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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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封印保管区画と、管理者の試練

 ホール中に赤い警告灯が明滅する。


 ウゥゥゥゥゥ――。


 耳障りな警報音が石壁へ反響し、静まり返っていた地下施設は一転して緊迫した空気に包まれた。


『封印解除シーケンス進行中』


『残り二十九分四十秒』


『二十九分三十九秒』


 無情にも数字は減り続ける。


 俺はエルシアの身体を支えながら尋ねた。


「第十五層に何がある?」


 エルシアは苦しそうに息を整え、小さく首を横へ振る。


「……《マウンテン・コア》では……ありません」


「違う?」


「はい……」


「もっと……上です」


 ボルグも頷く。


「中央制御核は最下層じゃ」


「第十五層は、その途中にある区画じゃな」


「なら、なぜ封印されている?」


 その問いに、エルシアはしばらく黙り込んだ。


 そして、ゆっくりと口を開く。


「……保管庫です」


「旧文明が……決して外へ出してはならないと定めた……」


「封印保管区画」


 ナンシーが即座に検索を開始する。


『照合中』


『該当情報』


『管理者権限不足』


『閲覧制限』


『権限レベル五以上が必要』


 また権限不足か。


 だが、その反応だけで十分だった。


 旧文明が情報まで封印するほどの場所。


 侵入者の狙いは、そこにある。



 その時だった。


 エルシアの身体が淡く光り始める。


「どうした!」


「生命維持機構が……限界です」


 彼女の左腕を形作っていた光が、少しずつ空中へ溶け始めていた。


 ナンシーが即座に診断する。


『身体構成魔力が消失』


『自己修復不能』


『応急処置を推奨』


 ローズがすぐに応急処置を施す。


 柔らかな緑色の光がエルシアを包む。


 しかし――。

エルシアの容態は悪くなるばかりだった。


 ボルグが静かに説明する。


「守人は人ではない」


「世界樹の魔力で命を繋ぐ存在じゃ」


「普通の手当では救えぬ」


 エルシアは微笑んだ。


「お気遣い……ありがとうございます」


「ですが……今は私より……」


 彼女は震える指でホール中央を指差す。


 そこには巨大な歯車状の装置。


 その中央へ黒い靄がゆっくりと集まり始めていた。


「転送門……」


「侵入者が……開こうとしています」



 ナンシーの立体映像が変化する。


 施設全体の簡易地図。


 そこへ赤い光点が次々と表示された。


『侵入者部隊』


『確認数 三十四』


『第十五層周辺へ集結』


 さらに別の表示が浮かぶ。


 青い点。


『施設防衛機構』


『残存戦力』


『ガーディアン 三』


『補修機 二十七』


『戦闘能力なし』


 ガーディアンは三体しか残っていない。


 しかも侵入者は三十四人。


 数だけ見れば絶望的だった。


「侵入者は何者なんだ?」


 ガードナーが尋ねる。


 エルシアは苦しそうに答える。


「所属は……不明」


「ですが……」


「彼らは……施設の構造を知っています」


 全員の表情が変わる。


「知っている?」


「はい……」


「迷うことなく……最短経路を進み……」


「封印制御室だけを……狙っています」


 つまり偶然入り込んだ探索者ではない。


 最初から、この施設を目指して来た集団だ。


 しかも内部構造まで把握している。


「情報が漏れているのか……」


 俺は小さく呟く。


 ゲームには存在しなかった施設。


 それを知る者が、この世界のどこかにいる。


 旧文明の遺産を狙う勢力。


 あるいは――。


 旧文明そのものの生き残り。



 その時だった。


 ボルグが突然、床へ片膝をつく。


 耳を澄ませている。


「……聞こえる」


「何が?」


「掘削音じゃ」


 全員が息を潜める。


 カン。


 カン。


 遠くから、規則正しい金属音が響いてくる。


 それは確かに、つるはしで岩を叩く音だった。


「地下で掘ってるのか?」


「違う」


 ボルグは険しい顔で首を振る。


「封印を壊しておる」


「鍵を開けるのでなく」


「岩ごと掘り抜こうとしておる」


 ガンドが顔をしかめた。


『素人じゃ』


『山を舐めておる』


『そんな真似をすれば……』


 言い終わる前に、施設全体が大きく揺れた。


 ドォォォンッ!!


