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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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『山の王』

 隔壁の向こうへ飛び込んだ瞬間。


 耳をつんざくような金属音が通路の奥から響いてきた。


 ガギィィィン!!


 ズドォォォン!!


 剣と剣がぶつかり合う音ではない。


 何トンもの鉄塊同士が正面から激突しているような、重々しい衝撃音だった。


「近い!」


 ガードナーたちを置いてきたことも忘れ、俺たちは一気に通路を駆け抜ける。


 管理者権限が上がった影響なのか、ナンシーの案内表示も大きく変化していた。


 青白い光の矢印が床へ浮かび上がる。


『最短経路を表示』


『目的地』


『第十五層・封印保管区画』


『到達予想』


『三分四十二秒』


「助かる!」


 以前なら地図しか表示できなかったナンシーが、今では施設そのものを誘導してくれる。


 権限レベル四の恩恵は想像以上だった。



 やがて通路は大きな十字路へ突き当たる。


 その中央には、砕け散った銀色の巨人が横たわっていた。


 身長は三メートルを超える。


 全身を重厚な白銀の装甲で覆い、右腕には塔ほどもある大盾。


 しかし、その胸部は大きく抉られ、内部の青い結晶が砕け散っていた。


 ボルグがいれば名前を教えてくれただろう。


 だが、ナンシーがすぐに解析を始める。


『施設防衛兵器』


『ガーディアン・ゴーレム』


『状態』


『機能停止』


『破壊時刻』


『約十五分前』


 ガンドが低く唸る。


『真正面から叩き潰されておる』


『相当な怪力じゃ』


 俺も頷く。


 これほど巨大な守護兵器を正面から破壊するなど、生半可な相手ではない。



 その時。


 ピッ。


 ナンシーの前脚が小さく震えた。


『新たな権限を確認』


『施設防衛兵器へ接続可能』


『接続を開始しますか』


 思わず立ち止まる。


「今さら?」


『残存魔力』


『八%』


『一時的再起動は可能』


 壊れたゴーレムを見下ろす。


 胸の結晶は砕けている。


 腕も片方しか残っていない。


 だが、まだ完全には死んでいないらしい。


「やってみろ!」


『了解』


 ナンシーの身体から青い光が伸び、ゴーレムの胸部へ吸い込まれていく。


 次の瞬間。


 ゴォン……。


 巨大な身体がわずかに震えた。


 片目だけだった水晶の瞳へ、青い光が戻る。


『緊急命令を受領』


『暫定管理者権限を確認』


『命令を』


 低く重厚な声が響いた。


 俺は迷わず命じる。


「動けるか?」


『戦闘能力』


『一四%』


『歩行可能』


『戦闘継続可能』


 十分だ。


「後方へ戻れ」


「エルシアとボルグ、それに皆を守れ」


『命令受諾』


 ゆっくりと立ち上がるゴーレム。


 片腕しかない。


 装甲も半分は砕けている。


 それでも、その背中には不思議な頼もしさがあった。


 ガンドが満足そうに笑う。


『ほう』


『ようやく管理者らしくなってきたの』


 俺も思わず笑みを浮かべる。


 施設は敵ではない。


 味方にできる。


 それが管理者の力なのだ。



 さらに奥へ進む。


 すると空気が変わった。


 冷たい。


 いや、違う。


 魔力そのものが重い。


 呼吸するだけで胸が圧迫されるようだった。


 デルブが突然立ち止まる。


『駄目じゃ』


「何が?」


『地脈が狂っておる』


『世界樹の流れが逆流しておる』


 ナンシーも同じ結論を出した。


『魔力循環異常』


『正常値の六・七倍』


『原因』


『汚染核からの逆流』


 床を見れば、青く輝いていた導管は半分以上が黒く染まり、その黒い筋は封印区画の方角へ集まっていた。


 まるで毒が血管を遡っているようだった。



 その時。


 ドォォォォン!!


