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自分が作ったゲーム世界に転生した俺、都市管理システムで文明を一から復興する~ゲーム開発者の建国記~  作者: 水源


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水を使い回す

 診療の手が一息ついたところで、俺はセレナに今後の水の使い方についても相談することにした。


 先ほど倒れた人たちの治療は続いているが、必要な処置を終えた患者もいる。リゼは診療所に残り、患者の経過記録を整理しながら、次の患者を受け入れられるように備えていた。


 アトラも診療所に残って処置を補助している。セレナは患者の状態を確認し、ひとまず緊急の対応が落ち着いたところで、俺たちの話し合いに加わった。


 そこへ、ナンシーから追加の報告が入った。


『ハーシス。水の使用状況について、追加の報告があります』


「今度は何だ?」


『現在の水源と消費量を照合した結果、干ばつが続いた場合、生活用水の確保にも影響が出る可能性があります。節水措置の一環として、入浴施設の一時閉鎖を検討することを推奨します』


「……入浴施設までか」


 農業用水だけでなく、飲み水や生活用水まで不足するとなれば、話は変わってくる。


『お風呂を使い続けるより、水をできるだけ残しておく方がいいと思う』


 リリィも、ナンシーの提案に理解を示した。


 だが、その話を聞いたセレナが、すぐに口を挟んだ。


『待ってください。入浴施設の全面閉鎖には反対です』


「セレナ?」


『汗や汚れを落として清潔を保つことも、衛生管理の一環です。それに、入浴には心身をリラックスさせる効果もあります。暑さに耐えながら働き、水不足の不安まで抱えている住民から、身体を清潔にして休める場所まで奪うべきではありません』


 セレナの口調はいつになく強かった。


『もちろん、水が不足していることは理解しています。だからといって、節水のために衛生や休息を犠牲にすればいいというものではありません。医療は、病気になった人を治療するだけではないのですから』


 なるほど。いかにもセレナらしい言い分だ。


 ただ水を節約するのではなく、住民の健康を守るために何が必要なのか。それが彼女の判断基準なのだろう。


「じゃあ、どうするのがいいと思う?」


『まずは、入浴施設の水使用量を調べるべきです。利用時間や営業日、浴槽の数を調整することで、閉鎖せずに水を節約できるかもしれません』


『施設を閉鎖すれば、当然、使用量は減ります。ただし、閉鎖以外の対策による節水効果は、現状のデータだけでは確定できません』


 ナンシーが補足した。


 リリィも少し考えてから口を開いた。


『水が足りなくなってから慌てるより、今のうちに節約することは必要だと思う。でも、セレナの言うことも分かるよ』


「まずは、数字を出そう。飲み水や診療所、調理、清掃に必要な水を優先して、残りをどれくらい入浴施設に回せるのか調べるんだ」


『承知しました。施設ごとの使用量と、節水策による削減見込みを算出します』


「浴槽に張る水の量や、湯を入れ替える頻度も確認してくれ。必要以上に湯を張っているなら減らせるかもしれないし、使わない浴槽を休止する方法もある」


『承知しました。現状の設備と運用方法を確認したうえで、削減可能な量を計算します』


 俺は少し考えてから、ミズハへ視線を向けた。


「そういえば、ミズハ。水の流れを感じ取れるんだよな?」


『うん。水の流れや、泉の状態なら分かるよ』


「だったら、使い終わった水をきれいにすることはできないかな?」


『使い終わった水を?』


「ああ。例えば、入浴施設で使ったお湯だ。毎回捨ててしまうんじゃなくて、きれいにして洗濯なんかに使い回せれば、その分だけ新しい水を節約できるだろう?」


 ミズハは少し考え込んだ。


『……泉のお水をきれいに保つのは、わたしの仕事だよ。お水に混じった汚れを取り除くことなら、できるかもしれない』


「本当か?」


『うん。でも、たくさんのお水を一度にきれいにできるかは分からないし、汚れの種類によっては時間もかかると思う』


「それなら、まずは少量で試してみよう。無理をする必要はないからな」


『うん! やってみたい!』


 ミズハは嬉しそうに頷いた。


 水を生み出せるわけではなくても、使った水を浄化して再利用できるなら、大きな助けになるはずだ。


 もちろん、何でもかんでも再利用できるわけではない。入浴後の湯には汗や皮脂、髪の毛などが混じる。洗剤を使った洗濯水なら、さらに別の汚れも加わる。


 その水をどこまできれいにできるのか、浄化した水を何に使えるのか。確認すべきことは多かった。


『再利用を行う場合は、水の使用用途を明確に分ける必要があります』


 ナンシーが説明を加えた。


『ミズハによる浄化が成功しても、飲料水や医療用の水として利用できることを意味するわけではありません。まずは洗濯や清掃など、用途を限定して試験することを推奨します』


