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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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猟犬妖精を召喚したかったのに、なぜか畑妖精が来ました

 さて、次は製材所を作る方向で決まった。


 そんな話をしていたところへ、ガードナーとシャーリスがやってきた。


「ん、どうかしたか?」


 俺が尋ねると、シャーリスが頷いた。


「ああ。

 あの交易車が盗賊に襲われていた時、私たちは森の奥深くまで入っていてな」


 なるほど。


「たぶん、そんな感じだろうとは思ってたよ。

 あれだけ大きな音がしていたからな。

 近くにいたなら、普通は気づくと思ってた」


「うむ。

 そうなったのは、ガードナーがガサガサと大きな音を立てながら森の中を動き回るからだ。

 そのせいで鹿にはどんどん逃げられてな。仕方なく、さらに奥へ行くしかなかったんだ」


 シャーリスが呆れたようにガードナーを見る。


 当の本人は、ばつが悪そうに肩をすくめた。


「そりゃ仕方ねえだろう。

 俺は森の中で音を立てずに動き回るなんてできねえんだからよ。

 茂みは掻き分けなきゃならねえし、枝には引っかかるし……」


 シャーリスが、ふうっとため息を吐く。


「ハーシスならできるんだがな。

 できれば狩りの際には一緒に来てもらいたいところなんだが……」


「すまないが、それは無理だ。

 今はやることが多すぎて、ここから離れられない」


「まあ、そう言われるのもわかる」


 シャーリスはそう言って周囲を見回した。


「むしろ私たちが森に入っている間に、荒れた土地が立派な農地や放牧地になっていて驚いたぞ」


「それはまあ、塔の中にあった装置のおかげだな。

 あとは……なんか俺の先祖が関係しているらしい」


「そうか」


 シャーリスはそれ以上深く聞かなかった。


 今のところ、俺自身もよくわかっていないことだからな。


「ともかく、お前はお前でここを整備してくれればいい」


 そう言ってから、シャーリスはガードナーを見た。


「とはいえ、ガードナーも狩りの荷運び役としては非常に優秀だ。

 本来、獲物を仕留める者と、それを運ぶ者は別だからな」


「そうなのか?」


「ああ。

 私一人では、あの大きさのイノシシを持ち上げて帰ることなどできない。

 私一人で運ぶなら、馬や荷車、ソリなど、獲物を載せられるものが必要になる」


 それを聞いたガードナーの表情が、ぱっと明るくなった。


「そうだろう?