 また爆発音。


 今度は、すぐ近くだ。


 続いて、人の怒号が聞こえる。


「押せ!」


「あと少しだ!」


「封印は割れる!」


 男たちの声だった。


 少なくとも十人以上。


 俺は拳を握る。


「いた!」


 通路の先から橙色の光が漏れている。


 その向こうが封印区画だ。


 ナンシーが即座に報告した。


『目標地点』


『到達』


『隔壁まで残り』


『十八メートル』


 俺は足を止め、仲間たちを振り返る。


 ガンドは石槌を肩へ担ぎ直す。


 デルブは四色の方位石を握り締める。


 コルは嬉しそうに拳を鳴らした。


『やっと本番だな!』


 俺は静かに剣を抜く。


 カシャン――。


 鋼の音が静かな通路へ響く。


「相手の目的はまだ分からない」


「だが、一つだけははっきりしている」


 全員が俺を見る。


「ここは俺たちの街を支える山だ」


「誰にも壊させるわけにはいかない」


 三人の妖精が力強く頷いた。


『当然じゃ』


『山は儂らが守る』


『鉄も全部守る!』


 その瞬間。


 最後の隔壁が内側から激しく膨らんだ。


 ミシッ。


 ミシミシッ。


 分厚い金属板へ蜘蛛の巣のような亀裂が走る。


 そして――。


 ガァァァァン!!


 轟音とともに隔壁が内側から吹き飛び、爆風が通路を駆け抜けた。


 舞い上がる砂煙の向こうから、ゆっくりと一つの巨大な影が姿を現す。


 人ではない。


 魔物でもない。


 全身を黒い結晶に覆われた、四メートルを超える異形の巨人。


 胸の中央では、黒く脈打つ結晶核が、不気味な鼓動を刻んでいた。


 その背後では、十数人の黒衣の男たちが歓声を上げている。


「成功だ!」


「封印が破れたぞ!」


 だが、その歓声とは対照的に、ナンシーの声だけはかつてないほど深刻だった。


『最優先警告』


『封印対象を確認』


『旧文明災害指定個体』


『識別名称――』


 わずかな沈黙。


 そして。


『《デバウアー》起動』


『旧文明災害指定個体』


識別名称デバウアー


『危険度――終末級』


 ナンシーの淡々とした声に、珍しく微かな緊張が混じっていた。


 俺は思わず聞き返す。


「終末級?」


『文明崩壊要因』


『単独で都市国家を滅ぼす危険性あり』


『通常戦力による撃破は推奨されません』


 空気が凍り付く。


 ガンドもデルブも言葉を失っていた。


 コルでさえ笑顔が消え、巨大な異形を見上げている。


『……こんなもんを封じておったのか』


 ガンドが苦々しく呟く。


『旧文明の連中も、とんでもない置き土産を残しおったわ』



 デバウアーはゆっくりと首を巡らせた。


 ギギギ……。


 錆び付いた歯車のような音を立てながら、その漆黒の瞳が周囲を見渡す。


 顔には口らしいものはない。


 あるのは、胸の中央で鼓動を続ける黒い結晶だけ。


 ドクン。


 ドクン。


 一際大きく脈打つ。


 すると、床へ散らばっていた砕けたガーディアンの破片が、まるで磁石に引かれるように浮き上がった。


「なっ!?」


 金属片だけではない。


 砕けた剣。


 鎧。


 壁から剥がれ落ちた魔力結晶。


 ありとあらゆる人工物が、黒い結晶へ吸い寄せられていく。


 そして――。


 ズズズズ……。


 胸の結晶へ触れた瞬間、それらは音もなく溶けて消えた。


 ナンシーが即座に解析する。


『確認』


『対象は金属・魔力結晶を捕食』


『エネルギーへ変換』


名称デバウアーの由来を確認』


「喰ってるのか……」


 人工物を。


 旧文明の遺産そのものを。



 黒衣の男たちは歓喜していた。


「成功だ!」


「伝承は本当だった!」


「これで旧文明の力は我らのものだ!」


 その中心に、一人だけ豪奢な黒い法衣を纏った男が立っている。


 年齢は四十前後。


 痩せた顔立ちに鋭い眼光。


 手には黒い水晶の杖を握っていた。


 男はデバウアーへ向かって高らかに叫ぶ。


「我は導師ゼクト!」


「古き契約に従い、お前へ命じる!」


「我に従え!」


 黒い杖が妖しく輝く。


 しかし――。


 デバウアーは一切反応しなかった。


 男はもう一度叫ぶ。


「命令だ!」


「我が主人となる!」


 沈黙。


 そして次の瞬間。


 ドクン。


 黒い結晶が一際強く鼓動した。


 ズバッ!


