表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/48

長き時を超えて受け継がれた忠誠

「――Y」


 その一文字を選択した瞬間だった。


 ゴォォォォォォォォン――――!!


 山そのものが咆哮した。


 地鳴りではない。


 地下深くを流れる莫大な魔力が、一斉に目覚めた音だった。


 封印区画の床が青白く輝き始める。


 壁面を走る導管という導管へ光が駆け巡り、今まで黒く侵食されていた部分が次々と浄化されていく。


 デバウアーが初めて後退した。


 ギギギギ……。


 黒い装甲が軋み、胸の結晶が激しく脈打つ。


 まるで本能的に危険を察知したかのようだった。



 ナンシーが立て続けに報告する。


『最終防衛機構』


『起動シーケンス開始』


『世界樹魔力炉接続』


『第一安全装置解除』


『第二安全装置解除』


『第三安全装置解除』


 その表示は止まらない。


『山岳防衛システム起動』


『管理都市コード』


『EMAIN-MACHA』


『認証完了』


 そして。


 地下施設全域へ、一人の女性の声が静かに響いた。


 それはマザーの声だったが、先ほどまでとは違う。


 管理者としての、厳かな響きを帯びていた。


『最終防衛機構』


『《ガーディアン・ロード》』


『起動します』



 ズン――。


 足元から重い振動が伝わる。


 最初は小さい。


 だが次第に大きくなり、やがて地下全体が震え始めた。


 天井から砂が落ちる。


 壁の小石が跳ねる。


 黒衣の男たちが恐怖の表情を浮かべた。


「な、何だ!」


「地震か!」


「違う!」


 導師ゼクトだけは青ざめた顔で叫ぶ。


「逃げろ!」


「これは封印じゃない!」


「施設そのものが動き出した!」



 その時。


 封印区画の中央に刻まれていた巨大な世界樹の紋章が、ゆっくりと左右へ割れ始めた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 直径二十メートルを超える円形の床が、静かに沈降していく。


 その下には、底知れぬ暗闇。


 そして。


 暗闇の中で、二つの蒼い光が灯った。


 目だ。


 巨大な何かが、ゆっくりと瞼を開いた。


 ガンドが思わず石槌を取り落としかける。


『……おお』


『本当におったとは』


 デルブも呆然と立ち尽くす。


『山の王』


『伝承は本当じゃったか』



 ゴォォォォォォン!!


 暗闇から、一つの巨腕が姿を現す。


 白銀。


 いや。


 白銀に見えたのは、全身を覆う純白の鉱石装甲だった。


 腕一本だけで五メートルはある。


 続いて肩。


 胸。


 頭部。


 ゆっくりと立ち上がるその姿は、あまりにも巨大だった。


 十五メートル。


 二十メートル。


 いや、さらに大きい。


 全身を白い結晶と銀色の金属で覆われた人型の守護者。


 胸の中央には、巨大な蒼い魔力炉が太陽のように輝いている。


 その背中からは六枚の光の翼にも似た放熱板が展開され、轟音とともに青白い粒子を噴き出していた。


 ナンシーが珍しく感情を含んだ声を上げる。


『確認』


『旧文明最終防衛兵器』


『識別名称』


『《ガーディアン・ロード》』



 守護者はゆっくりと頭を上げる。


 蒼い双眸が戦場全体を見渡した。


 そして。


 俺を見た。


 その瞬間。


 胸の魔力炉が一際強く輝く。


 低く、それでいてどこか人間味のある男性の声が響いた。


『……管理者を確認』


『継承者を確認』


『マザーとの共同認証を確認』


 巨大な守護者は、ゆっくりと片膝をつく。


 地下全体が揺れる。


『最終防衛機構』


『ガーディアン・ロード』


『管理者命令を受領します』


 その姿は、まるで騎士だった。


 絶望的な戦場で、主君へ忠誠を誓う巨大な騎士。



 一方、デバウアーも黙ってはいない。


 黒い結晶が暴走するように脈打ち始める。


 ドクン!


