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自分が作ったゲーム世界に転生した俺、都市管理システムで文明を一から復興する~ゲーム開発者の建国記~  作者: 水源


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35/61

俺たちの物を奪われたままにはしない

 集めたものを失わない仕組み。


 それもまた、都市を作るということだった。


 その翌日、俺たちは、さらに悪い知らせを聞くことになった。


「門を開けろ!」


 昼過ぎ、見張り台から切羽詰まった声が響いた。


「怪我人がいる!」


 俺はナターリアと顔を見合わせ、すぐに門へ向かった。


 門の外には、数人の人間が立っていた。いや、立っているというより、互いに支え合いながら、どうにかここまで辿り着いたような有様だった。


 服は泥だらけで、一人の男は腕から血を流している。女は幼い子供を抱えていた。


「どうした!?」


 俺が駆け寄ると、男が苦しそうに顔を上げる。


「……襲われた」


「誰に?」


「盗賊だ」


 その言葉を聞いた瞬間、バルドの表情が変わった。


「どこの集落です?」


「アルマ村だ」


 俺は頭の中に地図を思い浮かべた。


 昨日、バルドたちが盗賊に襲われた街道から、それほど離れていない。


「いつだ?」


「今朝だ」


 男は荒い息を吐きながら答えた。


「朝方……急に来た」


「何人くらいいた?」


「分からない。十人……いや、もっといたかもしれない」


「何を奪われた?」


 俺が尋ねると、男は一瞬だけ黙った。


「……食料だ」


「それだけか?」


「金も、道具も、家畜もだ」


 そして、男の声が震えた。


「逆らった者もいた」


 周囲の空気が重くなる。


「……死者は?」


「いる」


 短い答えだった。


 だが、それだけで十分だった。


     *


「同じ連中でしょうか」


 ナターリアが尋ねる。


「可能性は高い」


 俺は地図を見る。


 バルドたちが襲われた場所と、アルマ村。距離はそれほど離れていない。


「荷車を奪う、集落を襲う……」


 バルドが低い声で呟いた。


「目的は同じでしょう」


「物資か」


「ああ」


 俺は頷いた。


 食料、金、家畜、道具。そして荷車。


 盗賊たちは、ただ通りかかった商人を襲っているだけではない。


「……集めている」


「え?」


 フィンが俺を見る。


「盗賊たちは、物資を集めている」


 食料だけなら、飢えた人間がその場しのぎで奪った可能性もある。


 だが、荷車まで奪った。家畜も、道具もだ。


 それはつまり――。


「どこかへ運ぶためだ」


 バルドが頷く。


「拠点がありますね」


「ああ。しかも……」


 俺は続ける。


「一人や二人で生き延びるための隠れ場所じゃない」


 盗賊が組織として動いている。


 そう考えた方が自然だった。


     *


「……助けに行くんですか?」


 フィンが不安そうに尋ねた。


 当然だ。


 昨日、自分たちは盗賊に襲われたばかりなのだから。


 俺はすぐには答えず、地図に目を落とした。


 エマイン・マハ。アルマ村。そして街道。


「今から全員を連れて討伐には行かない」


「え?」


「情報が足りない」


 盗賊の人数、拠点、武器、逃げ道。何も分かっていない。


 そんな状態で、怒りだけを理由に人間を送り出す。それは、指揮官として一番やってはいけないことだ。


「まず怪我人を治療する」


「それから?」


「村の状況を聞く」


 生き残った人間はどれくらいいるのか。盗賊はまだ村にいるのか、それともすでに去ったのか。次に襲われる可能性はあるのか。


 確認しなければならないことは多い。


「でも……」


 フィンが言葉を濁す。


「村の人たちは……」


「ああ」


 俺にも分かっている。


 今、俺たちがここで話している間にも、村では怪我人が倒れているかもしれない。火をつけられた家が燃えているかもしれない。食料を奪われ、明日をどう生きるかも分からない人間がいるかもしれない。