 天井から砂が降り注ぐ。


 壁の一部へ新たな亀裂が走る。


 ナンシーが警告を発する。


『構造損傷を確認』


『封印区画周辺』


『崩落危険度上昇』


『四七%』


「崩れる!」


 俺は思わず叫ぶ。


 もし施設そのものが崩壊すれば、《マウンテン・コア》どころではない。


 山全体が死ぬ。


 ボルグも歯を食いしばった。


「急がねばならん」


「だが、一本道では間に合わぬ」


「別の道があるのか?」


 老人はゆっくり頷く。


「ある」


「保守主任だけが知る秘密の昇降路じゃ」


 そしてボルグはホールの壁際へ歩み寄ると、一見すると何の変哲もない石壁へ杖を三度打ち付けた。


 コン。


 コン。


 コン。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――。


 ゴゴゴゴゴ……。


 石壁そのものが左右へ割れ、隠されていた細い通路が姿を現す。


 冷たい風が、その奥から吹き抜けてきた。


 ボルグは振り返る。


「この道なら第十五層まで十分ほど」


「ただし……」


 老人は暗い通路の奥を見据える。


「昔から誰も近寄りたがらん道でもある」


「なぜ?」


 俺が尋ねると、ボルグは静かに答えた。


「この先には《試練の回廊》がある」


「管理者として認められぬ者は」


「決して通れぬ場所じゃ」


 その言葉に、ナンシーが静かに補足した。


『情報一致』


『試練の回廊』


『管理者適性試験区画』


『警告』


『現在も正常稼働中』


 誰もが暗い通路の先を見つめる。


 侵入者を止めるには、この道しかない。


 だが、その道は敵だけではなく、俺たち自身をも試そうとしていた。


 試練の回廊――。


 その名を聞いた瞬間、一同の表情が引き締まる。


 ガンドは石槌を握り直し、デルブは腰に提げた方位石の革袋へ静かに手を添えた。


 コルだけは不思議そうに首を傾げる。


『試験ってことは、戦えばいいのか?』


「そう単純なものではない」


 ボルグは細い通路を見つめたまま答える。


「ここは剣の腕を試す場所ではない」


「管理者として相応しいかどうか」


「それを施設自身が見極める場所じゃ」


「失敗すると?」


 ガードナーが短く尋ねる。


 ボルグは少しだけ目を閉じる。


「追い返される」


「……運が良ければな」


 その一言で、場の空気がさらに重くなった。



 ナンシーが前脚を動かし、空中へ新たな情報を投影する。


『試練の回廊』


『旧文明管理施設共通認証区画』


『目的』


『管理者適性評価』


『評価項目』


『権限不足のため一部閲覧不可』


「全部は見られないのか」


『閲覧可能項目』


『判断能力』


『統率能力』


『文明継承適性』


 最後の文字に、俺は視線を止めた。


「文明継承適性……」


 ただ強いだけでは駄目なのだ。


 都市を治め、人を導き、文明を受け継ぐ資格。


 この施設は、それを見ようとしている。



 ボルグがゆっくりと通路へ足を踏み入れる。


 しかし。


 ピィィィッ!