「そうだな。飲み水や診療所で使う水は、別に確保しておこう。まずは、洗濯に回せるかどうかを調べるんだ」


『賛成です。衛生状態を確認できない水を、患者の治療や飲用に使用するわけにはいきません』


 セレナも頷いた。


『それに、浄化した水が洗濯に使えるとしても、洗濯に使ったあとは再び汚れます。何度でも同じように使えると考えず、どこまで再利用できるのか確認しましょう』


「分かった。浄化する水の量と、再利用できる回数も記録しておこう」


『水の量なら、わたしも調べてみるね!』


 ミズハが張り切って答える。


「頼むよ。ただし、無理をして倒れたりするなよ?」


『大丈夫! 疲れたらちゃんと休むから!』


 その返事を聞いて、俺は苦笑した。


 水を浄化する能力があったとしても、それだけですべてが解決するわけではない。ミズハがどの程度まで作業できるのかを確かめ、必要な設備も整える必要がある。


 だが、試す価値は十分にあった。


 セレナが改めて口を開く。


『浴槽に入る前に身体を洗うことも、改めて住民に伝えましょう。清潔な状態で入浴するようにすれば、浴槽の湯を汚れにくくできます』


「そうだな。前にも伝えたことだけど、こういうときこそ徹底してもらおう」


 入浴施設を閉鎖するかどうかだけが、節水の選択肢ではない。


 利用人数や時間を調整し、浴槽の数や湯の量を見直す。それに加えて、使い終わった湯を回収して浄化し、洗濯や清掃へ再利用できれば、新たに必要となる水を減らせる。


 それでも足りなければ、営業日を減らすことも考える。


「まずは水の使用量と、ミズハが浄化できる量を調べよう。その結果を見て、営業時間を短くするのか、利用日を減らすのか、それとも一時閉鎖が必要なのか判断する」


『それなら、衛生を維持しながら節水できる方法を考えられますね』


 セレナも、ようやく表情を和らげた。


『お風呂をなくさずに水を節約できるなら、その方がいいね!』


 リリィもほっとした様子を見せた。


 ナンシーが使用量を計算し、ミズハが浄化できる水の量を確かめる。セレナは衛生面から使用できる用途を判断し、リリィも住民の暮らしを考えながら協力する。


 それぞれの力を組み合わせれば、入浴施設を閉鎖せずに済む可能性もある。


 水不足への対策は、畑や工事現場だけの問題ではない。


 飲み水を確保し、衛生を保ち、住民が身体を休める時間も守る。


 限られた水を、何に、どれだけ使うのか。


 エマイン・マハ全体で考えなければならない時期に来ていた。


     ◇


 午後になり、俺はミズハと並んで、再び工事現場を見守っていた。


 人間たちの作業は大幅に減らされ、暑い時間帯には日陰で休憩するようになっている。ゴーレムたちは、あらかじめ指定された範囲で運搬を続けていた。


 コルは、まだ掘り足りない様子だった。


『なあ、もう少し掘ってもいいだろ?』


「駄目だ。次の区画は測量が終わってからだ」


『でも、まだ掘れるよ?』


「掘れることと、掘ってよいことは違う!」


 ガンドの声が響く。


 俺は思わず苦笑した。


「……工事そのものより、コルを計画どおりに働かせる方が難しいかもしれないな」


『ハーシス、こっちにもお水の流れがあるよ!』


 ミズハが調整池の奥を指差した。


「まだあるのか?」


『うん。でも、今はとっても少ないの。雨が降ったら、もっと分かると思う』


「そうか……。なら、そちらも記録しておこう」


 雨がいつ降るのかも、川からどれだけ水を引けるのかも、まだ確かなことは分からない。


 それでも、できることは少しずつ増えている。


 畑の作物は今も雨を待っている。ノエが枯れかけた葉を気にかけ、リッカが少しでも風を動かそうとし、トモロは水桶の前に集まる家畜のそばで、心配そうに耳を伏せていた。


『水が少ないままだと、家畜たちも心配です。早く雨が降ってほしいです』


 森の動物たちにも影響が出始めているというリカオンの報告も、気にかかる。


 そして診療所では、セレナたちが運び込まれる患者を救うために奮闘している。リゼも診療所に残って記録と患者の受け入れを担当し、忙しい現場を支えていた。


 調整池の改修工事は始まったばかりだ。水路を造り、水門を設置し、十分な水を確保できるようになるまでには時間がかかる。


 一方で、入浴施設についても、すぐに閉鎖すると決めたわけではない。ナンシーが使用量を調べ、ミズハが水の浄化に挑戦し、セレナが衛生面を確認する。その結果をもとに、住民の健康と水の確保を両立できる方法を考えることになった。


 もし使い終わった水を安全に再利用できるなら、今回の干ばつを乗り切る助けになるだけではない。その仕組みは、雨が十分に降るようになったあとも、エマイン・マハの水資源を有効に使うために役立つだろう。


 俺は雲一つない空を見上げた。


「……雨が降るまでに、できる限りの準備をしておこう」


『うん! わたしも頑張るね!』


 ミズハの声に頷き、俺は再び工事現場へ視線を戻した。


 乾いた夏の空気の中、作業員たちの掛け声とゴーレムの動く音が響いていた。


 エマイン・マハが、この夏を乗り切れるかどうか。


 その答えは、まだ出ていない。


 それでも、俺たちは動き始めていた。

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