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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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君の名は

 結晶剣へ刻まれた亀裂は、なおもゆっくりと広がっていた。


 ピシッ。


 ピシッ。


 細かな破片が青い光となって剥がれ落ちる。


 それでもガーディアン・ロードは微動だにしない。


 その巨体は、俺たちを守る城壁そのものだった。


 俺は強く拳を握り締める。


 守護者は命令を待っている。


 だが、ただ「倒せ」と命じるだけでは勝てない。


 デバウアーは倒す相手ではなく、封じるべき災害なのだ。


 試練の回廊で出会った青年。


 マザー。


 ガンド。


 デルブ。


 皆の言葉が頭の中で繋がっていく。


 そして、一つの答えへ辿り着いた。



「マザー」


『はい』


「旧文明はどうやってデバウアーを止めた?」


 マザーはすぐには答えなかった。


 まるで、遠い記憶を探るように。


『……撃破していません』


 やはり。


 予想通りだった。


「封印したんだな?」


『はい』


『世界樹の根と管理者契約を利用し』


『活動を永久停止状態へ移行しました』


「永久停止……」


『厳密には違います』


『魔力循環を零へ固定し』


『活動限界以下まで出力を低下させました』


 つまり、殺したわけではない。


 動けなくしただけだ。


 俺はデバウアーを見据える。


 あれほどの存在なら、完全に破壊する方法など存在しないのだろう。



 その時。


 デルブが叫んだ。


『小僧!』


『胸じゃ!』


「胸?」


『胸の黒い核だけが、山の流れに逆らっておる!』


 ガンドも頷く。


『身体は喰うた金属で出来ておる』


『じゃが核だけは違う!』


『あれだけは、世界樹に属しておらぬ!』


 ナンシーが解析結果を重ねる。


『照合完了』


『敵本体』


『胸部結晶核』


『外殻は自己生成物』


『核のみが本体です』


 やはり。


 狙うべきはあそこだけだ。



 その時、ミントが俺の服の裾を引っ張った。


「パパ」


「どうした?」


 ミントはデバウアーではなく、その足元を指差している。


「下」


「下に光ってる」


 俺は目を凝らす。


 黒い巨体の足元。


 崩れた床の隙間から、僅かに青い光が漏れていた。


 ナンシーが即座に拡大表示する。


『地下空洞を確認』


『世界樹主根』


『接続部位』


 マザーが驚いたように声を上げる。


『そんな……』


『まだ無事だったのですね』


「つまり?」


『あそこが、この山の心臓です』


『世界樹の主根』


『デバウアーは主根へ到達しようとしています』


 あと少しで。


 あと数メートルで。


 世界樹そのものへ手が届く位置だった。



 俺はガーディアン・ロードを見上げる。


「聞こえるか」


『はい』


「勝つ必要はない」


 巨大な守護者が静かに頷く。


「核を世界樹から引き離せ」


「それだけでいい」


 数秒。


 沈黙が流れる。


 そして。


『戦術を更新』


『撃破』


『封印へ変更』


『成功率を再計算』


 蒼い瞳が何度も瞬く。


『新戦術』


『成功率』


『六七%』


 先ほどより大きく上昇した。



 デバウアーが再び咆哮する。


 黒い結晶から無数の棘が伸び、槍のように降り注いだ。


 ガーディアン・ロードは巨大な剣を横薙ぎに振るう。


 蒼い衝撃波。


 黒い槍。


 真正面から激突する。


 ドガァァァァン!!


 爆風が封印区画を駆け抜けた。


 その隙だった。


『今です』


 マザーが叫ぶ。


 ガーディアン・ロードは剣を手放した。


「なっ!?」


 巨大な結晶剣が床へ突き刺さる。


 守護者は両腕を大きく広げ、そのままデバウアーへ体当たりを仕掛けた。


 轟音。


 白銀の巨体が黒い異形を真正面から抱え込む。


 ギギギギギギ……。


 互いの装甲が悲鳴を上げる。


『捕獲成功』


『敵移動開始』


 ガーディアン・ロードは全身の関節から蒼い炎を噴き出しながら、一歩、また一歩とデバウアーを押し始めた。


 目指す先はただ一つ。


 世界樹の主根から離れた封印陣の中央。



 しかし。


 ドクン!!


 黒い核が、これまでで最も大きく脈打った。


 瞬間。


 ガーディアン・ロードの胸部装甲を、黒い棘が貫いた。


 ゴシュッ!


