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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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『残り時間』 『二十九分五十八秒』

 クリーニング・ユニットたちの案内で、一行は主通路から外れた保守区画へと足を踏み入れた。


 そこは先ほどまでの壮麗な大通路とは対照的に、実務だけを目的とした無骨な造りだった。


 壁も床も飾り気のない灰色の石材。


 天井は低く、通路の幅も三人が並んで歩けばいっぱいになる。


 しかし、その分だけ管理設備は充実していた。


 壁には一定間隔で四角い箱が埋め込まれ、その下には見たこともない金属製の工具が整然と並んでいる。


 床には細い溝が幾筋も走り、淡い青色の光が脈打つように流れていた。


「この溝は?」


 俺が尋ねると、ボルグは迷うことなく答えた。


「魔力導管じゃ」


「施設全体へ力を送る血管のようなものよ」


 ナンシーも補足する。


『旧文明名称』


『高密度魔力伝送路』


『現在出力』


『一一・四%』


「十一パーセントしか動いていないのか」


『本来なら百%』


『現在は極めて危険な状態』


 その言葉どおりだった。


 青い光は途中で何度も途切れ、ひび割れた導管からは黒い靄がゆっくりと滲み出している。


 まるで血管が壊死しているような光景だった。



 しばらく進むと、巨大な鋼鉄製の扉が現れた。


 高さ五メートル。


 厚さは一メートル近くあるだろう。


 中央には円形の紋章が刻まれている。


 一本の大樹。


 その根が四方八方へ広がり、大地を包み込むような意匠だった。


「これが保守用昇降路の入口じゃ」


 ボルグは懐から古びた金属板を取り出した。


 手のひらほどの大きさで、表面には細かな紋様が刻まれている。


「まだ残っていたのか」


 ガンドが目を丸くする。


「最後の管理証じゃ」


 ボルグは静かに紋章へ金属板を押し当てた。


 カチリ。


 小さな音が響く。


 しかし、それ以上何も起こらない。


 ボルグはゆっくりと首を横へ振った。


「……駄目か」


「認証が切れておる」


 三千年以上も経っていれば当然だろう。


 だが、その時だった。


 ナンシーが俺の肩から飛び降りる。


『追加認証を開始』


 小さな前脚が金属板へ触れた瞬間、青白い光が一気に走った。


『旧管理証を確認』


『管理者権限と統合』


『認証更新』


 ゴォォォォン――。


 扉全体が震え始める。


 中央の紋章がゆっくりと青く輝き、その周囲へ何重もの魔法陣が浮かび上がった。


 そして、無機質な女性の声が響く。


『坑道管理主任ボルグ』


『管理者ハーシス』


『認証完了』


『保守用緊急昇降路を開放します』


 重々しい音を立てながら、巨大な扉が左右へ開いていく。



 その先を見た瞬間、全員が息を呑んだ。


「なんだ……これは」


 そこには巨大な縦穴が広がっていた。


 底が見えない。


 見上げても天井が見えない。


 直径は百メートル近くあり、その内壁には幾重もの円形通路が螺旋状に続いている。


 さらに中央には、一本の巨大な水晶柱が天へ向かって真っ直ぐ伸びていた。


 その中を、青い光がゆっくりと上下へ流れている。


「世界樹の根……みたい」


 ローズが思わず呟く。


 確かにそうだった。


 巨大な水晶柱は一本の樹木そのものに見える。


 その周囲を巡る螺旋通路は枝。


 青い光は樹液。


 まるで一本の世界樹を、そのまま山の中へ閉じ込めたような空間だった。


 ボルグは懐かしそうに目を細める。


「《生命の井戸》」


「保守員は皆、ここを通って各階層へ向かった」


「井戸?」


「世界樹の力が最も濃く流れる場所じゃ」


 ナンシーも即座に解析を行う。


