表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/50

決壊まで九分、放水路を繋げ!

 人も。


 エルフも。


 人造英雄も。


 竜も。


 ゴーレムも。


 妖精も。


 街のすべてが、生き残るために動き始めていた。


 残された時間は――三時間。


 天然ダムが決壊すれば、山ひとつ分の濁流が街へ押し寄せる。


 それを防ぐため、俺たちは最後の賭けに出た。


 ――放水路を掘る。


 成功すれば、生き残れる。


 失敗すれば――街は消える。


 決壊までの、最後の戦いが始まった。


 ◇


「急げ!」


 ガントの怒号が、夜の工事現場を震わせた。


 ゴゴゴゴゴ……!


 ロックゴーレムたちが石槌を振り下ろし、硬い岩盤を次々と砕いていく。


 ガキィン!


 ガキィン!


 砕けた岩を人間たちが運び出し、その後ろから別のゴーレムが掘削を進める。


 これまで築いてきた堤防工事を中断し、急遽、放水路の掘削へ切り替えた。


 資材も。


 人員も。


 すべてが足りない。


 それでも――誰一人、止まらなかった。


『管理者』


 ナンシーの淡々とした声が響く。


『流路変更工事』


『進捗率――三十二パーセント』


「まだ三割か……!」


 思わず歯を食いしばる。


 長すぎる。


 必要な放水路は約二キロ。


 それを、たった三時間で掘り切らなければならない。


 普通なら不可能だ。


 ガントも険しい顔をしていた。


『岩盤が予想以上に固い』


『このままでは間に合わん』


 その一言で、現場の空気が一段と重くなる。


 ダグラスは肩で荒く息をしながら、それでもツルハシを振るい続けていた。


「まだだ!」


「あと少し掘れば抜ける!」


 ザクッ!


 ガキン!


 岩盤へ火花が散る。


 だが――明らかに速度が落ちていた。


 人間の疲労。


 工具の消耗。


 そして、想定以上の硬岩。


 すべてが俺たちの前に立ちはだかっている。


『工事完了予測――二時間四十八分後』


 ナンシーが告げる。


 俺は息を呑んだ。


 天然ダムの決壊まで――三時間。


 残り十二分。


「……ギリギリじゃないか」


『肯定』


 だが。


 次の瞬間。


 数字が変わった。


『工事成功率――六十四パーセント』


「……下がった?」


『降雨量増加』


『地下水位上昇』


『掘削速度低下』


 最悪だ。


 自然は、こちらの都合なんて待ってくれない。


「くそっ……!」


 俺は都市管理システムを開いた。


 何かないか。


 まだ使っていない施設。


 まだ活用できていない機能。


 青白い画面を高速でスクロールしていく。


 そして――


「……ん?」


 一つの項目に目が止まった。


 ――石工房 Lv1。


 施設効果。


 ・石材加工

 ・工具整備

 ・掘削効率補正


「工具整備……?」


 俺は顔を上げた。


「ガント!」


『なんじゃ!』


「石工房って、石を加工するだけじゃないのか?」


 老人は、一瞬ぽかんとした。


 そして。


『……何を言っておる』


『石工房じゃぞ?』


『石工がおる』


『ならば、ノミもある』


『石槌もある』


『ツルハシもある』


 ガントはニヤリと笑った。


『そして――道具を最高の状態へ仕上げるのも、石工の仕事じゃ』


「……!」


 そうか。


 俺は今まで、石工房を「石を加工する施設」としか見ていなかった。


 でも違う。


 これは――現場を支えるための施設だ。


「石工房、建設!」


『了解』


 システム音声が響く。


 次の瞬間。


 採石場の隣で、青白い光の柱が立ち上がった。


 無数の光粒子が集まり、石材が宙から次々と積み上がっていく。


 ガガガガガ……!


 炉が組み上がり。


 作業台が設置され。


 壁一面に工具棚が並ぶ。


 わずか数十秒。


 旧文明の建築技術によって、一棟の石工房が完成した。


『石工房 Lv1』


『稼働開始』


『工具整備機能――有効化』


 直後。


 ロックゴーレムたちが、現場から工具を次々と運び込んだ。


 炉へ火が入る。


 砥石が回転する。


 キィィィン――!