 力仕事なら俺の出番だ」


「ああ。それは間違いない」


 シャーリスは頷いた。


「なので森に入る時は、私から少し離れて歩いてもらいたい」


「しかし、そんなことをしたら俺はお前を見失う可能性が高いんだが……」


「森の中なら、私の方はお前がどこにいるか手に取るようにわかる。

 問題ない」


「そ、そうか……」


「その代わり、私が獲物を仕留めたことがわかるように、呼び笛を用意してほしい」


「呼び笛?」


「ああ。

 れと、可能なら猟犬も欲しい」


 猟犬か。


「猟犬は鼻で獲物を探し、吠えて追い立てる。

 鹿は人間より犬を警戒するからな。

 犬を使って私の射線へ誘導できれば、一頭仕留めるまでの時間は半分以下になるだろう」


「なるほど」


 それなら、ガードナーが離れていても連携できる。


「それなら何とかしてみよう。

 馬や荷車は今すぐには難しいが、呼び笛や猟犬なら優先して用意できるかもしれない」


「ああ、まあ、それらは後でもいい」


 シャーリスは少し考えてから続けた。


「それと、今度森に入って、ある程度まとまった数の鹿を仕留められたら、冬に備えて毛皮の鞣しをしようと思う」


「それは助かる。

 冬に備えて防寒服があるに越したことはないからな」


 すると、今度はガードナーが口を挟んだ。


「そうすると俺ができることがなくなるな……」


 俺は思わず笑った。


「いや、お前だから頼みたい仕事がある」


「俺だから?」


「ああ」


 俺は周囲の森へ目を向ける。


「ガードナーは力がある。

 だから、木を切り倒して移動させる仕事にはかなり向いていると思う」


「おう」


「だから、伐採所兼製材所を担当してもらいたい」


「製材所?」


「ああ。

 丸太一本運ぶだけでも、大人二、三人分の力が必要になることがある。

 家を建てるにも、柵を作るにも、橋を架けるにも、まず木材が必要だ」


 俺は周囲を見回した。


「石造りの街を目指すとしても、その前段階として木材は絶対に必要になる。

 だから、最初の産業として製材所を作るんだ」


「おお!」


 ガードナーが目を輝かせた。


「そういうことなら任せておけ!」


「まずは木を伐採して、建築に使える丸太を確保しよう。

 最低限、それがあればログハウスぐらいにはできるしな」


 そして二人を見る。


「狩りや革細工はシャーリス。

 木材はガードナー。

 二人とも、それぞれの得意分野を頼む」


 ガードナーは、ドンッと胸を叩いた。


「ああ! 木材の確保は俺に任せてくれ!」


「うむ。私も心得ている」


 二人がそう言ってくれるのは、なんとも心強かった。


 ◇


 二人が立ち去った後、俺はマザークリスタルへ向き直った。


「猟犬か……」


 頭に浮かぶのは、ブラックドッグ。


 もし猟犬妖精であるブラックドッグを召喚できれば、シャーリスの狩りはかなり楽になるはずだ。


 それにしても……。


「昨日より、明らかに空気が違うな」


 マザークリスタルの周囲に漂うレイキが、昨日までとは比べ物にならないほど濃い。


 すると、クリスタルの奥から澄んだ声が響いた。


『はい

 機能上昇に伴い、レイキの補充が完了しました』


「おお」


『どうぞ、再度の召喚を試してみてください』


「よし、わかった」


 俺はクリスタルへ手を伸ばす。


「俺の声が聞こえるなら、こちらへ来てくれ。妖精!」


 その瞬間。


 マザークリスタルが眩い光を放った。


「来い、ブラックドッグ!」


 黒い影が地面を這う。


「来た!」


 そう思った次の瞬間だった。


 ボコッ。


 地面が盛り上がった。


 黒い土がゆっくりと隆起し、芽吹いたばかりの若葉が周囲へ舞い散る。


 ふわり、と春の畑を耕した直後のような土の匂いが風に乗った。


「……え?」


 土塊がさらに大きく盛り上がる。


 その中から――。


 一人の妖精が姿を現した。


「……犬じゃない?」


 黒い肌。


 亜麻色の髪。


 左目が赤、右目が青のオッドアイ。


 髪の毛の代わりに、まるで亜麻そのもののような髪が頭から伸びている。


 そして、全身から漂うのは湿った土と若葉の香り。


 春先の畑そのものが、人の姿を取って歩いてきたようだった。


『ワシは畑妖精ポレヴィーク。

 名はノエじゃ』


「ノエ……」


『なんじゃ?

