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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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山の王と、五十年待った坑道守

 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 尾根全体が、波打つように揺れた。


「うわっ!」


 立っていられない。


 俺たちは一斉に地面へ伏せた。


 荷車に積んでいた工具が、次々と音を立てて転がっていく。


 縄で固定していた樽も、激しく軋んだ。


 馬たちは恐怖に嘶き、必死に地面を蹴っている。


「落ち着け!」


「暴れるな!」


 ガードナーと護衛たちが、必死に手綱を握る。


 だが、普段は大人しい馬でさえ白目を剥いていた。


 逃げ出そうともがいている。


 それほどまでに――山が発する圧力は凄まじかった。


 俺も歯を食いしばり、両手を地面につける。


「ナンシー!」


『解析中』


『振動源を特定します』


 いつもの淡々とした声。


 だが。


『震源――』


 表示が乱れた。


『エラー』


『対象規模が想定値を超過』


『再解析』


 ナンシーの声に、初めてノイズが混じった。


 背筋が冷える。


「……解析できないのか?」


『情報不足』


『対象データなし』


『文明管理データベース未登録』


「未登録……?」


 俺は思わず顔を上げた。


 マザークリスタルと接続して以来、ナンシーが解析不能になることなんて、ほとんどなかった。


 それが今は――。


 この山を、知らない。


 つまり。


 旧文明ですら、この存在を記録していなかったということなのか。



 やがて。


 激しい揺れは、少しずつ収まっていった。


 だが、静寂は戻らなかった。


 巨大な山の山腹。


 そこでは、青白い光が一定の間隔で明滅していた。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで。


 巨大な心臓が鼓動しているようだった。


 光が脈打つたび、足元が小さく震える。


 空気まで低く唸った。


 デルブが震える手を胸に当てる。


 そして、深く頭を垂れた。


『……生きておる』


『本当に、生きておった』


 ガンドも帽子を脱いだ。


 いつもの豪快な笑みはない。


 ただ静かに、山を見上げている。


『長老から聞いた昔話は……本当じゃったか』


「昔話?」


 俺が聞き返す。


 ガンドはしばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと口を開く。


『山は、ただの岩ではない』


『巨大な地脈が、長い年月を経て意思を宿した時――』


 ガンドは山を見上げた。


『人は、それを《山の王》と呼んだ』


「山の王……」


『世界そのものを支える存在じゃ』


 デルブも頷く。


『儂ら鉱山妖精は、その眷属にすぎぬ』


『山から鉄を頂く』


『銅を頂く』


『金も銀も頂く』


 デルブは静かに続けた。


『じゃから儂らは、山へ感謝を捧げる』


『それが古き鉱夫の掟じゃ』


 コルも、いつもの陽気さを完全に失っていた。


『俺……知らなかった』


『親方たちは、本当にいると思ってなかったのか?』


『昔話じゃからな』


 ガンドが苦笑する。


『今の若い妖精で、信じておる者などほとんどおらん』


『儂も半信半疑じゃった』


 そして。


 もう一度、山を見上げる。


『じゃが……』


『あれを見れば、疑いようがない』



 その時だった。


「……ミント?」


 ミントが、ふらりと立ち上がった。


 ローズが慌てて肩を掴む。


「どうしたの?」


 だが、ミントは答えない。


 ただ山を見ている。


 まるで。


 何かに呼ばれているように。


「呼んでる……」


「え?」


「来て……って」


 ミントの瞳に、青白い光が映り込んだ。


 いや。


 映っているだけじゃない。


 虹彩そのものが、淡く蒼く輝き始めていた。


『警告』


 ナンシーの声が響く。


『対象――ミント』


『高濃度魔力同調反応を確認』


『外部精神波を検知』


「精神干渉か!」


 俺は咄嗟にミントの肩を掴んだ。


 だが。


 ミントは首を横に振った。


「違う……」


「怖くない」


 その声は、ひどく悲しそうだった。


「助けてって……泣いてるだけ」


 ぽろり。


 ミントの頬を、一筋の涙が伝う。


「ずっと一人だったんだね……」


 誰も何も言えなかった。


 山が泣いている。


 そうとしか思えなかった。


 デルブの言葉。


 ミントが聞いた声。


 山腹に浮かぶ無数の青白い光。


 すべてが一本の線で繋がっていく。


 この山は。


 ただ眠っていたわけじゃない。


 ずっと――誰かを待っていたのだ。



 その瞬間。


 ナンシーが突然、停止した。


『管理者権限による強制通知』


『マザークリスタルより緊急通信』


 目の前に、青白い半透明のウィンドウが展開される。


 表示された文字を見て、俺は息を呑んだ。


『超高優先度任務を確認』


『世界基盤施設を検出』


『識別名称――』


 文字が乱れる。


 一瞬、ノイズが走った。


 そして。


世界樹支脈管理施設マウンテン・コア


 世界樹。


 その名前に、俺は反応した。


 以前、森の守り手リューネから聞いたことがある。


 世界樹。


 そして、その根。


 だが。


 これは何だ?