 澄んだ金属音が、夜の工事現場へ響き渡った。


 刃を研ぐ。


 柄を補修する。


 欠けた部分を修復する。


 そして――完成した工具が、再び現場へ戻されていく。


「新しいツルハシだ!」


「こっちにも寄越せ!」


「急げ!」


 ダグラスが受け取ったツルハシを握る。


 そして――振り下ろした。


 ガキィィン!


 今まで何度叩いても傷しかつかなかった岩盤が、大きく砕けた。


「……!」


 ダグラスが目を見開く。


「軽い……!」


「なんだこれ!」


「刃が違う!」


「岩に吸い込まれるみてぇだ!」


 ガントが豪快に笑った。


『道具を制する者が、仕事を制する!』


『これぞ職人の仕事じゃ!』


 その瞬間。


 工事現場の動きが変わった。


 ロックゴーレムが岩を砕く。


 人間が砕石を運ぶ。


 石工房が工具を研ぐ。


 そして、研ぎ上げられた工具が再び最前線へ投入される。


 一つの巨大な機械。


 まるで街そのものが、一つの生き物になったようだった。


『工事進捗――五十二パーセント』


 数字が伸びる。


 五十三。


 五十四。


 五十五。


 さっきまでとは、明らかに速度が違う。


「いける……!」


 俺は拳を握り締めた。


 これなら――間に合う!


 ◇


 だが。


 山の上では。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 巨大な天然ダムが、限界を迎えようとしていた。


 雨は止まない。


 湖となった濁流が、土砂と岩の壁を容赦なく押し続ける。


 そして――


 ピシッ。


 小さな亀裂が走った。


 一本。


 二本。


 三本。


 やがて。


 ミシミシミシ……。


 天然ダム全体が、軋み始める。


『警告』


『天然ダム――崩壊兆候を確認』


 ナンシーの声が響く。


 俺の背筋を、冷たいものが走った。


「……まだだ」


 頼む。


 あと少しだけ。


 持ってくれ。


 ◇


『工事進捗――七十八パーセント』


 あと少し。


 あと少しで、放水路が繋がる。


 だが――


 山は待ってくれない。


 ゴォォォォォ……。


 遠くから、地鳴りのような音が響いてきた。


 いや。


 違う。


 これは――


 山そのものが鳴いている。


 ガントがゆっくりと顔を上げた。


 その表情から、笑みが消える。


『……来るぞ』


 直後。


 ドォォォォォォン!!


 夜空を切り裂くような轟音が響いた。


『天然ダム――決壊』


『土石流――発生』


『街への到達予測――九分』


「――九分だと!?」


 残り時間が、一気に削られた。


「全員、急げぇぇぇぇぇ!!」


 俺もスコップを握り直した。


 手のひらは潰れている。


 腕は、とっくに限界を超えていた。


 それでも――止まれない。


 ここで止まったら。


 街にいる全員が死ぬ。


『工事進捗――八十五パーセント』


 八十七。


 八十九。


 九十。


 数字が上がっていく。


 だが。


 背後から聞こえてくる轟音も、どんどん大きくなっていく。


 ゴォォォォォォォ……!


「まだか!」


『九十二パーセント』


「まだ!」


『九十三パーセント』


 あと少し。


 あと少しで――接続する。


 その時だった。


「抜けたぁぁぁぁ!!」


 ダグラスの絶叫が響いた。


 最後の岩盤が――崩れ落ちる。


 ザザザザザッ!


 掘削していた水路へ地下水が一気に流れ込み、そのまま採石場跡へ向かって奔流となって走り始めた。


『流路接続確認』


『放水路――完成』


「やった……!」


 思わず息を吐く。


 だが。


 誰も喜ぶことはできなかった。


 山の向こう。


 そこから――


 黒い壁が迫ってきた。


 高さ十メートルを超える濁流。


 先頭では家ほどもある巨岩が跳ね。


 何十本もの大木が根こそぎ引き抜かれ、濁流の中を転がっている。


 土砂。


 岩。


 木々。


 すべてを巻き込んだ、巨大な濁流。


 それはもう、水などではなかった。


 山そのものが崩れ落ちてきたようだった。


 誰もが言葉を失う。


 ガントだけが、静かに石槌を握り直した。


『……耐えてくれ』


 そして――


 土石流が、放水路へ突入した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