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自分が作ったゲーム世界に転生した俺、都市管理システムで文明を一から復興する~ゲーム開発者の建国記~  作者: 水源


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川までの水路

 干ばつが始まってから、さらに数日が過ぎた。


 エマイン・マハでは、調整池の改修工事と、川から水を引くための取水路の建設が急ピッチで進められていた。


 しかし、空には相変わらず雲がない。


 朝から強い日差しが降り注ぎ、昼になると地面から熱気が立ち上る。土は乾ききり、畑では作物の葉が丸まり始めていた。


「……間に合ってくれよ」


 俺は東の農地を見渡し、思わず呟いた。


 ノエの力で短期間に育てた雑穀は、何とか収穫できた。おかげで当面の食料には少し余裕がある。


 だが、ライ麦とオーツ麦は、収穫までまだ二、三か月かかる。


 ここで株そのものが枯れてしまえば、次の収穫までの食料事情は一気に厳しくなる。周辺の街も干ばつの影響を受けている以上、足りない分を買い付ければ済むという保証はなかった。


『このままでは、せっかくの麦が駄目になってしまうのう……』


 ノエが、葉の先が茶色くなり始めた株を心配そうに見つめていた。


「まだ持ち直せそうか?」


『うむ。根まで傷んでおらぬ株なら、今のうちに水を与えれば耐えられるじゃろう。じゃが、これ以上乾けば、間に合わぬ株も増えていくぞ』


「あと何日か……というところか」


『土地によっても違うのう。低い場所には、まだわずかに湿り気が残っておる。じゃが、日当たりのよい場所や、土の浅い畑は厳しいじゃろうな』


 俺は、少し離れた農地に目を向けた。


 葉が丸まった株の間を、農夫が歩いている。彼は一株ずつ葉を確かめ、根元の土を手で掘り返していた。


 やがて、農夫は小さく首を振った。


 まだ完全に枯れたわけではない。けれど、いつまで持ちこたえられるのか分からない。そんな状態なのだろう。


「取水路が完成するまで、何とか耐えてもらうしかないな」


『そうじゃのう。わしも、できる限りのことは続けておくぞ』


「頼むよ」


 ノエの力が万能というわけではない。作物を早く育てることはできても、水そのものを生み出せるわけではなかった。


 それに、問題は畑だけではない。


 水桶の周りには山羊や羊が集まり、世話係が運んできた水を飲んでいる。飲み終わっても、すぐに別の家畜がやってくる。水を運ぶ人間たちも、何度も往復するうちに疲れが見え始めていた。


『家畜たちも、かなり疲れているみたいです。このまま水が少ないと心配です』


 トモロが耳を伏せ、家畜たちを見つめていた。


「そうだな。家畜用の水も、これ以上は減らせない」


『はい。飲み水が足りなくなったら、大変です』


 今は家畜の飲み水を優先して確保しているものの、そのために人間が使う水まで削り続けるわけにはいかない。


 飲み水、調理、診療所、清掃。どれも欠かすことのできない用途だ。


 畑に回せる水は、さらに限られていた。


「まずは取水路を完成させる。川から水を引ければ、今の状況を変えられるはずだ」


『はい! みんな、頑張ってくれています!』


 トモロが力強く頷いた。


 俺たちは、工事現場へ急いだ。


     ◇


「ハーシス! こっちは準備できたぞ!」


 調整池に戻ると、コルの大声が響いてきた。


 現場では、工事が着実に進んでいた。


 コルが掘削を進め、ゴーレムたちが掘り出した土砂を運ぶ。デルブは水路の底や斜面を確認し、必要な場所を固めていた。ガンドは測量結果を見ながら、掘り進める位置と深さを細かく指示している。


 人間の作業員たちも、測量や資材の準備、石材の運搬、仕上げを担当していた。


 ゴーレムのおかげで重労働の負担は減ったが、工事のすべてを任せられるわけではない。正確な測量も必要だし、水路の底や勾配を確認する作業には、人間や妖精たちの判断が欠かせなかった。


