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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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鉄の時代の始まりの終わり

「――アルト」


 世界樹の巫女が呼んだ、その名。


 それは管理コードでも、機体番号でもなかった。


 一人の者へ贈られた、本当の名前。


 ガーディアン・ロード――いや、《アルト》は静かに目を閉じた。


 蒼い瞳が、わずかに揺れる。


『……その御声は』


 低く響く機械音声へ、初めて感情が混じった。


『巫女様』


 世界樹の巫女は微笑む。


 どこまでも優しく。


 長い年月を慈しむように。


「長い間、ありがとう」


「あなたは、約束を守り続けてくれましたね」


 アルトは何も答えない。


 ただ静かに頭を垂れた。



 その一瞬。


 世界が止まったかのようだった。


 デバウアーが放った漆黒の球体も。


 アルトの蒼い光も。


 空間の歪みさえ、ほんの刹那だけ静止する。


 そして巫女は、アルトへ向かって静かに手を伸ばした。


「もう、一人で戦わなくていいのです」


『……』


「あなたは十分すぎるほど、この山を守ってくれました」


「今度は、この時代の子供たちを信じましょう」


 その言葉は、アルトだけではなく、俺たち全員へ向けられていた。



 アルトはゆっくりと俺を見る。


 その視線に宿っていたのは、長い間抱え続けた責任ではない。


 どこか安堵したような、穏やかな光だった。


『管理者』


『命令を訂正してください』


「え?」


『都市を守れ』


『山を守れ』


『その命令を』


『あなた自身が遂行してください』


 俺は息を呑む。


 アルトは続けた。


『私は剣です』


『都市を築く者ではありません』


『未来を創る者は』


『管理者です』


 その言葉は、胸の奥深くへ突き刺さった。


 そうだ。


 俺は戦うために、この世界へ来たのではない。


 都市を造るために来たのだ。


 人が笑って暮らせる場所を。


 未来へ残る街を築くために。



 その瞬間だった。


 俺の腰に差していたショートソードが、淡く輝き始めた。


「……?」


 ナンシーが驚く。


『反応確認』


『管理者装備』


『システム同期』


『進化を開始』


 ショートソードを包む光は、次第に強くなっていく。


 柄へ世界樹の紋章が浮かび上がり、刀身は白銀の輝きを帯び始めた。


 刃渡りも伸びる。


 材質そのものが変化していく。


 マザーが静かに告げた。


『管理者専用装備』


建国剣クラフト・ブレード


『継承完了』


 俺は新たな剣を握り締める。


 不思議だった。


 初めて手にするはずなのに、ずっと昔から使っていたような感覚がある。


 そして、その剣から一つの意思が伝わってきた。


 ――壊すためではない。


 ――未来を繋ぐために振るえ。



 デバウアーの重力崩壊弾は、なおも迫っている。


 時間は残されていない。


 俺はアルトを見上げた。


「一緒にやるぞ」


『はい』


「お前は道を開け」


「最後は俺が封印する」


 アルトは静かに頷く。


『命令』


『受領』


 それが、本当の意味で俺とアルトが並び立った最初の瞬間だった。



 ガーディアン・ロード――アルトは最後の力を振り絞る。


 胸部魔力炉が太陽のように輝く。


 全身の装甲から蒼い粒子が噴き上がる。


 そして。


 砕けかけた結晶剣を天高く掲げた。


『世界樹防衛奥義』


『――天柱』


 巨大な剣が振り下ろされる。


 剣ではない。


 蒼い光の柱そのものが、天から地へ貫く。


 轟音。


 閃光。


 デバウアーの放った重力崩壊弾が真正面から激突する。


 二つの力が拮抗する。


 空間が軋む。


 山全体が震える。


 しかし。


 蒼い光は、少しずつ黒を押し返していった。


『今です』


 アルトの叫びが響く。


『管理者!』


 俺は建国剣を握り締め、大地を蹴った。


 目指す先はただ一つ。


 蒼と黒が激突する、その中心。


 デバウアーの胸で赤黒く脈打つ、災厄の核だった。


 この一撃で、三千年続いた戦いに終止符を打つ。


 俺はすべての魔力を建国剣へ込め、渾身の力で振り抜いた。


 建国剣が、眩い光を放つ。


 その刀身に刻まれた世界樹の紋章が脈打つたび、周囲の魔力が渦を巻きながら剣へ集まっていく。


 重くはない。


 むしろ、驚くほど軽い。


 まるで剣そのものが俺の意思を先読みし、最も振りやすい軌道へ導いてくれているかのようだった。



 デバウアーも俺へ気付く。


 胸の赤黒い核が妖しく輝き、漆黒の腕が迎え撃つように伸びてきた。


 ギュォォォッ!!


