未知の敵
ガンドとデルブが跪いた姿を見て、俺たちは思わず顔を見合わせた。
あの二人が、ここまで畏まる相手は初めて見る。
老人――ボルグは困ったように笑い、木杖で地面を軽く突いた。
「やめい、やめい」
「そんな大層なことをされるような身分ではない」
『いいえ』
デルブは頭を上げない。
『坑道守とは、山の命を預かる者』
『鉱山妖精の中でも、最も古き役目を継ぐ方』
『儂らごときが頭を上げられる相手ではありませぬ』
ボルグは小さくため息をついた。
「相変わらず堅いのう」
「もう、その役目も終わったというのに」
その言葉に、一瞬だけ寂しげな色が滲んだ。
◇
俺は一歩前へ出て名乗る。
「俺はハーシス。この都市の管理者をしています」
ボルグは俺をじっと見つめた。
その瞳は年老いているはずなのに、不思議な力を宿している。
まるで岩盤の奥深くまで見通すような視線だった。
「……なるほど」
「おぬしが継ぐ者か」
「継ぐ者?」
老人は肩の上にいるナンシーへ視線を移す。
その瞬間、ナンシーが小さく光った。
『対象を照合』
『照合率上昇』
『旧文明登録情報を検出』
「登録情報?」
俺が驚く間もなく、ナンシーが続ける。
『個体識別』
『坑道管理主任』
『ボルグ』
『所属』
『世界樹支脈管理施設保全部門』
『権限レベル四』
その場に沈黙が落ちた。
ガードナーたちは意味が分からず首を傾げている。
だが俺だけは違った。
つまり、この老人は伝説の存在ではなく――。
「旧文明の施設で働いていた……?」
ボルグは苦笑する。
「半分は正解じゃ」
「半分は違う」
「儂は施設で働いておったのではない」
「施設を守るために造られた」
その一言で空気が凍った。
「造られた?」
「儂は人間ではない」
「鉱山妖精でもない」
「《守人》じゃ」
ナンシーが即座に補足する。
『情報更新』
『守人』
『旧文明が開発した長寿命管理種族』
『施設保守・監視を主任務とする』
『寿命推定』
『千年以上』
ガードナーが思わず口を開けた。
「千年……だと?」
ローズも息を呑む。
ミントだけは不思議そうな顔で老人を見上げている。
「だから、おじいちゃんから木の匂いがするんだ」
ボルグは優しく笑った。
「よく分かったのう」
「お嬢ちゃん」
◇
焚き火を囲み、俺たちはボルグから話を聞くことになった。
老人は湯気の立つ木椀を両手で包み込みながら、ゆっくりと語り始める。
「昔、この山はただの山ではなかった」
「世界中へ命を巡らせる、大地の心臓であった」
その言葉に、ナンシーが静かに頷く。
『一致』
『解析結果と符合』
「世界樹から流れ出る生命の力を受け取り」
「山で浄化し」
「各地へ送り届ける」
「それが《マウンテン・コア》の役目じゃ」
「だから鉄も豊富だったのか?」
俺が尋ねると、ボルグは首を振る。
「逆じゃ」
「生命の流れが豊かだったから、鉄も銅も金も育ったのじゃ」
「山は鉱石を生み出す」
「じゃが、本来は何万年も掛かる」
「この山では、それが何十倍もの速さで育っておった」
デルブが深く頷いた。
『だから泣いておる』
『地脈が腐れば、鉱脈も死ぬ』
「その通りじゃ」
ボルグの表情が曇る。
「今、この山の中では鉱石が次々と黒く変色しておる」
「鉄は脆くなり」
「銅は腐り」
「銀は輝きを失い」
「金でさえ濁る」
コルが青ざめた。
『そんな馬鹿な……』
『鉱石が病気になるなんて……』
「なる」
「山が病めばな」
◇
俺は昨夜のシステム表示を思い出す。
『汚染率 八九・七%』
残り一年。
それは決して大袈裟な数字ではなかったのだ。
「原因は何なんだ?」
ボルグはしばらく黙り込み、やがて低い声で答えた。
「……心臓を喰われた」
「心臓?」
「《マウンテン・コア》の核じゃ」
「本来なら青く輝く世界樹の結晶」