 ワシのこの姿が不満か?』


「いや、そういうわけじゃ……」


『ならば――』


 ノエが手を広げる。


 すると、黒い煙のようなレイキが全身から立ち上った。


 老人の身体が、ゆっくりと溶けるように変化していく。


 背筋が伸びる。


 顔立ちが変わる。


 そして次の瞬間。


 そこに立っていたのは、若い美女だった。


「……いや、そっちが本当の姿なの?」


『これは、人間が思い描く畑の妖精の姿を借りておるだけじゃ』


「姿を借りる?」


『それに、若い娘の姿のほうが、男は素直に話を聞いてくれるからのう』


「ああ……まあ、そりゃそうか」


『じゃろ?』


「でも、本当の姿は?」


『老人も娘も仮の姿じゃ。

 妖精とは、そういうものよ』


 なるほど。


 妖精というのは、そもそも人間とは違う存在なのか。


 ただ、黒い肌に亜麻色の髪。


 そして左が赤、右が青のオッドアイ。


 その特徴だけは、姿を変えても変わらないようだった。


 どうやらノエは、自在に姿を変えられるらしい。


「畑の妖精なら、ちょうどいいな」


 俺は笑った。


「ノエ。

 あなたには、これから作る畑を守護してほしいんだ」


『ふむ。

 それはワシの役目でもあり、願いでもある。よいぞ』


 ノエは頷いた。


 だが、すぐに俺を睨む。


『じゃが、ちゃんと畑はあるのか?』


「ちゃんと、と言えるほどではないんだけど……一応ある」


『ほう』


「見てみるか?」


『当然じゃ』


 その瞬間、ノエは胸を張った。


『ワシは怠け者の農夫や、畑を荒らす者は、人であろうが獣であろうが大嫌いじゃ』


 なんだか嫌な予感がする。


『ゆえに、そういう者には祟りをなす』


「……祟り?」


『じゃが、昼休みや日没後まで無理して働いている農民は別じゃ。

そういう者は無理やり休ませて、ワシが代わりにやっておく』


「それなら安心して畑を任せられるな」


『うむ』


「でも、ごめん。

今は農夫がいないんだ」


『なんじゃと?』


「働き手が見つかるまでは、君に頼るしかない」


『なんとも嘆かわしいことじゃのう……』


「ああ。

それは十分わかってる」


『畑を耕す者がおらぬのでは、村も栄えぬ』


 ノエは真面目な顔で俺を見た。


『誰も王が自ら畑を耕せとは言わぬ。

じゃが、王が畑の大事さを知らぬようでは話にならぬ』


「それは肝に銘じておくよ」


『うむ。

それならよい』


 ノエは満足そうに頷いた。


『では、畑を見せてもらおうか』


「ああ。

じゃあ、一緒に行こう」


 俺はノエを連れて畑へ向かった。


 その途中で腰に痛みが走る。


「……いてて」


 思わず腰を押さえる。


 最近、いろいろ働きすぎなんだよな。


 ◇


「ここだけど、どうかな?」


 俺が畑を指差す。


 ノエはしゃがみ込み、土を手に取った。


 しばらく指先で土を揉みながら、ふむふむと頷く。


『ふむふむ……最上とは言えぬが、さほど悪くはない土地じゃ』


「本当か?」


『うむ。

なかなか気に入ったぞ』


「それならよかった」


 俺はほっと胸を撫で下ろす。


「そうしたら、まずはライ麦とオーツ麦を育ててほしいんだけど、できるかな?」


『ふん』


 ノエが鼻を鳴らした。


『そんなことは、ワシにとっては簡単なことじゃ』


 その瞬間だった。


 地面の奥から、微かな振動が伝わってきた。


 ズズズ……。


 固く締まっていた地面が、まるで呼吸するように膨らんでいく。


 土が柔らかく崩れ、石ころが端へ押し出される。


 枯れ草が腐葉土へと変わり、それが土へ混ざっていく。


 地中から染み出した水分が均一に広がり、黒く痩せていた土が、しっとりと色を変えていく。


「すごい……」


 ノエは黒い腕を伸ばした。


 その腕が、土を裂くように動く。


 みるみるうちに畝が作られていった。


 やがて土の中から、ミミズが何匹も顔を出す。


 硬かった地面は、まるで何年も耕され続けた畑のように、ふかふかになっていた。


 湿った土の匂いが辺り一面に広がる。


 俺は足元の土を握ってみた。


「……さっきまで砂利混じりだったのに」


 手の中で、土がほろりと崩れる。


 黒く、柔らかい。


 これなら本当に作物が育ちそうだ。


 そしてノエは、さらに腕を伸ばした。


 ズボッ。


 ズボッ。


 ズボッ。


 土の中へ種を埋めていく。


 まるで長年の熟練農夫のように、等間隔で種が植えられていった。


 やがて――。


 埋められた種が淡く光る。


 そして、小さな芽だけが土から顔を出した。


「……これで終わり?」


『うむ』


「もっと成長させたりは?」