 蒼い魔力が血のように噴き出す。


『損傷確認』


『胸部魔力炉』


『損傷率』


『三八%』


 ナンシーが警告を発する。


 ガンドが思わず叫んだ。


『いかん!』


 それでも。


 ガーディアン・ロードは止まらない。


 胸を貫かれながらも、一歩。


 また一歩。


 主根からデバウアーを引き離していく。


 その姿を見た俺は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


 三千年間。


 この騎士は、たった一つの命令だけを守り続けてきた。


 ――未来の管理者を守れ。


 その使命だけで、今なお戦い続けているのだ。


 そして、その忠誠に応える時が来た。


 俺はゆっくりと剣を構え、ナンシーへ向かって静かに命じた。


「ナンシー」


「封印術式を起動する」


『了解』


『管理者補助を開始』


 俺の足元へ、幾重もの青い魔法陣が静かに展開され始めた。


 幾何学模様を幾重にも重ねた巨大な魔法陣が、俺の足元からゆっくりと広がっていく。


 青白い光が床に刻まれた世界樹の紋様と重なり、一つ、また一つと古代文字が浮かび上がった。


 ナンシーが高速で演算を続ける。


『封印術式を展開』


『世界樹接続開始』


『管理者認証』


『文明継承者認証』


『マザー認証』


『三重認証維持』


 青い光が地下空間を満たしていく。


 一方で、デバウアーの黒い瘴気も濃さを増していた。


 白と黒。


 二つの力が真正面から拮抗する。



 俺の脳裏へ、次々と情報が流れ込んできた。


 封印陣。


 魔力の流れ。


 世界樹の主根。


 施設全体の構造。


 そして――。


 ガーディアン・ロードの現在位置。


「そういうことか……」


 俺は思わず呟いた。


 試練は、ここへ来るためのものだったのだ。


 戦う技術ではない。


 管理するための知識。


 都市も。


 施設も。


 守護者も。


 すべて一つの巨大な仕組みとして動いている。


 管理者とは、その全体を見渡す存在なのだ。



「マザー」


『はい』


「封印陣の中心はどこだ?」


 すぐに床へ一つの光点が浮かぶ。


『現在』


『デバウアーの後方二・四メートル』


 そこは、ガーディアン・ロードが押し込もうとしている場所と完全に一致していた。


「あと少しだ……!」


 巨大な守護者は全身の関節から蒼い光を噴き出しながら、一歩ずつ異形を押し続ける。


 ギギギギ……。


 床が削れ、岩盤が砕ける。


 胸を貫かれてなお、その足は止まらない。


『目標地点まで』


『一・八メートル』


 ナンシーが淡々と告げる。



 しかし、その時だった。


 デバウアーの黒い核が、不気味なほど静かになった。


 鼓動が止まる。


 ドクン。


 という音さえ消えた。


「……?」


 ガンドが顔色を変える。


『気を付けろ!』


『何か来る!』


 次の瞬間。


 ドグォォォォォッ!!