 ドクン!


 床へ散らばっていた金属片だけではない。


 壁。


 柱。


 導管。


 施設そのものを構成する金属が、次々と引き剥がされ、黒い巨体へ吸収されていく。


 その身体は四メートルから六メートルへ。


 六メートルから八メートルへ。


 見る見る巨大化していく。


 ナンシーが警告する。


『敵性個体』


『自己進化を確認』


『現在サイズ』


『九・四メートル』


『危険度上昇』


 ガンドが歯噛みする。


『施設そのものを喰う気じゃ!』


『このままでは山が空洞になるぞ!』



 巨大な二体が向かい合う。


 一方は白銀の守護者。


 一方は漆黒の捕食者。


 青い魔力と黒い瘴気がぶつかり合い、空間そのものが震えていた。


 そして。


 ガーディアン・ロードが静かに右手を差し出す。


 何も握っていない空間へ。


 すると周囲の蒼い粒子が一箇所へ集まり始めた。


 光が凝縮する。


 圧縮される。


 やがて一本の巨大な剣となって、その手へ収まった。


 全長十五メートルはあろうかという蒼白い結晶剣。


 刀身へ世界樹の紋章が浮かび上がる。


 守護者は静かに剣を構えた。


『管理者様』


『命令を』


 巨大な騎士の問い掛けに、俺は迷わなかった。


 剣を真っ直ぐデバウアーへ向ける。


「都市を守れ」


「山を守れ」


「――あいつを止めろ!」


 ガーディアン・ロードの蒼い瞳が力強く輝いた。


『命令』


『受領』


 次の瞬間。


 十五メートルを超える白銀の巨体が、雷鳴のような轟音とともに大地を蹴った。


 ドォォォォン!!


 ガーディアン・ロードが大地を蹴った衝撃だけで、封印区画全体が大きく揺れた。


 十五メートルを超える巨体とは思えない速度。


 白銀の残光を引きながら、一瞬でデバウアーとの間合いを詰める。


 その巨大な結晶剣が、真っ直ぐ振り下ろされた。


 ゴォォォッ!!


 空気が裂ける。


 いや、空気そのものが圧縮され、衝撃波となって先行していた。


 デバウアーは黒い腕を交差させ、それを受け止める。


 激突。


 ガァァァァァァン!!