「取水路の進み具合はどうだ?」


 俺が尋ねると、ダグラスが図面を手にやってきた。


「予定していた区間までは進みました。川の水位も確認できています。選定した取水地点は潮の影響を受けにくく、現時点では淡水を取り込める見込みです」


「水路の高さは?」


「測量した限りでは、川から調整池まで自然に水を流せる勾配を確保できそうです。ただし、最後の接続部分は地盤を確認しながら仕上げる必要があります」


 川と池の高低差を利用して水を流す計画だ。水を汲み上げる装置に頼らずに済めば、その分だけ維持管理の負担も減らせる。


 ただし、わずかな勾配の違いでも水の流れは変わる。無理に掘り進めれば、水が途中で滞留したり、勢いが強すぎて土を削ったりする危険もあった。


「水門はどうだ?」


「開閉機構の組み立ては終わりました。あとは取水路の接続が済んでから、実際に水を流して確認します。洪水時には確実に閉じられるよう、操作部分も点検しています」


「ああ。雨が降ったときに、川の水を無制限に引き込むわけにはいかないからな」


 調整池は最大で約二百七十万立方メートルもの水を受け止められる。だが、その全容量を普段の貯水に使うわけにはいかない。


 急な大雨に備えて空き容量を残し、川の水位が上がったときには取水口を閉じる。それが今回の工事で守るべき条件だった。


 そのとき、ミズハが地面の上をふわふわと飛んできた。


『ハーシス、こっちだよ! この先をもう少し掘れば、川までつながると思う!』


「本当か?」


『うん。水の流れが近くなってきたの。地面の下の水の道も、こっちなら大丈夫そうだよ』


 ミズハは水の流れを感じ取り、地下の水脈を避けながら、取水路を通す場所を探してくれていた。


 正確な深さや勾配は測量しなければ分からない。それでも、地下にどんな水の流れがあるのかを知る手掛かりが得られるだけでも、大きな助けになる。


「ガンド、ミズハが示した場所を測量してくれ」


『うむ。印をつけたところから順に確認するぞ。コル、指示が出るまでは掘り進めるなよ』


『分かってるって!』


 コルが元気よく返事をした。


「……本当に分かっているんだろうな?」


『大丈夫だ! ちゃんと印は見てるぞ!』


 そう言いながら、コルの手は既にスコップを握っている。


 俺は小さくため息をついた。


 だが、今はコルの掘削力が頼りだった。


     ◇


 測量が終わると、ガンドが最後の掘削範囲を指示した。


『よし、ここじゃ。水路の底を予定の深さまで掘り下げてくれ!』


『任せろ!』


 コルが勢いよく掘り始めた。


 土が次々と掘り起こされ、ゴーレムたちがそれを運び出す。人間の作業員は運ばれた土の行き先を確認し、必要な資材を掘削地点へ運んでいった。


 以前なら、コルが掘り進めても運搬が追いつかず、作業が止まることがあった。しかし今回は、ゴーレムの配置や人間の作業手順も見直している。


 コルが掘り、ゴーレムが運び、人間たちが仕上げ、ガンドが勾配を確認する。


 そしてミズハが、水の流れを感じ取りながら掘削場所を案内する。


 それぞれの得意分野が、うまくかみ合っていた。


『もう少しです!』


 ミズハが水路の先を指差した。


『この下を通っているお水が、川の方へつながっています。ここを掘り抜けば、川から流れ込んでくるはずです!』


「コル、あと少しだ!」


『おう!』


 コルが最後の土を掘り崩した。


 ゴロゴロと土塊が転がり、やがて水路の向こう側に光が差し込んだ。


「抜けたぞ!」


 作業員から歓声が上がった。


 川までの取水路が、ついにつながったのだ。


 しかし、俺はすぐに水門を開けることを許さなかった。


「待て。水を流す前に、最後の確認をするぞ!」


 水路がつながっただけでは、完成とは言えない。


 土が緩んでいる場所があれば、水が染み込んだり、斜面が崩れたりするかもしれない。必要な補強を怠れば、せっかく引いた水を無駄にすることになる。


 ダグラスが水門の操作部分を調べ、ガンドが水路の底と斜面を確認する。デルブは土の崩れそうな場所を見つけ、粘土質の土を使って補強を始めた。


『うむ。この部分はもう少し締め固める必要があるの。水が流れ始めてから崩れては困るからな』


 デルブが土を押し固める。


 ミントも石材を運び、流れが強くなりそうな場所に石を組み始めた。


「ここは石で補強しておくね。水が流れ込む部分は、土だけだと削られやすいから」


「頼む。長く使うものだから、最初にしっかり造っておこう」


 ミントは張り切って頷き、石を一つずつ組んでいった。


 太陽が西へ傾き始めていた。