 黒い核が爆発するように脈動した。


 黒い衝撃波が球状に広がり、封印区画を一気に飲み込む。


 ガーディアン・ロードが吹き飛ばされる。


 俺たちも衝撃で床を転がった。


「ぐっ!」


 視界が揺れる。


 耳鳴りが止まらない。


 ナンシーの声だけが、途切れ途切れに聞こえてくる。


『警……告』


『魔力……暴走』


『術式……四二%……損傷』



 立ち上がる。


 砂煙の向こうを見る。


 そこには。


 デバウアーだけではなかった。


 黒い瘴気が人の形を取り始めていた。


 一人。


 二人。


 三人。


 いや、それ以上。


 数十体。


 全員が黒い鎧を纏い、顔のない騎士の姿をしている。


 その手には、それぞれ異なる武器。


 剣。


 槍。


 斧。


 弓。


 ナンシーが解析を始める。


『新規敵性反応』


『個体数』


『四十八』


『デバウアーより分離』


『魔力擬似生命体』


 導師ゼクトが絶望したように叫ぶ。


「そんな馬鹿な!」


「まだ増えるのか!」


 マザーが静かに説明する。


『デバウアーは』


『捕食した生命情報を複製できます』


『彼らは』


『過去に捕食された守護兵の模倣体です』


 ぞっとした。


 つまり。


 これまで喰われた者たちが、敵として蘇っているのだ。



 黒い騎士たちが一斉にこちらを向く。


 そして。


 何の感情もなく歩き始めた。


 ガンドが石槌を握る。


『小僧』


『封印は続けろ』


『こいつらは儂らが止める』


 デルブも四色の方位石を構えた。


『時間を稼ぐ』


 コルは待ってましたと言わんばかりに拳を鳴らす。


『やっと俺の出番だ!』


 ローズも静かに杖を構えた。


 その背後では、ミントが両手を胸の前で合わせ、小さく祈っている。



 俺は仲間たちを見回した。


 誰一人として逃げようとはしない。


 都市を守るため。


 山を守るため。


 未来を守るため。


 皆が、それぞれの役目を果たそうとしている。


 俺も頷いた。


「頼む」


 その一言だけで十分だった。


 ガンドが豪快に笑う。


『任せておけ!』


 次の瞬間。


 黒い騎士たちと妖精たちが、真正面から激突した。


 轟音。


 閃光。


 怒号。


 戦場は再び混戦へ変わる。


 一方その頃。


 ガーディアン・ロードは崩れた瓦礫の中で、ゆっくりと身体を起こしていた。


 胸部魔力炉からは蒼い光が漏れ続けている。


 その視線は、ただ一つ。


 封印陣の中心を見据えていた。


『管理者』


 通信回線を通して、その低い声だけが俺へ届く。


『あと一度』


『あと一度だけ』


『押し込めれば』


『終わります』


 その言葉と同時に、巨人は砕けかけた結晶剣を再び握り締め、静かに立ち上がった。


『封印術式』


『九六%』


『九七%』


 ナンシーの報告と同時に、地下空間を満たしていた緑の光がさらに強さを増していく。


 世界樹の巫女は静かに両手を胸の前で重ね、祈るように目を閉じた。


 彼女の足元から伸びる無数の光の根が、世界樹の主根へ溶け込んでいく。


 それに呼応するように、地下深くから生命の鼓動にも似た振動が伝わってきた。


 ドクン。


 ドクン。


 今度の鼓動は、デバウアーの禍々しいものではない。


 穏やかで、暖かく、大地そのものが息を吹き返していくような鼓動だった。



 デバウアーは本能的に危険を察したのだろう。


 黒い核が激しく脈打ち、全身から瘴気を噴き上げる。


 ギィィィィィィッ!!


 耳障りな咆哮が響き渡る。


 その巨体から、残っていた黒い騎士たちが次々と吸収されていった。


 四十八体。


 そのすべてが黒い霧となり、本体へ還っていく。


 ナンシーが即座に解析する。


『敵性個体』


『眷属を全回収』


『最終形態へ移行』


「最後の勝負を仕掛けてくる!」


 俺が叫ぶ。


 デバウアーの身体が急速に縮み始めた。


 十メートル近かった巨体が、八メートル。


 六メートル。


 四メートル。


 やがて人間より一回り大きい程度の大きさまで圧縮される。


 しかし、その密度は比べ物にならなかった。


 全身が漆黒の結晶へ変わり、胸の核だけが血のように赤く輝いている。


 ガンドが息を呑む。


『圧縮した……』


『魔力を一点へ集めたぞ!』



 ナンシーの声が緊迫する。


『敵危険度』


『最大値を更新』


『推定攻撃』


『一撃限定』


『回避不能』


 デバウアーはゆっくりと右腕を掲げた。


 黒い結晶が腕へ集中していく。


 その先端には、小さな黒い球体が生まれていた。


 わずか拳ほどの大きさ。


 だが、その周囲の空間は歪み、光さえ吸い込まれていく。


 マザーが珍しく声を荒らげた。


『いけません!』


『あれは重力崩壊弾です!』


『直撃すれば、この山ごと消滅します!』



 その瞬間。


 ガーディアン・ロードが静かに前へ出た。


 俺は嫌な予感がした。


「待て」


 守護者は振り返らない。


『管理者』


『最終任務を開始します』


「何をする気だ!」


 返ってきた声は、どこまでも穏やかだった。


『敵攻撃を受け止めます』


「無理だ!」


『可能です』


 ナンシーが否定する。


『計算結果』


『成功率』


『零・八%』


『機体消滅率』


『九九・九%』


 ガーディアン・ロードは静かに答えた。


『十分です』


 その一言に、誰も言葉を返せなかった。



 守護者は巨大な結晶剣を地面へ突き立てた。


 そして胸部魔力炉へ右手を当てる。


 ゴォォォォォ……。


 蒼い魔力が限界を超えて噴き上がる。


 亀裂だらけだった装甲が眩く輝き始めた。


 ナンシーが驚愕する。


『自己炉心解放』


『禁止機能です!』


 マザーも叫ぶ。


『駄目です!』


『それは初代管理者によって封印された機能です!』


 しかし。


 ガーディアン・ロードは微笑むような声音で答えた。


『だからです』


『未来の管理者を守るためだけに』


『使用を許可されました』



 俺は思わず前へ踏み出す。


「やめろ!」


「それじゃ、お前が!」


 ガーディアン・ロードは初めて、ほんの少しだけこちらを振り向いた。


 蒼い瞳は、どこまでも穏やかだった。


『管理者』


『ありがとうございました』


『長い間』


『待ち続けた意味が』


『ようやく報われます』


 その言葉と共に、守護者の全身から蒼い粒子が舞い始める。


 まるで身体そのものが光へ変わっていくようだった。



 そして。


 デバウアーが黒い球体を放つ。


 世界を飲み込む漆黒。


 すべてを守ろうとする蒼白。


 二つの極限の力が、封印陣の中央で真正面から激突しようとしていた。


 その刹那。


 世界樹の巫女が静かに目を開く。


 そして、透き通るような声で一つの名を呼んだ。


「――アルト」


 その名を聞いた瞬間。


 ガーディアン・ロードの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。


 まるで、長き眠りから懐かしい声で呼び起こされたかのように。

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