 耳を塞いでも意味がないほどの轟音が地下空間を満たした。


 白と黒。


 蒼と漆黒。


 二つの魔力が真正面からぶつかり合う。


 衝撃だけで周囲の床が放射状に砕け、封印区画の壁へ幾筋もの亀裂が走った。


「うわっ!」


 俺たちは思わず身を伏せる。


 頭上から無数の石片が降り注ぐ。


 この戦いは、もはや人間が介入できる領域ではない。



 ギギギギギ……。


 結晶剣を受け止めたデバウアーの両腕から、黒い火花が散る。


 しかし、その身体は一歩も退かない。


 胸の黒い結晶が激しく脈打つたび、周囲へ漂う瘴気が濃くなっていく。


 ドクン。


 ドクン。


 その鼓動に呼応するように、床へ散らばる金属片が再び浮かび上がった。


 ズズズズ……。


 金属だけではない。


 砕けた柱。


 崩れた壁。


 天井を支える梁。


 施設を構成するあらゆる物質が黒い渦へ巻き込まれ、デバウアーの身体へ吸収されていく。


 ナンシーが即座に解析を続ける。


『敵性個体』


『自己修復能力を確認』


『周辺物質を捕食』


『損傷部位を再構築』


 先ほどガーディアン・ロードが刻んだ傷が、見る間に塞がっていく。


 ガンドが顔をしかめた。


『駄目じゃ』


『斬るだけでは終わらぬ』


『山そのものを喰われ続けるぞ』



 ガーディアン・ロードは後方へ大きく跳び、距離を取った。


 その瞳が青く瞬く。


『戦闘解析開始』


『敵能力を更新』


『通常近接戦闘』


『撃破成功率 一二%』


 わずか一二%。


 マザーが静かに補足する。


『敵は世界樹の魔力を汚染し、物質へ変換しています』


『核を破壊しない限り、無限に再生します』


 俺はデバウアーの胸を見る。


 黒い結晶。


 あれが核か。


 しかし、あの巨体を相手に胸だけを狙うなど容易ではない。



 その時だった。


 今まで黙っていたデルブが、突然顔を上げる。


『違う』


 誰もが振り向く。


 デルブは地面へ膝をつき、手のひらを床へ当てていた。


『聞こえる』


『山が話しておる』


 ガンドも目を閉じる。


 数秒後、驚いたように目を見開いた。


『本当じゃ……』


『山が支えておる』


「何をだ?」


『ガーディアン・ロードをじゃ』


 デルブが静かに説明する。


『あの守護者は、自分の魔力だけで戦っておるのではない』


『山全体』


『いや』


『世界樹の根から魔力を受け取って戦っておる』


 ナンシーが即座に情報を統合する。


『照合完了』


『ガーディアン・ロード』


『動力源』


『世界樹魔力循環システム』


『山が汚染されるほど出力は低下します』


 つまり――。


 長期戦になれば不利なのは、こちらだ。


 デバウアーは喰うほど強くなる。


 ガーディアン・ロードは山が傷付くほど弱くなる。



 その時。


 ミントの小さな声が響いた。


「違うよ」


 全員が振り返る。


 ミントは真っ直ぐデバウアーを見つめていた。


 その金色の瞳は、どこか焦点が合っていない。


「お山さんが泣いてる」


「まだ中にいる」


「苦しいって」


 ローズが優しく肩へ手を置く。


「誰がいるの?」


 ミントは迷うことなく答えた。


「黒いのじゃない」


「もっと奥」


「光ってる人」


 その一言で、マザーの声が僅かに震えた。


『……確認』


『生命反応を再走査』


『深部封印層』


『微弱な反応を検知』


 ナンシーも驚いたように続ける。


『データベース照合』


『該当者あり』


『旧文明管理者』


『生体保存反応』


「生体保存……?」


 俺は思わず聞き返した。


『はい』


 マザーが静かに答える。


『この施設には』


『最後の管理者が眠っています』


 その場の空気が凍り付く。


 はるか昔の管理者。


 そんな存在が、今も生きているというのか。


 マザーは悲しげに続けた。


『デバウアーは封印だけでなく』


『その方を捕食しようとしています』


『管理者の魂』


『世界樹との契約』


『それこそが、デバウアーの本当の目的です』


 俺は剣を握る手へ力を込めた。


 この戦いは、単に街を守るためだけではない。


 はるか昔から、この山と世界樹を守り続けた最後の管理者を救うための戦いでもあった。


 その直後。


 デバウアーの胸の結晶が血のような深紅へ染まり、地下深くから不気味な鼓動が響き始める。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 それはまるで、封印の最奥で眠る誰かの命を引きずり出そうとするかのような、禍々しい脈動だった。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン――。