 ノエが心配していた麦の状態を思い出す。


 今日中に水を流せなければ、明日まで持ちこたえられない株が出てくるかもしれない。


「……今日中に、水が流れるところまで持っていきたいな」


『そうだよね。でも、あと少しだよ!』


 ミズハが水路の先を見つめた。


 俺たちは、最後の作業を急いだ。


     ◇


 夕方。


 川の取水地点では、ダグラスが水門の開閉機構を最終確認していた。


「開閉に問題ありません。少しずつ開いて、水の流れを確認しましょう」


「分かった。ミズハ、水の様子を見てくれるか?」


『うん! 任せて!』


 ミズハが川面へ近づいた。


 取水地点の川は、以前より水位が下がっていた。それでも、水路へ水を送り込むだけの流れは残っている。


『大丈夫だよ。ここなら、ちゃんとお水が入ってくると思う!』


「よし。水門を少し開けてくれ」


 ダグラスが操作機構を動かした。


 ギギギ……。


 鉄の水門が、ゆっくりと開いていく。


 最初は細い水の筋だった。


 川の水が取水口から水路へ入り、乾いた底を濡らしていく。


 その水が流れ始めたのを見て、ミズハが目を輝かせた。


『来たよ! お水が来た!』


「よし……!」


 俺は思わず声を上げた。


 けれど、水はすぐに調整池まで届かなかった。


 水路の途中で流れが弱くなり、一部の水が乾いた土へ染み込んでいたのだ。


「思ったより水が減っていますね」


 ダグラスが眉を寄せた。


「水路の底がまだ十分に締まっていないのかもしれません」


『あっちです! そこから水が逃げています!』


 ミズハが水路の曲がり角を指差した。


「どこだ?」


『あそこ! 水の流れが地面の下へ逃げているよ。水路の底に隙間があるんだと思う!』


 ミズハには、水がどこへ流れているのかが分かる。その感覚がなければ、目に見える範囲を調べるしかなく、原因を見つけるまでにもっと時間がかかっただろう。


「コル、そこを確認してくれ!」


『おう!』


 コルがすぐに駆けつけ、周囲の土を慎重に掘り起こした。


 すると、水路の底に小さな崩れが見つかった。乾いた土が水を吸い込み、細い隙間ができていたのだ。


『ここか!』


「崩れた部分を掘り直してくれ。ただし、広げすぎるなよ!」


『分かってるって!』


 コルが崩れた土を取り除く。


 その間に、デルブが粘土質の土を運び、地面を締め固めた。ミントたちも石を組み、土が再び崩れないように補強する。


 人間の作業員は道具と資材を運び、ガンドは修正した水路の勾配を再確認した。


 作業の手は止まらなかった。


 最初の通水で問題が見つかったのは痛かったが、原因が分かった以上、放置するわけにはいかない。


「ダグラス、補修が終わったら、もう一度少しずつ水を流そう。水が漏れなくなったか、全員で確認するんだ」


「分かりました」


 短い時間で補修が進められていく。


 やがて、デルブが立ち上がった。


『よし。これなら、さっきよりは保つじゃろう』


 ガンドも水路の底を確かめて頷いた。


『勾配も問題ない。もう一度、流してみるぞ』


 ダグラスが水門を少しだけ開いた。


 水が、再び水路を流れ始める。


 今度は大きく減ることなく、曲がり角を抜けていった。


『うん! こっちは大丈夫! お水がちゃんと流れているよ!』


 ミズハが、嬉しそうに俺の周りを飛び回った。


 やがて、水路の先から水の流れる音が聞こえてきた。


 調整池の流入口に、水が姿を現したのだ。


 最初は細い流れだった。


 けれど、それは確かに川から届いた水だった。


「……つながったな」


 俺は、思わず深く息を吐いた。


 コルが胸を張る。


『どうだ! 俺が掘った水路だぞ!』


「コルだけの力じゃないだろ。ミズハが道を見つけて、デルブが固めて、ミントたちが補強して、ガンドとダグラスが確認してくれたから完成したんだ」


『それはそうだけどな!』


 コルは少しだけ照れくさそうに笑った。


『でも、掘るところは俺が頑張ったぞ!』


「それは認めるよ。よくやってくれた」


『へへっ!』


 ミズハも嬉しそうに頷いた。


『これで、お水を運べるね!』


「ああ。でも、まだ十分な量があるわけじゃない。必要なところへ、少しずつ届けていこう」


 取水路は、ようやく役目を果たし始めた。


 だが、これで危機が終わったわけではない。


 麦が持ちこたえられるかどうかは、まだ分からなかった。

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