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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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その孤独を終わらせる

 出発の準備が整ったのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 地上の拠点には、ナターシアたちを残していく。


 食料と水を確保し、周辺を警戒してもらう。


 何か異変が起きた場合、すぐに撤退できるようにもしておいた。


 今回の探索は、それほど危険だ。


 目的地は――山の地下。


 かつて旧文明が築いた、巨大施設。


 その名は。


 《マウンテン・コア》。


 そして俺たちは今、その入口に立っていた。


「……でかいな」


 思わず、そんな言葉が漏れる。


 山腹にぽっかりと開いた坑道入口。


 かつては大量の鉱石を運び出していたのだろう。


 入口だけでも、普通の坑道とは比べものにならない。


 だが、長い年月によって、その大半は土砂に埋まっていた。


 天井からは太い木の根が何本も垂れ下がり、壁面には苔が張り付いている。


 どう見ても、千年以上前に放棄された鉱山だ。


 ――なのに。


 暗闇の奥から、微かに青い光が漏れていた。


『レイキ反応を検出』


 ナンシーが静かに告げる。


『非常に弱いですが、確実に存在します』


「マウンテン・コアか?」


『推定されます』


 俺の隣で、ガンドが石槌を肩へ担いだ。


『久しぶりじゃのう』


 その声には、いつもの軽さがなかった。


 デルブも坑道の奥を見つめ、静かに息を吐く。


『……懐かしい匂いがします』


「二人とも、ここに来たことがあるのか?」


『昔、一度だけじゃ』


『あの頃は、この坑道もまだ生きておりました』


 ガンドが壁へ手を当てる。


 その表情は、これまで見たことがないほど真剣だった。


『鉱山妖精は山を忘れん』


『たとえ千年経とうともな』


 その言葉に、俺は思わず坑道を見上げた。


 千年。


 人間にとっては、想像することすら難しい時間だ。


 だが、この妖精たちにとっては――。


 故郷が、昨日のことのように残っているのかもしれない。


「では、行くぞ」


 先頭に立ったのはボルグだった。


 老人は石杖を握り、暗闇の奥を睨む。


「ここから先は、儂の案内に従え」


「一歩でも道を間違えれば、帰れぬ場所もある」


「分かった」


 俺は剣の柄を握り直した。


「全員、気を抜くな」


 そして。


 俺たちは、暗闇の中へ足を踏み入れた。


 ◇


 最初の数十メートルは、普通の坑道だった。


 古い採掘跡。


 崩れた木製の支柱。


 錆び付いたトロッコ。


 壁に残された無数の採掘痕。


 どこを見ても、遠い昔に放棄された鉱山にしか見えない。


 だが――。


 進めば進むほど、様子がおかしくなっていった。


「……この壁」


 シャーリスが足を止める。


 壁面に、一本の青白い線が走っていた。


 細い。


 だが、確かに光っている。


 しかも、その線は一本ではなかった。


 何本もの光が枝分かれし、まるで巨大な生物の血管のように壁の奥へ伸びている。


『生命力反応を確認』


『旧文明の人工導管と思われます』


「導管?」


 俺が聞き返す。


「山そのものからレイキを吸い上げ、施設へ送る管じゃ」


 答えたのはボルグだった。


「これが生きておれば、マウンテン・コアもまだ完全には死んでおらぬ」


 少しだけ、胸が軽くなった。


 もしかすると。


 まだ使える。


 この施設を復旧させることができれば、都市の復興にも大きな力になる。


 そう思った。


 その瞬間だった。


 青白い光の一部が――黒く染まった。


「……え?」


 ――ビキッ。


 嫌な音が響く。


 まるで、何かが血管へ侵入したように。


 黒い筋が青い導管を食い潰しながら、壁の奥へ走っていく。


 俺は息を呑んだ。


「なんだ、これ……」


『異常反応――』


 ナンシーの声が途切れた。


 次の瞬間。


『来ます』


「全員、止まれ!」


 ボルグが叫んだ。


 直後。


 ズズズズズズ……!