 空間そのものを裂くような速度。


 まともに受ければ、一瞬で押し潰される。


 だが――。


「ナンシー!」


『演算完了』


『敵攻撃予測』


『〇・三秒後』


『右へ十五センチ』


 俺は身体を僅かに捻る。


 黒い腕が頬を掠めた。


 髪が数本宙を舞う。


 あと指一本分でも遅ければ、頭ごと消し飛んでいただろう。



「今だ!」


 俺は建国剣を突き出す。


 狙いは胸の核。


 ただ一点。


 しかし、その直前。


 デバウアーの胸から黒い触手が何本も飛び出した。


 まるで核を守る盾のように。


 ガンドが叫ぶ。


『小僧!!』


 デルブも顔色を変える。


『間に合わん!』


 その時だった。


『管理者』


 アルトの声。


 次の瞬間、巨大な白銀の腕が俺の横を通り過ぎる。


 ドガァァァン!!


 ガーディアン・ロードは残された左腕一本で、黒い触手を真正面から受け止めた。


 装甲が砕ける。


 腕が軋む。


 それでも離さない。


『進んでください』


 その一言だけだった。



「ありがとう!」


 俺はアルトの腕を踏み台にした。


 十五メートルの巨体。


 その肩を駆け上がる。


 さらに跳ぶ。


 一気にデバウアーの胸元へ飛び込んだ。


 時間が止まったようだった。


 目の前には赤黒い核。


 その奥で。


 何かが見えた。


「……人?」


 黒い結晶の中心。


 そこには一人の青年が眠っていた。


 いや。


 眠っているのではない。


 苦しそうに目を閉じ、無数の黒い鎖で縛られている。


 マザーが震える声を上げた。


『確認』


『初代管理者』


『アルフレッド様……』


 俺は目を見開く。


 試練の回廊で会った青年。


 彼の本体が、核の中へ取り込まれていたのだ。



 その瞬間。


 青年――アルフレッドがゆっくりと目を開いた。


 黄金色の瞳。


 試練で見た時と同じ、穏やかな笑み。


 彼は俺を見て、小さく頷いた。


『……よく来た』


 声は聞こえない。


 それでも確かに伝わった。


『もう迷うな』


『その剣で』


『未来を選べ』


 黒い鎖が彼の身体を締め付ける。


 デバウアーが苦しげな咆哮を上げた。


 核そのものがアルフレッドを利用し、世界樹の力を奪っていたのだ。



 俺は建国剣を両手で握り締める。


「必ず助ける!」


 アルフレッドは静かに首を横へ振った。


 そして。


 最後に、微笑んだ。


『託す』


 その一言。


 それだけだった。



 次の瞬間。


 俺はすべてを理解した。


 封印とは。


 都市とは。


 管理者とは。


 建国とは。


 人は街を造る。


 街は文明を育む。


 文明は世界樹を守る。


 世界樹は命を育てる。


 そして命は、また新しい街を築く。


 その循環こそが、この世界の本来あるべき姿だった。


 デバウアーは、その循環を喰らう災厄。


 だから倒すのではない。


 循環の外へ追い出す。


 それが管理者の役目。



 建国剣が眩く輝いた。


 白でも青でもない。


 生命そのものを思わせる、暖かな金色。


 ナンシーの声が響く。


『新機能を確認』


『ユニークスキル《パッチワーク》』


『封印術式と融合』


『新規機能解放』


 俺の目の前へ、一つのウィンドウが現れる。


【世界修復】


《Patch World》


実行しますか?


