらティナに振り返る。


 「ティナ! どういう事だ? なんなんだこれは?」

 「ふふふふ、馬鹿なのかい? お前は。まだ仲間と思っているなんて、ふふ、あっはっはっはっはっ」


 愚か者を見るように蔑んだ瞳で高笑いを浴びせるティナ。直人は状況が読めず悩むが、良い判断は出来そうに無い。


 「ごめん」


 ニースに視線を移すと同時に手刀打ちを首に入れ、ニースの意識を断つと、そっとニースを毛皮に寝かせて怒りの表情を宿してティナに向かった。


 「あらあらあらあら、躊躇無いのね?」

 「気を断っただけだ……ティナ、なにがどうなってるのかわからないが、一旦寝てもらうぞ」


 

 GW全て仕事なのでもしかしたら投稿出来ないかも……。


 こんな話ですが、楽しんで頂ければ最上です。

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