 地面が大きく揺れた。


「うわっ!」


 天井から大量の土砂が降ってくる。


「下がれ!」


 ガードナーがローズとミントを抱えて後退する。


 俺もナンシーを庇いながら横へ飛んだ。


 轟音。


 土砂。


 舞い上がる砂煙。


 視界が一瞬で真っ白になる。


「みんな無事か!」


「俺は無事だ!」


「こっちも!」


 シャーリスの声。


 ローズの声。


 ガードナーの返事。


 全員の無事を確認しようとして――。


「……ミント?」


 返事がない。


「ミント!」


 俺は土砂の向こうへ駆け出そうとした。


 その時。


「パパ」


 足元から、小さな声が聞こえた。


「ここ」


 俺は息を呑む。


「ミント!?」


「ここだよ」


 土砂の向こうから、幼い声が返ってくる。


「でも、こっちじゃない」


「下」


「もっと下に、道があるよ」


「……下?」


 ミントが土砂の下を指差した。


 ボルグが目を見開く。


「なんじゃと……?」


 ミントは、不思議そうに首を傾げる。


「こっち」


「山が教えてくれてる」


 俺たちは顔を見合わせた。


 そして。


『地下空間を確認』


 ナンシーの声が響く。


『現在地より約十二メートル下』


『人工構造物と思われる空洞を検出』


 ほんの一瞬、沈黙。


『入口を確認しました』


 俺は土砂に埋まった坑道を見つめた。


 どうやら俺たちは。


 予定していた入口から進むことすら、許されなかったらしい。


 だが――。


 ミントが示した場所。


 そこには。


 旧文明が隠した、別の入口が存在していた。


 土砂をどかす。


 そこから現れたのは、古びた金属製の扉だった。


 表面には、千年以上の時を越えてなお消えない文字が刻まれている。


『管理者認証を要求』


『文明継承者認証を要求』


 俺は息を呑んだ。


「……まさか」


『認証対象を確認』


『都市管理者――ハーシス』


『文明の継承者――リリィ』


『共同認証システムを起動します』


 ――ブゥン。


 地下深くから、低い振動が伝わってきた。


 青い光が、扉の隙間から漏れ出す。


 千年以上眠っていた何かが。


 今、目を覚まそうとしていた。


 ◇


 ――それから二時間後。


 俺たちは、ボルグを先頭に坑道を抜け山道を登っていた。


 驚いたことに、老人の足取りは軽い。


 千年以上生きているとは思えないほど、険しい岩場を迷いなく進んでいく。


「足元じゃ」


「そこは浮き石」


「右へ半歩」


 言われた通りに踏み出した。


 その直後。


 俺が踏もうとしていた岩が、カラカラと音を立てて谷底へ転がっていく。


「……危なかった」


「山は試す」


 ボルグは穏やかに言った。


「焦る者から落としていく」


 後ろから、ガンドが笑う。


『相変わらず厳しい教えじゃな』


「厳しくはない」


「山がそうなのじゃ」


 老人は、それだけ言って歩き続けた。


 ◇


 さらに登ること、しばらく。


 突然、ボルグが足を止めた。


「見えてきたぞ」


 木々の隙間。


 その向こうに、巨大な岩壁がそびえ立っていた。


 高さは三十メートル近い。


 だが。


「……これは」


 俺は思わず息を呑んだ。


 岩壁の表面に、規則正しい直線が走っている。


 自然の亀裂ではない。


 誰かが削り。


 磨き。


 そして、巨大な建造物へと仕上げた跡だ。


「人工物か?」


「うむ」


 ボルグが頷く。


「ここが――《第一外郭》じゃ」


 近付くにつれ、その全貌が見えてくる。


 岩壁だと思っていたもの。


 その正体は――巨大な門だった。


 山そのものをくり抜いて造られた、信じられないほど巨大な石造建築。


 左右には何本もの柱が並んでいる。


 一本一本が、大人十人でも抱えきれないほど太い。


 その表面には精巧な浮き彫りが刻まれていた。


 山。


 木。


 川。


 そして――。


 人間と妖精が共に働く姿。


 まるで。


 この世界の歴史そのものを、石へ刻み込んだようだった。


「こんなものが……山の中に……」


 ローズが呆然と呟く。


 ボルグは、巨大な柱へそっと手を触れた。


「昔は毎日、磨いておった」


「何百人もの守人がおってのう」


「朝になれば門が開き」


「夜になれば閉じる」


 老人は目を細める。


「……賑やかな場所じゃった」


 その声には。


 遠い時代を懐かしむ響きがあった。


 ◇


 門の中央へ立った瞬間。


 ナンシーが淡い光を放ち始めた。


『管理者認証地点を確認』


『施設外郭ゲート』