「それが今は黒く染まり、山の命を喰い続けておる」
俺の脳裏に、一つの光景が蘇る。
世界樹の根で見た、あの黒い結晶。
森の主《千眼》の胸に食い込んでいた、禍々しい結晶。
「まさか……」
「同じものか」
ボルグは静かに頷いた。
「おぬしは、もう見たのじゃな」
「あの黒き災厄を」
胸が重くなる。
つまり、この山だけではない。
世界樹の根。
森の主。
そして《マウンテン・コア》。
すべてが同じ黒い結晶によって侵されている。
偶然ではない。
誰かが意図的に世界そのものを蝕んでいる。
◇
その時だった。
ナンシーが突然、空中へ新たな映像を投影する。
『施設内部の概略図を復元』
立体映像の中に、巨大な山の断面図が現れた。
その内部には、信じられないほど巨大な空洞が幾重にも広がっている。
「地下都市……?」
『訂正』
『地下管理区画』
『総階層数』
『推定百二十八層』
「百二十八!?」
全員が息を呑む。
地下一階や二階ではない。
百二十八層。
それはもはや一つの地下世界だった。
さらに映像の最深部には、一つだけ真っ赤に染まった領域が表示される。
『最下層』
『中央制御核』
『マウンテン・コア』
『現在、汚染源を確認』
そして最後に、赤い文字が表示された。
『危険度評価』
『SSS級災害対象』
『現管理者権限では攻略不可』
静まり返る一同。
誰も言葉を発せない。
俺は立体映像を見つめながら、小さく息を吐いた。
鉄鉱脈を探しに来たはずだった。
ところが待っていたのは、世界の命脈を支える超巨大施設。
しかも、その地下には百二十八層にも及ぶ未知の迷宮が眠っている。
ボルグは静かに俺を見据える。
「それでも行くか」
「継ぐ者よ」
その問いに、俺は迷うことなく頷いた。
「ああ」
「この街を守るためにも」
「この世界を救うためにも」
「俺は、その山へ入る」
その瞬間、ボルグは初めて安堵したように微笑んだ。
「……ならば、儂も最後まで付き合おう」
「坑道守ボルグ」
「今この時をもって、おぬしの案内人となる」
こうして探索隊は、新たな仲間を迎えた。
目指すは、山の奥深くに眠る《世界樹支脈管理施設》。
鉄を求めた旅は、いつしか世界の運命を左右する大遠征へと姿を変え始めていた。
出発は、その日の午後となった。
ただし、探索隊全員で山へ入るわけではない。
ボルグの案内で地図を確認した結果、この先は荷車どころか大人数で進める道ではないことが判明したからだ。
「二十人も入れば、それだけで落石の危険が増える」
ボルグは山肌へ杖を向けながら説明する。
「古い坑道も多い」
「重みが増せば崩れる場所もある」
ガンドも腕を組みながら頷いた。
『儂も同意見じゃ』
『山へ入る者は最小限』
『残りはここで野営し、補給拠点を守る』
「となると……」
俺は仲間たちを見回した。
「俺、ナンシー、ガンド、デルブ、コル、ボルグ」
「戦力としてガードナーとシャーリス」
「それにローズ」
ローズが少し驚いたような顔をする。
「私もですか?」
「ああ」
「回復役が必要だ」
「それに植物や薬草の知識も、この山では役に立つ」
ローズは静かに頷いた。
「分かりました」
「ミントは?」
ミントは期待に満ちた目でこちらを見ていた。
俺は少しだけ考えた。
続きを書いて
翌朝。
まだ森の上空が薄暗いうちに、俺たちはリューネの隠れ家を出発した。
荷物は必要最低限。
食料、水、簡単な野営道具、それに武器。
今回は採取が目的ではない。
目的地は――世界樹の根。
そして、そこにあるという黒い結晶を探し出し、可能ならば浄化する。
そのため、荷車は置いていくことにした。
「……本当に、こっちで合ってるのか?」
俺が地図を広げながら尋ねる。
隣ではナンシーが俺の肩に乗り、周囲を警戒していた。
ガードナーが先頭を歩き、シャーリスが少し後ろから森の様子を観察している。