 黒い鼓動が地下施設全体へ広がる。


 それは単なる音ではなかった。


 鼓動のたびに床を流れる青い魔力が黒く濁り、世界樹から送られてくる清浄な力が少しずつ侵食されていく。


 ナンシーが即座に解析結果を表示した。


『世界樹魔力循環率』


『七九%』


『七六%』


『七二%』


 数字が、みるみる下がっていく。


「まずい……」


 このままではガーディアン・ロードの出力まで低下してしまう。



 その時。


 マザーが静かに告げた。


『管理者様』


『一つだけ方法があります』


「何だ?」


『危険を伴います』


「構わない」


『ガーディアン・ロードは世界樹から魔力を受けています』


『しかし本来は』


『管理者とも直結する設計です』


「俺と?」


『はい』


『管理者が世界樹との回路を開放すれば』


『一時的に出力を三倍まで引き上げられます』


 ガンドの顔色が変わった。


『待て!』


『それは駄目じゃ!』


 マザーは静かに続ける。


『成功率は六三%』


『失敗した場合』


『管理者の生命力が世界樹へ逆流します』


「つまり……」


『死亡する可能性があります』


 沈黙。


 コルが思わず叫ぶ。


『そんなもん却下だ!』


 デルブも珍しく強い口調になる。


『他の方法を探せ!』


 ローズはミントを抱き寄せながら、黙って俺を見つめていた。



 しかし。


 俺はデバウアーを見る。


 その巨体はなおも施設を喰らい続けている。


 ガーディアン・ロードは押し返しているものの、決定打がない。


 長引けば負ける。


 それは誰の目にも明らかだった。


「マザー」


『はい』


「もし俺が回路を開けば」


「倒せる可能性は?」


 少しだけ間が空く。


『八九・七%』


 高い。


 だが命を賭けるには十分すぎる数字でもある。


 ガンドが石槌を地面へ叩き付けた。


『馬鹿を言うな!』


『お主は管理者じゃ!』


『死んだら街はどうなる!』


 デルブも静かに頷く。


『管理者は代わりがおらぬ』


『山より先に、お主を守るべきじゃ』



 その時だった。


 今まで黙っていたガーディアン・ロードが口を開いた。


『提案があります』


 全員の視線が巨大な守護者へ集まる。


『管理者の生命力は不要です』


 ナンシーが反応する。


『確認できません』


『データに存在しません』


 ガーディアン・ロードはゆっくりと答えた。


『通常は不要です』


『ただし』


『私は通常の個体ではありません』


「どういう意味だ?」


 数秒の沈黙。


 そして。


『私は初代管理者の人格補助機能を搭載しています』


 全員が息を呑んだ。


「人格……?」


『はい』


『管理者が孤独にならぬよう』


『助言を与えるため』


『その記憶の一部を保持しています』


 マザーが静かに補足する。


『正式名称』


『ガーディアン・ロード試作零号』


『初代管理者専用機です』



 その言葉を聞いた瞬間。


 俺の頭へ、一瞬だけ映像が流れ込んだ。


 白い都市。


 世界樹。


 大勢の人々。


 そして。


 一人の青年が笑っている。


 試練の回廊で出会った、あの管理者だった。


 彼は巨大な守護者の足元へ立ち、優しくその装甲を叩いている。


『頼んだぞ』


『相棒』


 それだけだった。


 映像はすぐ消えた。


 だが。


 俺は理解した。


 この守護者は兵器ではない。


 彼は長い間、主との約束を守り続けてきた騎士なのだ。



『管理者』


 ガーディアン・ロードが再び俺を見る。


『お願いがあります』


 初めてだった。


 命令を待つだけだった守護者が、自ら願いを口にしたのは。


『私を信じてください』


『あなたは生きてください』


『それが』


『主との約束です』


 俺は思わず問い返す。


「主?」


『初代管理者』


『最後の命令』


 巨大な守護者は静かに答えた。


『未来の管理者を守れ』


『それが私の使命です』



 その瞬間。


 デバウアーが咆哮を上げた。


 ゴォォォォォォッ!!


 胸の結晶から黒い光線が放たれる。


 一直線にガーディアン・ロードへ迫る。


 守護者は即座に巨大な剣を盾のように構えた。


 激突。


 轟音。


 青白い結晶剣へ亀裂が走る。


 ミシッ。


 ミシミシッ。


 ナンシーが警告する。


『主武装』


『耐久率五二%』


『敵出力上昇』


『次弾で破壊される可能性七八%』


 ガーディアン・ロードは一歩も退かなかった。


 ただ黙って俺を見つめる。


『管理者』


『命令を』


 その蒼い瞳には、一片の恐怖も迷いもなかった。


 あるのは、長き時を超えて受け継がれた忠誠だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