 青い光が空中へ伸びる。


 それは門全体を走り、複雑な紋様を描いていった。


『認証開始』


『管理者――ハーシス』


『権限レベル――三』


 数秒の沈黙。


 そして。


『認証成功』


『外郭ゲート限定開放』


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 山全体が震えた。


 千年以上。


 一度も動かなかったであろう巨大な石門が、ゆっくりと左右へ開いていく。


 大量の土砂が落下する。


 砂煙が舞い上がる。


 石と石が擦れ合う轟音が、谷全体へ響き渡った。


「開いた……」


 シャーリスが呟く。


 その先にあったのは、天然の洞窟ではなかった。


 幅二十メートルはある巨大な通路。


 壁も天井も、鏡のように滑らかな灰色の石材で覆われている。


 一定間隔で並ぶ巨大な柱。


 そして。


 天井には、青白い結晶が埋め込まれていた。


 門が開いたことに反応したのか。


 一つ。


 また一つ。


 青い光が灯っていく。


 パッ。


 パッ。


 パッ。


 まるで。


 眠っていた巨大施設が、来訪者を迎えるために目を覚ましていくようだった。


「照明まで生きているのか……」


『非常用魔力回路』


『稼働率、一七%』


『最低限の機能のみ維持』


「千年以上経っても?」


『肯定』


 俺は言葉を失った。


 これが。


 旧文明なのか。


 今の俺たちが必死になって再現しようとしている文明を――。


 遥かに超えた技術。


 その片鱗だけで、圧倒される。


 だが。


 ボルグの表情が突然変わった。


「……静かに」


 全員が息を潜める。


 老人は床へ膝をついた。


 そして、指先で石床を撫でる。


「……誰かがおる」


「え?」


「儂ら以外に」


 ボルグがゆっくり顔を上げる。


「最近、この門を通った者がおる」


「……いつ?」


「分からぬ」


「じゃが――」


 老人の目が鋭くなる。


「一人や二人ではない」


「かなりの人数じゃ」


 ナンシーが即座に施設内部を走査する。


『足跡を検知』


『推定人数――三十四名』


『通過時期――約十八時間前』


 俺は息を呑んだ。


「十八時間前……」


 嫌な予感がした。


 以前、施設が警告していた。


 ――第三勢力による施設侵入。


 まさか。


「ナンシー」


『照合完了』


『一致率、九九・二%』


『侵入者は現在も施設内部に存在する可能性が高い』


 ボルグが静かに杖を握り締めた。


「……先を越されたか」


 俺たちは顔を見合わせた。


 マウンテン・コアを探しに来た。


 それだけだったはずだ。


 だが。


 どうやら、俺たちが来るより先に。


 別の誰かが、この施設へ侵入していた。


 鉱山探索は。


 いつの間にか、未知の敵との競争へ変わっていた。


 ◇


 石門の内側へ一歩踏み入れた瞬間だった。


 ――ブゥン。


 低い振動音が通路全体へ響く。


 壁に埋め込まれた青白い結晶が、一斉に輝きを増した。


 眠っていた施設が、ゆっくりと目を覚ましていく。


『施設システム再起動を確認』


『非常用電力供給開始』


『管理者認証を継続』


 青い光が床を走った。


 蜘蛛の巣のように枝分かれしながら、通路の奥へ消えていく。


『管理者権限による最低限の施設機能が復旧』


『現在復旧率――一・九%』


「たった一・九%か」


『施設全体が著しく損傷しています』


『完全復旧には管理中枢への到達が必要です』


「つまり、最深部まで行かなきゃならないわけだな」


『肯定』


 やはり。


 簡単には終わらないらしい。


 俺たちはボルグを先頭に、慎重に通路を進んでいく。


 だが。


 少し進んだところで、俺は妙なことに気付いた。


「……埃がない」


 千年以上、放置されていた施設。


 普通なら埃と砂で埋まっていてもおかしくない。


 なのに。


 床は驚くほど綺麗だった。


 ガンドが壁際を指差す。


『理由は、あれじゃ』


「……あれ?」


 床を見る。


 そこには、一定の幅で細かな筋が何本も走っていた。


 何かが繰り返し往復したような跡。


 まるで――。


「掃除?」


 ローズが首を傾げる。


 ボルグも眉をひそめた。


「儂の知らぬ跡じゃ」


「昔は、こんなものは無かった」


 その瞬間。


『微弱な魔力反応を検知』


『接近』


『距離――三十メートル』


 全員が一斉に身構えた。


「来るぞ!」


 ガードナーが剣を抜く。


 シャーリスが弓を構える。


 暗闇の奥から。