リューネが残してくれた地図によれば、世界樹の根は森の最深部。
普通なら、ここから半日ほどの距離らしい。
だが――。
「道が……ないな」
ガードナーが呟いた。
「ない?」
「ああ。昨日まで獣道だったはずの場所が、完全に塞がってる」
目の前には巨大な樹木があった。
昨日までは存在しなかったはずの木だ。
幹の太さは大人三人が手を繋いでも届かないほど。
根が地面を押し上げ、まるで壁のように行く手を塞いでいる。
シャーリスが幹に触れる。
「……まだ生きてる」
「生きてる?」
「ええ。しかも、かなり強い生命力」
彼女が眉を寄せる。
「普通の木じゃないわ」
俺は周囲を見渡した。
確かに、おかしい。
木々の配置が昨日とは違う。
森そのものが、俺たちを目的地から遠ざけようとしているように見える。
「リューネの言っていた通りか」
魔力の流れが乱れている。
その影響で森そのものが変質しているのだろう。
俺はナンシーを見る。
「ナンシー。進路を再計算できるか?」
『解析します』
ナンシーの目が淡く光る。
『周辺地形を再スキャン』
『地形変動を確認』
『従来ルート、使用不能』
「やっぱりか」
『代替ルートを検索します』
数秒。
ナンシーが小さく身じろぎした。
『……ハーシス』
「なんだ?」
『通常の地形情報では説明できない空間変動を確認しました』
「空間変動?」
『はい』
ナンシーが俺の視界に簡易地図を投影する。
森の地形が表示される。
だが、その中央。
世界樹の根があるはずの場所だけが、妙に歪んでいた。
「……なんだ、これ」
まるでそこだけ、地図から切り取られている。
『世界樹の根周辺に、強い魔力干渉があります』
『空間そのものが不安定化している可能性があります』
ガードナーがこちらを振り返った。
「つまり?」
「森の奥で、何かがおかしくなってるってことだ」
俺は地図を閉じた。
「だったら、行くしかない」
「だな」
ガードナーが頷く。
シャーリスも弓を背負い直した。
「でも、正面から行けないなら……別の道を探すしかないわね」
その時だった。
――カァン。
どこか遠くで、金属を叩いたような音が響いた。
全員が動きを止める。
――カァン。
もう一度。
今度ははっきり聞こえた。
「……何の音だ?」
ガードナー
ガンドとデルブが跪いた姿を見て、俺たちは思わず顔を見合わせた。
あの二人が、ここまで畏まる相手は初めて見る。
老人――ボルグは困ったように笑い、木杖で地面を軽く突いた。
「やめい、やめい」
「そんな大層なことをされるような身分ではない」
『いいえ』
デルブは頭を上げない。
『坑道守とは、山の命を預かる者』
『鉱山妖精の中でも、最も古き役目を継ぐ方』
『儂らごときが頭を上げられる相手ではありませぬ』
ボルグは小さくため息をついた。
「相変わらず堅いのう」
「もう、その役目も終わったというのに」
その言葉に、一瞬だけ寂しげな色が滲んだ。
◇
俺は一歩前へ出て名乗る。
「俺はハーシス。この都市の管理者をしています」
ボルグは俺をじっと見つめた。
その瞳は年老いているはずなのに、不思議な力を宿している。
まるで岩盤の奥深くまで見通すような視線だった。
「……なるほど」
「おぬしが継ぐ者か」
「継ぐ者?」
老人は肩の上にいるナンシーへ視線を移す。
その瞬間、ナンシーが小さく光った。
『対象を照合』
『照合率上昇』
『旧文明登録情報を検出』
「登録情報?」
俺が驚く間もなく、ナンシーが続ける。
『個体識別』
『坑道管理主任』
『ボルグ』
『所属』
『世界樹支脈管理施設保全部門』
『権限レベル四』
その場に沈黙が落ちた。
ガードナーたちは意味が分からず首を傾げている。
だが俺だけは違った。
つまり、この老人は伝説の存在ではなく――。
「旧文明の施設で働いていた……?」