『施設状態』


『重大損傷』


『汚染率――八九・七%』


 嫌な数字が表示される。


『自壊まで残り――推定三百六十五日』


「……一年」


 思わず呟いた。


 一年しかない。


 ナンシーはさらに続ける。


『管理者認証不足』


『施設への立ち入りには管理者権限レベル五以上が必要』


『現在権限――レベル三』


「……レベル五?」


 まだ二つ足りない。


 その時だった。


 山頂から、蒼白い光が一気に膨れ上がった。


 夜空を貫くほどの光。


 そして――。


『――継ぐ者よ』


 声が響いた。


 男でもない。


 女でもない。


 老人でも。


 子供でもない。


 山そのものが語りかけているような、悠久の響き。


『……来たれ』


 たった、それだけ。


 だが。


 その直後、ナンシーが今まで聞いたことのない大音量で警告を鳴らした。


『緊急任務更新』


『メインシナリオを更新』


『新規目標』


世界樹支脈管理施設マウンテン・コアへ到達せよ』


 俺は巨大な山を見上げた。


 拒絶されているわけじゃない。


 むしろ。


 呼ばれている。


 都市の復興。


 世界樹。


 旧文明。


 そして、この山。


 すべてが。


 この山の奥で繋がっている。


 そう確信した瞬間。


 胸の奥で、久しく感じていなかった感情が燃え上がった。


 冒険者としての――高揚感。



 その夜。


 それ以上の異変は起きなかった。


 山頂を貫いていた光柱も、やがて細くなっていく。


 そして。


 星空へ溶け込むように消えた。


 だが。


 誰一人、熟睡できなかった。


 焚き火を絶やさないよう交代で薪をくべながら、皆が何度も山を見る。


 あれを見てしまった以上、当然だった。



 翌朝。


 谷は朝霧に覆われていた。


 山々が白い海から顔を出す島のように見える。


 簡単な朝食を終えた俺は、ナンシーを肩に乗せたまま、昨夜のメッセージを思い返していた。


「《マウンテン・コア》か……」


 ゲームには存在しなかった。


 それどころか。


《世界樹支脈管理施設》


 そんな分類すら、聞いたことがない。


 もし旧文明が、各地にこうした施設を作っていたのなら。


 この世界にはまだ。


 俺の知らない巨大施設が、いくつも眠っているのかもしれない。


 そう考えると、背筋が震えた。


 興奮じゃない。


 畏怖だ。


 俺は、この世界を知っているつもりだった。


 けれど。


 知っていたのは、ゲームとして表に出ていた部分だけだったのだ。


 その下には。


 まだ誰にも知られていない、巨大な歴史が眠っている。



「ここじゃ」


 声に振り向く。


 少し離れた岩場で、ガンドとデルブが地図を広げていた。


 俺も二人のところへ向かう。


 デルブが山並みを指差した。


『昨夜の光は、あの辺りじゃ』


 指先が示しているのは、山の中腹。


 ちょうど昨日、ナンシーが地下反応を検知した場所と一致している。


「そこまで、どれくらいだ?」


 ガードナーが尋ねた。


『真っ直ぐ行けば半日じゃ』


『じゃが、それは鳥の話じゃな』


 ガンドが苦笑する。


『人間は飛べん』


『谷を回り、崖を越え、沢を渡る』


『二日』


 ガンドは地図を見る。


『荷車まで連れて行くなら――三日は見ておいた方がいい』


「荷車は無理ですね」


 ローズが周囲を見渡した。


 確かに。


 ここから先は斜面が急すぎる。


 獣道すら、途中で消えている。


「荷物を減らすしかないか……」


『いや』


 デルブが首を横に振った。


『もっと良い方法がある』


「?」


 デルブは岩肌へ近付き、拳ほどの石を一つ拾った。


『コル』


『やってみい』


『おう!』


 コルは石を受け取る。


 目を閉じた。


 両手で石を包み込むように握り――。


『眠っとけ』


