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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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世界樹支脈管理施設《マウンテン・コア》

 探索隊は、その日は尾根の開けた場所で野営することになった。


 まだ日が高いうちから準備を始めたのは、ガンドの強い進言によるものだった。


『山では日暮れが早い』


『平地の感覚で動けば痛い目を見る』


 その一言で全員が納得し、荷車から資材を降ろしていく。


 護衛たちが周囲を警戒する間に、俺たちは天幕を張った。


 地面へ杭を打ち込み、丸太を組み、風向きを考えて焚き火の位置を決める。


 その一方で、ガンドとデルブは野営地の周囲を歩き回り、何度も地面を石槌で叩いていた。


「何を調べてるんだ?」


 俺が尋ねると、ガンドは石槌を持ち上げた。


『地の音じゃ』


『空洞があれば響きが変わる』


『水脈が近ければ湿り気も違う』


 デルブも頷く。


『山は足元から読む』


『見える景色だけ見ておれば、いつか足元をすくわれる』


 コン、コン、と石槌が岩を叩く。


 乾いた高い音。


 鈍く重い音。


 腹の底へ響く低い音。


 俺には、その違いがほとんど分からない。


 だが二人には、それだけで地下の様子が分かるらしい。


『ここなら問題ない』


『岩盤がしっかりしておる』


『今夜は安心して眠れるぞ』


 ガンドの太鼓判に、皆がようやく息を吐いた。


 山では、野営地一つ選ぶにも命懸けなのだ。


 ◇


 夕暮れ。


 山々が茜色に染まり、巨大な山だけが黒い影となって空へそびえていた。


 焚き火を囲み、夕食を取っていると、コルが焼いた干し肉を頬張りながら尋ねた。


『なあ、親方』


『あの山、本当に泣いてるのか?』


 デルブは炎を見つめたまま答える。


『泣いておる』


『今もな』


『ただ、お前さんには聞こえんだけじゃ』


『儂ら鉱山妖精には分かる』


『岩が軋む音』


『地脈が乱れる音』


『山が苦しむ音が』


 コルは黙り込んだ。


『……そんな山、初めてだ』


『儂もじゃ』


 デルブは静かに答えた。


『だから来た』


『放っておけぬ』


 焚き火が、ぱちりと爆ぜる。


 誰も軽口を叩かなかった。


 あの巨大な山は、鉱山妖精たちにとっても未知なのだ。


 ◇


 夜。


 森は昼とは別世界になっていた。


 虫の音が響き、遠くで夜鳥が鳴いている。


 焚き火だけが、闇を押し返していた。


 俺は見張り番として起きていた。


 隣にはガードナー。


 彼は木へ背を預けたまま、静かに周囲を見渡している。


「静かだな」


「ああ」


 だが、その静けさが逆に不気味だった。


 普通なら鹿や猪の気配くらいあってもいい。


 なのに、この山は生き物の気配が極端に少ない。


 その時だった。


「……?」


 妙な違和感を覚えた。


 風だ。


 さっきまで谷から吹き上げていた風が、突然止まった。


 いや。


 止まったんじゃない。


 逆向きになった。


 森中の風が、巨大な山へ向かって吸い込まれていく。


 ザァァァァァ――。


 木々が一斉に山へ向かって揺れ始めた。


 ナンシーが小さく光る。


『異常現象確認』


『大気流動パターン変化』


『原因不明』


 直後。


 ゴォォォォォォォォン……。


 低く、長く、腹の底へ響く音が山々へ広がった。


 巨大な鐘を鳴らしたような音。


 いや。


 違う。


 これは――。


「山が……鳴いた?」


 思わず呟く。


 ガンドとデルブが飛び起きた。


 二人とも、血相を変えて山を見ている。


『始まったか』


『……遅かったくらいじゃ』


 ガンドの顔から、いつもの余裕が消えていた。


『これは地鳴りではない』


『山が呼吸しておる』


 その瞬間だった。


 巨大な山の中腹に、小さな青白い光が灯る。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 やがて無数の光が、夜の山肌をゆっくりと這い始めた。


 まるで星空が山へ降り立ったような光景。


 だが、その美しさとは裏腹に、誰一人として声を上げなかった。


 デルブが震える声で呟く。


『……精霊火ではない』


『あれは鉱脈の輝きでもない』


『もっと古い』


『もっと大きな何かじゃ』


 ミントが天幕から顔を出した。


「……いた」


「誰が?」


 俺が尋ねる。


 ミントは青白く輝く山を指差した。


「あそこ」


「大きな人」


「泣いてる」


 その瞬間――。


 ナンシーの警告音が夜の静寂を切り裂いた。


『超高濃度魔力反応』


『地下深部より急速浮上』


『推定深度二百三十メートル』


『百八十メートル』


『百二十メートル』


『八十メートル』


 数値が恐ろしい速度で減っていく。


 地下に眠る何かが、こちらへ向かって上昇している。


 全員が武器を握った。


 そして――。


 ドォンッ!!