『施設中央魔力昇降炉』


『正式名称』


『ライフ・シャフト』


『世界樹エネルギー主幹路』


『現在稼働率』


『一五・八%』



 その時だった。


 ボルグの表情が険しくなる。


「……妙じゃ」


「何がです?」


「静かすぎる」


 老人は耳を澄ませる。


「ここは本来、昇降機が絶えず動き、管理機械が行き交う場所じゃった」


「今は……」


 言い終わる前に、ナンシーが警告を発した。


『生命反応を検知』


『距離』


『地下第八層』


『数』


『一』


「侵入者か?」


『不明』


『魔力波形を照合』


 数秒後。


 ナンシーの声が僅かに揺れた。


『照合結果』


『施設管理個体』


『生存』


「管理者がまだいるのか!」


『訂正』


『施設管理個体』


『極めて損傷』


『生命維持限界まで残り推定一時間三十七分』


 全員の顔色が変わる。


 ボルグが杖を握り締めた。


「急ぐぞ!」


「まだ生き残りがおった!」


 クリーニング・ユニットたちも一斉に走り出す。


『保守用昇降機を起動』


『緊急搬送モード』


 巨大な水晶柱の前で、円形の床がゆっくりとせり上がってきた。


 直径十メートルほどの円盤。


 縁には古代文字が刻まれ、中央には淡い光が渦巻いている。


「これが昇降機か」


「乗れ!」


 ボルグが叫ぶ。


 全員が飛び乗ると、円盤の外周が青白く輝き始めた。


『行先設定』


『地下第八層』


『緊急降下を開始します』


 次の瞬間。


 ゴォォォォォォッ!!


 円盤は音もなく、しかし凄まじい速度で地下へ向かって降下を始めた。


 壁に刻まれた階層表示が次々と流れていく。


 地下第一層。


 第二層。


 第三層。


 あまりの速さに景色が線となって消えていく。


 その最中、俺はふと水晶柱の奥に何かを見つけた。


 巨大な柱のさらに深部。


 遥か下方。


 青く輝くはずの光の中心に、墨を流し込んだような黒い影がゆっくりと脈動している。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで巨大な心臓が、苦しげに鼓動を打っているようだった。


 そして、その鼓動に合わせるように、ナンシーが静かに呟く。


『……汚染源を視認』


『警告』


『対象は想定以上に成長しています』


 ゴォォォォォォッ――。


 保守用昇降機は、なおも猛烈な速度で下降を続ける。


 地下第四層。


 第五層。


 第六層。


 階層表示が次々と後方へ流れ去り、壁面を走る青白い魔力導管も残像となって視界を駆け抜けていく。


 しかし、その光景の中で一つだけ異質なものがあった。


 黒い染みだ。


 導管の継ぎ目から滲み出したような漆黒の結晶が、ところどころで壁へ根を張るように広がっている。


 それは植物の根にも、血管にも見えた。


 しかも脈打っている。


 ドクン。


 ドクン。


 心臓の鼓動のような音が、昇降路全体へ響いていた。


「これが汚染……」


 俺は思わず息を呑む。


 ボルグの表情は険しい。


「ここまで広がっておるとは……」


「昔は小さな亀裂一つ無かった」


「管理区画は常に青く輝いておったのじゃ」


 ガンドも黒い結晶を睨み付ける。


『山の血管へ毒が回っておる』


『このままでは山そのものが死ぬ』


 デルブは拳を握り締めた。


『だから山が泣いておったのか』



 その時だった。


 ナンシーの警告音が鳴る。


『高熱源を検知』


『進行方向』


『距離百二十メートル』


「熱源?」


 俺が問い返した直後。


 ドォンッ!!


 地下全体を揺るがす轟音が響いた。


 続いて、猛烈な熱風が昇降路を吹き抜ける。


「うわっ!」


 全員が思わず身を低くした。


 昇降機の周囲へ赤い火花が舞い、壁へ亀裂が走る。


 さらに遠くから金属が激しくぶつかり合う音が聞こえてきた。


 ガギィィィン!!