 次の瞬間。


 石が淡い黄色に輝いた。


 ゴゴ……。


 岩肌が震える。


 小さな亀裂が走った。


 亀裂は蛇のように地面を這い、十メートルほど先で止まる。


「……道?」


 俺が呟いた。


 その直後。


 草木に覆われていた地面が、ゆっくりと盛り上がった。


 岩が左右へ割れていく。


 まるで――。


 山そのものが、道を開いているようだった。


 数分後。


 そこには、人間が二人並んで歩けるほどの細い石畳が姿を現していた。


「すごい……」


 ローズが目を見開く。


 ガンドが胸を張った。


『鉱山妖精は山を壊すだけではない』


『山と相談して、道を借りることもできる』


 デルブも頷いた。


『昔の鉱山は、皆こうして開かれた』


『無理やり掘れば、山は怒る』


『許しを得れば、道は開く』


 なるほど。


 だから彼らは。


 山が泣く。


 山が怒る。


 そんな言葉を、ごく自然に口にしていたのか。


 妖精たちにとって。


 山は資源じゃない。


 意思を持つ隣人なのだ。



 その時。


 ナンシーが淡く光った。


『新規情報を取得』


「何だ?」


『昨夜取得した施設情報を再解析』


『周辺地形データと照合』


『一致率――九七・八%』


 空中に、新たな立体地図が投影された。


 昨日まで見えていた山並みに、青白い線が浮かび上がっていく。


「これは……?」


『地下地脈』


『旧文明によるエネルギー輸送路』


 線は巨大な山から放射状に伸びていた。


 一つは都市エマイン・マハへ。


 一つは世界樹の根がある方角へ。


 さらに。


 東。


 西。


 南。


 北。


 それぞれ遥か彼方まで伸びている。


『推定』


『マウンテン・コアは世界樹エネルギー分配施設』


『各都市へ生命力を供給していた可能性――九三%』


 息を呑んだ。


 もし、これが本当なら。


 この山は鉄鉱山なんかじゃない。


 文明そのものを支える――巨大な心臓だ。


 そして、その心臓が。


 今、八九・七%も汚染されている。


 一年以内に自壊する。


 放置すれば。


 都市の復興どころか。


 世界そのものに影響が及ぶかもしれない。



「……誰かいる!」


 シャーリスの声が響いた。


 全員が一斉に振り返る。


 武器を構える。


 森の奥。


 朝霧の向こう。


 誰かが歩いてくる。


 一人。


 ゆっくりと。


 こちらへ近付いてくる。


 護衛たちが槍を構える。


 だが。


 その人物は逃げない。


 やがて。


 霧の向こうから姿を現した。


 老人だった。


 長い白髪を後ろで束ねている。


 灰色の外套。


 背中には大きな籠。


 手には、節だらけの木杖。


 一見すれば。


 山で薬草を採る、ただの隠者だ。


 だが。


 その老人を見た瞬間。


『…………』


 ガンドが固まった。


 デルブも目を見開く。


『ば……馬鹿な』


『生きておったのか……!?』


 老人は、皺だらけの顔に穏やかな笑みを浮かべた。


「久しいのう、ガンド」


「デルブ」


 二人の名を。


 知っている。


 老人は、ゆっくりと続けた。


「おぬしたちが来るのを――」


 一拍。


「五十年ほど、待っておったぞ」


「……な」


 ガンドの顔から血の気が引いた。


「まさか……」


 老人は頷く。


「そうじゃ」


 木杖を地面へ突く。


「儂は、この山の最後の坑道守」


 そして。


「名を――ボルグという」


 その名を聞いた瞬間。


 ガンドとデルブが、同時にその場へ跪いた。


 いつも豪快なガンドが。


 口数の少ないデルブが。


 初めて見せる姿だった。


 それは。


 心からの敬意だった。

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