 だからこそ――。


「偵察を出す」


 俺はそう言った。


「少人数で?」


「ああ。盗賊と戦うためじゃない。村の状況を確認するためだ」


 バルドが俺を見る。


「俺が行きます」


「昨日襲われたばかりだぞ」


「だからです」


 バルドは静かに答えた。


「道を知っています。それに、盗賊が現れた場所も」


 俺はしばらく黙ってバルドを見る。


 すると、バルドが少しだけ笑った。


「それに……今度は、荷車を持っていきません」


 思わず俺も苦笑する。


「冗談を言えるなら大丈夫か」


「たぶん」


「たぶんかよ」


     *


 その日の夕方、偵察から戻った男がいた。


 その顔を見た瞬間、俺は嫌な予感を覚えた。


「どうだった?」


「……酷い状態です」


 男は沈んだ声で答えた。


「家が何軒か焼かれています。怪我人も多い」


「盗賊は?」


「もういません」


「村に残っている人間は?」


「います」


 ただし、その数は多くない。


「逃げた者もいます」


「どこへ?」


「分かりません」


 俺は目を閉じた。


 集落を襲われる。住民が逃げる。住む場所を失う。そして、安全な場所を探す。


 ……エマイン・マハへ来る可能性は高い。


「避難民が増える」


 ナターリアが言った。


「ああ」


「でも、今の在庫では……」


「分かってる」


 まただ。


 一つの問題が、次の問題を連れてくる。


 盗賊。集落の襲撃。避難民。人口増加。食料不足。治安。


 どれか一つだけを解決しても、他の問題が残る。


「……本当に面倒だな」


 思わず呟く。


「今さら?」


 ナターリアが呆れたように言った。


「今さらだな」


 俺は苦笑した。


 しかし、笑っている場合ではない。


     *


 その夜、俺はバルドたちと地図を囲んでいた。


「盗賊は、また襲うと思います」


 バルドが言う。


「どうしてそう思う?」


「今回、かなりの物資を奪っています」


「でも?」


 促すと、バルドは地図を指で示した。


「盗賊たち自身も、食料を必要とします」


 人数が多ければ、それだけ消費する量も多い。


 盗んだ食料だけで、いつまでも暮らせるわけではない。


「つまり」


 ナターリアが言う。


「また奪う必要がある」


「ああ」


 俺は頷いた。


「次はどこだ?」


 バルドが地図を見る。


「分かりません。ただ……」


 指が、エマイン・マハへ続く街道の近くをなぞった。


「この周辺の集落は危険です」


 俺はその線を目で追う。


 そして、一つの事実に気づいた。


 盗賊が活動する場所。


 それは、エマイン・マハと外の世界を繋ぐ場所でもある。


「……まずいな」


「何がです?」


「盗賊にとっても、この街道は価値がある」


 俺は地図から顔を上げた。


「商人が通る。物資も通る。そして、これからはエマイン・マハへ人も集まり始める」


 俺たちが交易路を作ろうとしている。


 盗賊から見れば、その交易路は格好の狙い目になる。


 バルドの顔が険しくなる。


「つまり……」


「ああ」


 俺は頷いた。


「放っておけば、いつかエマイン・マハそのものが狙われる」


 部屋の中が静かになった。


 都市が豊かになれば、人が集まる。商人も来る。


 だが、豊かさは善意の人間だけを呼ぶわけではない。


 奪う者も呼ぶ。


「……荷車を取り返すかどうか」


 俺は小さく呟いた。


「それだけの話じゃなくなったな」


 ナターリアが頷く。


「盗賊をどうするか」


「ああ」


 俺は地図を見つめる。


「そして、周辺の集落をどう守るかだ」


 エマイン・マハだけを守る。壁を高くし、門を閉める。それだけなら簡単だ。


 だが、周囲の集落が次々に襲われれば、交易路は死ぬ。人が逃げ、農地が放棄され、食料は減っていく。


 その結果、盗賊の支配する土地が広がることになる。


「……都市の外まで考えなきゃならないのか」


「都市が大きくなればね」


 ナターリアが静かに答えた。


 俺は大きく息を吐いた。


 エマイン・マハを作る。


 最初は、ただ人間が安全に暮らせる場所を作りたかった。


 しかし、都市が外の世界と繋がった瞬間、守るべき範囲も広がった。


「まず、盗賊の情報を集める」


 俺は言った。


「拠点を探す。人数を調べる。武器を調べる」


 そして、地図の上に記された盗賊に襲われた街道へ目を向ける。


「……奪われた荷車も探す」


 バルドが静かに頷いた。


「取り返すんですか?」


「まだ分からない」


 俺は答える。


「だが……」


 拳を握る。


「俺たちの物を奪われたままにはしない」


 荷車一台。


 小さな損失に見えるかもしれない。


 だが、それはエマイン・マハが外へ伸ばした、最初の手の一つだった。


 そして、盗賊たちはその手を叩き落とした。


「……だったら」


 俺は地図から顔を上げる。


「今度は、こっちから手を伸ばす」


 ただし、無謀に剣を振り回すためではない。


 奪われたものを取り戻すため。


 周辺の人間を守るため。


 そして、エマイン・マハが外の世界と繋がり続けるために。


 盗賊たちのいる場所を、俺たちは探し始めることになった。

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