 カチ……。


 カチ……。


 規則正しい音が近付いてくる。


 やがて。


 小さな青い光が、いくつも浮かび上がった。


「……蜘蛛?」


 姿を現したのは。


 犬ほどの大きさをした、金属製の蜘蛛だった。


 丸い胴体。


 八本の脚。


 複眼の代わりに埋め込まれた青い水晶。


 そして。


 脚の先には、ブラシや布のような器具が取り付けられている。


 敵意はない。


 むしろ。


 俺たちの前で、床を一心不乱に磨いている。


「掃除してる……」


 ローズが呆然と呟いた。


 金属蜘蛛たちが、一斉に動きを止める。


 青い瞳が、こちらを向いた。


 そして。


『識別』


『施設維持機械』


『クリーニング・ユニット』


『状態――正常』


 次の瞬間。


 金属蜘蛛たちは、一斉に前脚を折った。


『管理者を確認』


『お帰りなさいませ』


「……え?」


 俺は目を丸くした。


 機械。


 それなのに。


 どこか柔らかな声だった。


『管理者不在期間』


『四百二十七年』


『施設維持業務を継続』


「……四百二十七年?」


 全員が絶句する。


 誰もいない施設で。


 この小さな機械たちは、ずっと掃除を続けていた。


 誰に命じられるでもなく。


 誰に褒められるでもなく。


 ただ。


 管理者が帰ってくる日を待つように。


 ◇


 その時。


 一体のクリーニング・ユニットが前へ進み出た。


『管理者』


『重要報告』


 青い瞳が点滅する。


『敵対勢力が施設内へ侵入』


『維持部隊、多数破壊』


 一瞬。


 青い光が赤へ変わった。


『現在稼働中ユニット』


『残存率――一二%』


「……一二%」


 胸が重くなる。


 長い長い間。


 この施設を守ってきた存在たち。


 その大半が、すでに壊されている。


「侵入者はどこだ?」


『中央昇降区画へ移動』


『推定到達階層――地下第十二層』


 第十二層。


 この施設は地下百二十八層にも及ぶ。


 まだ入口に近い。


 それでも。


 先行している連中は、確実に奥へ進んでいる。


「追いつけるか?」


『通常経路の場合――二日』


「二日……」


 それでは遅い。


 先行した連中が何をするつもりなのか分からない以上、そんな時間を与えるわけにはいかなかった。


「他に道は?」


 俺が尋ねると。


「ある」


 答えたのは、ボルグだった。


「保守用の近道じゃ」


 全員が老人を見る。


「本来は守人しか使えぬ」


「急勾配で危険じゃが――」


 ボルグは地下を見据える。


「地下第十層近くまで、一気に降りられる」


「使えるのか?」


 俺が問う。


 老人は、力強く頷いた。


「管理者がおる今なら開く」


 俺は剣を握り直した。


「なら、行こう」


 時間がない。


 先行した侵入者に追いつかなければならない。


 そう思った。


 その時だった。


 一体のクリーニング・ユニットが、俺たちの前へ進み出た。


『……お願い』


 小さな声。


 機械とは思えないほど、弱々しい。


『中央制御室へ』


『マザー様を』


『助けてください』


 その瞬間。


 空気が凍った。


「……マザー様?」


 ナンシーの光が、わずかに強くなる。


『照合』


『対象名――中央統合管理人工知能』


『識別名称――マザー』


 俺は、思わず肩のナンシーを見る。


 マザークリスタル。


 そして――マザー。


 この施設にも。


 都市を管理する中枢知性が存在しているのか。


『マザー様は』


 クリーニング・ユニットが続ける。


『ずっと』


『一人で戦っています』


 誰も口を開かなかった。


 三千年以上。


 誰も訪れない地下深くで。


 施設を維持し。


 仲間を守り。


 侵入者と戦い続けている。


 たった一人で。


 俺は、ゆっくりと拳を握った。


「……分かった」


 そして。


「助けよう」


 クリーニング・ユニットの青い瞳が、微かに揺れた。


「必ず」


 ナンシーが即座に応答する。


『新規任務を設定』


『目標更新』


中央統合管理人工知能マザーを救出』


『任務優先度――最優先』


 青白い通路の奥。


 その遥か地下深く。


 たった一人で戦い続ける管理者がいる。


 そして今。


 その管理者が、初めて――。


 誰かに「助けて」と告げた。


 俺たちは、暗闇の奥へ歩き始めた。


 ――その孤独を終わらせるために。

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