ボルグは苦笑する。
「半分は正解じゃ」
「半分は違う」
「儂は施設で働いておったのではない」
「施設を守るために造られた」
その一言で空気が凍った。
「造られた?」
「儂は人間ではない」
「鉱山妖精でもない」
「《守人》じゃ」
ナンシーが即座に補足する。
『情報更新』
『守人』
『旧文明が開発した長寿命管理種族』
『施設保守・監視を主任務とする』
『寿命推定』
『千年以上』
ガードナーが思わず口を開けた。
「千年……だと?」
ローズも息を呑む。
ミントだけは不思議そうな顔で老人を見上げている。
「だから、おじいちゃんから木の匂いがするんだ」
ボルグは優しく笑った。
「よく分かったのう」
「お嬢ちゃん」
◇
焚き火を囲み、俺たちはボルグから話を聞くことになった。
老人は湯気の立つ木椀を両手で包み込みながら、ゆっくりと語り始める。
「昔、この山はただの山ではなかった」
「世界中へ命を巡らせる、大地の心臓であった」
その言葉に、ナンシーが静かに頷く。
『一致』
『解析結果と符合』
「世界樹から流れ出る生命の力を受け取り」
「山で浄化し」
「各地へ送り届ける」
「それが《マウンテン・コア》の役目じゃ」
「だから鉄も豊富だったのか?」
俺が尋ねると、ボルグは首を振る。
「逆じゃ」
「生命の流れが豊かだったから、鉄も銅も金も育ったのじゃ」
「山は鉱石を生み出す」
「じゃが、本来は何万年も掛かる」
「この山では、それが何十倍もの速さで育っておった」
デルブが深く頷いた。
『だから泣いておる』
『地脈が腐れば、鉱脈も死ぬ』
「その通りじゃ」
ボルグの表情が曇る。
「今、この山の中では鉱石が次々と黒く変色しておる」
「鉄は脆くなり」
「銅は腐り」
「銀は輝きを失い」
「金でさえ濁る」
コルが青ざめた。
『そんな馬鹿な……』
『鉱石が病気になるなんて……』
「なる」
「山が病めばな」
◇
俺は昨夜のシステム表示を思い出す。
『汚染率 八九・七%』
残り一年。
それは決して大袈裟な数字ではなかったのだ。
「原因は何なんだ?」
ボルグはしばらく黙り込み、やがて低い声で答えた。
「……心臓を喰われた」
「心臓?」
「《マウンテン・コア》の核じゃ」
「本来なら青く輝く世界樹の結晶」
「それが今は黒く染まり、山の命を喰い続けておる」
俺の脳裏に、一つの光景が蘇る。
世界樹の根で見た、あの黒い結晶。
森の主《千眼》の胸に食い込んでいた、禍々しい結晶。
「まさか……」
「同じものか」
ボルグは静かに頷いた。
「おぬしは、もう見たのじゃな」
「あの黒き災厄を」
胸が重くなる。
つまり、この山だけではない。
世界樹の根。
森の主。
そして《マウンテン・コア》。
すべてが同じ黒い結晶によって侵されている。
偶然ではない。
誰かが意図的に世界そのものを蝕んでいる。
◇
その時だった。
ナンシーが突然、空中へ新たな映像を投影する。
『施設内部の概略図を復元』
立体映像の中に、巨大な山の断面図が現れた。
その内部には、信じられないほど巨大な空洞が幾重にも広がっている。
「地下都市……?」
『訂正』
『地下管理区画』
『総階層数』
『推定百二十八層』
「百二十八!?」
全員が息を呑む。
地下一階や二階ではない。
百二十八層。
それはもはや一つの地下世界だった。
さらに映像の最深部には、一つだけ真っ赤に染まった領域が表示される。
『最下層』
『中央制御核』
『マウンテン・コア』
『現在、汚染源を確認』
そして最後に、赤い文字が表示された。
『危険度評価』
『SSS級災害対象』
『現管理者権限では攻略不可』
静まり返る一同。
誰も言葉を発せない。
俺は立体映像を見つめながら、小さく息を吐いた。
鉄鉱脈を探しに来たはずだった。
ところが待っていたのは、世界の命脈を支える超巨大施設。