【Y/N】


 俺は迷わなかった。


「――Y」


 その一文字を選んだ瞬間。


「――アルト」


 世界樹の巫女が呼んだ、その名。


 それは管理コードでも、機体番号でもなかった。


 一人の者へ贈られた、本当の名前。


 ガーディアン・ロード――いや、《アルト》は静かに目を閉じた。


 蒼い瞳が、わずかに揺れる。


『……その御声は』


 低く響く機械音声へ、初めて感情が混じった。


『巫女様』


 世界樹の巫女は微笑む。


 どこまでも優しく。


 長い年月を慈しむように。


「長い間、ありがとう」


「あなたは、約束を守り続けてくれましたね」


 アルトは何も答えない。


 ただ静かに頭を垂れた。



 その一瞬。


 世界が止まったかのようだった。


 デバウアーが放った漆黒の球体も。


 アルトの蒼い光も。


 空間の歪みさえ、ほんの刹那だけ静止する。


 そして巫女は、アルトへ向かって静かに手を伸ばした。


「もう、一人で戦わなくていいのです」


『……』


「あなたは十分すぎるほど、この山を守ってくれました」


「今度は、この時代の子供たちを信じましょう」


 その言葉は、アルトだけではなく、俺たち全員へ向けられていた。



 アルトはゆっくりと俺を見る。


 その視線に宿っていたのは、長い間抱え続けた責任ではない。


 どこか安堵したような、穏やかな光だった。


『管理者』


『命令を訂正してください』


「え?」


『都市を守れ』


『山を守れ』


『その命令を』


『あなた自身が遂行してください』


 俺は息を呑む。


 アルトは続けた。


『私は剣です』


『都市を築く者ではありません』


『未来を創る者は』


『管理者です』


 その言葉は、胸の奥深くへ突き刺さった。


 そうだ。


 俺は戦うために、この世界へ来たのではない。


 都市を造るために来たのだ。


 人が笑って暮らせる場所を。


 未来へ残る街を築くために。



 その瞬間だった。


 俺の腰に差していたショートソードが、淡く輝き始めた。


「……?」


 ナンシーが驚く。


『反応確認』


『管理者装備』


『システム同期』


『進化を開始』


 ショートソードを包む光は、次第に強くなっていく。


 柄へ世界樹の紋章が浮かび上がり、刀身は白銀の輝きを帯び始めた。


 刃渡りも伸びる。


 材質そのものが変化していく。


 マザーが静かに告げた。


『管理者専用装備』


建国剣クラフト・ブレード


『継承完了』


 俺は新たな剣を握り締める。


 不思議だった。


 初めて手にするはずなのに、ずっと昔から使っていたような感覚がある。


 そして、その剣から一つの意思が伝わってきた。


 ――壊すためではない。


 ――未来を繋ぐために振るえ。



 デバウアーの重力崩壊弾は、なおも迫っている。


 時間は残されていない。


 俺はアルトを見上げた。


「一緒にやるぞ」


『はい』


「お前は道を開け」


「最後は俺が封印する」


 アルトは静かに頷く。


『命令』


『受領』


 それが、本当の意味で俺とアルトが並び立った最初の瞬間だった。



 ガーディアン・ロード――アルトは最後の力を振り絞る。


 胸部魔力炉が太陽のように輝く。


 全身の装甲から蒼い粒子が噴き上がる。


 そして。


 砕けかけた結晶剣を天高く掲げた。


『世界樹防衛奥義』


『――天柱』


 巨大な剣が振り下ろされる。


 剣ではない。


 蒼い光の柱そのものが、天から地へ貫く。


 轟音。


 閃光。


 デバウアーの放った重力崩壊弾が真正面から激突する。


 二つの力が拮抗する。


 空間が軋む。


 山全体が震える。


 しかし。


 蒼い光は、少しずつ黒を押し返していった。


『今です』


 アルトの叫びが響く。


『管理者!』


 俺は建国剣を握り締め、大地を蹴った。


 目指す先はただ一つ。


 蒼と黒が激突する、その中心。


 デバウアーの胸で赤黒く脈打つ、災厄の核だった。