 ガァァァン!!


 何かが戦っている。


 しかも相当な規模だ。


 ナンシーが即座に解析する。


『戦闘音を確認』


『推定』


『施設防衛機構が交戦中』


「まだ戦っているのか!」


『肯定』


『侵入者との戦闘継続時間』


『推定十七時間五十四分』


 誰も言葉を失った。


 十七時間以上。


 休むことなく戦い続けているというのか。



 やがて昇降機は急減速し、第八層へ到達する。


 プシュッ――。


 静かな排気音とともに円盤が停止した。


 目の前に広がるのは巨大な円形ホール。


 直径は百メートル以上。


 中央には複雑な歯車状の装置が鎮座し、その周囲を何本もの橋が放射状に伸びている。


 しかし――。


 その光景は凄惨だった。


 床一面に散らばる金属片。


 砕けた水晶。


 壁へ刻まれた無数の斬撃。


 そして、何十体もの管理機械の残骸。


「……酷い」


 ローズが思わず口元を押さえる。


 クリーニング・ユニットたちは仲間の残骸へ駆け寄り、小さく震えていた。


『修復不能』


『修復不能』


『……修復不能』


 淡々とした機械音声なのに、どこか悲しそうに聞こえる。



 ボルグが静かに残骸の一つへ膝をつく。


 倒れていたのは、人型の機械だった。


 全身を銀色の装甲で包み、片腕には巨大な盾、もう片方には折れた長剣を握っている。


 胸部には世界樹の紋章。


「守護兵……」


 ボルグが静かに目を閉じる。


「最後まで持ち場を離れなんだか」


 ナンシーが解析を続ける。


『施設防衛兵器』


『ガーディアン・ナイト』


『撃破数』


『二十七体』


『残存』


『零』


「全滅……」


 ガードナーが低く呟く。


 これだけの戦力を壊滅させる相手。


 ただの盗賊ではない。



 その時だった。


 カツン。


 静かな足音がホールの奥から響いた。


 全員が一斉に武器を構える。


 暗闇の中から、一人の人物がゆっくりと歩いてくる。


 白い外套。


 銀色の長髪。


 そして、胸元には旧文明の紋章を象った徽章。


 若い女性だった。


 しかし、その姿は痛々しい。


 左腕は肩口から失われ、代わりに無数の青い光の粒子が腕の形を保っている。


 白い外套には幾筋もの裂傷。


 頬にも深い傷が走り、それでもなお気高く背筋を伸ばいていた。


 彼女は俺たちを見るなり、かすかに安堵したような笑みを浮かべる。


「……ようやく」


「管理者が……来てくださいましたか」


 その声は酷く弱々しい。


 今にも倒れそうだった。


 ナンシーが即座に前へ出る。


『対象を照合』


『施設管理補佐個体』


『識別名称』


『エルシア』


『損傷率』


『八四%』


『生命維持限界まで残り』


『一時間二十九分』


 ボルグが目を見開く。


「エルシア!」


「まだ生きておったのか!」


 女性――エルシアは微かに微笑んだ。


「はい……主任」


「お待ち……しておりました」


 その言葉に、ボルグは思わず駆け寄る。


 千年以上生きた守人である彼が、初めて感情を露わにした瞬間だった。


 しかし、その再会を喜ぶ時間は与えられなかった。


 エルシアは震える指で、ホールの奥を指差す。


「急いで……ください」


「侵入者たちは……」


「すでに……第十五層への封印を……」


 ゴゴゴゴゴ……。


 その瞬間、施設全体が激しく震えた。


 ホール中央の巨大な歯車が軋みを上げ、赤い警告灯が一斉に点灯する。


 ナンシーがかつてない速度で警告を発する。


『緊急事態』


『地下第十五層』


『封印解除シーケンス開始』


『残り時間』


『二十九分五十八秒』


 数字は、無情にも秒単位で減り始めていた。

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