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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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42/49

「都市とは何だ?」三千年前の管理者が俺に問いかけた

 第一の扉を抜けると、草原の景色は霧のように溶けて消えた。


 代わりに現れたのは、果てしなく続く白い回廊だった。


 壁も床も天井も純白。


 継ぎ目すら見当たらない。


 音もない。


 風もない。


 ただ、自分たちの足音だけが静かに響いている。


 コツ。


 コツ。


 コツ。


 その音さえ、どこか現実味が薄かった。


「……気味が悪いな」


 コルが珍しく小声で呟く。


 ガンドも辺りを見回しながら低く唸る。


『山の気配がせぬ』


『まるで山の外へ放り出されたようじゃ』


 デルブは腰の方位石を取り出した。


 しかし、四色の石はどれも鈍く曇ったまま動かない。


『地脈も読めぬ』


『ここは本当に試練の場なのじゃな』



 しばらく歩くと、回廊の中央に円形の広間が現れた。


 中央には、黒い石で造られた巨大な天秤。


 左右の皿は空のまま静止している。


 その奥には、また一人、人影が立っていた。


 今度は若い女性だった。


 銀色の法衣を纏い、胸には世界樹の紋章。


 しかし、その顔だけは前の老人と同じく、ぼんやりと霞んで見えない。


「第二試験を開始します」


 澄んだ声が広間へ響く。


「管理者ハーシス」


「あなたへ、一つの権限を与えます」


 彼女が手をかざすと、天秤の左皿へ一冊の分厚い書物が現れた。


 金属製の表紙には古代文字が刻まれている。


 ナンシーが即座に反応した。


『管理権限データ』


『閲覧不可』


『レベル五以上で解放』


 女性は続ける。


「この書には、未来の知識が記されています」


「都市を繁栄させる技術」


「失われた文明」


「戦争に勝つ方法」


「飢饉を防ぐ方法」


「すべてが記されています」


 思わず息を呑む。


 そんなものがあれば、都市の発展は飛躍的に加速する。


 女性は右皿へ手をかざした。


 そこへ、もう一つの光景が映し出される。


 エマイン・マハだった。


 街で遊ぶ子供たち。


 畑を耕す住民たち。


 笑顔で歩くローズ。


 元気よく走り回るミント。


 そして、叡智の塔。


「この知識を得る代償として」


「あなたは二度と、その都市へ帰ることはできません」


 静寂が落ちる。


 コルが思わず叫んだ。


『そんな馬鹿な話があるか!』


 しかし女性は反応しない。


 これは俺だけへの問いなのだ。



 俺は天秤を見つめた。


 未来の知識。


 喉から手が出るほど欲しい。


 もし手に入れば、街はもっと早く発展する。


 飢える者も減る。


 災害にも備えられる。


 だが――。


 その代わりに街へ帰れない。


 つまり、自分は一人。


 仲間とも別れ。


 都市も守れない。


 その知識だけを残す存在になる。


 しばらく考え、俺はゆっくりと首を横へ振った。


「断る」


 女性は静かに尋ねる。


「理由を」


「都市は知識だけじゃ動かない」


「人がいるから街なんだ」


「俺一人が何でも知っていても意味はない」


「皆と一緒に悩み、一緒に作る」


「それが俺の都市だ」


 ガンドが小さく笑う。


『らしい答えじゃ』


 デルブも静かに頷いた。


 女性はしばらく黙っていた。


 やがて優しく微笑む。


「確認しました」


「あなたは文明を所有する者ではなく」


「継承する者です」


 その瞬間。


 左皿の書物が光となって消えた。


 そして天秤そのものが、ゆっくりと青く輝き始める。


『第二試験』


『合格』


 ナンシーが淡々と告げる。



 広間の奥に、二枚目の扉が現れた。


 しかし今回は、それだけでは終わらなかった。


 女性の姿が消える直前、不意にその動きが止まる。


 まるで誰かの声を聞いたように。


「……マザー」


 小さく呟く。


「まだ……待っているのですね」


 その言葉に、ナンシーが反応した。


『通信波を受信』


『発信源』


中央統合管理人工知能マザー


 ノイズ混じりの音声が、回廊全体へ微かに流れた。


 『……た……す……け……て……』


 ほんの一瞬だった。


 だが、その声には切迫した苦しみが滲んでいた。


 エルシアが言っていた通りだ。


 マザーは今も戦っている。


 一人で。


 三千年以上もの間、この施設を守り続けながら。


 俺は拳を強く握り締めた。


「必ず助ける」


 その言葉へ応えるように、ナンシーの身体が一際強く輝く。


『管理者意思を確認』


『試練の回廊』


『最終試験へ移行』


 ゴゴゴゴゴ……。


 二枚目の扉が完全に開き、その向こうから冷たい風が吹き込んできた。


 しかし、その風には僅かに鉄の匂いが混じっていた。


 いや――。


 鉄だけではない。


 血だ。


 誰かが戦っている。


 その気配が、扉の向こうから確かに伝わってきていた。