 甲高い警告音とともに、床一面へ赤い光が走った。


『警告』


『権限不足』


『同行不可』


 次の瞬間、透明な光の壁が現れ、ボルグを押し返した。


「……やはりか」


 老人は苦笑する。


「儂は管理主任ではあったが、管理者ではない」


「ここから先は案内できぬ」


「そんな……」


 ローズが驚きの声を漏らす。


 ボルグほど頼れる案内人はいない。


 その彼が同行できないとなれば、この先は完全に未知の領域だ。


 しかしボルグは落ち着いていた。


「心配はいらん」


「道は一本じゃ」


「迷うことはない」


 そう言うと、腰の革袋から一つの小さな水晶を取り出した。


 拳ほどの大きさで、淡い金色に輝いている。


「これは?」


「坑道守の導晶石じゃ」


「危険な場所では、これが道を示してくれる」


 ボルグは水晶を俺へ手渡した。


 受け取った瞬間、ほんのりと温かな感触が掌へ伝わる。


 ナンシーがすぐに解析する。


『未知の鉱石』


『旧文明登録名称』


『ガイド・クリスタル』


『施設内ナビゲーション補助装置』


 なるほど。


 いわば古代の案内装置らしい。


「ありがとう」


 俺が礼を言うと、ボルグは穏やかに笑った。


「礼を言うのは、無事に帰ってきてからでよい」



 結局、回廊へ入ることになったのは五人だった。


 俺。


 ナンシー。


 ガンド。


 デルブ。


 コル。


 入口へ近付く。


 すると、再び赤い光が走った。


『管理者を確認』


『補助契約体を確認』


『鉱山系妖精との契約を確認』


『通行を許可』


 赤かった光が、ゆっくりと青へ変わる。


 ガンドたちは顔を見合わせた。


『儂らまで?』


『契約妖精として認識されたようじゃな』


 つまり俺と契約している妖精だけは同行できるらしい。


 逆に、ガードナーやシャーリス、ローズたちは光の壁に阻まれた。


「ここで待っていてくれ」


「気を付けてください」


 ローズは不安そうに微笑む。


 ミントのことも気掛かりだ。


 必ず戻らなければならない。



 俺たちは光の壁をくぐる。


 その瞬間。


 景色が変わった。


「……え?」


 思わず立ち止まる。


 さっきまで石造りだった通路が消えていた。


 目の前に広がるのは、一面の青空。


 風に揺れる草原。


 遠くには川が流れ、その向こうには城壁都市が見える。


「外に出た?」


 コルが辺りを見回す。


 しかしガンドだけは静かだった。


『違う』


『これは幻じゃ』


『試されておる』


 ナンシーもすぐに反応する。


『視覚・聴覚・嗅覚へ干渉を確認』


『実体は依然として施設内部』


「幻覚か」


 それにしてはあまりにも精巧だ。


 風の匂いまで本物そのものだった。



 その時。


 目の前に一人の老人が現れた。


 白い長衣を纏い、長い髭を蓄えた人物。


 不思議なことに、その顔はぼやけて見えない。


 老人は穏やかな声で語り掛ける。


「問おう」


 その声が響いた瞬間、世界全体が静まり返る。


「もし一つの都市を救うために」


「他の一つの都市を見捨てねばならぬ時」


「おぬしは、どちらを選ぶ」


 その問いに、コルが思わず声を上げる。


『そんなの決まって――』


「答えるな」


 俺は手を上げて制した。


 これは俺への試験だ。


 誰かの答えでは意味がない。


 老人は静かに待っている。


 俺はしばらく考え、ゆっくりと口を開いた。


「どちらも救う方法を探す」


 老人は何も言わない。


 ただ見つめている。


 俺は続けた。


「もし本当に選ぶしかない状況なら、犠牲は出るだろう」


「でも、それを当然だとは思わない」


「見捨てた人たちを忘れない」


「いつか必ず、その犠牲を取り戻す方法を探し続ける」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて老人は静かに頷いた。


「……善き答えではない」


 ドキリとする。


 だが続く言葉は予想外だった。


「しかし」


「管理者とは、善人であれば務まるものでもない」


「迷いを知り」


「その責を背負う者こそ、資格を持つ」


 老人の姿が淡い光となって消えていく。


 同時に、通路の先で一枚目の石扉が静かに開いた。


 ゴゴゴゴ……。


 ナンシーが即座に告げる。


『第一試験』


『突破を確認』


 試練は、まだ始まったばかりだった。

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