 この一撃で、三千年続いた戦いに終止符を打つ。


 俺はすべての魔力を建国剣へ込め、渾身の力で振り抜いた。


続きを書いて


 建国剣が、眩い光を放つ。


 その刀身に刻まれた世界樹の紋章が脈打つたび、周囲の魔力が渦を巻きながら剣へ集まっていく。


 重くはない。


 むしろ、驚くほど軽い。


 まるで剣そのものが俺の意思を先読みし、最も振りやすい軌道へ導いてくれているかのようだった。



 デバウアーも俺へ気付く。


 胸の赤黒い核が妖しく輝き、漆黒の腕が迎え撃つように伸びてきた。


 ギュォォォッ!!


 空間そのものを裂くような速度。


 まともに受ければ、一瞬で押し潰される。


 だが――。


「ナンシー!」


『演算完了』


『敵攻撃予測』


『〇・三秒後』


『右へ十五センチ』


 俺は身体を僅かに捻る。


 黒い腕が頬を掠めた。


 髪が数本宙を舞う。


 あと指一本分でも遅ければ、頭ごと消し飛んでいただろう。



「今だ!」


 俺は建国剣を突き出す。


 狙いは胸の核。


 ただ一点。


 しかし、その直前。


 デバウアーの胸から黒い触手が何本も飛び出した。


 まるで核を守る盾のように。


 ガンドが叫ぶ。


『小僧!!』


 デルブも顔色を変える。


『間に合わん!』


 その時だった。


『管理者』


 アルトの声。


 次の瞬間、巨大な白銀の腕が俺の横を通り過ぎる。


 ドガァァァン!!


 ガーディアン・ロードは残された左腕一本で、黒い触手を真正面から受け止めた。


 装甲が砕ける。


 腕が軋む。


 それでも離さない。


『進んでください』


 その一言だけだった。



「ありがとう!」


 俺はアルトの腕を踏み台にした。


 十五メートルの巨体。


 その肩を駆け上がる。


 さらに跳ぶ。


 一気にデバウアーの胸元へ飛び込んだ。


 時間が止まったようだった。


 目の前には赤黒い核。


 その奥で。


 何かが見えた。


「……人?」


 黒い結晶の中心。


 そこには一人の青年が眠っていた。


 いや。


 眠っているのではない。


 苦しそうに目を閉じ、無数の黒い鎖で縛られている。


 マザーが震える声を上げた。


『確認』


『初代管理者』


『アルフレッド様……』


 俺は目を見開く。


 試練の回廊で会った青年。


 彼の本体が、核の中へ取り込まれていたのだ。



 その瞬間。


 青年――アルフレッドがゆっくりと目を開いた。


 黄金色の瞳。


 試練で見た時と同じ、穏やかな笑み。


 彼は俺を見て、小さく頷いた。


『……よく来た』


 声は聞こえない。


 それでも確かに伝わった。


『もう迷うな』


『その剣で』


『未来を選べ』


 黒い鎖が彼の身体を締め付ける。


 デバウアーが苦しげな咆哮を上げた。


 核そのものがアルフレッドを利用し、世界樹の力を奪っていたのだ。



 俺は建国剣を両手で握り締める。


「必ず助ける!」


 アルフレッドは静かに首を横へ振った。


 そして。


 最後に、微笑んだ。


『託す』


 その一言。


 それだけだった。



 次の瞬間。


 俺はすべてを理解した。


 封印とは。


 都市とは。


 管理者とは。


 建国とは。


 人は街を造る。


 街は文明を育む。


 文明は世界樹を守る。


 世界樹は命を育てる。


 そして命は、また新しい街を築く。


 その循環こそが、この世界の本来あるべき姿だった。


 デバウアーは、その循環を喰らう災厄。


 だから倒すのではない。


 循環の外へ追い出す。


 それが管理者の役目。



 建国剣が眩く輝いた。


 白でも青でもない。


 生命そのものを思わせる、暖かな金色。


 ナンシーの声が響く。


『新機能を確認』


『ユニークスキル《パッチワーク》』


『封印術式と融合』


『新規機能解放』


 俺の目の前へ、一つのウィンドウが現れる。


【世界修復】


《Patch World》


実行しますか?