 誰も反応できなかった。


 ゼクトの隣にいた黒衣の男が、一瞬で消えた。


「……え?」


 残ったのは、床へ転がる片腕だけ。


 次の瞬間。


 ブシャアッ!!


 鮮血が噴き上がった。


「ぎゃあああああ!」


「な、何だ!」


「隊長!」


 デバウアーの右腕が、いつの間にか男の胸を貫いていた。


 そして、そのまま持ち上げる。


 男は悲鳴を上げる間もなく、胸の結晶へ吸い寄せられ――。


 ズズッ。


 呑み込まれた。


 骨も。


 肉も。


 鎧も。


 すべて。


 一瞬で消えた。


 静寂。


 誰一人として動けない。


 ゼクトの顔から血の気が引いていく。


「そんな……」


「契約は……」


 ナンシーが冷静に告げる。


『訂正』


『対象は召喚獣ではありません』


『制御不能』


『すべてを捕食対象として認識』



 デバウアーがゆっくりとこちらを向く。


 黒い瞳が俺たちを映した。


 その瞬間だった。


 ナンシーの身体が強く発光する。


『管理者認証を確認』


『デバウアー行動を更新』


『優先捕食対象』


『管理者』


「俺?」


 次の瞬間。


 ドォォォン!!


 デバウアーが床を踏み砕いた。


 四メートルを超える巨体とは思えない速度。


 一瞬で俺との距離を詰める。


「速い!」


 剣を構える暇もない。


 その時だった。


『伏せろ、小僧!』


 ガンドが俺を突き飛ばす。


 直後。


 ゴガァァァァン!!


 石槌と黒い拳が激突した。


 衝撃だけで床が陥没する。


 ガンドは歯を食いしばる。


『ぬおおおおっ!!』


 しかし押し切れない。


 石槌が悲鳴を上げる。


 ミシッ。


 ミシミシッ。


 伝説級の鉱山妖精であるガンドが、力負けしていた。


 デルブが四色の方位石を一斉に投げ放つ。


『地脈よ!』


『縛れ!』


 四つの石が床へ突き刺さる。


 ゴォォォッ!


 地面から無数の岩柱が突き上がり、デバウアーの足へ絡み付いた。


 その隙にコルが飛び出す。


『おらぁぁぁぁっ!』


 全力の拳。


 渾身の一撃。


 ガァァン!!