 侵入者たちは、もうすぐ封印区画へ到達する。


 残された時間は、二十分を切っていた。


 二枚目の扉をくぐる。


 その瞬間、景色は再び一変した。


 今度は白い回廊でも草原でもない。


 目の前に広がっていたのは、建設途中の都市だった。


 石垣は積みかけ。


 家々は骨組みだけ。


 運河は途中で途切れ、畑も半分しか耕されていない。


 だが、その光景を見た瞬間、俺は思わず息を呑んだ。


「エマイン・マハ……?」


 よく似ている。


 いや、似ているどころではない。


 都市の配置も、道路の幅も、水路の位置も、叡智の塔の建つ丘までもが、俺の街とほとんど同じだった。


 違うのは、人の数だけ。


 大勢の住民が忙しなく働き、荷車が行き交い、子供たちが走り回っている。


 活気に満ちた、本来あるべき都市の姿。


 ナンシーが周囲を走査する。


『高精度幻影空間を確認』


『記録情報を再現』


『推定』


『旧文明時代の都市』


「過去の映像か……」


 俺は静かに呟いた。



 その時、広場の中央へ一人の青年が現れる。


 年齢は俺より少し上だろうか。


 作業着姿で、肩には設計図の筒を提げている。


 剣も鎧も身に着けていない。


 どこから見ても、一人の技師だった。


 しかし、その胸には管理者の紋章が輝いている。


 青年は俺を見ると、穏やかに笑った。


「ようこそ」


「新しい管理者」


 その声は今までの試験官とは違う。


 温かみがあり、生きている人間のようだった。


「あなたは?」


「私も、かつて管理者だった者だ」


 その答えに、全員が目を見開く。


「管理者……」


 青年は頷く。


「名前は、もう必要ない」


「私たちは役目を終えた者だからね」


 彼は振り返り、建設途中の都市を見渡した。


「美しいだろう」


「皆で造った街だ」


 職人たちが笑いながら石を積み、子供たちが水路を覗き込み、妖精たちが忙しなく飛び回っている。


 人と妖精が自然に協力し合う光景だった。


 その姿は、俺が目指している未来そのものだった。



 青年は静かに問い掛ける。


「最後の質問だ」


「都市とは、何だと思う?」


 俺は考える。


 建物か。


 道路か。


 城壁か。


 違う。


「人が暮らす場所」


 そう答えかけたが、途中で首を横へ振った。


「それだけじゃない」


「人と人が支え合う仕組み」


「それが都市だと思う」


 青年は何も言わない。


 俺はさらに続けた。


「畑だけあっても駄目」


「職人だけいても駄目」


「兵士だけでも駄目」


「皆が互いに必要だから街になる」


「だから俺は、建物を造りたいんじゃない」


「人が安心して生きられる場所を造りたい」


 静寂。


 青年は目を閉じ、小さく笑った。


「安心した」


「君なら、大丈夫だ」



 その瞬間だった。


 建設中だった都市の景色が音もなく崩れ始める。


 建物は光の粒となり、住民たちは風へ溶け、最後には叡智の塔だけが残った。


 塔の頂上から、一筋の光が俺へ降り注ぐ。


 ナンシーがかつてないほど明るく輝いた。


『最終試験終了』


『管理者適性』


『確認完了』


『権限を更新します』


 俺の視界へ、新たな表示が浮かぶ。


――――――――――


【都市管理者権限】


 Lv3


   ↓


 Lv4


《新規解放機能》


・施設管理権限拡張


・古代施設一時制御


・管理者専用工房


・施設防衛兵器限定指揮権


――――――――――


「権限が……」


 思わず息を呑む。


 ついに管理者権限がさらに一段階上昇した。


 青年は満足そうに頷く。


「急ぎなさい」


「マザーは、もう限界だ」


「あなたなら、この施設を託せる」


 その姿が静かに薄れていく。


「待ってくれ!」


「一つだけ聞きたい!」


 青年は消えかけたまま振り返る。


「この山は……何なんだ?」


 彼は一瞬だけ空を見上げ、どこか懐かしそうに微笑んだ。


「山ではない」


「この施設全体で、一つの生命なんだ」


「生命……?」


「だから山は泣き」


「だから助けを求めていた」


 その言葉を最後に、青年は完全に光へ溶けて消えた。



 同時に試練の回廊も消滅する。


 俺たちは元の石造りの通路へ立っていた。


 目の前には、厚い金属製の隔壁。


 だが先ほどまで閉ざされていたはずの扉は、ゆっくりと左右へ開いていく。


 ゴォォォン――。


 ナンシーが即座に報告する。


『管理者権限更新を確認』


『試練の回廊』


『完全突破』


『封印解除』


 しかし、その直後。


 施設全体を揺るがす爆音が響いた。


 ドガァァァァン!!


 天井から石片が降り注ぐ。


 赤い警告灯が激しく点滅した。


『警告』


『封印区画外壁』


『破壊を確認』


『侵入者が第十五層へ到達』


『推定接触まで』


『五分』


 俺は剣の柄を強く握る。


 試練は終わった。


 ここから先は現実だ。


 俺たちは顔を見合わせ、小さく頷く。


「行くぞ!」


 その一声とともに、一行は開いたばかりの隔壁の向こうへ向かって、一斉に駆け出した。



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