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ゲーム開発者だった俺だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~  作者: 水源


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文明再建の途中で、序盤最悪の洪水イベントが発生した

# 洪水まで、あと二十時間


 そんなことを考えていた、その時だった。


 突然、ナンシーが俺の肩を小さく叩いた。


『都市近辺の河川上流にて、局地的豪雨を確認しました』


 続いて、淡々とした声が告げる。


『今後二十四時間以内に、この地域へ大規模な濁流が流入する可能性があります』


「……げ」


 嫌な予感がした。


『予想到達時間――約二十時間後です』


「洪水イベントかよ……!」


 思わず頭を抱える。


 これは元のゲームにも実装されていた、序盤最大級のクライシスイベントだ。


 真面目に対処すれば、乗り越えられる。


 問題は――時間だった。


 あのゲームはリアルタイムで時間が進む。


 警告を受けてから半日ほどログインできなければ、それだけで状況は一気に悪化する。


 都市が浸水する。


 農地が泥に埋まる。


 備蓄食料が流される。


 井戸に濁水が入り、衛生環境が悪化する。


 そして最悪の場合――病人や餓死者まで出る。


 初心者が何度もゲームオーバーになる、悪名高いイベントだった。


「でも……」


 俺は都市管理システムを開いた。


「事前に分かってるなら、話は別だ」


 青白い立体地図が空中へ展開される。


 エマイン・マハは、大河の河口近くに築かれた都市だ。


 旧文明時代には交易港として栄えたらしく、水運には非常に恵まれている。


 ――そして。


 水に恵まれた土地は、水害にも弱い。


「ナンシー。現在の地形と河川情報を重ねてくれ」


『了解しました』


 地図上に河川の水位、流速、標高差。


 さらに旧文明時代の観測データまで重なっていく。


 やがて、シミュレーション結果が赤く染まり始めた。


「……やっぱりか」


 赤い浸水予測区域が、ゆっくりと広がっていく。


 最初に飲み込まれるのは、都市の外にある農場。


 次に製材所。


 そして――住宅地。


「住宅まで来るのかよ……」


 画面の中で、濁流が農地を呑み込んでいく。


 収穫を待つ雑穀。


 ようやく根付いたクローバー。


 苦労して切り出した木材。


 これまで積み上げてきたものが、まとめて泥水に沈んでいく。


 雑穀そのものは、叡智の塔二階の祭壇に保管してある。


 だが、住居はそうはいかない。


 寝具も家具も生活用品も、泥水に浸かれば使い物にならない。


 なにより――。


「アトラの薬草がまずい」


 乾燥させて保管している薬草。


 あれが水を吸えば、ほとんどが駄目になる。


 その瞬間。


 都市管理システムが淡く輝いた。


【災害対策メニューを解放します】


 新たな項目が表示される。


【内部防水壁建設】


【外部防水壁建設】


【排水路整備】


【避難誘導計画】


「……そういうことか」


 思わず笑みが漏れた。


 ゲームでは簡単だった。


 採石場を建設して資材を確保し、防水壁を選択する。


 あとは数秒待てば完成だ。


 けれど、ここはゲームの中じゃない。


 石を切り出す。


 運ぶ。


 測量する。


 土を掘る。


 一つひとつ積み上げる。


 全部、人の手でやらなければならない。


「だからこそ……俺の仕事ってわけだ」


 時間は二十時間。


 なら、やることは決まっている。


「まずは資材だ」


 防水壁も排水路も、石がなければ始まらない。


 俺は建設メニューを開いた。


 管理者権限がLv3になったことで、新たな生産施設がいくつも解放されている。


 その中から、一つを選択する。


【採石場】


 建設予定地――都市北西部、岩盤地帯。


 必要資材――レイキ換算完了。


 建設可能。


「実行」


 次の瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ――!