 巨大な山の頂から、蒼白い光柱が天へ突き上がった。


 夜空を貫いた光が雲を裂き、星々さえ霞ませる。


 同時に、大地が大きく震えた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 尾根全体が揺れる。


 木々の葉が一斉に舞い落ちる。


 誰もが立っていられず、その場へ膝をついた。


 ただ一人。


 ガンドだけが石槌を地面へ突き立てた。


『皆、伏せろ!!』


『山の王が――』


『目を覚ますぞ!!』


 その叫びは、轟く地鳴りに飲み込まれた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 荷車に積まれていた工具が次々と転がり、樽が激しく軋む。


 馬たちは恐怖に嘶き、護衛たちは必死に手綱を握った。


「ナンシー!」


『解析中』


『振動源を特定』


『震源――』


 表示が乱れる。


『エラー』


『対象規模が想定を超過』


『再解析』


 ナンシーの声に、初めてノイズが混じった。


 マザークリスタルと接続して以来、どんな状況でも冷静だったナンシーが解析不能を示した。


「解析できない……?」


『情報不足』


『対象データなし』


『文明管理データベース未登録』


 未登録。


 つまり――。


 この世界を築いた旧文明でさえ、把握していなかった存在。


 ◇


 やがて、激しい揺れが収まり始めた。


 だが、静寂は戻らない。


 巨大な山の山腹では、なおも青白い光が脈動していた。


 ドクン。


 ドクン。


 まるで巨大な心臓が鼓動しているようだった。


 デルブは震える手で胸に触れ、静かに頭を垂れる。


『……生きておる』


『本当に生きておった』


 ガンドも帽子を脱いだ。


『長老から聞いた昔話は、本当じゃったか』


「昔話?」


 俺が尋ねる。


 ガンドはゆっくりと口を開いた。


『山はただの岩ではない』


『巨大な地脈が長い年月を経て意思を宿した時、人はそれを山の王と呼んだ』


『世界そのものを支える存在』


『儂ら鉱山妖精は、その眷属にすぎぬ』


 デルブも続ける。


『山から鉄を頂く』


『銅を頂く』


『金も銀も頂く』


『じゃから儂らは、山へ感謝を捧げる』


『それが古き鉱夫の掟じゃ』


 コルも、もう笑っていなかった。


『俺……知らなかった』


『親方たちも、昔話だと思ってたのか?』


『そうじゃ』


 ガンドは苦笑する。


『儂も半信半疑じゃった』


『じゃが……』


 巨大な山を見上げる。


『あれを見れば、疑いようがない』


 ◇


 その時だった。


 ミントが、ふらりと立ち上がった。


「ミント?」


 ローズが慌てて肩を掴む。


 しかしミントは、山だけを見つめていた。


「呼んでる……」


「来て……って」


「今度は、はっきり聞こえる」


 その瞳に、青白い光が映り込んでいる。


 いや。


 映っているだけではない。


 虹彩そのものが、淡く蒼く輝き始めていた。


 ナンシーが警告する。


『対象ミント』


『高濃度魔力同調反応』


『外部精神波を検知』


「精神干渉か!」


 俺は咄嗟にミントの肩を掴んだ。


 だが、ミントは首を振った。


「違う……」


「怖くない」


「助けてって……泣いてるだけ」


 ぽろり、と涙が零れる。


「ずっと一人だったんだね……」


 その言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。


 山が泣いている。


 デルブの言葉。


 助けを求める声。


 そして、山腹に浮かぶ無数の青白い光。


 すべてが一本の線で繋がり始めていた。


 ◇


 突如、ナンシーの動きが止まった。


『管理者権限による強制通知』


『マザークリスタルより緊急通信』


 目の前に青白いウィンドウが展開される。


 そこに表示された文字を見て、俺は息を呑んだ。


『超高優先度任務を確認』


『世界基盤施設を検出』


『識別名称――』


 文字が乱れる。


 そして。


世界樹支脈管理施設マウンテン・コア


『施設状態』


『重大損傷』


『汚染率 八九・七%』


『自壊まで残り推定三百六十五日』


「……世界樹?」


 俺は呟いた。


 世界樹。


 以前、森の守り手リューネから聞かされた存在。


 森を支える、世界樹の根。


 だが、今表示されているのは、その「支脈管理施設」。


 つまり――。


 この巨大な山は、ただの鉱山ではない。


 世界樹の力を大地へ循環させる、旧文明の超巨大施設だったのだ。


 ナンシーが続ける。


『管理者認証不足』


『施設への立ち入りには管理者権限レベル五以上が必要』


『現在権限レベル 三』


 その瞬間。


 山頂の蒼白い光が、一際強く輝いた。


 そして。


 風に乗って、どこからともなく声が響く。


 男でもない。


 女でもない。


 老人でも子供でもない。


 山そのものが語り掛けるような、悠久の響き。


『――継ぐ者よ』


『……来たれ』


 たった、それだけ。


 なのに。


 俺の全身に鳥肌が立った。


 ナンシーが、これまでにない大音量で警告を鳴らす。


『緊急任務更新』


『メインシナリオを更新』


『新規目標』


世界樹支脈管理施設マウンテン・コアへ到達せよ』


 俺は静かに巨大な山を見上げた。


 あの山は、俺たちを拒んでいるんじゃない。


 呼んでいる。


 都市の復興。


 世界樹。


 旧文明。


 そして、この山。


 すべてが、山の奥深くで繋がっている。


 俺は拳を握った。


 久しく感じていなかった。


 冒険の始まりを告げる、あの感覚を。


 巨大な山の奥に、何が待っているのか。


 それを確かめるために――。


「行こう」


 俺は仲間たちを振り返った。


「この山の中へ」


 蒼白い光が、まるで答えるように脈動した。


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