 鈍い音が響く。


 だが。


『……嘘だろ』


 黒い装甲には、白い傷が一本付いただけだった。


 デバウアーは視線すら向けない。


 岩柱を引き千切り、ガンドを弾き飛ばし、ただ一直線に俺だけを見据えて歩き出す。


 ナンシーの声が響く。


『警告』


『通常攻撃』


『効果を確認できません』


『現戦力では撃破不可能』


 俺は歯を食いしばった。


 これまで幾度も強敵と戦ってきた。


 だが、これほど絶望的な戦力差は初めてだった。


 その時――。


 施設全体へ、一人の女性の声が響き渡る。


 優しく。


 どこか母親のように温かい声だった。


『……管理者様』


『ようやく、お会いできました』


 ナンシーが即座に反応する。


『中央統合管理人工知能』


『《マザー》との回線接続を確認』


 優しい声は、戦場の喧騒とはあまりにも不釣り合いだった。


 金属の激突音も。


 崩れ落ちる瓦礫の轟音も。


 悲鳴も。


 その一瞬だけ、すべてが遠くへ押しやられたように感じられる。


『管理者様』


『応答を確認しました』


『……長い間、お待ちしておりました』


 その声を聞いた途端、ナンシーの身体が今まで見たこともないほど強く発光する。


 青白かった光が黄金色へ変わり、空中へ幾重もの魔法陣が展開された。


『上位管理権限との通信を確立』


中央統合管理人工知能マザー


『接続率 三七%』


 マザーは生きている。


 本当に、たった一人で戦い続けながら。



「マザー!」


 俺は思わず叫ぶ。


「デバウアーは止められるのか!」


 一拍の沈黙。


 そして、静かな答えが返ってくる。


『可能です』


 全員の表情が明るくなる。


 だが、次の言葉がその希望を打ち砕いた。


『ただし』


『現在の管理者権限では実行できません』


「何が足りない!」


『管理者権限ではありません』


『……管理者の数が不足しています』


 意味が分からなかった。


「数?」


『本施設は単独管理を想定していません』


『緊急封印解除権限には』


『三名以上の正式管理者による共同認証が必要です』


 俺は言葉を失う。


 三人。


 だが、この場に管理者は俺一人しかいない。



 その時、ナンシーが何かへ気付いたように前脚を動かした。


『情報照合』


『例外規定を確認』


『共同認証対象』


『管理者』


『文明継承者』


『施設管理人工知能』


 俺は目を見開く。


「待て」


「文明継承者って……」


 思い浮かぶ人物は一人しかいない。


「リリィ!」


 叡智の塔地下で共同認証を行った少女。


 文明の継承者。


 しかし彼女は今、エマイン・マハにいる。


 こんな地下深くまで来られるはずがない。


 俺の考えを読んだように、マザーが穏やかに告げた。


『ご安心ください』


『文明継承者との通信回線は維持されています』


「通信?」


『マザークリスタル同士は世界樹の根で繋がっています』


『距離は障害になりません』


 次の瞬間。


 俺の視界へ見慣れた光が浮かんだ。


 ――共同認証を開始しますか?


 その文字とともに、もう一つの名前が表示される。


【文明継承者 リリィ】


【応答待機中】



 一方、その頃。


 エマイン・マハ。


 叡智の塔最上階。


 マザークリスタルの前で書類を整理していたリリィは、突然響いた電子音に顔を上げた。


『緊急共同認証要請』


『管理者ハーシスより接続要求』


「ハーシスさん?」


 彼女は驚きながらも、すぐに状況を理解した。


 クリスタルの表面へ映し出されるのは、黒い巨人。


 崩壊寸前の地下施設。


 そして必死に剣を構えるハーシスの姿。


 リリィの表情が引き締まる。


「そんな……」


「もう始まってしまったのですね」


 彼女は迷わなかった。


 両手をマザークリスタルへ重ねる。


「文明継承者リリィ」


「共同認証を承認します」


 クリスタルが眩く輝いた。



 地下施設。


 ナンシーが高らかに宣言する。


『共同認証を確認』


【都市管理者 ハーシス】


【文明継承者 リリィ】


『第三認証者』


中央統合管理人工知能マザー


『三重認証成立』


 その瞬間だった。


 施設全体が大きく震える。


 ゴォォォォォン――。


 止まっていた魔力導管へ、一斉に青白い光が流れ始める。


 今まで黒く染まっていた導管の一部から、黒い靄が押し戻されていく。


 壁が光る。


 床が光る。


 天井が光る。


 まるで山全体へ命が戻っていくようだった。


 ナンシーの声にも力が宿る。


『施設出力』


『一五%』


『二九%』


『四七%』


『六二%』


 次々と数字が上昇していく。


 デバウアーも異変を察知したのか、大きく咆哮した。


 胸の黒い結晶が激しく脈打つ。


 周囲の黒い結晶をさらに吸収し始める。


『警告』


『敵性個体も同時に出力上昇』


『時間的猶予はありません』



 その時。


 マザーの優しい声が、再び施設全体へ響いた。


『管理者様』


『権限レベル四への到達を確認』


『最終防衛機構の使用資格を付与します』


 俺の目の前へ、新たなウィンドウが現れる。


――――――――――


【最終防衛機構】


《ガーディアン・ロード》


状態:待機中


起動条件:達成


管理者認証:完了


起動しますか?


【Y/N】


――――――――――


 ガンドがその表示を見て、目を見開いた。


『まさか……』


『まだ残っておったのか』


 デルブも息を呑む。


『山の王……』


 コルだけは訳も分からず叫ぶ。


『何でもいい!』


『早く押せ!』


 俺は静かに深呼吸する。


 デバウアーは目前まで迫っている。


 迷っている時間はない。


 俺はゆっくりと右手を伸ばし、光る文字へ触れた。


「――Y」


 その瞬間。


 山そのものが目覚めるような、かつてない轟音が地下深くから響き渡った。

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