しかも、その地下には百二十八層にも及ぶ未知の迷宮が眠っている。
ボルグは静かに俺を見据える。
「それでも行くか」
「継ぐ者よ」
その問いに、俺は迷うことなく頷いた。
「ああ」
「この街を守るためにも」
「この世界を救うためにも」
「俺は、その山へ入る」
その瞬間、ボルグは初めて安堵したように微笑んだ。
「……ならば、儂も最後まで付き合おう」
「坑道守ボルグ」
「今この時をもって、おぬしの案内人となる」
こうして探索隊は、新たな仲間を迎えた。
目指すは、山の奥深くに眠る《世界樹支脈管理施設》。
鉄を求めた旅は、いつしか世界の運命を左右する大遠征へと姿を変え始めていた。
出発は、その日の午後となった。
ただし、探索隊全員で山へ入るわけではない。
ボルグの案内で地図を確認した結果、この先は荷車どころか大人数で進める道ではないことが判明したからだ。
「二十人も入れば、それだけで落石の危険が増える」
ボルグは山肌へ杖を向けながら説明する。
「古い坑道も多い」
「重みが増せば崩れる場所もある」
ガンドも腕を組みながら頷いた。
『儂も同意見じゃ』
『山へ入る者は最小限』
『残りはここで野営し、補給拠点を守る』
「となると……」
俺は仲間たちを見回した。
「俺、ナンシー、ガンド、デルブ、コル、ボルグ」
「戦力としてガードナーとシャーリス」
「それにローズ」
ローズが少し驚いたような顔をする。
「私もですか?」
「ああ」
「回復役が必要だ」
「それに植物や薬草の知識も、この山では役に立つ」
ローズは静かに頷いた。
「分かりました」
「ミントは?」
ミントは期待に満ちた目でこちらを見ていた。
俺は少しだけ考えた。
危険は承知で、なぜミントを連れてきたのか。
理由は一つだった。
しかし、状況は想像以上に悪い。
「ミントは、ここに残る」
「えー」
案の定、ミントが頬を膨らませた。
「ミントも行く」
「駄目だ」
「どうして?」
「地下深くへ行くんだ。何があるか分からない」
「でも――」
ミントが何かを言おうとした、その時だった。
ボルグがミントへ視線を向けた。
そして、ほんの少しだけ目を細める。
「……いや」
「連れて行った方がよいかもしれぬ」
「ボルグ?」
「この子には、山が見えておる」
俺は思わずミントを見る。
当の本人は、何のことか分からないらしく首を傾げていた。
「山が見える?」
「正確には、山の中を流れるものがじゃ」
ボルグは杖の先で地面を軽く叩く。
――コン。
乾いた音が響いた。
「普通の者には聞こえぬ」
「じゃが、この子には聞こえておる」
ミントが地面へしゃがみ込む。
そして、小さな手のひらを土へ当てた。
「……ここ」
「ここから、泣いてる」
俺たちは顔を見合わせた。
「泣いてる?」
「うん」
ミントは真剣な顔で頷く。
「ずっと」
「ずっと、痛いって言ってる」
その瞬間。
俺の視界にシステムウィンドウが浮かんだ。
『特殊感知能力を検出』
『対象:ミント』
『能力名称――《地脈感知》』
『対象の生命力流動を直接知覚する能力』
『希少技能に分類』
「……またかよ」
俺は思わず頭を抱えた。
この子、本当に何者なんだ。
人工英雄育成計画。
ドワーフとノームの混血。
そして、地脈を直接感じ取る能力。
偶然にしては出来すぎている。
ローズが不安そうにミントを見る。
「危険ではありませんか?」
「危険じゃ」
ボルグが即答した。
「じゃが、それ以上に重要じゃ」
「この山の最深部へ行くのであれば、この子の力は必要になる」
俺はしばらく黙った。
そしてミントの頭に手を置く。
「……分かった」
「ただし、俺のそばを絶対に離れるな」
「うん!」
ミントの顔がぱっと明るくなる。
「パパと一緒!」
「……そこは今さら訂正しないんだな」
ローズが小さく笑った。




