とある男の放浪旅
俺は常に選ばれなかった、何者にも慣れない俺が今ここに、いる。
――次期当主には次男のマルグリスを指名する。
――我が王国は聖騎士メルダースを勇者とする!
――ごめんなさい、私はアリダオスを選ぶわ……あなたを好きになることは無い。
これまでいくつも人生の大きな節目で俺は他人の選択によって、何もかもを奪われてきた。
最初は両親に溺愛された、何もかも自分よりも劣る弟に。
そして家を出た俺が誰よりも戦場で戦果を残し、忠誠をつくした王国の勇者の称号を人望が篤いだけの騎士団新入りに。
全てに絶望して冒険者となり、流れ着いた異国の町で幾度となく危機を救い恐るべき魔物を打ち倒し、守り抜いたうら若き領主の少女に。
選ばれたいと思った、認められたいだけだった。
――だが、どれだけ成果を残し信頼する仲間を得て、人々に尽くしても結局最後は自分以外の誰かがすべてを奪っていく。
あとに残るのは惨めな自分と落胆した人々の見下す視線。
――多分、俺は自分が思うほど人々の心に残ることはしていないのだろう。
人は楽に手に入るものにそれほど執着しない、だがその反面自分にはないものを渇望するのだ。
俺は人の渇望するものを持っていなかった、どれほど努力しても手に入ることは無かった。
それだけのことだ――そう、ただそれだけのこと。
十五で当主をめぐる争いに敗れた俺は、激怒して弟を叩きのめした後単身王都に出た。
家と名前を捨てて、ただ一人の兵士戦士として、王国軍で名を上げるために。
幼いころからただがむしゃらに強くなることを目的に鍛錬と修練を繰り返した。
領主として恥ずかしくないように勉学も怠らなかった。
その努力のあり、すぐに部隊を任された俺は格上の軍を相手にしても一歩も引くことなく大きな勝利を重ねた。
二十歳の時には本来、貴族の出身者だけが任命される聖騎士を叙勲されたのだ。
だが俺とは違い、多くの仲間たちに支えられてその地位に上るものが現れた。
弱冠十六歳の平民出身の少年メルダース。
特に秀でたところはないが、人を惹きつけてやまない彼の元には多くの人が集まり、俺が率いる部隊に匹敵する活躍をしてのけたのだ。
その人望に惹かれた王家の王女姉妹が、父である国王に直訴して王国軍でもっとも名誉のある勇者の称号を彼に与えた。
おりしも、敵国の軍が国境を侵し俺の部隊が迎撃にあたった。
いつものごとく勝利をする目前、敗走する敵軍の行く手を遮り止めを刺したのは勇者メルダースとその仲間たち。
多くの捕虜を得て凱旋したメルダースは俺との一騎打ちを望んだ。
俺が負ければ、今の地位と部下たちすべてを奴に譲る。
そして奴が負ければ俺は追放されるのだとか。
俺は喜んで、勇者を名乗る小僧の聖剣を無手でいなし、その生意気な顔面をかつて弟を叩きのめした自慢の拳で粉砕した。
死にはしなかったが顔だけが自慢の小僧に王女たちが必死の回復魔法をかけるのを尻目に俺は王国軍を辞めた。
二年余りの放浪の末に大陸を二分する荒野をどうにか乗り越えた俺は文化も気候風土も違う西方の地にたどり着いた。
褐色肌の人々が暮らす乾燥した、どこまでも続く草原の地。
海を目指して進めば、多くの交易商が集まる大きな都市もあるという。
冒険者となり、多くの苦難を乗り越えた俺は安住の地を探していた。
ただ一人の男として、余生を送れる場所を見つけたい。
そして愛する家族を持ち、その地で一生を送る。
いつしかそれが、俺の生涯の目標となっていた。
冒険者として魔物を討伐したり、大きな商隊の護衛をいくつもこなした俺の周りには若く血気盛んな冒険者たちが集まっていた。
無謀な彼らに戦い方や依頼人との接し方、旅をする上での心得などを指南するうちに集まったものだ。
人が集まれば当然、規則も必要になる。
俺は半ば押し付けられるように百人を数える冒険者たちの長になっていた。
冒険者たちの活動を支援管理するギルドはあったが、冒険者同士の互助団体。
要するに駆け出しの冒険者たちのしりぬぐいをしながら、厄介な依頼をこなしていく損な役回りだ。
だがそんな中、交易都市の領主が代替わりした。
年老いた先代の父に成り代わり、その座に就いたのは若干十七歳の少女ファルメ。
神秘的な銀髪に青色の瞳、褐色肌の彼女は見るものをひきつけてやまない。
以前から、困難な魔物、盗賊の討伐を依頼する領主の傍らにいた少女がこんなにも美しくなるとは思わなかった。
おりしも彼女が領主となったのを機に、野心に燃える近隣の諸侯たちが手を結び、交易路を封鎖してしまう。
いくら豊かな交易都市とはいえ、戦いとは無縁で街には守備隊くらいしかない。
腕利きといえば、やはり冒険者を頼ることになる。
諸侯の軍を打ち破り、交易路の回復を命じられた俺は数百名の冒険者傭兵たちを指揮する。
いくら軍の体裁をとるとはいえ、大した戦闘経験もないやつらを打ち破るのはたやすかった。
そんな中、一番手柄を立てたのは地元交易都市出身の若者アリダオスだった。
俺の教え子の中でも五指に入るほどの若者。
全体の指揮がなければ俺も手柄を立てることはできたが、そこは若手に譲るほかなかった。
諸侯を倒したことにより、のちに交易都市を中心として緩やかな同盟が結成され領主ファルメが盟主となる。
この功績をもたらした俺と領主の婚姻を噂する者もいた。
だが、現実はもっと無残だった――。
艶やかな婚礼衣装に身を包んだ領主ファルメのとなりには勇ましいいで立ちのアリダオスとその仲間たち。
そればかりではなく、この町の冒険者のほとんどが集まり、さらには守備隊や傭兵崩れの男たちまで武装している。
――あなたの功績はあまりにも大きい。だから、皆で相談しました。あなたをこのままこの都市においておけば将来の禍根になると。ごめんなさい、貴方を愛することはできません。私はアリダオスを愛します。さようなら、レヴァン。どこまでも孤高で誇り高い人、貴方が幸福になることを私たちは祈っています。
全然うれしくもない見送りの言葉を聞いた俺は、深いため息とともに愛用の武器を持ち立ち上がる。
それを見たアリダオスが仲間たちに命じる。
――レヴァンを殺せ、奴の首には多くの賞金がかかっている。荒野の向こうから来た王国の使者が言っていた。ほかにも奴を恨む連中は多い。ここで名を上げれば、一生困らない金をくれてやるぞ!!
――おお、今度こそレヴァンの旦那を俺たちの手で殺すんだ――!!
驚く領主を奥に下がらせ、下卑た笑いを上げるかつての教え子と仲間たち。
流石にこの人数を捌くのは骨が折れるので愛用する大剣を振るい、血煙にまみれる。
最後にアリダオスの顔面に拳を叩き込み、交易都市から逃亡する。
――また選ばれなかったか。こうなればどこかで盗賊団でも立ち上げて、国でも奪ってやるかな。案外その方が俺にはあっているかもしれない。
まだ見ぬ国盗り、そんなことを思いながら俺は今日も旅を続ける――。