【Y/N】


 俺は迷わなかった。


「――Y」


 その一文字を選んだ瞬間。


 建国剣が黄金の奔流となって、デバウアーの核を真っ直ぐ貫いた。


続きを書いて


都市建設物語 第○話 山の呼び声(続き)


 建国剣が、デバウアーの核を貫いた。


 ズドォォォォォォン――!!


 爆発ではなかった。


 黄金の光が、核の内部から一気に広がったのだ。


 赤黒い結晶へ無数の亀裂が走る。


 一本。


 二本。


 十本。


 やがて亀裂は核全体を覆い尽くし、そこから黄金色の光が噴き出し始めた。


「――――っ!」


 俺は剣を握ったまま、必死に踏みとどまる。


 デバウアーの身体が激しく震える。


 ゴォォォォォォ……!!


 黒い瘴気が噴き出す。


 だが、今までとは違う。


 俺の剣から流れ込んだ黄金の光が、瘴気を一つずつ分解していく。


『解析不能……』


 ナンシーの声が途切れる。


 続いて、驚きに満ちた声が響いた。


『いえ……違います』


『解析対象が変質しています』


『敵性情報を確認』


『《デバウアー》』


『分類――災厄』


『状態――修復可能』


「修復……?」


 思わず聞き返した。


 まさか。


 倒すのではなく。


 こいつそのものを――。



 その時だった。


 核の奥にいたアルフレッドが、こちらへ手を伸ばした。


『そうだ』


『壊す必要はない』


『壊してしまえば、同じものがまた生まれる』


 その声が、今度ははっきりと聞こえた。


『だから』


『本来の姿へ戻す』


 俺は剣へさらに力を込める。


「どうすればいい!」


『管理者なら分かる』


『世界を見ろ』


『敵だけを見るな』


 言われた瞬間。


 俺の視界が一変した。


 地下施設。


 世界樹の根。


 巨大な山。


 山を流れる地下水。


 地中に眠る鉱脈。


 森。


 川。


 都市。


 農園。


 そして、そこに暮らす人々。


 すべてが一本の線で繋がっていた。


 まるで巨大な生命体のように。


 これまで俺は都市を一つの「施設」として見ていた。


 けれど違う。


 都市とは。


 大地と人間と文明が繋がって初めて成立するものだった。



『《パッチワーク》』


 ナンシーが呟く。


『世界への干渉対象を再定義』


『修復対象』


『災厄そのものではありません』


『災厄を生み出している循環異常です』


 なるほど。


 デバウアーは原因ではない。


 結果だった。


 世界樹から切り離された魔力。


 崩壊した文明。


 汚染された地脈。


 それらが積み重なり、最後に生まれたもの。


 ならば――。


「根っこから直す」


 俺は呟いた。


 ナンシーが答える。


『肯定』



 建国剣から流れ込む黄金の光が、デバウアーの身体を包み込む。


 黒い結晶が崩れていく。


 しかし、その中から現れたのは肉でも金属でもなかった。


 無数の黒い糸。


 まるで腐った根のようなものが、世界樹の主根へ絡み付いている。


 それこそが本体だった。


「これか!」


『確認』


『異常魔力根』


『世界樹からの魔力吸収を確認』


『除去可能』


 俺は剣を横へ振った。


 黄金の刃が、黒い根を一本切断する。


 パァン!!


 黒い根が弾け飛ぶ。


 すると。


 山全体が大きく震えた。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 今度の揺れに、苦しさはなかった。