『できぬ』


「できないの?」


『種は芽吹かせられる。

土も肥やせる。土中の水と空気の管理も行う』


 ノエは得意げに胸を張った。


『じゃが、太陽も雨も季節も必要じゃ』


「なるほど」


『多少は生育を助けられるが、数日で実りを迎えさせるような真似はできぬぞ』


 それを聞いて、俺は納得した。


 現代でも、温室や肥料、水分管理などを徹底することで促成栽培を行い、収穫までの期間を短縮する技術がある。


 ノエの力も、それを魔法で行っているようなものなのだろう。


「ああ、思っていたよりダイナミックな農作業だったよ」


 俺は畑を見回した。


「それでも十分すごいけどな」


 するとノエが、俺をじっと見た。


『勘違いするでないぞ』


「え?」


『ワシが見られる畑は、一枚が限界じゃ』


「一枚?」


『畑を十枚任されれば、十枚とも肥やしたい。じゃが――』


 ノエは自分を指差した。


『ワシは一人じゃ』


「ああ……」


『妖精は万能ではない』


 その言葉には、不思議な重みがあった。


『人がいて初めて村になる』


『だいたい、妖精だけで村は栄えん』


「あ、ああ」


 俺は苦笑した。


「農民の確保は忘れずにやるって。

実際、食料が生きるために一番大事なのは間違いないしな」


『うむ。それならよい』


「それで、居場所はずっとここでいいのかな?」


『もちろんじゃ』


 ノエは畑を見渡した。


『畑こそがワシの家のようなものじゃ。

休む時は、あの小屋を使わせてもらう』


 そう言って指差したのは、農具小屋だった。


「ああ。

それなら全然構わないよ」


 俺は頷く。


「じゃあノエ。しばらくは君に頼り切りだけど、よろしくな」


『ふん。

まあ、ワシに任せておけば問題は起きんわい』


 ノエは満足そうに笑った。


 これで少なくとも、畑は動き始めた。


「猟犬妖精のブラックドッグじゃなかったが……」


 俺は小さく息を吐く。


「今は食料確保のために畑妖精も必要だったし、これはこれで当たりだな」


 昨日まで、食料の確保は目の前の問題だった。


 だが今は違う。


 今日植えた種は、明日の収穫へとつながっている。


 農地ができた。


 妖精もいる。


 木材も手に入る見込みが立った。


 少しずつだ。


 本当に少しずつだが、ここは「生き延びる場所」から「暮らしていく場所」へ変わり始めている。


 ……だが。


 俺には、一つだけどうしても足りないものが見えていた。


 人だ。


 人が足りない。


 圧倒的に足りない。


 農地があっても、木材があっても、働く人間がいなければ村にはならない。


 そう思った、その瞬間――。


 ピロン♪


 耳元で澄んだ電子音が鳴った。


 視界の中央に、半透明の文字が浮かび上がる。


 ────────────

 【新規クエスト】


 《住民を五人確保する》

 ────────────


「……住民を五人確保、か」


 思わず呟く。


 五人。


 数字だけを見れば、それほど多くはない。


 だが――。


 まともな食料もない。


 住居もない。


 安全な場所ですら、まだ完全には確保できていない。


 そんな場所へ、わざわざ住みたいと思う人間がいるだろうか。


「早めになんとかなるといいんだけどな……」


 そんなことを考えていた。


 その時だった。


 視界の端に、何かが映った。


「……ん?」


 遠くから、誰かがこちらへ歩いてくる。


 一人……いや、二人。


 大人と、その手を引かれている小さな子供。


 一見すると、親子のように見える。


 だが――。


 何かがおかしい。


 荷物をほとんど持っていない。


 服も汚れている。


 大人は子供の手を強く握りながら、ふらつく足取りでこちらへ向かっている。


 そして、その子供は――。


「……顔色、悪すぎないか?」


 遠目からでもわかる。


 頬は痩せ、唇にはほとんど血色がない。


 足取りも覚束ない。


「おい、大丈夫か!」


 俺が声を上げた、その瞬間だった。


 子供の膝から、ふっと力が抜けた。


「あっ……!」


 糸の切れた人形のように、小さな身体が前のめりに崩れ落ちる。


「おい!」


 俺は反射的に駆け出した。


 倒れた子供へ向かって、全力で走る。


 その時、頭の中に浮かんだのは――。


 ついさっき表示されたばかりの、あのクエストだった。


 ――住民を五人確保する。


 まさか。


 このタイミングで……?


 俺はそんな考えを振り払うように、さらに速度を上げた。

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