 大地そのものが唸った。


 指定した岩場へ青白い光が降り注ぎ、幾重もの魔法陣が展開される。


 岩盤に光の筋が走った。


 まるで巨大な見えない鑿で削られているかのように、岩が切り分けられていく。


 切り出された石材は自動的に大きさを揃えられ、次々と積み上げられていく。


 やがて――。


 坑道が開き。


 荷車用の搬出口が作られ。


 石材の選別場が整えられ。


 雨除けの屋根や休憩所まで姿を現した。


 最後には、採石場全体を囲う石垣まで完成する。


 光が消えた。


 そこにあったのは――。


 まるで何十年も稼働してきたかのような、立派な採石場だった。


「……相変わらず、規格外だな」


【施設《採石場 Lv1》建設完了】


【石材生産効率が上昇しました】


【建設用資材の供給能力が向上しました】


「よし」


 これで石は確保できる。


 あとは――人だ。


 俺は採石場を後にし、広場へ向かって駆け出した。


     ◆


 広場では、ダグラスたちが木材を加工していた。


 スミスは石材を選別し、ガードナーとシャーリスは狩りの準備を進めている。


「みんな!」


 俺は声を張り上げた。


「作業を止めてくれ!」


 全員が振り返る。


「どうした、ハーシス?」


「洪水が来る!」


 その一言で、空気が変わった。


「二十時間以内に濁流が押し寄せる」


 俺は地図を開き、浸水予測区域を見せる。


「農場も製材所も、このままじゃ全部飲み込まれる!」


「なんだと……!」


 ガードナーが目を見開く。


「だから総動員だ」


 俺は次々と指示を飛ばした。


「スミス。外壁跡を利用して防水壁を設計してくれ」


「ああ、任せろ!」


「男衆は採石場から石材を運ぶ。できるだけ多く確保してくれ」


「分かった!」


「シャーリスは家畜を高台へ避難させてくれ」


「任せて!」


「ローズはアトラとミントを連れて叡智の塔へ。貴重品と薬草も全部運び込むんだ」


「はい!」


 全員が一斉に動き始める。


 だが――。


「ぼくも石をはこぶ!」


 ミントだけが、その場に残った。


「……ミント?」


「ぼくだって力持ちだよ!」


 小さな拳を握り締める。


 ドワーフとノーム。


 その両方の血を引くミントなら、確かに大人顔負けの力を出せる。


「……分かった」


 俺はしゃがみ込み、ミントと目線を合わせた。


「でも、絶対に無理はするな」


「うん!」


 ミントが元気よく頷いた。


 そして全員が走り出す。


 誰一人として、俺の指示を疑わなかった。


 短い付き合いだ。


 それでも――。


 いつの間にか、俺たちは互いを信頼できる仲間になっていたらしい。


 だけど。


 俺は一人、冷静に考える。


(……それでも足りない)


 防水壁。


 排水路。


 石材の切り出し。


 運搬。


 土砂の掘削。


 この人数だけで全部やるには、二十時間という時間はあまりにも短い。


 なら――。


 使うしかない。


 俺には、まだ切り札がある。


 俺は空を見上げた。


「――俺の呼びかけに応えろ」


 右手を掲げる。


「大地を拓き」


 周囲のレイキが集まり始める。


「岩を砕き」


 黄金色の光が、叡智の塔へ吸い込まれていく。


「河を治め」


 マザークリスタルが輝いた。


「都市を築きし、旧き妖精よ――!」


 塔の最上階から、眩い光が降り注ぐ。


「その叡智と力を――今ここへ!」


 ドォンッ――!


 黄金の光が広場を包み込んだ。


 光の粒子が渦を巻き、一つの人影を形作っていく。


 やがて――。


 そこに、小柄な老人が立っていた。


 腰まで届く白い髭。


 岩のように盛り上がった腕。


 革の前掛けには、大小様々な石槌と鑿が並んでいる。


 腰には測量器具。


 見たことのない工具。


 そして――。


 背丈は子どもほどしかないというのに、その存在感だけは巨大な山そのものだった。


 老人はゆっくりと周囲を見回す。


『ふぉっふぉっふぉ……』


 懐かしそうに目を細めた。


『久方ぶりの召喚じゃな』


 そして、崩れた城壁へ視線を向ける。


『ほう……』


 風化した石畳。


 倒壊した建物。


 かつての栄光を失った都市。


 老人の目に、僅かな郷愁が浮かんだ。


『ここは……エマイン・マハか』


 俺は息を呑む。


 老人は、千年以上の時を越えて蘇った都市を見つめ――。


『千年経っても、まだ残っておったか』


 そう呟いた。


 そして、肩に巨大な石槌を担ぐ。


『我が名は――ガント』


 その声が、低く響いた。


『ドヴェルグ族最古参』


 一歩、前へ出る。


『石工』


 また一歩。


『鍛冶』


 そして、石槌を地面へ突き立てる。


『測量、土木――』


 老人の口元が、不敵に吊り上がった。


『山を削り、橋を架け、河を治め、都市を築く妖精じゃ』


 俺は思わず笑った。


 ――間違いない。


 今、この都市に必要なのは。


 この老人だった。


「……ガント」


 俺はその名を呼ぶ。


「力を貸してくれ」


 ガントは白い髭を撫でながら、ゆっくりと笑った。


『ふぉっふぉっふぉ』


 そして――。


『面白そうな仕事じゃないか』


 洪水まで、あと二十時間。


 文明復興どころか、まずはこの都市そのものを守り切らなければならない。


 俺たちの戦いは――ここからだった。

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