 むしろ。


 長い間、身体へ刺さっていた棘を抜かれたような。


 そんな安堵が伝わってきた。



「一本!」


 俺は叫ぶ。


「次!」


 ナンシーが即座に示す。


『右方二・三メートル』


 斬る。


 一本。


『下方』


 斬る。


 二本。


『背後』


 三本。


 次々と黒い根を断ち切っていく。


 そのたびにデバウアーの身体が小さくなっていく。


 十メートル。


 五メートル。


 三メートル。


 そして――。


 最後の一本。


 胸の奥に絡み付いていた、ひときわ太い黒い根へ剣を当てる。


 その根だけは、まるで意思を持つように俺の腕へ絡み付こうとしてきた。


 ゾクリ。


 頭の中へ、無数の声が流れ込んでくる。


 憎悪。


 恐怖。


 飢餓。


 絶望。


 すべてを喰らえ。


 すべてを壊せ。


 世界を奪え。


「うるさい」


 俺は歯を食いしばる。


「お前に、この世界を決めさせるつもりはない」


 建国剣を振り下ろした。


「――消えろ!」


 最後の根が断ち切られた。



 瞬間。


 世界が静かになった。


 黒い瘴気が消える。


 赤黒い核が砕ける。


 そして。


 その中心から、一粒の小さな光が浮かび上がった。


 光はゆっくりと人の姿へ変わっていく。


 青年だった。


 銀灰色の髪。


 穏やかな顔。


 そして――。


「アルフレッド……」


 俺が名前を呼ぶ。


 青年は微笑んだ。


『よくやった』


「生きてるのか?」


『……どうでしょうね』


 彼は苦笑した。


『肉体は、とっくの昔に失われています』


『今ここにあるのは、記憶と意志だけです』


「じゃあ……」


『ですが』


 アルフレッドは俺の肩へ手を置く。


 その手は、光だった。


『あなたが世界を修復してくれた』


『だから、もう十分です』



 その時。


 背後から声が聞こえた。


「アルト」


 世界樹の巫女だった。


 彼女は静かに歩み寄る。


 アルフレッドは振り返った。


『……遅くなりました』


「ええ」


 巫女は笑う。


「ずいぶん待ちましたよ」


『申し訳ありません』


「いいのです」


 二人はしばらく見つめ合っていた。


 そして。


 アルフレッドは俺を見る。


『管理者』


「なんだ?」


『最後に一つだけ』


 彼は笑った。


『この山には鉄があります』


「……え?」


『しかも、とびきり上質な鉄鉱脈です』


 思わず目を丸くする。


 こんな時に何を言ってるんだ。


 だが。


 ガンドの目が一瞬で輝いた。


『なに!?』


 コルも食いつく。


『本当か!?』


 アルフレッドは楽しそうに笑った。


『はい』


『ただし――』


 そこで彼の姿が少しずつ薄くなる。


『掘るなら、山を傷付けないように』


『あなたたちなら、それができるでしょう』


 そして。


 最後に俺へ向かって一礼すると。


『未来を』


 その言葉を残して。


 光となって消えていった。



 しばらく。


 誰も何も言わなかった。


 やがて。


 ガンドがぽつりと呟く。


『……鉄鉱脈』


 デルブも頷く。


『うむ』


『かなり深い』


 コルが拳を握り締める。


『よっしゃあああああ!!』


「お前は感動を台無しにするな!」


 思わず怒鳴る。


『だって鉄だぞ!?』


 コルは本気だった。


 俺は思わず笑ってしまう。


 張り詰めていた空気が、ようやく少しだけ緩んだ。



 その直後。


 ナンシーの声が響く。


『戦闘終了』


『敵性反応――消失』


『世界樹魔力循環――正常化』


『山岳地脈――安定』


『新規鉱床を確認』


 俺は苦笑する。


「本当にあるのかよ」


『はい』


 さらに続く。


『鉄鉱石』


『銅鉱石』


『石炭』


『そして――』


 一拍。


『未知の高密度金属反応』


 俺は思わず黙り込んだ。


「未知の金属?」


『はい』


『解析率――〇%』


『既存文明データベースに該当なし』


 ガンドがゆっくりと笑った。


『どうやら』


『この山は鉄だけでは終わらぬようじゃな』


 俺は巨大な山を見上げる。


 さっきまで感じていた不気味な圧迫感は、もうない。


 代わりに。


 山そのものが、静かに息をしているような感覚があった。


 そして俺は理解した。


 俺たちが探しに来たのは、ただの鉄鉱山ではなかった。


 ここには。


 この都市の未来を支える資源だけでなく――。


 失われた文明の秘密そのものが眠っている。


 探索隊の本当の鉱山探索は。


 今、始まったばかりだった。

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